#18 ポジティブ幽霊少女の噂
キャラ設定を埋めるまでは更新しないと考えていましたが、明らかに時間と手間が掛かるので、裏でこつこつと埋めていく事として。一週間近く御待たせしましたが、今回から新しい章へと突入していきます。
色々な可能性を模索しながらの本作ですが。お付き合いしていたたければ嬉しく思います。
望達が暮らす狐乃街とは離れたある街の駅で、入学式を終えて帰路に着こうとしている一人の少女がいた。
「ふえー、雨宿りしてたらこんな時間になっちゃったよー。今日は夕飯担当なんだから急いで帰らないと行けないのにー!」
春先の不安定な天気で急な雨宿りを余儀なくされたぴかぴかの由利原学園の制服に身を包み、宿題や教科書が入った手提げ鞄を手にさげた新一年生の上原真理恵【うえはら まりえ】は、実家に出来るだけ早く帰る為に急ぎ足で駅のホームから駆け足で飛び出していく。
「ああっ!! もう帰りのバスが来ちゃってる!!」
雨のせいでバスが到着する時間に余裕が無かったためと、既にバスが駅前のロータリーに入って来ていたために彼女はより焦ってしまっており。彼女は自らの人生を大きく左右する出来事に遭遇してしまう。
「うわぁぁ!!?」
「えっ――」
ロータリー内のバス停とバス停を通る車道に一目散に飛び込んでしまった彼女は、駅近くの信号を避けるために無理矢理ロータリー内をショートカットしようとしてきた若い兄さんが乗る原付バイクに撥ね飛ばされ、空中を2秒ほど浮遊した後、運悪く後頭部をアスファルトに叩きつける様に落下してしまう。
「あいたたた……。飛び出してごめんなさい、怪我は無いですか? あれ?」
彼女は自らの目を疑った、何故なら自らが頭から血を流して道路に倒れている姿を自分自身で見ており。しかも――
「うわあー!! 大丈夫かお姉ちゃん!? しっかりしろよ直ぐに救急車呼ぶからな!?」
「あっ、大丈夫ですよお兄さーん。私この通りピンピンしてますからー」
「ちくしょう!! 意識が戻らねぇ、どうすりゃいいんだ!!」
「……あれれ?」
やがて集まる野次馬の中で、皆に聴こえるように声を張り上げてみるが、全く誰も見向きをしない。
彼女は今自らに起こっている現象を客観的に理解する。
「声をかけても誰にも相手にされなくて、倒れた私自身が目の前にいる……。もしかして私……幽霊になっちゃった?」
だが、彼女は自らに起こっている不運を余り気に病まなかった。
「あははは、まあなんとかなるよね?」
彼女は底無しのポジティブであったから。
ーー【眠り姫の幽霊少女編】ーー
時は彼女が事故に会い、数日がたったある日の1年生の教室に移る。4時限目の昼休み前と言う事もあって、教室内にはちらほらと集中力が切れた生徒達のお腹がなる音が響くなか。カツカツとチョークで黒板に文字が刻まれる音が響く。
そして依りにもよって4時限目と言う極限状態の生徒達に晴れて今年から先生となった、日本人形の様な可愛らしい少女に見える清姫から語られる【家庭科】の授業内容はと言うと……。
「で、あるわけだから。広島焼きは関西で作られるお好み焼きと素材が少し違うだけで、名称は同じお好み焼きなの。だから、広島の人が作ってくれるお好み焼きを広島焼きだなんて言ってしまうと、仁義なきお好み焼き論争が始まってしまうので。皆さんも地域で作られる料理に口を出す場合は良く話の裏側を調べてから話す事をおすすめ致しますね」
そんな完全に腹減りを促進する様な嫌がらせに近い内容であり。多くの生徒達は、砂漠の中で水を求める放浪者の様に悲鳴をあげさせられる事となる。
そんな地獄絵図の終わりを知らせる様に学園のチャイムが鳴り響く。
「あら? もうこんな時間だったのですね。では日直さん、号令をかけてくださるかしら?」
「は……はい……。起立、きよつけ、礼……」
その言葉を弱々しく言い残し、日直を担当した生徒は力尽きてしまい側にいた多くの生徒達も礼をしてから、暫くは朦朧としていた。
