第122話 崩れる平和
「おいおい、こんな日にまた異変発生か?」
「気持ち悪い魔力を感じるわ。大きい魔力が複数、そしてグリード級の魔力が一つ・・・」
ソンノさんとベルゼブブが、空を睨みながらそう言う。グリード級の魔力を持つ者が接近しているというのを聞き、全員の表情が一瞬で変わった。
『おや?なんだか凄い魔力が沢山集まっていますね』
「「っ!!」」
そして、その声は突然響いた。
『僕が今日封印を破る・・・というのを知っていたわけではなさそうですけど、少し面倒ですね。まあ、僕の部下達に任せればいいだけの話か』
「誰だお前、姿を見せろ」
『はは、その前に死んでください』
空から赤い球体が数個放たれる。それはソンノさんが空間干渉で消滅させたが、次の瞬間、様々な場所で何故か爆発が起こった。
『あははは、馬鹿ですね!貴女達が上ばかり見ているから、その間に何人死んだと思いますか?』
「・・・おい、何が目的だ」
『〝お祭り〟ですよ』
姿の見えない敵は、心底楽しそうに言う。
『丁度皆さんも、楽しそうなお祭りを開催しているみたいですからね。あまりにも長い間眠りすぎて、まだ少し動くのが難しいんです。だからその間、僕がもっとお祭りを盛り上げてあげましょう』
「チッ、全員武器は持ってきてるか?」
「一応オーデムギルドに置いていますが・・・」
「すぐ取りに行け。さっきの爆発に巻き込まれた奴らを救助し、敵を駆逐する」
それを聞き、アレクシス達はギルドに向かった。ソンノさん、ベルゼブブとディーネ、マナは先に爆発が起こった場所に向かい、私は一度自宅に武器を取りに戻る。
「こんな日に、どうして・・・」
それから外に飛び出すと、再び爆発が起こった。同時に魔力のぶつかり合いを感じる。どうやら、ベルゼブブが敵と戦闘を開始したらしい。
その直後、近くから悲鳴が聞こえた。爆発は起こっていないが、私は武器を手にその現場に向かう。すると、大勢の人に剣先を向けている妙な見た目の男が立っていた。
頭から二本の角が生えたその男は、恐らく鬼族だろう。その男は私に気付くと、悪意に満ちた笑みを浮かべながら体をこちらに向ける。
「ほぉ、俺の相手は人間の女か」
「何者だ」
「かなりの上玉だな。クハハ、久々に色々と楽しめそうだぜッ!!」
そして、名乗りもせずに斬り掛かってきた。速い───が、この程度なら焦る必要はない。
振り下ろされた大剣を受け止め、魔力を放って鬼族の男を弾き飛ばす。
「珍しい剣だな」
「刀という、東方大陸の剣だ。さて、そろそろ目的を言ってもらおうか」
「俺は《鬼剣》のシュラ、この〝祭り〟を盛り上げる為にやって来た鬼族の男だ。で、あんたはテミス・シルヴァだな?」
「・・・私を知っているのか」
「四年前の異変を解決した英雄達の一人、世界最強の《剣聖》だろ?」
大剣を振るい、隣に建っていた民家を破壊した鬼族の男、シュラ。
「ここにいる人間共が死ぬのを見たくなかったら、俺を楽しませてくれや!」
彼はそう言うと、大剣に魔力を纏わせて地を蹴った。近くには、逃げ遅れた大勢の人達が。この男は、あの人達を人質にして私と戦いたいらしい。
「お前達が言う〝祭り〟とは、一体何なんだ?」
「クハハハハハハッ!!」
こちらの話を微塵も聞いていない。大剣を受け止め、人がいない方向にシュラを蹴り飛ばし、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
「そういやぁあんた、恋人がいたらしいな」
「っ・・・」
「あの異変を解決した男、今度紹介してくれよ」
