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#28夫婦問答

話の更新がゆっくりである事と、他の作品ばかり頻繁に更新していて続きを楽しみにしてくださっている読者の皆様には申し訳無いです。


現在29話と章全体のプロットを纏めているのですが。最近私自身が人間関係で揉めてしまい失職した事で気を病んでしまった事もあり。自分の中で人間関係をメインテーマにしている今作品を製作するに辺り、かなり苦労しておりまして。


言い訳がましくてすいませんが、状況が好転するまでは1ヶ月に一話更新出来ればと考えております。


「ならば! 私は夫となる貴方を我が身を挺してでも止めて見せます!! その考えが、どれだけのリスクを帯びているかを知って頂く為に!!」


街を荒らし回っていた黄鬼が去り、海の波の音を掻き消すほどの覚悟を決めた空の決意の宣言が響き渡った。


彼女の目には自らの命を削ってまでも誰かを助ける為に後先を考えずに行動する望を決して見逃がしてなるものかと言う強い思いがあり。

先程まではのぞみを捲き込んで、鬼達が支配している街にいるであろう人々を鬼達の驚異を無視して行動しようとしていた望も流石に考え直すだろうと皆が感じたのだが……。


「……それが、空さんが僕を止める理由なんだね。分かった、じゃあ……やろうか?」


望が返したのはとても無機質で、気だるさすら感じさせる冷めた物言いであり。空の事を溺愛していた望から出たと思えない言葉に一同は唖然とさせられる。


「お父さん何を言ってるのです……? まさか、本気でお母さんとやりあうつもりなのですか?」

「そうだが……何か悪いか?」

「わ、悪いも何もお母さんの言っている事はお父さんを気遣った上でのアドバイスであって何も間違っていないのです!! それを何故受け入れないのですか?!」

「僕の意思から反しているからだよ。のぞみ」

「お父さんの意思ですか?」


のぞみは正面数約6メートル先に立っている望の余りに違和感のある対応に戸惑わされ、口調まで変えつつある望に大きな違和感と薄気味悪さを感じさせられるが、状況はそんなことを考えて居られないほどの事態に発展してしまう。


「空、君は僕の事を夫と呼んだね?」

「……ええ」

「じゃあ何故歯向かう? 妻とは夫を支え、役に立つためならばあらゆる事を夫に捧げなければ行けない役目だ。それは己の自由や資産、時間、愛情、そして身体を用いて夫を喜ばせる‘物’だろ?」

「何を言っているの……望さん?」


まるで男尊女卑を称える村の悪しき風習の様なことをペラペラと人が変わったかの様に話し出す望に空は絶句し、父を慕っていたのぞみは信じられなくて震えながら涙を滲ませる中で、静かに怒っていたきつ姉が口を開く。


「望。いえ、望の中に入り込んでいる無粋な輩よ。貴方が私の愛する望にその様な下劣で腐った言葉を言わせた時点で、私に裁かれる事は決まったわけだけど。言い残す事は有るかしら?」

「……ふっ、仲間を見捨てて見殺しにした狐が良く言いますね?」

「なっ……」

「貴方、一体誰!?」


その空からの問い掛けに答える様に、様子のおかしい望はニヤリと微笑んでからその胸に手を当てて妖力を込め、身体を怪しげに燃える紫色の光りに包み込んで平均的な成人男性の姿へと幼さが残っていた望の身体を成長させていく。


「そう言えば貴方とは面識が有りませんでしたねぇー空さん。私は大蛇族の次期当主……」


やがてその光りが消え、その本性を表わしたその姿は紛れもなくかつて狸族達を手玉に取り望達を襲撃させた大蛇族の反逆者。


「ハジメです。以後、お見知り置きは……あっ、そう言えば要りませんでしたねー。何故なら、これから邪魔になるであろう貴方とはここでお別れになるのでしょうから!!」


その言葉を聞き、空達が驚かされているうちに成人の青年と呼べるほどに成長した望の体を乗っ取っているハジメは懐に残されていた変化の葉っぱの2枚を両方サバイバルナイフに変えて、手慣れた様子で両手に構えてから、勢い良く空へと突っ込んでいく。


「速いっ!!」

「さあ! 花嫁入刀と行きましょうかねぇー? ヒヒャハハハ!!」

「お母さんには指一本触れさせないのです!」


正しく、蛇の様にジグザグに動きながらも空に噛み付こうとするハジメは後二メートル程で動揺の余り後ずさる空へと追い付き、サバイバルナイフが届きそうになる直前にのぞみにより放たれた狐火により進路を燃やされてしまい立ち往生させられてしまう。