そんな生徒達の様子をだらしがないな、と内心で思いながら。清姫は教台の上に置いていたソースと鰹節がタップリ乗ったお好み焼きの残りを箸で口に運びながら教室を立ち去る。
(昼時前とは言え、あれだけ集中力を無くして仕舞うのであれば。私がどれだけ教えるのが旨いとは言え意味がありませんわ……。何とかしないと……)
そんな自らがソースの匂いを教室に充満させて生徒達にトドメを討った事など考えもせずに廊下を歩いている清姫の目の前に、隣の教室から出てきた望達が目に留まる。
「うーん……望お兄ちゃんさっきの授業の後半部分解った? 私途中から解らなくなって、お昼ご飯を何にするかしか考えられなくなっちゃったよ……」
「あはは! あの時間帯はどうしてもぼーっとしてしまうもんね。大丈夫、ちゃんと僕が内容を覚えているから、今晩にでもまた話会おう秋葉?」
「うん! やっぱりお兄ちゃんは頼りになるね!!」
「あっ、秋葉……。一応、今は佐々木のぞみとしてここにいるんだから、余りお兄ちゃん呼びはみんなといる時だけにして欲しいのですよ……」
そんな仲の良い二人の会話を聴きながら、清姫は愛しい小学生の女の子の姿でありながら立派な望の姿を見て。思わず色々な感情が沸き上がるのを抑えきれず、思わず声をかけてしまう。
「流石ですね望様。他のだらしない生徒達とは違い、しっかりと学生としての役割をこなしておられる。素敵です……」
「きっ、清姫先生? とんでも無いのです、先生こそ毎日の授業お疲れ様なのです!」
「まあ、御謙遜なさって。ふふふ、所でどうですか? この後お昼ご飯でも?」
目を煌めかせて食いつくように訪ねてくる清姫に望は苦笑いを浮かべつつ答える。
「実は、今日は学校の屋上で皆でお弁当を持ち寄って食べよう、って話をしていて。良かったら、先生も持ち寄って食べませんか?」
その回答は彼女の中では予想外だったのか、まるで頭にタライを受けたかの様な表情で驚きを隠せていない清姫は一歩後退り、泣き笑いを浮かべる。
「そうでしたか……。友人の皆様と親睦を深めるのも、旦那様の勤めですものね……。解りました望様、また良い時が来たときに愛を語り合いましょう。その時まで……」
「ゑ? それってどういう意味なのです?」
「ふふっ、ここでは恥ずかしくて言えません。望様との秘・密・です!!」
そう言って照れ臭そうに去っていく清姫の背中を見送りながら、自分が知らないうちに話が進んでいる事を感じて嫌な予感を感じずにはいられず。少し身震いをする望に秋葉は心配そうに話し掛ける。
「望お兄ちゃん……清姫先生と愛を語り合うほどに仲良かったっけ?」
「ううん……この前軽く挨拶して以来で、今日話すのが2回目なのです……」
「え……それだけであんなに濃厚なアプローチを受けていたの?! 会話の内容だけだと恋人みたいだったよ?」
まるで、恋愛漫画を6、7巻ぐらい飛ばして読んだかのような清姫の接し方の変化振りに戸惑いを隠せない二人であったが、一先ず友人達が集まっているであろう屋上の広場へと向かう事にする。
◇
「ふーう……屋上は風が気持ちいいのです! 空お姉ちゃん達はもう来てるかな?」
階段を昇り、屋上への出入口を抜けて屋内から外に出たために射し込んだ強い陽射しに目を一瞬細めつつ、望と秋葉は基本的には生徒達に自由解放されている屋上へと初めて降り立つ。
周囲には既に屋上に完備されている木製のテーブルや、ベンチだけでなく。持参したビニールシートの上で由利原学園の生徒達が思い思いの形で仲良く昼食を取っており。
その中には最大で6人が座る事が出来る対面式のテーブルに座り、二人を待ちわびていた空、飛鳥、風香、要達の姿があった。
「主殿、こちらです!!!」
「おーい!! こっちだぞ秋葉ー!! のぞみー!!」
「お待たせ、みんな!!」
「大丈夫、私たちが少し早かっただけだよ。望さん、良かったら隣に……」
「ありがとうなのです、空お姉ちゃん! それじゃあお邪魔させて貰うのです!」
