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第59話 大好きな人達が傍に居るから


 大きな音を鳴らして打ち上がった花火が、夜空に咲く。


 花火が打ち上がるたびに、身体の芯まで響くこの音が不思議と心地良くて。


 また大きな音がなれば、夜空に一瞬の輝きを放って消えていくその光景が……本当に綺麗だとしか思えなくて。


「…………」


 あまりにも突然過ぎた光景に、声も出すことすら忘れて、咲茉は空を見上げたまま固まっていた。


 ただ見上げているだけで、空に何度も花火が打ち上がっていく。


 綺麗な花火が、何度も絶え間なく夜空に咲く。


 赤い花火が打ち上がったと思えば、青に変わり、緑に変わる。その多彩な花火の数々に、ただ見惚れることしかできなくて。


 ずっと見たいと思っていた光景を前にしても、喜ぶことも忘れて、咲茉の目は夜空の花火を見つめていた。


「……なんで、急に」


 花火に見惚れていた咲茉が、どうにか言葉を吐き出す。


 困惑する声を出しても、その瞳は花火を見つめたままで。


 呆けた表情で空を見上げている咲茉に、ふと乃亜が嬉しそうに答えていた。


「折角みんなで海に来たなら、ついでに花火も見ようかなって色々と調べた甲斐があったよ〜」

「ほんと、よく見つけたよな。こんな場所の花火大会なんて」


 乃亜の声に、悠也が呆れた声を漏らす。


「運が良かっただけだよ〜。私達の行く予定だった海水浴場から近い場所に花火大会があったってだけだし〜」


 わざとらしく乃亜が肩を竦める。


 そんな彼女の反応に、思わず悠也から苦笑が漏れた。


「なに言ってんだか……行く海の場所、お前が決めたくせに」

「勘繰っても意味ないよ〜。私達が日帰りで行ける海なんて限られてるんだし〜。その中で近くに花火大会がある場所あるなら行くでしょ〜?」


 何かを勘繰る悠也に、乃亜が失笑を返す。


 ただ海水浴に行った帰りに花火大会が見れる場所を運良く見つけただけだ。なにも特別なことはしていない。


 そう語る乃亜だったが、悠也は分かっていた。今日の予定を立てるにあたって、色々と調べていたことを。


 海に行く話が出た時、行く場所は自分が探すと乃亜が言い出した。調べるのは得意だからと上手い理由を並べ立てて。


 そして後日、乃亜が海水浴の近くで花火大会があると話を持ち出してきた。それがキッカケで、今日の予定は組まれたのだ。


 本来なら海水浴だけを予定していたのに、予定しなかった花火大会が乃亜によって組み込まれたわけである。


 きっと調べ尽くしたのだろう。車を使って日帰りで行ける海水浴から帰りに立ち寄れる距離で、花火大会が行われる場所と日時があるかと。


 調べるだけでも骨が折れる。場所も日時も考えて見つけ出すのは、簡単ではない。


 それを見つけてきた乃亜の労力は、素直に悠也も感心する思いだった。


「こういう時は素直に頑張ったって言えよ。褒めてやんないぞ」

「褒められたい年頃の私でも悠也に褒められたいとは思わないなぁ〜」

「好きに言ってろ、チビスケ」


 花火を眺める悠也の手が、乃亜の頭を少し乱暴に撫でる。


 それに特に何も言うこともなく、されるがままに乃亜は花火を眺めているだけだった。


「……どうして」


 ふと――その時、咲茉から声が漏れた。


 ポツリと呟いた声なのに、その声は不思議と悠也と乃亜の耳までしっかりと届いていた。


「どうして……花火、見に来たの?」


 今も花火から目が離せない咲茉の口が、その疑問を呟く。


 わざわざ色々と調べてまで来る必要があったのかと。


 今日は海水浴に行く予定だったはずなのに、こうして帰り際に花火を見に来た意図が分からなくて。


 そう思うしかなかった咲茉に、乃亜がそっと彼女の横顔を見上げると、それが当然のように答えていた。


「そんなの決まってるじゃん。一緒に見に行くって約束したからに決まってるでしょ〜」

「……え?」


 その返事に、思わず咲茉から呆けた声が漏れた。


 心底意外そうに、ゆっくりと咲茉の視線が花火から外れて、乃亜に向けられる。


 そして呆気に取られた咲茉と目が合うと、乃亜は嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「咲茉っち、前に言ってたでしょ。みんなで花火大会行きたいって」


