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第46話 ネタバレするよ?


 雪菜の用意した弁当の美味しさに悠也達が舌を唸らせ、飲めると思ってもいなかったノンアルコールを大人達が楽しんだ後、彼等は午後の時間も思う存分に海を満喫していた。


「こら〜、凛子っち。それだと全然水少ないからもっと足して〜」

「はぁ? これくらいで足りてるだろ?」

「全然分かってないねぇ〜、ちゃんと水足さないと砂って固まらないの〜」

「……マジで面倒になってきた」


 食後の一休みを兼ねて、適当な暇つぶしと乃亜が砂場で始めた城作りに駆り出された凛子が心底面倒そうな声を漏らす。


 乃亜の指示通りに凛子が小さなバケツに砂と海水を混ぜ続けて、気づけば20分近くも経っている。


 その間、乃亜は黙々と砂の城を作り続けていた。


「……どんだけ本気で作ってんだよ」

「一回やってみたかったんだよね〜、妥協のない砂の城作り」


 そう答える乃亜が作り続ける城を見て、思わず凛子が呆れた溜息を吐き出す。


 気づけば、砂の城はとんでもないことになっていた。


 大きな塔から始まり、城の形と外壁を作っただけだったが、一見してファンタジー映画で見るような城ができあがっていた。


「手際良過ぎだろ。設計図でも使ってたのかよ」


 些細な部分は手付かずでも、明らかに短時間で作れる物ではない。


 明らかに最初から構想を考えてなければ到底作れるはずもない城の出来栄えに、凛子が呆れてしまう。


「んー、お昼ご飯食べてる時に作る案は考えてたけど、別に作ること自体は難しくないよ? 骨組みとか実際の建築で使うようなことしないし」

「んなこと知るかよ。てかお前、建築とかそういうの知ってんのかよ」


 絶対に知ることもない知識を知る乃亜に、凛子が怪訝に顔を顰める。


 そんな彼女に、乃亜は黙々と作業を続けながら答えていた。


「ちょっと興味あって勉強したことあるよ〜、家ってどう作ってるのか気になったことあるし。意外と面白かったから覚えてる」

「どこが面白いか全然理解できねぇわ」


 微塵も興味の湧かない話に、つい凛子が失笑してしまう。


 どうして乃亜が子供らしくない知識を持っているのか?


 そんな疑問もどうでも良いと思う彼女に、乃亜は苦笑しながら答えていた。


「色々なことに興味を持った方が良いってお父さん達に言われてたからね〜。なんでも知ってた方が大人になった時、役に立つって。だから気になったら調べるのが習慣になってるだけ〜」

「建築が?」


 絶対に役に立つはずがないと失笑する凛子だったが、乃亜は気にする素振りもなく答えた。


「これが建築の仕事って意外と儲かるんだよね〜。一級建築士って給料高いらしいよ?」

「そんなこと言われても興味ねぇって。大人になった時のことなんて考えたくもねぇよ。まだ高校生だってのに」


 先の未来、それも社会人になる未来を子供の今から考えたくもない。


「だから子供の今から色んなことを知っておくんだよ、凛子っち」


 そう思った凛子の返事に、乃亜が気怠そうに答えていた。


「あ? なに言ってんだ?」

「なにも知らないまま適当に高校生を過ごしたら進学するのも困るし、就職するのも困るってこと。本当なら良い給料貰える仕事ができたかもしれないのに、適当な仕事して安い給料なんて貰いたくないでしょ?」

「……そりゃ、まぁ」


 そう言われてしまえば、凛子も頷くしかなかった。


 金はあればあるだけ困らない。遊びも、好きなことも、なにをするのも金はあるだけ良い。


 まだ子供の凛子でも、それくらいは理解していた。


「だから自分がやりたいことを見つける努力くらいはしておくんだよ。金の為か、自分の好きなことか、やりたい仕事くらいは見つけておいた方が何かと生きやすいと思うからね〜」

