第4話 どこまで攻められるか
「もうビックリするくらい可愛い服しかなくて草しか生えないんだけど?」
咲茉の洋服タンスを物色し始めてから数分後――タンスの中に詰め込まれた服の数々に、堪らず乃亜はそう呟くしかなかった。
凛子と雪菜も同じ意見だったらしい。彼女の呟きに2人が黙って頷く姿に、咲茉が反応に困りながら乾いた笑みを浮かべていた。
「そ、そうかな……?」
「これ見て可愛いって思わないの?」
そう言って、乃亜が持っていたスカートを両手に広げる。
折り目がハッキリとついた、黒のミニスカート。俗にプリーツタイプと呼ばれるスカートを見せつけられて、反射的に咲茉の頬が引き攣った。
「か、可愛いと思うよ?」
「目逸らして言ってたから説得力ないよ? ほら、ちゃんと見なって?」
直視できないと目を逸らす咲茉に、乃亜が前のめりになってスカートを見せつける。
「うぅ……スカートはちょっと」
「ほら、可愛い? 可愛くない? どっち?」
近づけられるスカートから逃げるように後ずさる咲茉だったが……それでも強引にすり寄る乃亜に観念したのか、渋々と逸らしていた視線をスカートに向けてしまった。
確かに、可愛い。連なる折り目が作るふわっとした立体感のあるデザインは、ファッションに無知な咲茉でも可愛いと思える。
「可愛い、すっごく可愛い」
「でしょー? じゃあ試しに着てみなよー?」
「き、着る? わたしが?」
「咲茉っち以外に誰がいるのー?」
可愛いと思うのなら着てみれば良いと、乃亜がスカートを差し出す。
しかし差し出されたスカートに、無意識に咲茉の表情が強張った。
「やっぱり、スカートはちょっと……」
そして着ている自分の姿を想像してしまったのか、まるで拒否反応を示すように咲茉の手がゆっくりと乃亜の手を押し返していた。
一見して奇妙とも思える、スカートに対する拒否反応。
その異様な反応を見せられてしまえば、乃亜も必要以上に迫ることもなかった。
むしろはじめから分かっていたと言いたげに、彼女の肩が小さく落ちた。
「そりゃそうだよねぇ……やっぱり、まだ着れそうにない?」
咲茉の反応で察した乃亜が、持っているスカートを見つめながら問い掛ける。
その言葉に咲茉が目を伏せると、申し訳なさそうに小さな頷きを返していた。
「まだ、そういうのは着たくないかな」
その答えは、乃亜も予想していたのだろう。
咲茉の悠也以外の男性に対する拒否反応は、もう以前ほどでないと言えど今も残っている。
先日の事件も含めて、彼女が経験してきた類稀で劣悪な体験を考えれば、男性から異性として見られることに拒否反応を見せることも嫌というほど納得ができる。
少しでも肌を見せたくない。女性として見られたくないという彼女の思いは、彼女の過去を知る人間であれば察するの容易だった。
少し考える素振りを見せると、おもむろに乃亜が訊き返していた。
「スパッツとか履いても厳しい?」
「……スパッツとか履いても、もし捲れちゃったりして身体の線が出るの嫌なの」
それは恥ずかしいというよりも、嫌悪の反応だった。
仮にスパッツを履いても、なにかの拍子でスカートが捲れて身体の線が出てしまえば意味がない。
その可能性が少しでもある時点で、咲茉が着る服にスカートの選択肢などあるはずがなかった。
「咲茉っちの言いたいことは分かるから大丈夫。むしろ分かってたこと訊いてごめんね。今なら大丈夫かなって思って訊いてみただけだから」
申し訳なさそうに俯く咲茉に、乃亜がわざとらしく肩を竦める。
なにも気にすることもない。むしろ分かっていたことを訊いてしまった自分が悪いと乃亜が謝罪すると、咲茉が首を振っていた。
「ううん、謝らないで。乃亜ちゃんの言いたいことも分かるから。むしろ悪いのは私だよ」
乃亜の意図を察していれば、咲茉も怒る気など微塵もなかった。
少し前までなら、強引にスカートを押し付けて来る乃亜に怒っていたかもしれない。
男に性的な目で見られることが恐ろしいと感じている自分が、短いスカートを履くなど絶対にあり得ないと。
だが、それも今まで自分を苦しめていた人間達が居なくなったのなら話が変わって来る。
先日の一件で彼等が捕まり、その主犯の人間も重傷で一生動くこともできなくなったというのなら、もう心配することもない。
咲茉自身も、タイムリープするの前の自分の受けた辛い経験が極めて稀なものだという認識はある。
あんなことが何度も起きるわけがない。むしろ出会わない方が一般的なものだと思っている。
だからこそ、なにも不安になることもなく自由に生きて、自分のやりたいことを好きにしても良い。
そう話してくれた乃亜達の気持ちも、咲茉はちゃんと理解していた。
着たい服を好きに着て、自由に遊んでも良いのだと。そう遠回しに伝えてくれる乃亜の気持ちも、咲茉にしっかりと伝わっていた。
