第27話 放課後デート
放課後になれば、やることは決まっていた。
放課後は、等しく生徒に与えられた自由の時間だ。
所属している部活動に勤しむ者。または友人達と遊びに駆け出す者達もいれば、自宅に帰って一人の時間を楽しむ者もいる。
それぞれが好きに過ごせるこの時間を、密かに悠也と咲茉は楽しみにしていた。
過去にタイムリープしてきてから、二人で何度も話して楽しみにしていたこと。
それは学生カップルならではの放課後デートだった。
大人とは違う、子供のデート。使える金銭も限られた額しかなく、できることも行ける場所も限られているはずなのに……ただ一緒にいるだけで楽しいと思える放課後のデートを二人は楽しみにしていた。
学校のない日に一緒に出かけるのとは一味違う、学生だけに与えられた権利。
制服を着て寄り道をすることなど、もう二度とないと思っていた。それがずっと好きだった人と、改めて一緒にできる。
目的もなく歩き回るウィンドウショッピング。
少ないお小遣いで遊ぶゲーセンやカラオケ。
一緒に勉強するだけの図書館。
少し考えるだけで山のように出てくる。
まず何からやろうかと話し合うだけでも楽しくてしかなかった。
10年振りの放課後。その最初は一緒に楽しく過ごしたい。そう二人は何度も話していた。
だからこそ、今日という日に二人が胸を踊らせていた――はずだった。
「……なんでお前達も来てるんだよ」
学校から街に向かう最中、悠也は肩を落とすと、そう嘆いていた。
なぜか二人で街に行こうとした矢先、いつの間にか二人の元に凛子達が勢揃いしていた。
その結果、悠也達は6人で街に向かっていた。
「なんだよ、私達が来たら悪いのかよ」
「空気読めって言ってんだよ……馬鹿凛子」
不満げに鼻を鳴らす凛子に、悠也が半目で睨む。
その視線に、凛子は気にする素振りもなく失笑していた。
「私だって咲茉と遊びたいに決まってるだろ」
当然のように答える凛子に、思わず悠也は溜息を吐きたくなった。
凛子が咲茉を慕っていることは、昔からのことだった。
それこそ親友と呼べるほどの親愛を込めて凛子は咲茉に接している。それは咲茉も変わらない。
しかし悠也からすれば、この二人の関係はどちらかと言えば飼い主とペットだと思っていた。
飼い主の咲茉に懐いているペットの凛子。普段の二人を見ていると、そういう構図に悠也は不思議と見えていた。
今は目つきも悪く、怖い見た目をしている凛子だが咲茉に甘える時だけは子供みたいに笑う。
それだけ慕っていれば、暇さえあれば咲茉と遊びたいと思う彼女の気持ちも悠也は分からなくなかったが――
「あのさ……俺、咲茉の彼氏なんだけど?」
「そんなのもうみんな知ってるだろ? だからなんだよ?」
おそらく、彼女の頭には気を使うという言葉がないのだろう。
全く気にしていないと告げている凛子の態度に、自然と悠也の口から深い溜息が出てしまう。
「はぁ……折角の放課後デートが」
「どうせ夜は一緒にいるんでしょー?」
「なんでそれを――」
なにげなく告げられた乃亜の問いに、咄嗟に出た言葉を悠也が止める。
しかしその反応で、すでに乃亜は察していた。
「なら放課後くらい私達に咲茉っちを貸したまえ〜! 私達に咲茉っち成分をようきゅーするぅ!」
そう言って乃亜が咲茉に抱きつく。
ぐりぐりと頭を擦り付ける乃亜の頭を、苦笑しながら咲茉が撫でていた。
「あぁ〜! 癒されるぅ〜!」
「もう乃亜ちゃん、歩きにくいよ。また後でやってあげるから離れようね〜」
「はぁーい」
咲茉に撫でられた乃亜が満足したと離れる。
そして咲茉が悠也を見ると、困ったと肩を竦めていた。
「きっと、今日はそういう日なんだよ。悠也」
「そうは言ってもさぁ……」
