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#22 眠れる者達【下】

※望が抱いた要への反応等を改めました(6/25)

突然、入院患者の父親らしきマフィア風の男と風のような速さでその後を謎の少女が駆け抜けて行ったこともあり。それに乗じて病院内へと押し入ろうとするマスコミと、病院関係者達との間で病院の入口では押し合いが始まってしまい。


病院前の出入口は人一人入る事が出来ない様な大混乱となりつつあった。



その状況を見て、先に病院に駆け込んでいった二人を追うために慌てて車を降りて病院に入ろうとしていた望達は呆気にとられていた。


「うわわっ!! あんなに入口がぎゅうぎゅう詰めになっていたら、通ることが出来ないのです!!」


「……バーゲンセールの時の……夏魅さんみたいだね」


あたふたする望とちゃっかりと身内をネタにする余裕を見せる風香との間で、空はしばし思考した後、提案をだす。


「ねえ望さん。先に病院に入っていった二人がいる位置を特定出来るかな?」


その質問に慌てていた望は「え……?」と言う気の抜けた声を出した後、正直に答える。


「えーと……僕は今、狐としての能力を付与されてる訳なのですが。基本的に狐は犬科の動物なので人の数千倍の嗅覚とそのそれぞれの匂いをかぎ分ける能力があるのです!! だから今、要ちゃんとパパさんが何処にいるかを見つける事は可能なのです!」


その説明を真剣に聴き終えた空は、一生懸命に答えてくれた望に微笑みながらついつい頭を優しく撫でながら感謝する。


「ありがとう望さん。それならば入口から入らず共、病院内に入ることが出来そうです」


「ふにゃあ……気持ちいいのです……」


「……望兄さん。顔が……とろけてるよ?」


「え″っ!? ごっ、ごめんなさい!? つい気持ちよくて……」


思わず空に頭を撫でられて、本能的になっていた望が風香に苦笑いされながら現実に戻された所で、空から詳しく突入方法を聴くことになる。


「まず、望さんが要ちゃん達の位置を特定して。その場所に私が転移札を使用して、私達全員を転移させます」


「でも、転移札を使う場合は激しい閃光が起きますし! 空お姉ちゃんにかなりの負担がかかるのではないですか?」


様々な心配される問題を望から伝えられた空は軽く頷いてから回答する。


「確かに。転移札を使う場合、かなりの集中力を使うための負担は確かにありますが、今回の転移先の目標地点が目に見える場所なので大丈夫。そして強い光に関しては、室内で外の扉を閉めていたとしても解るほどの強い光を要しますから。それを解決するためにパパさんの車を使います」


その説明を受けて、二人は背後に乗り捨てられている黒いミニバンを改めて見直す。


「なるほど、車の左右の窓には光を遮断する黒い遮熱フィルムがあるから、それを利用するのですね!!」


「完全に光を遮断する事は出来ないと思うけど、無いよりはましだと思うのだけど。どうかな?」


「僕は賛成なのです!!」

「……同じく」


二人の賛同を得た空は軽く会釈した後、早速準備に取り掛かる。


まず、鍵を開けっぱなしで放置してしまっていた車内に入り、遮熱フィルムが貼ることが出来ないフロントガラスから光が漏れだしたりしないように日除け用の折り畳み式シートを張り伸ばし。


続いて最初に来た時と同じ様に真ん中の座席に左から風香、空、望の順番で席に着く。


その後、全ての車のドアを閉めた後。左右にいる二人と自分を含めて移動手段となる転移札を野球少年にした様に額に縦にして張っていく。


「よし。じゃあ望さんから順番に真理恵さん達がいるであろう病室前の廊下に転送したいと思います。望さん、三人の居場所は割り出せそうですか?」


その質問の答えを鼻と耳をピクピクと動かしながら望は伝える。


「はいなのです。えーと……あれっ? どうやらみんな普通の病室ではなく、地下にいるようなのです…… 」


その言葉を聴いて、思わず三人に不穏な空気が流れる。


病院で通常の病室は二階から三階にある筈で、場所が地下となると言う事は手術室であったり……。



「「「もしかして、……霊安室……?」」」


亡くなった方の遺体が痛まないように冷房が効いた部屋で保管する霊安室等である。


例え勧められても行きたいとは思えない不穏な場所が目的地と判明した後4秒ほど、つい三人は黙りこんでしまう。


それは只、人が終わりを迎えて行き着く不気味な霊安室には行きたくないと言う本能的な険悪感情だけでなく。真理恵さんが生きる人がずっと訪れる事は余り無いその場所にいる事の理由を確認しなければならないと言う認めたくはない現実がそこにあるからでもあった。



