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第96話 絶対にやり返してやる


「シリコンバンドって……アレか!?」


 乃亜の話を聞いた瞬間、ハッと凛子が思い出した。


 彼女の脳裏に、ここ最近から咲茉が付けていた花柄のシリコンバンドが過ぎる。


 一見すれば、それも花のデザインが描かれたシリコン製のリストバンドにしか見えない。だが、あのシリコンバンドには、乃亜の手によってとある機能が施されていた。


 いざという時に備えて、少し前に凛子も乃亜から話を聞いて自身のスマホに登録作業した覚えがあった。


「……いつの間に使ってたんだよ」

「気づかれないように使ってたよ」


 凛子の呟いた疑問に、乃亜がそう答える。


 しかし彼女の返答に凛子が思い返してみるが、いつ咲茉がシリコンバンドの機能を使っていたか分からなかった。


「凛子が気づかなかったのも仕方ないよ。私から見ても自然だったからね。あのシリコンバンドを起動させるために1秒以上握るタイミングも、多分あそこしかなかった。あの緊迫した場面で咲茉もよくやってくれたよ」


 咲茉がシリコンバンドの機能を使用した場面を思い出しながら、おもむろに乃亜がスマホを操作していた。


「確か咲茉がそれやると、私達のスマホに通知が来るんだよな?」


 乃亜と同じように、そう言いながら凛子も自身のスマホを確認する。


 彼女がスマホを見ると、見慣れない通知が表示されていた。


「そう。あのバンドを咲茉が使うと私達に通知が来る。当然、現在地と一緒にね。いつも私達が一緒に居るけど、なにが起こるか分からないから手間を掛けて作った甲斐があったよ」


 そして乃亜が持っていたスマホを悠也達に見せると、嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 彼女のスマホには、今も動いている位置情報が表示されていた。


「問題なく起動して動いてる。この動いている感じを見ても、まだあの男にもバレてない」

「マジで良く作ったよな……こんなの」


 乃亜のスマホを見た凛子が、唖然とした声を漏らす。


 その反応に、乃亜は誇らしそうに胸を張っていた。


「滅茶苦茶調べたからね。普通に防犯ブザーなんて持たせてもバレて捨てられるから、バレない物でカモフラージュできるようにしたかったんだよ。小型化したかったけど……素人の私がどう頑張ってもシリコンバンドくらいまでしか小さくできなかった」