「急に先生みたいなこと言ってんじゃねぇよ。そう言う話、中学の時にウザいくらい聞いたわ」


 中学生だった時、進路の話で大人達から似たような話をされた覚えがある。


 あの時の鬱陶しさを思い出して、凛子の表情が歪む。


 そして舌打ちを鳴らすと、凛子は怪訝に乃亜を見つめていた。


「お前、普段からそんなこと考えてんの?」

「ううん。悠也の話聞いてからかな、そういうこと思うようになったの」

「……悠也?」


 乃亜と話していた凛子が、ふと視線を動かす。


 乃亜の城作りを近くで咲茉と眺めている悠也を一瞥すると、自然と凛子が首を傾げていた。


「なんで急に悠也が出てくるんだよ?」

「あれ? 聞いてなかったっけ? 確か……おっと」


 訊き返してきた凛子に答えようとした乃亜が、ふと周囲を見渡す。


 遠くの方でカメラを向けてくる大人達はさておいて。つい先程トイレに行った啓介も、まだ戻って来ていない。


 自分達以外の人間が傍に居ないことを確認すると、おもむろに乃亜が口を開いた。


「悠也って就職失敗した側の人間だって、聞いてなかった?」

「あぁ〜、なんかそんな話聞いた気がする」


 そう言えばと、凛子が眉を顰めながら呟いた。


 たまに忘れそうになるが、悠也と咲茉は本当なら絶対にあり得ないタイムリープをしている人間だったと。


「凛子っち……まさかとは思うけど、忘れてたの?」

「咲茉のことはともかく、悠也のことは大して興味もなかったから忘れてたわ」

「おい、別にお前に興味なんて持ってほしくもねぇけど失礼な奴だな」


 目を大きくする乃亜に飄々と凛子がそう答えるなり、思わず悠也が呆れた声を漏らす。


 そんな彼を横目に、凛子はわざとらしく肩を竦めていた。


「だってお前はお前だろ。別に今とか未来とか、そんなこと言われたって変わらねぇよ」


 返ってきた凛子の声に、悠也が呆気に取られる。


 しかし呆ける彼に、凛子は変わらず平然とした表情を見せるだけだった。


「私の“知らないところ”で咲茉がめっちゃ大変な思いしてきたってのは分かってるよ。悠也だってしんどい思いしてきたってのも知ってるけどさ、お前達が私の友達だってのは変わんねぇだろ」


 そして続けた彼女の言葉に、悠也と咲茉は覚えがあった。


 凛子にタイムリープのことを伝えた時、そして咲茉が抱えていた辛い過去を話した時、彼女は泣きながら咲茉に話していた。


 どんなことがあっても、咲茉は咲茉でしかないと。


 それが意味する凛子なりの答えが、たった今告げたことだった。


 自分にとって、友達であることは変わらない。たとえ過ごしてきた時間が違っても、それは決して変わらないと。


「……凛子ちゃん」


 思わぬ親友の言葉に、自然と咲茉が息を飲んでしまった。


 凛子にとって、今も自分が親友であることは変わらない。そう信じて疑わない彼女の態度が、どうしようもなく嬉しくて。


 つい緩みそうになる涙腺を抑え込みながら、咲茉は頬を緩めていた。


「本当、お前って馬鹿な時あるよな」

「あ? ぶん殴られてぇのか?」

「……バカ、褒めてんだよ。言わせんな」

「はぁ?」


 眉間に皺を寄せる凛子に、呆れた悠也が頭を抱える。


 本当に、この女は素直過ぎる。


 決して悠也は本人に言うつもりはないが、こんな子だから咲茉が懐いているのだろう。


 まだ彼女の素行が悪かった時、子供だった頃の咲茉は無意識に気づいていたのかもしれない。


 誰にでも親しみを持って接していた子供の咲茉がより一層に心を許せる人間だと。


 その一端を垣間見た気がして、悠也は改めて気恥ずかしくなった。


「忘れてんなら今度話してやるぞ? 就活に失敗した人間がどんな目に遭うか、ブラック企業の安月給で働き続けて死ぬほど老けた奴の話」

「聞きたくねぇよ……ってか、それだけで十分だわ」


 恥ずかしさを誤魔化して語る悠也の心情も知ることもなく、凛子が首を小さく振る。


 他人の話ならともかく、それが友達の話だと思うだけで多少の危機感は感じられた。


「ならお前も少しくらいは努力しておけ」

「ねぇ、悠也っち。いつか言おうと思ってたんだけど、折角なら知ってる情報で小遣い稼ぎとかしない? 競馬とか未来で有名になる馬が勝つレースとか覚えてたらワンチャンあると思うんだけど〜?」

「賭け事は全くやって来なかったから知らねぇよ」

「くっ、なら株とかで」

「下手なことして面倒事になったら困るから言うわけないだろ。古い映画でもあっただろ、好き勝手に未来変えてとんでもないことになるやつ」

「蝶が羽ばたくと竜巻が起こる〜って話はゴミ箱に捨てて教えてよ〜」

「誰が教えるか、馬鹿乃亜」

「ちぇ〜」


 不満そうに舌打ちを鳴した乃亜に、悠也が鼻を鳴らす。


 未来に関する話は、悠也もある程度までと控えている。


 下手なことをして、余計な面倒事が起きるかもという先入観がある以上、悠也もズルを控えていた。


「ダメだよ、乃亜ちゃん。そう言うことばっかり言ったら乃亜ちゃんのハマった漫画とかのネタバレするよ?」

「……あっ、殺意の波動に目覚めそう」

「なら悠也を困らせないの、私だってしたくないもん」


 震える乃亜に、咲茉が乾いた笑みを浮かべる。


 その隣で、悠也も呆れた笑い声を漏らす。


「……なに言ってんだか」


 そんな彼等の姿を眺めながら、凛子はしみじみと思った。


 やはり、彼等が友達であることには変わらない。


 そう思いながら、凛子は面倒そうに舌打ちを鳴らしていた。

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