「行こう……二人とも。あらゆる可能性は零では無い筈なのです……。空さんや、風香がこうして生きているようにまだ何か僕たちにも出来るかもしれないのです……」


「そうですね……望さん」

「…………」


勇気を奮い起こす様に語りかける望の言葉に空は後押しされ、風香はその言葉を心に巡らせる。


やがて勇気を奮い起こした三人は望から順番に一人づつ転移札が巻き起こす閃光に包まれて行き、薄暗く、消火栓が有ることを示す赤い灯りが目立つ、無人の渡り廊下へと辿り着く。


「うっ……要ちゃんは何処なのです?」


人気が無い廊下には人の気配処か、小さな音すら聴こえない。


静かに望の心拍数が上がっていく中、望の背後から強いライトで照らされたかの様な強い光が巻き起こる。


その光で照らされた望の先に続く長い廊下の先に、一瞬廊下の左側に設けられた三人掛けの長椅子に座るワンピースの様な赤い服を着た色白で目元を覆うほどに髪が長く、口元だけが見える女性が一瞬望の目に写るのだが、閃光が消えた後はその姿を確認出来なくなってしまう。



「お……女の人……なのです?」


思わず、実はホラー物が大の苦手で怖さの余り声が上擦ってしまう望の背後から、突然耳元に息が吹き掛けられる。


「……ふぅー」

「いにゃぁぁぁぁ!!? ごめんなさい、ごめんなさい!! もう夜中におかしは食べないから許してくださいなのですぅぅ!!!」


驚きの余りに腰が抜けてしまい、地震が起きたかのように後ろにお尻を突き出した姿勢で床に伏せ、頭を抱えて震える望に息を吹き掛けた主である風香が近づいて、そっと声をかける。


「くっ……くくく……。望兄さん……大丈夫だよ……。ちゃんと足も付いているでしょ?」


「へぇ……?」


思わず気の抜けた返事をするものだから、風香は我慢できなくなり、声を必死に圧し殺しながら笑いだす。


「くっ、くくくくく!! やめて……そんな声をだすだなんて……卑怯だよ兄さん……くくっ」


その笑いを堪える風香の姿を数秒間認識して理解することが出来ずにいた望に、さらなる追い討ちとも言うべき空が移転してきた為に発生した猛烈な光が襲い掛かるが、流石に閃光で望が失明してはまずいと風香が呆けている望を抱き締める形で盾になる。



その光景を後から現れた空が心配の余り、直ぐに駆け寄り。正気を取り戻した望が空にしがみつき、半泣きになりながら風香にどれだけ怖い思いをしたのかを熱弁し、風香が笑いを堪えながら廊下を歩いていく。


ついに三人は、望が要達の位置を匂いによって嗅ぎ付けた【第二霊安室】の前へと到着する。


怖くてガタガタと震える望の代わりに、比較的冷静な風香が2枚扉の右側のドアノブに手を掛けて、ゆっくりと開けていく。


扉は普段から良く整備されているためか、音も立てずにすんなりと開き。真剣な表情になった風香がゆっくりと顔の半分を部屋の中を覗くために動かしていく。


そこで彼女が見た光景は、


「駄目っ……二人とも下がっ……!!」


完全なる闇が広がる空間であり、


「風香!!!」

「風香ちゃん!!」


無数の手が深海へと引きずり込もうとするタコの足の様に突きだして来て、獲物を生け捕りにする開けてはいけないパンドラの箱であった。



「風香から、その手を離すのです!!」


必死に大切な家族を連れ去られてなるものかと、風香の全身にまとわりつく無数の血色の無い白い手達に望は体に吸い付いたヒルを落とすかの如く。風香を支える右手はそのままに、空いた左手に軽く狐火を纏わせて、妹を引き込もうとする腕を払い除けて行こうとするが、時間が経てば経つほどに中から這い出てくる手は増え続け。


次第に助けようと奮闘していた望ごと、中に引き摺りこまれ兼ねない危険な状況に陥ってしまう。


「駄目だ……このままじゃあ二人とも呑み込まれるのです……! 何か、何か手はーー」


「手なら、ワタシの手をニギリクダサイ、アルジドノ」


望にとって聞き慣れた自分を慕ってくれている大切な後輩の声が、ドアの向こうから聴こえた気がした。


「うそだ……」


風香を助けようと必死の形相の望がゆっくりと顔をあげると、ドアごしのそこには先行して梶田を追跡していった要とそっくりの白い顔があり、望をを生気の失せた笑顔で見詰めながら、そのか細くも力強い両手で包み込む為にゆっくりと突きだして来るのがゆっくりと目に写る。



(そんな……要ちゃん。僕は間に合わなかったのですか……?)