 乃亜の語った通り、咲茉の持つ花柄のシリコンバンドは彼女が自作したモノだった。


 自作と言っても、大掛かりな作業はしてない。実のところ彼女が手を加えたのは、市販の防犯ブザーで使われている機能の一部をシリコンバンドに移し替えただけだった。


 防犯ブザーに備わっている機能。起動すると登録したスマホに通知と現在地情報が届く機能を、乃亜はシリコンバンドに埋め込んでいた。


「……これ売ったら普通に金儲けできそうだな」

「凛子ちゃん、悪いこと考えないでください」


 邪な考えを抱いていた凛子に、雪菜が呆れたと苦笑する。


「そんなことでお金儲けするほど金の亡者になるつもりなんてないよ」


 そんな二人に、乃亜も呆れて苦笑していた。


「ともかく、余計な話をしてる暇なんてないよ。今は大丈夫でもバレる可能性も十分あるから早く動こう」


 問題なく咲茉の持つシリコンバンドが作動していても、いずれ気づかれる可能性がある。


 もし気づかれて捨てられてしまえば、もう咲茉の居場所を知る術がない。


 そう判断した乃亜が凛子達を促した時だった。


「……メール?」


 ふと、悠也のスマホにメールの通知音が鳴り響いた。


 その通知音に、悠也達が顔を見合わせる。


 つい先程の、拓真との電話を思い出すと――嫌な予感しかしない。


 そう思いながら悠也が送られてきたメールを確認すると、その内容に目を見開いていた。


「ッ――!」


 一瞬にして悠也の表情が怒りで歪む。


 彼の反応で、乃亜達も察してしまった。


「悠也、私達にもメール見せて」


 乃亜に促されて、渋々と悠也がスマホを見せる。


 そして送られてきたメールを乃亜達が確認すると、揃って目を吊り上げていた。


 悠也のスマホには、眠っている咲茉の写真が添付されていた。


 綺麗に着ていたはずの制服も、なぜか少しはだけている。


 更にメールの本文を見ると、その内容に乃亜達が怒りを露わにした。



【今からスタートだぞ~? 頑張って見つけないと咲茉の服が脱げていくからなぁ?】



 煽っているとしか思えない文章に、悠也達の表情が歪む。


「あの野郎っ……!」

「怒る気持ちは分かるけど、そのスマホは絶対に壊したら駄目だよ」


 思わず渾身の力でスマホを握り締めていた悠也に、乃亜が注意する。


 その指摘で悠也がハッと我に返ると、謝罪しながらスマホを握る力を弱めていた。


「咲茉のスマホが捨てられてるのに悠也のスマホに連絡が来たってことは、咲茉のスマホを捨てる前に悠也の連絡先を抜いたんだろうね」


 乃亜の予想通り、悠也が送り主を確認すると知らない相手からのメールだった。


「わざわざ悠也以外の連絡先を抜ているとも思えないし、そのスマホが無くなるとあの男との連絡手段が無くなるから気を付けて」

「……わかった」


 悠也以外の連絡先を抜かれている可能性もあるが、もし拓真の知る連絡先が悠也のみだった場合、悠也がスマホを失えば連絡手段が無くなる。


 メールならば送っても確認できないだけで済むが、もし電話をされてしまえば面倒なことになりかねない。


 悠也と連絡が取れないと知られたら、拓真が何をするか考えたくもない。


「咲茉の現在地が分かるうちに、さっさと移動しよう」

「はい。早くタクシーを見つけましょう」


 そう告げて動き出した悠也に、頷いた雪菜が続いて動く。


 走り出した二人に凛子が続く。そして少し遅れて乃亜が走り出すと、走りながら悠也達に声を掛けていた。


「悠也、残り時間を考えて動かないと駄目だよ。このゲームは私達が絶対に勝てないようになってる。あまり早く行き過ぎても、面倒なことなる」

「そんなこと言ってる余裕ないだろ! 時間が経って咲茉に何かあったらどうするんだよ! アイツが約束を守る保証もないんだぞ!」


 反射的に悠也が叫んでしまった。


 拓真の提示してきたゲームは、悠也達が勝てないようにされている。


 これから20分毎に咲茉の服が脱がされていき、最後は犯される。


 その時間制限を拓真が指定してきたが、悠也には信用できなかった。


 もしかすれば全てが嘘で、もう咲茉が酷い目に遭っているかもしれない。その可能性も考えてしまうと、居ても立っても居られなかった。


「その可能性もあるけど、何も考えずに突っ込んで行くのは馬鹿のやることだよ」

「それは分かってる! でも――」

「だから動きながら考えよう。みんな、咲茉の着てた服の枚数って覚えてる?」


 走る悠也達に、突然訊かれた乃亜の質問に全員が怪訝に眉を寄せる。


「……6枚ですか?」


 そして悠也達が思い返していると、ふと雪菜が口を開いていた。


「私の考えてた数と一緒で良かったよ。咲茉の着てる服は全部で6枚だった。ベストにワイシャツ、スカートと下着、後は靴下」

「それが分かって何になるんだよ!」


 乃亜の話に、苛立った凛子が叫ぶ。


「全部で6枚だから約束通りなら咲茉が裸になるで120分掛かる。必ずあの男が時間を守る保証もないけど、最大で私達が使える時間は2時間ってことだけ忘れずに覚えておいて」


 そんな凛子に、乃亜は淡々と答える。


 その返事に、ふと悠也は引っ掛かるものがあった。


「……何か考えでもあるのかよ?」

「一応あるけど、これは咲茉がどこに連れて行かれたかにもよるね。私もみんなの意見とか欲しいし」


 そう答える乃亜に、走る悠也達が怪訝に眉を寄せる。


「全部が私の予想通りに行くなんて思ってもないけど、このままあの男達に好き勝手にされ続けるのも私だって我慢できないんだよ。咲茉を好きにされるのも我慢できない……みんなもそうでしょ?」


 乃亜の言葉に、呆けながらも悠也達が頷く。


「……絶対にやり返してやる。勝ち確だと思ってる相手を負かすのが一番気持ち良いんだから」


 彼等の反応に、乃亜は意地の悪そうな笑みを浮かべていた。


「だから悠也、頼みがある」

「なにをすれば良い?」


 走る悠也が訊き返すと、乃亜が笑みを浮かべていた。


 まだ走って汗も掻いていない悠也達と違い、なぜか乃亜の息が荒くなっている。


 そして額に汗を流しながら、微笑む乃亜は告げていた。


「もう私、走れない……お願いだからおぶって」

「おい!? マジで言ってんのかよ!?」


 体力の限界だと倒れた乃亜に、悠也が驚く。


 そして慌てて倒れる彼女を背負うと、面倒だと言いたげに溜息を吐いた悠也は走り出していた。 


「……マジで締まらねぇこと言うなよ」


 その光景を眺めながら、追い掛ける凛子も堪らず溜息を漏らしていた。


当作品を読んで頂き、ありがとうございます。


あと一話だけ、重めの話が出ます。お許しを。

その後から、きっと気持ちの良い話が見れると思います。


もし続きが気になる! 面白い!


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[一言] 胃が痛いですw あと1話我慢しますw
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