思わず苛立ち故に大きく舌打ちをしてから、ハジメは顔を半分後ろにいるのぞみに向けてその真っ赤に充血した目で睨み付ける。


「やってくれましたね、小狐……!! 前回の学園の時と同様にシャシャリ出て来やがって!!! てめぇが邪魔したせいで何れだけ私がその後くだらねぇ毎日を過ごさせられたか分かるわけないよなぁぁ!!?」


そう言ってハジメは今度はガタガタと震えながらも何とか立って向き合っているだけの状態ののぞみへと襲い掛かり。のぞみも慌てて接近を阻む為に4本の尻尾を扇状に広げて、広範囲に狐火をばらまこうと構える。


「きっ、狐火連続発射!!」

「二度も同じ手は食わねぇぇよ!!!」


しかし、狐火が射出される前にハジメに懐に飛び込まれてしまい、のぞみの目の前には邪悪な食い縛った歯を剥き出しにした様なハジメの笑みとサバイバルナイフが筋肉に守られていない人間の急所である肝臓へと迫り、その刹那のぞみは死を覚悟する。


(お父さん……お母さんごめんなさいなのです……)


思わず心の中で呟いたその言葉。


誰にも聴かれる事無く、その悲痛も愛する人にも伝えられずに自分は死ぬのだとそっとのぞみが目を閉じようとしたその走馬灯の中で、二人の見知った声が響いて来る。


《諦めちゃ駄目だのぞみちゃん!! 父さんと母さんが必ず君を助けるから!!!》

(お父さん、お母さん……?)


その声はほぼ同じにのぞみの脳内に響き渡り、彼女の目を再び目を開かせた約束は確かに果たされていた。


「な……に……?」


目を開けてのぞみが見た光景は自分の目の前でナイフを構えたまま体が石の様に動かなくなってしまい、プルプルと震えているハジメの姿であり。彼の表情には焦りと苛立ちが浮かんでいた。


「なっ……何なんですかこれは?! 私の体が全く動か無いじゃないですか……!!」

《当たり前だ、その身体はお前の物では無く正真正銘僕の物だからだ!!》


突然響いて来たその声の主はのぞみが良く知っている父望のものであり、のぞみが良くハジメの身体を見てみるとうっすらと望の白い影の様なものがハジメの身体を後ろから押さえ込んでおり。


ハジメが何度も何度も振り払おうとするのだが、雪道でタイヤがスリップしてしまい抜け出せなくなった車の様に一向に解決される事もなく。


気がつけばのぞみが放った狐火で体を軽く焼きながらも強引に突破し、ハジメの後方から勢い良く空ときつ姉が駆けつけてくれた為にのぞみは歓喜し、ハジメは歯ぎしりをする。


「お母さん!! きつ姉!!」

「ちっ、思っていたよりも動きが速いじゃないですか!!」

「良く頑張ったね、のぞみちゃん!!」

「貴方の命運はここまでよ、子悪党!! 狐パァァンチッ!!!」


その限り無くシンプルで分かりやすい拳技はどういった物なのかと言うと、彼女自身から勢いよく打ち出せれる左ストレートに乗せてきつ姉が持つ膨大な妖力で作成する、大人の身体を覆う程の巨大な拳を正面に打ち出して相手に叩きつけると言う物で。


ハジメはその拳を身動きが取れないまま受けてしまい、体を大の字にしたまま身動きが取れない程の衝撃と共に大量の妖力を流し込まれてしまい、全身の自由が更に削がれたハジメは体を地面に転がるままにされ。


遂にはその動きを完全に停止させられる。


「ぐう、おおお……己ぇぇ小僧ぅ!!! あと一歩の所で……待たしても邪魔ぉぉぉ……!!」

「散々貴方が見下し、馬鹿にして来た望達の強さを思い知ったかしら? これ以降、望を甘く見る事は辞める事ね……」


そう言い切ったきつ姉の言葉に、全ての歯車を望とのぞみに崩されたハジメは小さく呻いて敗北を認めようとはせずにあくまで対立を求めてい事を感じ取ったきつ姉は、横に立つ空に目配せで事前に決めていた解決策を実行に移す。


「……ごめんね。後少しだから頑張って望さん……」


そう言ってもう既にボロボロになっている望の体を見つめ、苦しそうに謝りながらも空は這いつくばっている望の体の上下左右に御札を2m程の間隔を開けて追加で設置する事で、彼女に取っての切り札の一枚を切ることとする。


その切り札となる四方に設置された御札の上には光り輝く小さな種が表れ、それを確認するやいなや空はその術式の名を叫ぶ事で発動させる。


「全ての力を美しき花に変えて、花雷(カライ)!!!」


空のその叫びを受けた小さな種達はその願いを叶える為、結界に張り付けられてもがきながらも笑みを浮かべているハジメに対して四方の種から突然強烈な雷が継続的に放たれ始め、ハジメの身体は四方から浴びせられた雷の光りに呑み込まれた。