既にドアを隔てた先の住人と化していた大切な後輩に心の中で何度も謝罪を繰り返し、悔しさと懺悔の涙を流しているうちに、その手は優しく望の頬を伝う涙を優しく払っていく。


「ダイジョウブですよ……アルジドノ……。貴方も、トモにキテクダサレバ、ワタシハーー」



戦意喪失し、その言葉を望が聴き入れそうになりかけた所で。後方から要らしき物の額に1枚の札が投げつけられて張られ、同じく胸から下を飲み込まれ肌の色が死人の様になり掛けていた風香の額にもお札が張りつけられる。


そのお札の貼り付けられ方と、効果は既に一度のみならず。体感すらしていた望が慌てて後方を振り返る前に、これ以上やらせないとばかりに血気迫る空の叫びを聴く。


「転移札・複数転移ぃ!!!!」


その叫びが欠き消える前に、全ての闇を晴らすが如く閃光が暗闇を光に代える。



慌てて目を瞑り、光から目を守ろうとした望だがその光は企画外であったらしく。トンネルから出て日差しを浴びた時の様に暫くは残光で視力を失っている望の腰回りを背後から誰かが抱き寄せ、そのまま望は後ろに持ち上げられる感覚と扉が勢い良く閉じられた音が聴こえた。



「望さん、風香ちゃん、要ちゃんしっかり!!! 今すぐこの場所から連れ出しますからね!!!」


自分達の危機的状況を打破してくれたであろう空の必死な表情で大声で励ます姿に、望は申し訳なると同時に、改めて危機的状況を打破しようとする彼女の心の強さに惚れ直すが、今はそんな時では無い。


(早く……脱出して、この事をきつ姉に知らせないと……)


廊下を背にして朦朧とした意識の中で、望が考えていた矢先。目の前の閉じられた扉の下から、水が浸水してくるかの如く、ゆっくりと黒い水が此方に迫っている事に気付かされる。


(まずいのです……早く……空お姉ちゃんに伝えないと……)


そう思い、望は左隣で自分だけでたなく、風香と要を助け出し、今は呼吸を整えている空に目の前に迫る危機的状況を伝える為に必死に望が口を開けようとするのだが。まるで顔から下が人形になってしまったかの様に言うことをきかない。


(なんで身体が動かないのです?! こんなときに!)


焦る望。だが彼が悪戦苦闘しているうちに、次なる悲劇が既に起こっていた。


「うっ……」


先程までは激を飛ばして望達を支えてくれていた空が突然、壁に持たれる様によろよろと倒れてしまう。


(空さんまで動けなくなってしまったのですか?!)


「ごめんなさい望さん、多分お札の使いすぎで身体が言うことをきかないんだと思う…………。少し、休むと楽になると思うから……」


必死に何かを伝えようとする望の視線を感じたのか、膝元に眠っているかの様にピクリとも動かない風香と左隣に全身が真っ白くなってしまい、同じく身動きひとつしない要を左手で支えながら弱々しく微笑む空。



そうしている間にも黒い水は扉がある廊下の右半分から真ん中まで侵食しつつあり、望はこのままではいけないと力を振り絞り起き上がろうとするのだが。


突如誰も触っていないのに扉が開け放たれ、扉が閉まっていた時とは比べ物にならない程の黒いヌメヌメした水が望達を呑み込まんと押し迫ってくる。


(……なんて酷い冗談なのです!)


迫り来る無慈悲な力に望は絶望しながらも、力無く項垂れている空を庇う様に正面から抱き抱える形で覆い被さる。


勿論それだけではただ波に呑み込まれる事は解っているので闇の影響か、衰弱した身体に残された最後の妖力を振り絞り、先程までは少女だった身体を変化させて狐耳と三本の尻尾を扇状に展開させる。


(炎の……壁……!!)


