06.ほかの情報?
「さあ、どうぞ。レイ様はこちらでお茶でも飲んでて下さい。」
先程アランに声を掛けた若い隊員がとても不味そうなお茶を出してくれた。
これを飲めって何かの罰ゲームですか?
レイはしばらくそれを眺めてから席を立つと若い隊員が入れた茶葉にお湯を入れて先程のお茶を人数分入れ直した。
全員が雰囲気にのまれながらレイが入れ直したお茶に口をつける。
「美味い。これが同じ茶葉だとは思えない。」
「いやー、本当ですね。」
先程の若い隊員に傍にいた人間が”お前が言うな。”と拳骨を入れられていた。
「ちょっと先輩酷いです。俺はメイドじゃないんですから。」
まあ確かにそうだけどあのお茶はどうかと思うぞ、少年。
レイが少年を見ているのが気にくわなかったのか気がついたらお茶を飲んでいるアランの膝の上にいた。
あれなんでこんなことになっているの。
さりげないアランの独占欲に隊員は全員見ないふりを決め込んだので、その後レイを助けるものは誰もいなかった。
レイを膝に乗せたことで能率アップしたらしいアランは瞬く間に机の上に積まれていた書類を片付けた。
最後の一枚にサインを終わらせるとスックと立ち上がってレイを担いで自分の屋敷に引き上げる為執務室をでた。
勿論書類が片付いた隊員たちは嬉しそうにその書類を抱えると入れ違いに他の隊員が近くまでアランの馬を連れて来た。
「気が利くじゃないか。」
「もちろんです。今後もこのように書類の確認をお願いします。」
「おうよ。」アランは元気よく返事をするとそのままレイを連れて屋敷に向かった。
アランが屋敷に向かって王宮を出た後陛下の使いがやって来た。
「アラン様はどちらに?」
「今さっき屋敷に戻られたよ。」
「しまったぁー。」
侍従は慌てて来た道を帰っていった。
「何アレ?」
侍従の只ならぬ様子を見た副隊長は先程不味いお茶を出した隊員に王宮に戻って行ったあの侍従が何しに来たのか調べてくるように命令した。
「何で俺なんですか?ほかにも隊員がいるじゃないですか?」
「お前が侯爵家の三男だからだ。姉さんに聞けばわかるだろ?」
「それを言うなら副隊長だって、姉さんの婚約者だから問題ないでしょ。」
「俺が行くと時間がかかる。」
「時間がかかるってなんですか。」
「いいから行け!」
副隊長の理不尽な命令にぶつくさ言いながら侯爵家の三男は王宮で今日開かれている王妃様主催のお茶会会場に向かった。
歩いて行く間にも侯爵家の三男であるサンは理不尽な命令にどうにも腹の虫が治まらない。
だが副隊長に逆らうことも出来ないので悶々としていた。
そこに王妃のお茶会会場を警護している同僚たちの姿が目に入った。
サンは彼らの背後から足音を立てて近づくと警護している中にいる同期がサンに気がついて声を掛けて来た。
「珍しいな。どうかしたか?」
「副隊長命令で侯爵令嬢に会いに来た。」同僚は可哀想な目でサンを見るともうすぐ終わりそうだからここで待っていた方が早いぞと教えてくれた。
「そうだよな。」
サンは彼らと一緒にお茶会が終わるのジッと待つことにした。
熱いな。
じりじりと太陽の熱がお茶会が開かれている周囲を照らしていた。
お陰で予定よりお茶会は早く終わり、サンは姉であるニーナに事情を聞くことが出来た。
「あら、珍しいこと。」
「まあ、そうだけど俺だって来たくてきたわけじゃないから。」
「そう。なら帰ったら。」
「だから副隊長に頼まれたんだって。」
「えっ、副隊長って・・・。」
ニーナの顔がその単語を聞いた瞬間に真っ赤になった。
あの性格悪ーい副隊長がなんでモテるんかねぇ。
「な・・・なんておっしゃってたのよ。」
ニーナが弟の襟首を両手で握った。
「ちょ・・・今話すよ。」
サンは先程近衛兵がいる兵舎に来た王宮の使者の話を掻い摘んで説明した。
「ああ・・・あれね。」
「理由知ってるの?」
「まあね。単純な話よ。」
「単純?」
「そっ。魔剣が壊れたのを聞きつけた元魔国の連中が反乱を起こしたのよ。」
サンはあまりの話に座っていた椅子から立ち上った。
「ちょっと落ち着きなさいよ。」
「落ち着ける訳ないだろ。」
「まだ王都から離れてるし、たかだか魔剣の一本や二本。武国の武力でなんとかなるわよ。」
姉さん。知らなすぎだよ。あの時の戦闘でどれだけの犠牲が出たか知らないのか。あっ知らされてないのか。サンは頭を抱えながらも姉が勧めるお茶を飲み干すと早々と部屋を出て副隊長たちが待つ近衛騎士団に戻った。
「おっ、待っていたぞ。でっ、どうだった?」
脳天気に聞いて来る副隊長を殴りたいと思いながらもサンは先程仕入れて来た内容を告げた。
「そっち関連か。」
「そっちって、知ってたんですか?」
「話は色々あってな。魔国がらみの方かどうかわからんかったんだよ。」
「他に何があるんです。」
「うん、他・・・まあ色々な・・・。だけど隊長の様子だと他はもうすぐ解決するかな、たぶん・・・いや、きっと。」
「???」
サンは他の情報がさっぱり分からなかったが疑問符だけ浮かべて黙っていた。
「しょうがない。隊長のためだ。お前今の情報を隊長の所まで知らせて来い。」
「また、俺ですか。」
サンは仕方なく隊長の屋敷に向かった。
俺ってなんでこんなのばっかりなんだろ。
副隊長に絶対後で復讐してやる。
心の狭い部下は固い決心をした。




