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◇後処理と招待

 婚約が成立した後、王宮から戻ってきたレイノルドと共に、四人で晩餐となった。

 先日とは別人の、すっかり元に戻ったレイノルドとの再会に、私は思わず泣きそうになる。

 レイノルドの話によると、今王宮では魅了をかけられていた人々への対応に追われているらしい。

 魅了は厄介なことに、人によっては感情を操られていた間の記憶が残っていることもあるため、その記憶や闇属性魔法の後遺症に悩まされるのだとか。

 私が聖魔法で浄化、癒しをかけた国王陛下や宰相様、大臣たちは大丈夫だったらしいのだけれど……。

 その他にかけられた人々はなるべく後遺症が軽くなるよう、失脚したクレリオ様の代わりに魔術師団長に復職したノルン辺境伯が対応しているそうだ。


 そしてクレリオ様は、父親である辺境伯の嘆願により、魔力を拘束された状態で辺境の塔への幽閉が決まった。

 幽閉と言ってはいるけれど、結局のところ、ノルン辺境伯領の仕事を彼がする形になったらしい。

 魔術師団長に辺境伯が復帰する以上、仕方ないことかもしれない。

 辺境伯領は国防が関係する地なこともあり、辺境伯の復帰は今でも反対の声が絶えないとか。

 今回のことが落ち着けば、新しい魔術師団長が任命されるだろう。


 ちなみに、魅了をかけられていた人々は段階に応じて、週一回のカウンセリングなどを受け、それに合わせて聖魔法を施されているらしい。

 今日レイノルドが王宮に行ったのは、事情聴取のためだ。

 レイノルドの場合、魅了自体はランス様のおかげでそこまで深刻な後遺症はなく、今はマリアの罪状を固めるための捜査に協力しているのだとか。

 まあ、いざとなったら、私が聖魔法で治すつもりでいる。

 王太子殿下にも、優先的に聖魔法が施そうとしたみたいだけど、そもそも殿下はリアの強い聖魔法の浄化を受けていたため、長い期間魅了を使われていた割にかなり軽度だったそうだ。




 晩餐のあと、私の部屋で少しお茶をして、名残惜しそうにしながらランス様が帰る準備を始める。

 ランス様と一緒に公爵邸に帰るルドは、さっきからずっとリアにひっついてなかなか離れようとしない。


「グマグマーー!!」


「クマ、クマクマ」


 リアはルドに回した手をポンポンしながら慰めているように見えた。

 そんな二匹を眺めつつ、私も上着を羽織るランス様を見つめる。


「……そんなに熱い視線を送られたら、帰れなくなってしまいますね」


「い、いえ、そんな意味ではなくてっ」


「そうなんですか? ……本当に?」


「それは……」


「私はロベリアと離れたくないですがね」


 言いながら、ランス様が私の手を取る。

 真っ直ぐ私を見つめるエメラルドの瞳に飲まれそうになる。

 そのまま引き寄せられ、抱きしめられた。

 驚きながらも望んでいたその温もりに包まれ、その胸に頬を擦り寄せる。


「っ! ……そんな可愛いことをすると、放し難くなってしまう」


 ランス様は私の肩に顔を埋めながら、ぎゅっと抱きしめる手に力を込めた。

 そんな彼の背中に手を回して、私もぎゅっと抱きしめ返す。

 ルドたちと同じことをしている自分に少し驚いていると、ランス様も同じことを考えているのか、抱きしめる手の力が緩んで、私の顔を覗き込んだ。


「ルドたちと同じ状態になってしまいましたね」


 クスッと笑って、ランス様はそっと私の頬に手を添える。

 エメラルドの瞳が熱を帯び、その熱に浮かされていくように瞳を閉じ、口づけを交わす。

 そして、ゆっくりと目を開け、またその瞳に飲まれながら、互いに再び抱きしめ合った。


「ああ……やはりあなたをこのまま連れて帰りたい」


「……私も離れたくない、です……でもっ……」


「すみません。困らせてしまいましたね」


 そう言って私の額に口づけを落としてから体を離すと、ルドに「あまり困らせてはいけませんよ」と忠告して、引き離す。

 リアが少しホッとしたように見えたのは気のせいか……。

 まだまだ叫んでジタバタするルドを内ポケットに押さえ込みながら、ランス様は公爵邸へと帰っていった。





 翌朝、王家の馬車が我が家の前に止まる。

 何の知らせかは大体察することができていた私たちは、使者を丁重に迎え入れた。

 応接室に通された使者は、国王陛下からの書簡をお父様に渡す。

 そのまま使者を待たせ、一旦執務室へと移ってからお父様が書簡を開ける。

 その途端、お父様はガタガタと震え出し、顔を真っ青にさせた。


「お、お父様……? 一体なんと書かれているのですか?」


「陛下は一体何を考えておられるのだ!?」


 書面を覗き込もうと乗り出すと、お父様はその書面を手から落とす。

 落ちた書面を見た私は、思わず目を見開いた。

 そこには私を「聖女」として王宮へ招きたい旨が記されていた。


(そーいえば、お父様には伝説級と言われた聖魔法を使って、辺境伯に「聖女」と言われたこと、話してなかったわね……)


「……これは一体どういうことだ、ロベリア。私は何も聞いていないぞ……きちんとすべて説明しなさい!!」


「は、はい?!」


 それからお父様にすべて説明した結果、さらにその顔色が悪くなっていった。

 けれど、最後にはため息をつきながら、「婚約を結んでおいて正解だったな」とランス様に感謝していたのだった。

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