せめて、目の前にいる人達を守りたいと言う望の意志が具現化したかの様に、望達を扇状に守る炎の壁が突き上がる。


その炎に接触した黒い水は蒸発するかの如く焼失していき。何とか踏み留まる事には成功するのだが妖力は既に風前の灯火であり。望が一瞬でも気を抜けば消失してしまうかのような状況であった。



(どうすれば良いのです! どうすれば!!)


心の中で望が絶叫するなか、突然正面に広がる闇の中から明るくも芯のある女性の声が聴こえてきた。


「オネガイ!! ワタシの手をツカンデ!!」


(……え)


突然目の前に現れた白い腕と様子がおかしくなっていた無気力な要の声とは違い確かな意思を感じるその声に、思わず望は振り返る。


「誰かがナカに入らないと、このトビラがシマラない!! このままだとアナタの大切な人ミンナガ人形にサレテシマウ!!」


その説明を聴き、望は一瞬混乱させられるが。おそらくこのままではこの場にいる全員が衰弱死させられてしまう。ならばこの話を安易に受けてしまった自分が生け贄となり、救援に来てくれるであろうきつ姉達に申し訳ないが皆の事を任せる方が生存率が上がるかもしれない。



その結論に達した望はぎこちなく動く身体で後ろを振り返り、自分を手招きする人物の元へと黒い水の勢いに負けないように踏ん張りながら、少しずつ歩みを進める。



「ガンバって!! アト少しダヨ!!」


妖力は既に切れ掛けており、オイル切れを起こし始めたライターの様に出ては消えてを繰り返し始めている。


白い腕がある距離まで、後4歩程の所で後ろにいる空の声が望の耳にうっすらと聴こえて来る。



「望……さん……。駄目……そっちに行っては……嫌だよ……」


(ごめん。空さん……)


何時もの凛としている空からは想像できないほどに弱々しい声に、思わず振り返り駆け寄りたい衝動に駆られるが、今は必死にそれを抑えて望は黒い濁流に向かって進み続ける。


そして、目の前に力強く伸ばされた白い手に触れるか触れないかまでの所で、望の限界が訪れてしまう。


彼と友人を守っていた炎も遂に消失し。再び濁流が全てを呑み込もうと溢れそうになったところで手探りをしているのか慌ただしく動いていた白い手が、ギリギリの所で力尽きた望を掴み取り、闇の中へと引っ張り始める。



その光景を見ていた空からは弱々しい悲鳴が漏れる。


「やめて……望さんを連れていかないで!」


その声も虚しく、遂には黒い水と供に望の身体は闇の中へと引きずり込まれてしまう。


「そんな……」


絶望する空であったが、白い手の女性が言っていた通り。獲物を捕らえて満足したのか、黒い水が扉の方へと引き潮の様に大半が戻りはじめており。望をさらった白い手の声の主は以外な言葉を空に残していく。



「ワタシもアナタタチとオナジヨウニ、そっちのセカイで暮らしていたんだけど。ソトノモノにフレル事はデキルケド、モドル事がデキナイノ!! でも、神社のカミサマタチならなんとかしてくれるとオモウカラ!! そのヒトタチをヨンデキテください!!! この子はワタシタチが必ずホゴシテオキマスカラ!!」



扉が閉まるギリギリまで、彼女の嘘偽り無い言葉が廊下に響き渡り。思わず空は質問を口にする。


「貴方は一体何者なの?」


その質問の答えは空を驚愕させる。


「ワタシのナマエはウエハラ・マリエ!! 良かったらオボエテイテネ!!」


その言葉を最後にして、第二霊安室の扉は再び閉じられてしまい。再び静寂が戻って来るのだが、望は扉の向こうに拐われたまま帰ってくる事は無かった。




今まで投稿間隔が空いてしまい、しかもストーリーが全然進んでいないと言う訳で、既に考えていたプロットを飯を食べることすら忘れて、急いで文章にする突貫作業を行った結果【中】、【下】と合わせて相当長く、ハチャメチャな内容になっていると思います。


多分、今まで書いてきた中でこの章が最長になる予定となっていますので、落ち着いてしっかりと話を纏めたいと考えていても旨く行かない部分が目につくと思いますが。


また少しづつ上達していければと考えていますのでよろしくお願いいたします。


最後まで読んでくださりありがとうございました!

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