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法陣遣いの流離譚  作者: 空館ソウ


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06_25 魔人症を治療する

 廃墟の拠点にもどったけど、留守番をしている強面の青年以外いなかった。


「やっぱりまだアルバトロスは戻ってないか」


 アルバトロスは既に魔人症の兆候が出たため街を離れた六人の元協力者を迎えに、サティさんが教えてくれた場所にむかっている。


「私達はほぼ行って帰ってきただけだから、ゆっくり待ってようよ」


 アルバトロスが戻ってくれば僕がキレート剤を渡すふりをして体内に蓄積した魔素を抜く。彼らにはその上で、改めて身の振り方を決めてもらおう。

 リュオネの言葉にうなずき、僕らは尖塔の中で待つことにした。


「そういえばそろそろ武器を用意しなくちゃな」


 天井と壁が崩れて見晴らしの良くなった尖塔の途中の部屋にテーブルを置き、サティさんが用意してくれたカイという、テイとスパイスを煮込んだ甘いミルクを皆で飲んでいると、以前スパイに愛用していた曲刀を折られた事を思い出した。

 ジョアン叔父と戦う事を考えても、今から準備しておく必要がある。


「さっき言ってた異界門で魔人をたおさなきゃいけないって奴か。手持ちの武器で一番良いのはどんなのだ?」


 訊いてくるシルトに一振りのホウライ刀を差し出す。

 鞘から静かに抜いた刀身に、シルトは感心したように眺めていた。


「シルト、私にもみせてもらえる?」


 魔導技師のミンシェンも気になるらしい。

 シルトから受け取ったホウライ刀を食い入る様にみる。

 ……あれ、どこかで見たような光景だな。


「……堪能しました。リュオネ、ホウライ皇国ではこれほどの刀は簡単に手に入るのでしょうか?」


 鞘に戻した刀を僕に返し、ミンシェンがリュオネに振りかえる。


「うーん、いや、難しいんじゃないかな。どういう経緯でウィールドさんがその刀を手に入れたか訊いてないけど、それは本国でもなかなか手に入らないよ」


「そうですよね……これだけの品が普通に作られていたら、作り手として私も立つ瀬がありません」


 どこかほっとした表情でいうミンシェンだけど、その言葉に引っかかったのでシルトに訊いてみる。


「ミンシェンってもしかして鍛冶もできるのか?」


「できるぞ。今俺が使っている両手剣を打ったのもミンシェンだ」


 そう言ってシルトがポーチから出してきたのは、オットーの大身槍を平たくしたような、両刃で鎬がきれいに出た両手剣だった。


「すごいねぇミンシェンさん。この両手剣、私も欲しいくらいだよ」


 順番に渡すと、リュオネが目を輝かせて眺めている。


「私は鍛冶については下地があったのと、スキルに恵まれたので魔法を使った鍛造技術を容易に習得できたんです」


 ミンシェンが謙遜するような事を言っているけど、表情があまりかわらないのでなんとも判断が難しい。


「じゃあブラディアに戻ったらさっそく僕らの武器を作ってもらおうか」


 武器もしまってお茶を再開しながら話を進める。


「構いませんけれど、【白狼の聖域】には先輩の鍛冶もいるのではないですか?」


 確かに鍛冶にはウィールドさんはいる。

 でも今のウィールドさんは銃関係の開発に手一杯だしな。

 それにクローリスの魔道具作成を見ても嫉妬する感じではなかった。


 いや、嫉妬といえば、クローリスはどうだ?

 魔導技師といえば魔道具作成が本領なんじゃないか?

 あんまり技能がかぶるとあいつのメンタルのフォローが大変になる。


「確かに先輩は何人かいる。ミンシェン、この銃の部品は改良できるか?」


 そういって銃の機関部に使う複層魔法陣のチップを渡そうとすると、ミンシェンはそれを見ただけで受け取ろうとしない。


「すみません。私は魔導技師でも素材の造形で魔力回路を作成するのが得意で、そのチップくらいの細かい仕事はできないんです」


 これは聞き方がわるかったか。

 バツが悪そうにうつむくのを見て申し訳なく思ってしまう。

 

「こっちこそすまない、出来なくてむしろ有り難いというか、先輩に細かい魔道具づくりの職人がいてね。そいつと技能がかぶるか確認したかっただけなんだ」


 なんだそうですか、と何も無かったかのように顔をあげてカイをすするミンシェンをみてジェシカを思い出す。

 あいつもウィールドさんの補佐で技術部にいたよな?

 なんだか技術部に集まるメンバーって傍若無人な人が多すぎないか?



   ――◆◇◆――


 そんな事を話しながら過ごしていると、山の向こうに魔力を感じたので壁のない南の空を見ると、空の色の溶け込んでいたビーコの姿がおぼろげに見えた。


「ただいま、つれてきたわよ」


 アルバトロスに助けられビーコの背から降りてきた六人は、確かに魔人症の兆候が身体に表れていた。

 魔素排出キレート剤と言って丸薬をわたし、飲ませながら魔素を抜いていくと、お互いの目を見て驚き喜びあっている。

 あらかじめアルバトロスに説明してもらったはずだけど、本当に目が黒くなるなんて半信半疑だったんだろう。

 浄眼でも問題ないようなので、ひとまず安心だ。

 僕がうなずくと同時にサティさんが六人に向けて口を開く。


「皆さんのため私の上司が用意した薬で、あなた達の魔人症発病のおそれはほとんどなくなりました」


 あらためてサティさんに宣言され、六人の口からため息や喜びの声があがった。

 さらに僕らに向かって口々に感謝の言葉を述べるのですこし気恥ずかしい。

 騒ぎが一段落した後、今後どうしたいかきくと、まだ施設で働いている人達と相談したいとの事で廃墟の建物に入っていった。

 やっぱり他の人がいるかいないかで事情も変わるし、十分話し合ってもらおう。



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