「あははははは!!! 妖力を分解し、札に吸収させる術式とは考えましたねぇぇぇ!!! 空さぁぁぁん!!! 貴方は望くんと同じで、とても面白い人間の様だぁ!!!」

「貴方に贈られるくだらぬ賛辞など要りません!! 速く望さんに身体をお返しなさい!!!」



光りの中から聴こえて来たのは悪魔の様におぞましいハジメの断末魔であり、緊張した面持ちのきつ姉が見守る中で4秒間に渡った雷の照射は中断された為に辺りをその雷光で見えなくするほどに強力な光りは止み、望がいた場所には体に電気を走らせながらうつ伏せに倒れている望の姿があり。


先程、雷を放出させる為に設置した光り輝く種は驚くべき事に大きく成長していて、白く輝く大きな百合の花が咲き乱れていた。


「望……さん……」

「お父さん!!」

「望!!」


ハジメの僅かに残っていた妖力が消え失せた事を確認した三人は急いで度重なるショックにより気を失っている望の元へと駆け寄り、妖力を用いた治療を開始する。


「お母さん、きつ姉……。お父さんは目を覚ますよね? 大丈夫だよね?」

「さっきの花雷で望さんを支配していたおかしな妖力を排除しただけで、体には深刻なダメージは残っていない筈だからきっと大丈夫だよ。安心して」


そう言って不安がるのぞみを優しく励ましながらも御札を用いた治療を続ける空の隣で、望のお腹に手を当てながら望の状態を調べていたきつ姉は今回の事件の真相を突き止める。


「……この世界に望が飛び込んだ時に、私が託した妖力がのぞみちゃんに全て配分されたせいで。望の体に本の僅かに残っていた奴の魔力が癌細胞の様に増大して、最終的に体を乗っ取ってしまったのね」


その話を聴いて、かつて望達を大混乱に陥れた大蛇族の恐ろしさを改めて理解させられた空は鳥肌が立つのと同時に、大切な人を影で操り、自分は安全な場所へらへらとその状況を楽しんでいるのであろうハジメに強い怒りを覚える。


「その原因を作った男だけは必ず捕まえましょう、きつ姉さん。彼だけは必ず……」

「そんなに剥きになっては行けないよ、空さん。彼等は感情と言う力を旨く利用する……名人なんだ……」

「……え?」


思わず今まで言っていた事を忘れる程に驚かされた空は顔を上げ、先程から目を瞑り眠っていた望の顔を慌てて見る。

そこには少しやつれてはいるものの、年相応の成長した姿の望が茫然としている空を見て微笑んでいたのだが。


人間関係に関しては精神的に弱い空は、先程その同じ顔と声で散々罵られてしまった事が実は軽くトラウマとなっており。

心の中で純粋に望の目覚めを願っていたのぞみの様に抱きつく事も、心から声をあげて喜ぶ事も怖くなってしまっていた。


そんな空の泣きそうな顔を見て、望が声をかけようとした所でのぞみが心配の余り、望に抱きついて安否を尋ねる。


「お父さん痛い所は無いですか?! 無理はしないで良いから今は安静にしてくださいね?」

「あはは……うん、大丈夫だよ。それよりも僕に襲われて怖かったろう、本当に良く頑張ったねのぞみ……。偉いぞ……」

「おとうしゃん……うう……」



「完全に目を醒ましたのね……望?」

「きつ姉。来てくれて本当にありがとう。そして、何も考えずに勝手な事をしてごめん……」

「……良いのよ。どうにも奴のせいで誘導されていた節もあるからね」



「空さん……。今の僕に取って空さんは最愛の人であり、臆病者だった僕を救ってくれた英雄であり、御互いにまだ分からない事があっても信じ会い分かり会える唯一無二の理解者で……誰とも代えが効かない最高のパートナーなんだ。

決して代用が聞く……物なんかじゃないんだ……!!」


「望さん……」


「だから……僕も空さんに取って……大切な事を互いに築きあげて行ける様な立派な夫になって見せるから……。これからも末長く……一緒に家族として側に居てください……」


「うあ……ううう、望さぁん……。望さん!」


「全く……鬼達も自分達の国まで入られて、プロポーズ場所にされるなんて思っても見なかったでしょうね……」


そのやり取りを見ていたきつ姉は誇らしそうであり、寂しさを強がりで誤魔化している内心を表す様にゆっくりと尻尾を振っていた。


(誰かの平和を守り、誰かの幸せを見届ける……それが仙狐としての私が託された使命……。解ってはいるのだけどね……)


色が失せた無機質な白黒の世界に吹く筈の無い凍える様な風が辺りに吹いている、孤独を分かち合う事すら許されていない仙狐はそんな気がした。

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