 確かに、咲茉も言った覚えがあった。


 少し前に乃亜からこれから何がしたいかと訊かれて、思うがままに答えたことのひとつが花火大会だった。


「言ったけど……別にいつでも」


 行きたいと言ったが、咲茉も急いでいるわけではなかった。


 いつか、みんなで行きたい。そういう意味で言った。


 今まで諦めていたことを、やってみたいと。


 夏休みに入ったら、みんなで夏祭りに行く話もしていた。きっと花火大会を見れるのも、その時だろうと思っていた。


 だから焦らなくても、いずれ見に行く予定だったはずなのに……


 そう思った咲茉が困惑してしまうが、乃亜の反応は変わらなかった。


「分かってないね〜、咲茉っち。私のこと全然分かってないよぉ〜」


 どこか誇らしそうに乃亜が胸を張る。


 その姿に首を傾げる咲茉に、乃亜は微笑みながら続けていた。


「そのうち行けるから良いじゃなくて。何回でも行ける時に行くんだよ」

「……?」


 乃亜から告げられた話がイマイチ理解できなくて、咲茉の眉が怪訝に曲がる。


 そんな察しの悪い彼女に、乃亜は苦笑混じりに答えていた。


「なんで行けるのに行かないの? 大人になったら予定だって合わせるの難しくなるし学生のうちに遊び尽くしておくべきでしょ?」

「それは……そうだけど」


 そこまで言われてしまえば、咲茉も少なからず乃亜の言いたいことを察せた。


 まだ高校生の自分達は、勉強などはさておいて――時間があり余っている。子供のうちに遊んでおくべきだと思う乃亜の言い分も分からなくもなかった。


 咲茉も社会人経験は皆無に等しいが、大人になると予定を合わせることが難しくなるのは知っていた。


「だからって無理して来る必要ないんじゃ……」

「そんなのもったいないじゃん? 咲茉っちと、みんなで楽しく遊べるなら無理してでも行った方が良くない〜? 咲茉っちは遊びたくないの〜?」


 そんな質問をされたら、咲茉の答えは決まっていた。


「それは……遊びたいけど」


 今まで友達と遊ぶこともなかった日々を過ごしてきた。


 約10年近い時間を、引き籠もって1人で過ごしてきた。


 遊ぶことに飢えている咲茉が、乃亜の問いに頷かない理由はなかった。


「でも、私は1回でも十分楽しいって思えるよ?」


 しかしだからと言って、自分の我儘を押し通せるほど咲茉も身勝手ではなかった。


 自分が楽しむ為に、誰かに迷惑を掛けるなど本末転倒である。友達と楽しく遊ぶなら、みんなで楽しい時間を過ごさなければならない。


「だからみんなで無理して来なくても――」


 もし自分の言葉が原因であれば、こうして花火を見に来たのも乃亜達に迷惑を掛けている。


 いつも迷惑を掛けているのに、ここまで気を遣ってもらうのも申し訳ない気持ちになってしまう。


 嬉しい気持ちはあるが、それで彼女達を困らせるのは咲茉も不本意だった。


「なに言ってんのさ。子供なんて無理して遊ぶ生き物に決まってるんだから、何事も全力で遊ばないと損するの。それに私が1回や2回で満足できるなんて思わないでくれる〜? 言っとくけど花火大会、少なくてもあと3回は行くからね〜?」

「さ、さんかい?」

「ここと、地元の夏祭り、あとはちょっと遠出して大きい花火大会にも行くつもり〜」

「そ、そこまでしなくても」


 乃亜から知らされた今後の予定に、無意識に咲茉の頬が引き攣ってしまう。


 そんな彼女に、乃亜はビシッと人差し指を向けていた。


「それに私は絶対に約束を守るって決めてるから〜! ずーっと私が咲茉っちの親友だって約束も変わらないし、咲茉っちとした一緒に花火を見に行く約束はキッチリと果たす! 誰も1回だけって言ってないから何回でも行くも〜ん!」


 それは、もう言葉遊びの垢ではないだろうか?


 回数の指定をしてなければ、何回だって行く。


 前半の話は良いとしても、後半の部分に関しては咲茉も呆れるしかなかった。


「乃亜ちゃん? そこまでしなくても良いんだよ?」

「なに言われてもするよ〜! だって私、今が滅茶苦茶楽しいから! 咲茉っちが居て、悠也っち達が居て、みんなで一緒に楽しいことできるならなんだって全力でやるも〜ん!」


 こういう時、乃亜は頑固になる。


 それは咲茉も昔から分かっていることだった。


 もう何を言っても無駄だと、察してしまった。


「乃亜ちゃん? あとで後悔してもダメだよ? 本当に行くからね?」

「まかせろーい! スケジュール管理は私がやったる〜!」

「ほどほどにしろよ、まったく」


 自信満々に胸を叩く乃亜に、悠也が呆れる。


 そんな彼の反応に、咲茉がクスッと笑ってしまう。


 それに釣られて悠也と乃亜が小さく笑うと、おもむろに3人は自然と花火を眺めていた。


 こんな綺麗な花火が、また見られる。


 それが嬉しくて堪らなくて。


 ふと咲茉が視線を動かすと、凛子達と目が合う。


 乃亜の話を聞いていたのか、呆れた表情を浮かべながらも、満更でもない反応を見せている。


 大好きな両親も微笑ましそうに見ていて、彼等も気づくと打ち上がる花火に夢中になっていた。


 そして、咲茉も自然と花火に視線を戻していた。


 アニメや漫画、テレビなどで見たことがあっても、実際に見ると全然違う。


 こんな花火を、見たかった。


 最後に見た花火もいつだったか、もう覚えてない。


 だけど、確かに分かるのは、ずっと子供の頃に見た花火と同じくらい綺麗で。


「……すっごく、きれい」


 ふと、咲茉の口から心の声が溢れる。


 この光景を、今も手を繋いでいる大好きな人と見られる。


 この綺麗な空を、大好きな人達と眺めていられる。


 それが楽しくて、嬉しくて堪らない。


 きっとこんなに楽しいのも、大好きな人達が傍に居るからだろう。


 こんな楽しい時間が、これからも続きますように。


 本当に、今日は楽しい1日だった。


 そう思いながら、咲茉は悠也の手をぎゅっと握り締めた。


読了、お疲れ様です。


とりあえず、これで2章を終わりとします。


海と花火、そして咲茉の変化の話でした。


皆様に楽しんでもらえたなら、作者として幸せな限りです。


次の章も考えてますが……おそらくエピローグを抜いて最後の章になると思います。


次の章がどんな話か、楽しみにしてもらえたら嬉しいです。


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またページ下部の『☆☆☆☆☆』の欄から評価して頂けると嬉しいです!


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