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◇目覚めと迷い

「…………リア嬢。ロベリア嬢」


 目が覚めると、優しい声で私の名前を叫ぶランズベルト様に抱きかかえられていた。


「ら、ランズ、ベルトさま……」


「!? ロベリア嬢!!」


 急に体を抱き寄せられ、ランズベルト様に抱きしめられる。


「良かった……!!」


「……あれ、わたし……」


(え!? な、なななんで、ランズベルト様に抱きしめられてっ!? ええ!?)


 戸惑いながらも彼の胸に顔を埋めると、その心臓の鼓動がとても速くなっていることに気づく。

 強く抱きしめるランズベルト様の体が少し震えていて、彼の頬には涙が見えた。


(また心配させてしまったのね……)


「私はいつもあなたを守れない……情けない限りです」


 ぎゅっと強く私を抱きしめながら懺悔するかのような弱々しいランズベルト様の声が響く。

 私は慌てて埋めていた顔を上げ、彼の目を見る。


「そんなことありません! あの時ランズベルト様が守ってくださったから、私はこうして無事でいられるのです。情けなくなんてありません! 守ってくださりありがとうございます」


 懸命に訴える私に、ランズベルト様は切なげに微笑む。

 その顔があまりにも儚げで、思わず私は彼の背中に手を回して抱きついた。


「ろ、ロベリア嬢!?」


「それに私は……ランズベルト様に守られたいので……」


 あまりの緊張に手が震え、声も後ろのほうは聞き取れないくらいになってしまったけれど、ランズベルト様にはしっかり聞こえたらしく、抱きしめる腕の力が強くなる。


「ロベリア嬢……! 私は――」


 ランズベルト様が意を決して何か言いかけた、その時。

 抱きかかえられている私の足先で、何かトントン柔らかいものに叩かれている感触がした。

 ランズベルト様から体を少し離してそちらを見ると、そこにはルドを連れたリアの姿があった。


「リア!! ルドも無事だったのね!!」


 思わずランズベルト様を手で突っぱねて二匹の元へ駆け寄る。

 私のその行動に一瞬「え!?」と声を上げたランズベルト様は、二匹を見て納得した様子で、苦笑いを浮かべた。


「私もまだまだなようですね……」


「??」


 さっきも情けないとおっしゃっていたし、ランズベルト様は自己肯定感が低いのかもしれない。

 ルドはリアを守って靄に入ったせいで酷い魔力枯渇を起こしていた。

 リアが支えながらここまで来たみたいだけど、リア自身も回復はしているものの、魔力炉は空っぽ状態。

 飛べないから歩いてここまで来たらしい。

 心なしか、リアが少し怒っているように見えた。


(あんたたちだけ幸せ味わってるんじゃないわよって言いたげね……)


「リア、ルド。ごめんなさいね。ありがとう。魔力補充しましょうね」


 そう言って二匹に魔力補充しようと手を伸ばしたら、後ろからランズベルト様の手が伸びてきた。


「ダメです! ロベリア嬢、あなたも魔力枯渇を起こしたばかりなのですよ。今はまだ人に与えられる状態ではないです。正直、二匹に無意識に供給している魔力も止めた方が良いくらいです」


 いつもより強い口調でそう言うと、リアにも屈んで「そういうことですから、今はダメです」とわざわざ説明している。

 その微笑ましい姿にこれまで張り詰めていた気持ちが解けて、ほっと息をついた。

 そこへ、ずっと様子を伺っていたのか、ノルン辺境伯が生温かい笑顔で現れる。


「目を覚まされたようで何よりです。アラベスク嬢」


 その手には、魔道具で拘束されたクレリオ様を引きずっている。


「あ、ありがとうございます。……そ、その、クレリオ様は……」


「はい。悪い子にはお仕置きが必要ですので。騎士団と交渉して、一旦持ち帰ろうかと思いまして……今騎士団長の判断を仰いでいるところです」


「騎士団……」


 ふと辺りを見回すと、玉座の付近にはたくさんの騎士たちがバタバタと動き回っていた。

 国王様や宰相様のお姿はないものの、その他の重鎮らしき貴族たちが、騎士に起こされ、事情を聞かれている。


(ええ!? ちょっと待って!! 私こんなに人がたくさんいる中で、ランズベルト様に抱きしめられて、あまつさえ、自分からも抱きついたの!?!?)


 居た堪れなさすぎる……というより、ランズベルト様に申し訳なさすぎる。

 私は大勢の貴族たちの前で王太子殿下に婚約破棄された身。

 そんな私はランズベルト様に相応しくないのに。

 どうしよう……。


「どうかされましたか? やはりまだお体の具合がよろしくないのでは……」


 心配そうに私の顔を覗くランズベルト様の優しい笑顔に、胸がひどく痛んだ。

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