そんな仲良しの様で、実はラブラブな二人のやり取りを正面からジト目で見ていた狐フード少女の風香は、ペットボトルのお茶を両手で支えて一口飲んでから二人を弄りだす。
「望さん……にやけすぎて顔が……面白い事になっていますね……。写メを撮ってネットにあげて良いですか?」
「やっ、辞めて欲しいのです風香ちゃん!! 学園内でそんなの知れたら、チェーンメールでどんどん知れ渡ってしまうのですよ!!」
「大丈夫ですよ……望さん。知名度と言う点では……五重の塔で愛を叫んだ前例が……ありますので……。御二人の熱々具合は……皆が知っている話です……」
その懐かしくも恥ずかしいなりそめ話を良い笑顔で語りかけられ、思わず空が顔を赤らめてむせ帰り、望が「はにゃー!?」と奇声をあげて立ち上がる中。
笑いを堪える様に手を口に当てて、涙目になっている飛鳥が更なるネタを取り出す。
「だいたい、入学式の集会で……ふふっ、あんた大失態を噛ましてたじゃないか? くくく……」
「あーあー聴こえないのですー。それは言わない方がきっと良い話なのですー」
「あれは……ねえ……」
どんな話でも明るく聴いてくれる秋葉でさえ苦笑いせざるを得なかった望が入学式初日にしでかした大失態を、飛鳥はしみじみと語りだす。
「あれは、まだクラスが決まったばかりで皆が初々しく緊張している、入学式の全校集会だったなーー」
「何語り出そうとしているのですか?! ちょっとまっーー」
◇
入学式初日の由利原学園の体育館には新入生とその両親や、きつ姉を含む様々な学園関係の偉い人達が正装姿で勢揃いしており。学園の体育館には生徒達の期待感と緊張感が入り交じった、独特の空気が漂っていた。
入学式のプログラムは国歌と校歌の斉唱が終わり、関係者の人達が一人一人立ち上がり祝辞を述べ終わった後、学園長へと出世した猫又先生の生徒達を励ます話が終わり空気が和やかになった所で、何故か教頭を努める東右教頭が壇上に上がって神妙な顔で語りだす。
『えー……皆さんわかっているとは思いますが、我が由利原学園において同姓同士の不純異性行為は認められておりません。もし違反した場合、最初は大目に見ますが最悪の場合退学処分とします!!』
「えぇぇー!!? それじゃあ空お姉ちゃんと一緒にいれないので……あれ? 何で皆私を見て……はにゃっ!?」
つい動揺して声をあげてしまった望に、360°からの生徒達からの不審者を見るような視線が注がれ。望自身も自らが失態を犯したことを認識し、顔を真っ赤にして縮こまってしまい。
その様子を見ていたきつ姉は苦笑いを浮かべ、壇上で説明していた東右教頭は溜め息をついた後、明らかに望を見詰めたまま話を締めた。
「……他にも重要な学園内でのルールは有りますが、全ては生徒の皆さんに健全で実りある学園生活を送って頂くためですから。しっかりと、心に留めておいてください」
その言葉の後に、生徒達が各クラス分けされた教室へと入っていく訳なのだが。望と空がそれぞれ質問攻めされたのは言うまでも無い。
◇
「ううう……あの時は迷惑をかけて本当にごめんなさいなのです、空お姉ちゃん……」
「気に病まないでください望さん。もう一週間近く前の話ですし、私の事を……その、大切にしてくれている事が伝わって来て嬉しかったです……」
「あぅ……それはそうなのですけど……」
そんな頬を赤く染めて、塩らしくなる空に思わず一緒に照れるバカップルに学園内にある自動販売機で買った紙パックタイプのストローに付いているビニールの先端部分の袋をちぎり出来た口に、飛鳥が息を吹き入れて望にビニールを吹き矢の様に飛ばす。
「にゃあ?! 何をするのですか飛鳥ちゃん?!」
「うるせぇ!! このままのろけられても困るから次の話題に行くぞ!! 何か面白い話を知っている人!!」
その強引な話の摩り替えに、積極的に手をあげたのは望の照れ顔をアップし終わった風香であった。
「はい……面白い話と言うより……私が気になっている話があります……」
「おっ、いいねぇ。話して見てくれよ」
飛鳥の了承を得た風香はこくりと頷いてからまず、本当に気になっている事から話し始める。