明らかに分かっていて言っている。私が振った刀を避け、屋根の上に飛び乗ったシュラは重いはずの大剣を高速で振り、魔力の斬撃を何度も放ってきた。
避ければ逃げ遅れた人達が巻き添えになる。私は魔力で分身を生み出し、全ての斬撃を弾き飛ばした。直後、シュラが跳んで高い場所から大剣を振り下ろす。
「聞いてんのかおい!!」
それを受け止めた衝撃で地面が砕け散る。
「俺が会わせてやるよ、あんたをぶった斬ってな!!」
「・・・会えるのなら、今すぐ会いたい」
「だったら死ねやァッ!!」
「この平和な日常は、タローが守ったものなんだ」
四年ぶりだ、ここまで怒りが湧き上がってきたのは。
「その平和を踏みにじるというのなら、私はお前を絶対に許さない・・・!」
「うがあっ!?」
大剣を押し返し、バランスを崩したシュラの太股を斬り裂く。そして顎を蹴り上げ、宙を舞った彼の全身を連続で斬った。もう遠慮も様子見もやめだ、この男は────
「カアアーーーーッ!!」
血を撒き散らしながら、シュラが地面に大剣に叩きつけようとしたので、その前に斬撃を放って彼を吹き飛ばす。
「てめえ、ぶっ殺してやる!」
着地と同時にシュラが駆け出す。そして彼は大剣を振り下ろそうとしたが、私も駆け出しすれ違いざまに彼の横腹を深く斬った。
「なんで当たらねえんだクソが!俺は鬼族最強の剣士だぞ!?今回祭りに参加したのは雑魚共をグチャグチャに出来ると思ったからだ!なのに何で、この俺が斬られてんだよ!」
喚きながら、シュラが逃げ遅れた人達目掛けて斬撃を飛ばす。それを私は刀で弾き、魔力を刀に纏わせて納刀する。
「な、なんだよ。もう勝負は終わりだとでも言うつもりじゃねえだろうな!」
「もしお前を見逃したとしても、またどこかで誰かがお前に殺されることになるんだろう。だから、もう終わらせる」
「はあ?俺を殺すつもりか・・・?」
「・・・怖いのか?」
それを聞き、シュラの顔つきが明らかに変わった。多分、私も同じような表情になっているだろう。
感じるのは激しい怒り。シュラは大剣に膨大な魔力を纏わせると、私を睨みながらそれを振り上げる。
「ぶっ壊してやるよてめえッ!!」
「・・・終わりだ」
この四年間に生み出した、グランドクロスとは違うもう一つの奥義。目を閉じ、精神を統一させ、何も考えずにただじっとその時を待つ。
「っ─────」
地を蹴った、大剣が振り下ろされた。暗闇の中それを感じ、私は全ての魔力を抜刀と同時に解放する。
「─── 《絶 界》 ───」
そして、一閃。全力で踏み込み、限界を超えた速度でシュラとすれ違った直後に再び納刀。
「く、クハハっ!なんだ今のは、痛くも痒くも────」
「安らかに散れ、鬼剣のシュラ」
次の瞬間、シュラの体から大量の血が噴き出した。肩から腰まで斜めに深く、私が抜刀と同時に斬り裂いたからだ。
相手の命を確実に断つ、一撃必殺の奥義──絶界。それを受けたシュラは不思議そうに私を見つめ、そしてそのまま崩れ落ちた。
「す、すげえ、流石は剣聖だ!」
「助けてくれてありがとうございます!」
「皆さん、危険ですから今すぐオーデムから離れてください。私はまだ残りますが、どうか気を付けて」
逃げ遅れた人達は頷き、この場から離れていく。そんな彼らを見送った後、私はとある場所に向かって駆け出した。
各場所で行われていた戦闘も既に終わっている。恐らくベルゼブブ達が勝ったのだろう。しかし、一つだけまだ凄まじい魔力の持ち主が残っているのが分かる。
「ギルドにはアレクシス達が向かったはず。無事だといいんだが・・・」
そう、その魔力の持ち主はギルドに居る。嫌な予感がしたので、念のために魔力を纏ったまま私はギルドを目指した。




