第106話 マナの必殺奥義
「お前が、サトータローが可愛がってる神狼マーナガルムのガキか」
「・・・だれ?」
上陸後、なかなか姿を見せない太郎を捜して歩き回っていたマナ。そんな彼女の前に現れたのは、太郎と同じ黒髪の男だった。しかし、不気味な魔力を纏う男を前にしても、マナはいつも通りのほほんとしている。
「俺様は、サトータローをぶっ殺す男だ」
「えー、だめだよ!」
「だがなぁ、あいつには地獄を見てもらわないと気が済まねえ!まずはお前を徹底的に痛めつけて、ボロ雑巾みたいにしてからサトータローに対する人質にしてやるよ」
男がマナの髪の毛を掴む。その瞬間にマナはキョトンとしながら電撃を放ち、残念な事に男の手は焼けた。
「ぐおああっ!?何しやがるこの糞ガキがァ!!」
「おじさんだれなのー?」
「チッ、んなことはどうでも────」
「もしかしておじさん、わるい人?」
小さな体から凄まじい魔力が放たれ、思わず男は後ずさる。可愛らしい見た目からは想像できないが、マナは世界樹の六芒星すら凌駕する力を身に秘めているのだ。
「あっ。もしかしておじさん、まとーさいでご主人さまにパンチされてた人?」
「っ、ああそうだ!俺様はシャドウ!神罰の使徒のメンバーで、グリード復活と同時に脱獄してやったのさ!」
シャドウが地面に手を置く。その瞬間にマナの影が形を変え、刃となって背後から襲いかかった───のだが。
「ふーん、そっか。じゃあやっぱりわるい人なんだね」
軽く首を傾け、背後からの攻撃をマナは避ける。そしてそのまま地を蹴り一瞬で距離を詰め、シャドウの腹に大砲の如く小さな拳をめり込ませた。
「ぐっ、がばあ・・・!?」
すかさずシャドウは反撃を試みるも、既にマナは目の前から消えていた。神狼とまで呼ばれるマナのスピードは圧倒的なものであり、どこに行ったのかと姿を探すシャドウだったが、真横から顔面を蹴られて吹っ飛ばされる。
「こ、こいつ、ガキのくせにどうしてそんな動きができるんだ!?」
「ご主人さまのマネしてるだけだよ?」
顔を上げた直後に顎を蹴り上げられ、意識が吹っ飛びかけた瞬間に雷魔法を食らって悲鳴を上げる。以前シャドウが太郎を怒らせたことを覚えていたマナは、彼に対して一切遠慮などせずに攻撃を加え続けた。
「ふざけるんじゃねえええッ!!」
「っ!」
しかし、突如シャドウが膨大な魔力を放ったのを感じ取り、即座にマナは彼から離れる。それを見て、シャドウは恐ろしい程に口角を吊り上げた。
「馬鹿め、これでお前は終わりだよ!」
「え────」
「光を飲み込め、〝影世界〟!!」
次の瞬間、周囲が完全な暗闇となった。感覚的に、この場所がアトランディアではないとマナは判断する。その通りで、ここはシャドウが生み出した影の中に存在する世界であった。
『クックック、もう逃げられねえぞ』
「どこにいるのー?」
『見えないか?ククッ、そうだろうなぁ。だが、俺様の方はお前の姿がよく見えてるんだぜ?』
影に溶け込んだシャドウが、影の形を槍のように変形させてマナの背後から襲いかかる。完全なる死角からの攻撃であり、槍がマナの頭に届くその瞬間にシャドウは勝利を確信した───のだが。
「んー、ぜんぜんみえないっ!」
『へ───ぐぎゃああっ!?』
暗いので体から電撃を放ち、それで周囲を照らそうとしたマナ。残念な事に、その電撃をシャドウは至近距離でまともに浴びることとなった。
「あ、みつけたー!」
『ぐっ、しまった・・・!』
「もうにがさないもんねー!」
影が歪み、シャドウの姿に戻る。しかしここは影世界、シャドウは全ての影を自在に操る力を持っている。
『てめえ、後悔しやがれ!』
「くらえー!ひっさつおーぎ───」
以前大好きな主人と一緒に特訓した、マナにとって最強の必殺奥義。それを太郎に見せた時は、デレッデレになりながら何度も頭を撫でられた。今こそ、早く太郎に会うためにその奥義を解き放つ時。
「マーナガルムロアーーーーーッ!!!」
『いっ──────』
凄まじい魔力を、一気に口からブレスのように吐き出す。まるで雷属性の破壊光線のようなそれは、再び影を変形させていたシャドウ目掛けて超スピードで迫り、彼が何かをいう前にその体を焼き尽くした。
「・・・あっ、もどれたー!」
その後、シャドウが倒れ込んだのと同時に影世界は消滅。マナは無事にアトランディアへと戻ることに成功した。念のため言っておくと、二度と魔法が使えない程度にはダメージを負ったシャドウだが、まだ死んではいない。