咲茉の言いたいことを理解した悠也だったが、それども納得できないと不満を漏らす。
そんな彼に、咲茉は苦笑いしていた。
「また今度にしよ。私もみんなと遊べるの嬉しいし」
二人の放課後デートができなくなったのは残念だが、それとは別に咲茉は嬉しくもあった。
もうしばらく会っていなかった友人達と遊びに行く。久しぶりに訪れたこの機会に、密かに咲茉の胸は弾んでいた。
これもまた、悪くないと。
「ほら、咲茉もこう言ってるんだから子供みたいに我儘言うなよ」
「お前が言うな!」
どこか小馬鹿にした表情の凛子に、悠也は堪らず怒鳴っていた。
「ちなみにですが、お二人は今日はどちらに行こうと?」
悠也達の後ろを歩いていた雪菜が、おもむろに悠也に訊く。
その疑問に悠也が振り返ると、わざとらしく肩を竦めていた。
「ノープランだよ」
「意外ですね。ちゃんとデートをされるなら決めてると思ってました」
「何も考えないで歩き回るのも悪くないだろ?」
「……なるほど、そういうものですか」
納得したと雪菜が頷く。
そして彼女は少し困ったような表情を見せると、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんなさい。私もついてきてしまって」
「別に咲茉が良いって言ってるんだし、もう気にしてない。雪菜だって凛子達についてきただけだろ?」
苦笑混じりに悠也がそう言うと、雪菜が恥ずかしそうに頷いていた。
「はい……皆さんが揃って遊びに行かれるのなら、私も行きたかったので」
おっとりとした見た目通りなのか、雪菜は寂しがり屋なところがある。
こうして強引に悠也と咲茉に付きまとう凛子達についてきたのも、それが理由だった。
自分以外が揃って遊びに行くと聞けば、それが強引であっても行きたいと思ってしまう。実に子供らしい理由である。
まだ15歳の子供ならそう思うのも無理もない。悠也も雪菜に関しては何も不満は思わなかった。
不満があるのは、ことの発端である雪菜以外の三人だけだった。
「今更言うのもアレですけど……今からでも私が三人を連れて行きますよ?」
冷静に考えてデートするはずだった悠也と咲茉の邪魔をしているのが悪いと思った雪菜が提案する。
これも彼女ならではの気遣いだった。やはり他の三人とは違う。
確かに雪菜なら引きずってでも三人を連れて行けるだろう。
しかし咲茉は全員で遊びに行けることを喜んでいた。それを今更なかったことにするのも、少し気が引ける。
そう思うと、悠也は首を横に張っていた。
「別にもう良いって、デートはまた今度にするし。もう今日はみんなで遊びに行こう。雪菜も咲茉と遊びに行きたかったんだろ?」
「は、はい……でも咲茉ちゃんだけではなく、悠也さんやみんなと遊びに行けるのが嬉しいんです」
「ならもう気にするな」
ほんのりと頬を赤らめて俯く雪菜に、悠也は穏やかに笑うと、そう答えていた。
「じゃあ久しぶりにゲーセンでも行こうぜ〜!」
まるで何もなかったと言いたげに、啓介が提案する。
我が物顔で先頭を歩き出す啓介だったが、目を細めた悠也は小走りで近づくと唐突に彼の肩を小突いていた。
「痛ッ⁉︎ なんで俺だけ殴るんだよっ!」
「お前の態度が一番ムカつくんだよっ!」
悪びれもしないのは雪菜以外同じだったが、どうにも悠也には啓介の態度が気に食わなかった。
それもそうだ。まず初めに何事もなく悠也達についてきたのが彼だったのだから。
思いのほか、意外とめざとい啓介に悠也が腹を立てない理由がなかった。
読了、お疲れ様です。
もし良ければブックマーク登録、
またページ下部の『☆☆☆☆☆』の欄から評価して頂けると嬉しいです!
今後の励みになります!