「取り合えず……お弁当を食べながらでも良いですか? お腹がずっと鳴っていますので……」
「「「「「あ……」」」」」
少し恥ずかしげに告げた風香の意見で、集まりあった元々の目的を思い出した望達は、慌ててそれぞれが持ち寄った弁当を取り出して食べ始める。
「うーん! 青空の下で皆と食べるお弁当はまた格別なのです!」
「私は熱くて……溶けそうですけどね……」
「風香はどちらかと言うと屋内で働くタイプだもんね?」
「その通りだね……お姉ちゃん……。外は地獄だよ……」
そんな狐姉妹のやり取りを一同が微笑ましく聴きつつ。ある程度食事を食べ終えた所で、改めて飛鳥が風香に語りかける。
「それで、話の続きは何だったんだい風香?」
「うん……実はね、一年生の女の子で……帰り道の駅前で……バイクに跳ねられて……未だに意識不明で入院している子がいるみたいなんだ……」
「あっ、私もその方を知っています!! 学園内で迷子になっていた私を凄く親切に助けてくださった、穏やかで優しいお方でしたが……。まさか、そんな事に巻き込まれていただなんて……」
風香が語り、要が捕捉してくれたその話を真剣な表情で聴いていた望は何かを決意したように小さく頷き。情報提供者である風香に質問する。
「風香ちゃん。その人が事故に遭った駅名は解るかな?」
「はい……新聞の片隅に書いていたと……思いますが……。望さん……もしかして?」
「うん、何か僕にも出来る事があるかもしれないと思って」
その照れ臭そうでありながら、力強い望の姿にこの場にいる誰よりも彼女の事を心配していた要はヒーローを見るかの様に目を輝かせる。
「主殿! どうか私も連れて行っては頂け無いでしょうか? もし主殿を襲う輩が現れた場合、私が助け手になりますので!!!」
「わ、解ったのです要ちゃん。一緒に助けに行こうね。それと……」
そう言って、優しく要を率いれつつ。ぎこちなく空へと視線を向ける望を待っていたかの様に、視線が遭った空は微笑みを浮かべながら頷く。
「私も大丈夫ですよ、望さん。最近は夏魅さんにも鍛えて頂いているから、きっと力になれると思う」
「ありがとうなのです空お姉ちゃん。それじゃあ風香ちゃん、明日の朝から案内を御願いしても良いかな?」
「空お姉さんとの……扱いの差が気になりますが……解りました……。私も同行しますね……」
そのちょっと刺のある風香の返しに慌てて望が謝罪する。
「あっ、いや! ごめんなのです風香ちゃん、別に風香ちゃんを軽視した訳ではなくて!」
「ふふふ……知っていますよ……望さん。家族として……気軽にお願いしてくれたんですよね? ちょっと……からかっただけです……」
「もっ、もう! 風香はいたずらっ子何だから……。それじゃあ、3人共明日の日曜日よろしくお願いするのです!!」
そう言って、珍しく微笑む風香を見て望がホッとしてから改めて賛同してくれた3人に望が感謝しつつ。悲惨な事故に遭った少女、上原真理恵を助ける為に四人のお節介達が立ち上がる事になり。
この事が事故に遭った彼女の状況を一変させる事になる。
何時も読んでくださりありがとうございます。今回、急ぎ足で新章に突入した訳なのですが。暫くは急いで話を投稿するのではなく、しっかりと話を整えてから投稿させて頂ければと考えています。
何故なのかと言うと、最近の話を読んでくださっている皆さんは気づかれていると思いますが。かなり焦って話を書いているために、勢いだけで話の内容が本筋と噛み合っていなかったり(清姫の下りや、中途半端な狸族達との絡み等) 。
テンポを気にする余りに、色々と話の流れを速めてしまったりしているので。暫くは過去の話の再編集をしつつ、プロット作製に精を出したいと思います。
また、私自身見逃している問題が山盛りの状況であると思いますし作品にとっても、私にとっても今は制作者としてのターニングポイントだと感じていますので。気になる点等がありましたら、お気軽に感想に御書きください。