「えへへ、せいぎはかーつ!だね」
いつも太郎と言っていた決め台詞を胸を張りながら言い、マナは太郎達と合流するために走り出した。
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「どうした?魔王軍四天王が聞いて呆れる」
「ぐっ、強い・・・!」
ヴェントとテラは、凄まじい炎を身に纏うかつての仲間、フレイと対峙していた。しかし、神獣種である不死鳥の魔力を取り込んだフレイの圧倒的な力を前に手も足も出ず、先程から防戦一方である。
「ベルゼブブは大罪魔力を二つも持つ化物になり、ディーネも嫉妬の魔王へと覚醒。そして俺は不死鳥そのものとなったというのに、お前達は何をしてるんだ?」
「何が言いたい・・・」
「お前達は、いつまで経っても雑魚のままだということだ。ほら、こうするだけで吹っ飛ばせる」
小さな火球を生み出し、フレイはそれを指で軽く弾く。それだけで火球は弾丸の如くヴェントに迫り、触れた瞬間に爆発してそのまま彼を吹っ飛ばした。
「ぐああっ・・・!?」
「世界樹の六芒星とかいう連中は、大体お前達と同レベルかそれ以下なんだろ?このままじゃあ全滅も時間の問題だな」
「がはっ、ぐぅ・・・馬鹿言え。こちらには魔王様とサトー、それに女神がいるんだぞ」
「それもグリードに殺されて終わりだ」
「そいつはどうかな!」
倒れ込むヴェントを燃え盛る足で踏みつけようとした直後、テラの魔法で足元の地面が拳へと変形し、フレイの顎に直撃して空高く殴り飛ばす。しかしフレイは背中から炎の翼を広げ、何事も無かったかのように再び地面に降り立った。
「チッ、今のが効かないのか」
「当然だ。それに、俺は不死鳥なんだぞ?ダメージを負ったところで、すぐに傷は癒え───」
「伏せろテラ!」
「おう!」
テラがその場に伏せ、フレイが振り返るよりも速くヴェントは全魔力を解き放つ。
「ディザスターストームッ!!」
黒き暴風がフレイを吹き飛ばし、そのまま体を八つ裂きにする。やがて風が収まった頃には、フレイは跡形もなく消え去っていた。
「───ほう、少しはやるようだ」
「くっ、そんなの反則だ・・・!」
それでも数秒後には空中に火球が出現し、その中からフレイは無傷の状態で姿を消す。
「くくっ、お返しをしてやろう」
そして、小さな太陽が出現したのかと錯覚させる程の熱を周囲に放つ巨大火球を、フレイはなんの躊躇いも無く地上に放つ。咄嗟にヴェントとテラは魔力を纏ったが、それすらも突き破ってフレイの魔法は二人に相当なダメージを与えた。
「ぐああああっ!!」
「ははは、これが俺の力だ!」
焼け焦げた地面に降り立ち、全身に火傷を負ったかつての仲間二人を見て笑う。最早指一本動かせない程弱りきったヴェントは、死を覚悟してフレイに言う。
「・・・殺せ」
「あ?」
「僕達の負けだ。今なら簡単に殺せるだろう?」
「お、おいヴェント、何言って・・・」
「いいだろう、望み通り殺してやる」
再び出現する擬似太陽。身が焼ける苦しみを再び味わいながら、それでもヴェントは笑ってみせた。
「少しは後悔、してるんだろ?」
「何が言いたい」
「僕達を、魔王様を裏切ったことだよ。そこまで何の躊躇いも無く僕達を半殺しにできるのは、取り返しのつかないところまで君は行ってしまっているから・・・違うかい?」
「いいや、違うな。本当にそう思っているのなら、お前は相当な馬鹿野郎だ」
そして、小さな太陽が落とされる。
「誰かが助けに来るなんて思うなよ。いや、来たとしてもそいつごと俺の魔法で消し飛ばす。魔王軍はもう終わりだ!」
「はは、君の方こそ、本当にそう思っているんだとしたら、相当な馬鹿野郎だけどね」
「なんだと?」
「───ほんと、おバカさんだよ」
この場にいる誰もが何度も聞いた、少しだけ懐かしく感じる少女の声。それが耳に届いたその瞬間、フレイの魔法は跡形も無く消し飛んだ。
「なっ!?」
「久しぶりだね、フレイ君。残念だけど、ヴェント君とテラ君は殺させないよ」
「貴様、ディーネェェ・・・!」
彼女の後ろ姿を見て、ヴェントとテラは勝利を確信したかのように笑う。その一方で、フレイは怒りを隠しきれずに全身から魔力を放ち、少女を睨んだ。
「勿論フレイ君もね。もう一度、私達は手を取り合ってベルちゃんの支えになるんだから」
現れた少女───ディーネは、恐ろしい力を持つフレイ相手に手加減という選択肢をあっさりと捨て、覚悟を決めて〝嫉妬の魔力〟を解き放った。