だが、それを分かっていても……やはり着れないという気持ちは、まだ消えることはなかった。
「まだ、私にはスカートは着れないよ。その勇気が……まだ今の私にはないから」
乃亜の気持ちを察して、咲茉が正直に胸の内を吐き出す。
そんな彼女に、乃亜は頷いていた。
「分かってたから大丈夫。私も咲茉っちのファッション決めるのに確認したかったんだよ。咲茉っちがどこまで攻められるかって」
「……攻める?」
聞き慣れない単語に、思わず咲茉が訊き返す。
そして首を傾げる彼女に、乃亜は僅かに眉を寄せながら答えていた。
「ファッションのコーデにも色々とあるから、それに今は気温も高い夏だし、必然的に着る服は薄着になるでしょ?」
「……うん? そうだね?」
怪訝になりながらも咲茉が頷くと、乃亜はそのまま続けた。
「半袖着ないと暑いし、もっと涼しくしたいなら私服でノースリーブとショートパンツの攻めまくった服を着る女の子だって当然いる。でも咲茉っちみたいに素肌を出したくない人もたくさんいる。その中で夏服コーデを決めるとなると、その人の好みを含めて、どこまで自分の肌が出せるかって部分も大事なんだよ」
なるほどと、咲茉は素直に思った。
確かに夏だからと言って、誰もが薄着になっているわけではない。ある程度の露出で抑えている人も当然いる。
外を歩いていれば、千差万別のファッションをしている人達がいる。その誰もが薄着をしているわけではない。
その人の中で、肌を出せるのはここまでという線引きがある。特に女であれば、当然の線引きがある。
「自分の見せられる肌がどこまでか、そのラインをどこまで攻められるかによって着れる服って決まると思うんだよね」
攻めるという言葉の意図を察して、咲茉がしみじみと頷く。
その話を基準にするなら、はたして自分の線引きはどこまでなのだろうか?
そう思った咲茉が考え込んでいる時だった。
「おいチビ、余計なことぐちゃぐちゃ言って咲茉を困らせるな」
「あだっ――!」
突然、今まで黙っていた凛子の平手が前触れもなく乃亜の頭を叩いていた。
「ちょっと! 急に殴らなくても良くない⁉︎」
「お前がわざわざ分かってること咲茉に突っ込むからだっての。あんなダサい服着てたら言わなくても分かるだろ」
「ださっ――」
乃亜を責めていた凛子の発言に、反射的に咲茉が胸を抑えた。
「あのダサい感性を治してあげるのが親友でしょ! ファッションのことなーんにも知らない咲茉っちにゼロから教えてあげてるの!」
「黙って咲茉が納得する服探して可愛くしてやるのが親友ってもんだろ。そうすればダサいセンスも自然と治るって」
「そーやって本人任せに教えて間違った感性になったらどうするのさ! あのダサさが捻じ曲がってとんでもないコーデするかもしれないでしょ! こーゆう時こそ親友の私が矯正するの!」
互いに熱が入り、乃亜と凛子が真剣な眼差しで口論し始める。
しかしその口論が続いていくにつれて、咲茉は目に涙を溜めて苦しそうに胸を抑えていた。
「咲茉ちゃん、気にしなくても大丈夫ですよ。いつでも咲茉ちゃんは可愛くて素敵ですから」
「雪菜ちゃん……!」
いつの間にか咲茉の傍に寄り添っていた雪菜が彼女の背中を優しく撫でる。
そして数秒も経たずして、我慢できないと咲茉が雪菜に抱きついていた。
その胸の中で、唸りながら悲しむ咲茉の背中を雪菜が何度も撫でる。
そして今も口論を続ける乃亜と凛子に雪菜は呆れると、深い溜息を吐き出していた。
「2人とも、そこまでにしなさい。2人がダサいって何度も言うから咲茉ちゃんが泣いちゃったじゃないですか」
「「……あっ」」
雪菜の声で、2人が泣いている咲茉を見るなり、自身の発言に気づく。
その瞬間、2人は慌しく咲茉に声を掛けていた。
「違う違う! 別に咲茉の服がダサいのを責めてたとかじゃなくて! 単にこのチビの言い方が気に食わなかっただけだって!」
「私も咲茉っちのセンスが壊滅的だって責めてたわけじゃないよ! 仕方ないって分かってるし! タンスの服も可愛い服ばっかりだったから着れる服探すのに話を聞きたかっただけで!」
「2人ともダサいって何度も言うからキライ! 私だって着れるなら着てるもん! ゆーやなら可愛いって思われたいし!」
雪菜に抱きつく咲茉にそう言われて、乃亜と凛子の表情が凍りつく。
咲茉から嫌われたと2人が慌てふためくが、不貞腐れた彼女が簡単に許すはずもなく。
それからしばらくの間、2人が謝り続けるまで咲茉の機嫌は治ることはなかった。
読了、お疲れ様です。
先日の連絡で週一更新としていた腐れ縁幼馴染ですが更新頻度を上げます。
新作を書こうと考えていましたが、特に書く案も思いつかないままだったので、とりあえずしばらくの間は本作の執筆に向き合おうと思います。
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