#16 初めての混浴体験【上】
喜怒哀楽が作中で一番乱れる話となりました。
※ラストシーンの台詞とタイトルを変更致しました。
・一部の文章を追加しました(5/24)
・風華→風香
長きに渡る激戦が終わりをつげ、由利原学園を脅かしていた脅威と、被害を受けた様々な施設や木々の交換等が狐族に限らず狸族との連携により滞りなく行われ。
学園内においても緊急集会として生徒達が体育館に集められ、今回の騒動は大蛇族による襲撃である事を学園長から説明されると言う、望達狐族や、狸族等の様々な人間以外の種族が共存している事が認知されている日本でなければ「駄目だこの国……何とかしないと……」と言われるような話が説明されるが、その話を生徒達は苦もなく受け入れてそれぞれが暮らす寮へと帰って行った。
気づけば時刻は夜の7時23分を回っており、和解した狐族と狸族の殆どはそれぞれの故郷へと帰路に着いたのだが、一部の者達の中には由利原学園で一泊する事にした者達もおり。
その中には望達も含まれていて、まず望達は度重なる激戦と後片付けにより汚れ、疲れきった身体と心を共に癒すため、学園内に設けられている温泉に入ろうと言う話になったのであるが。それは女子として由利原学園に性転換をしてまで潜入している望にとって、同じ年頃の女子と混浴をすると言う意味でもあり。
身体は狐の美少女だが中身は少年ハートな望は「ぼ、僕は最後に入るからお気にせずなのですー」と冷や汗まみれの作り笑いを浮かべて、慌てて中学生以来の混浴を何とか回避しようとするが。
空から、【基本的に由利原学園ではお風呂に入る時間が学年事に定められていて、特別な理由では無い限り、個人的な理由では決められた時間外にはお風呂に入る事が出来ない】と言う事を伝えられて思わず硬直し、結局ガチガチに緊張した様子で皆と共に温泉施設があると言う山の方へと向かっていく事となる。
「ここが何時も私達が利用させてもらっている温泉施設だよ」
「わー! 狐乃街にも温泉があるけど、この温泉は有名旅館みたいなのです!」
温泉が湧き出て来たと言う理由で、5階建てビル程の標高の山に建設された純和風の温泉施設内の売店で、本来であれば日帰りの予定であった望達は女物の着替え選びを行うと言う流れになり。
望は男の子なのに女性の下着売場にいると言う羞恥心に苛まれつつ、出来るだけ地味な下着を選ぼうと制服をボロボロにしてしまったために貸し出して貰った赤ジャージ姿も合間って、全身を真っ赤にさせながら見ていた。
「はう……まさかこの歳になって秋葉達と一緒にお風呂に入る事になるだなんて……。うーん、これはちょっと派手すぎなのです、これは……うーん」
そんな悩み初めて既に6分近く悩んでいる望の力になるために、既に会計を終えて着替えの詰め合わせが入った大きめのビニール袋をそれぞれ片手にぶら下げた、空と秋葉が側に左右から寄り添う。
「望お兄ちゃん!! 下着、選び終わった?」
「何か解らない事があったら遠慮無く言ってね、望さん?」
「はわわ! もう少し待って欲しいのです!! なるべく男物に近いけど女の子らしさもある着替えを探しているのですが中々無くて……」
「なるほど……じゃあこれなんてどうかな?」
その注文を受けて、空は手早く3枚程の下着を手にとってみせる。
先ずは身体にぴったりとつくスポーツブラ、ボクサーブリーフの様なボーイズレッグ、ノースリーブのカーテンの様なひらひらのスリップの三点を目をキラキラさせて空が選んでくれた。
「私的には最後のスリップタイプの下着が……ごほんごほん……すいません、気に入る物はありましたか望さん?」
「……えーと、じゃあこの黒のボーイズレッグ」
「……はい」
望が男性ものを選んで明らかにしょんぼりした空のリアクションを見て、望は慌ててひらひらのスリップも手に取る。
「そそそれと、折角空お姉ちゃんが選んで貰ったので! 白のスリップも買わせて頂きます!」
「ありがとう望さん、大好きです!!」
満面の笑みで抱き締められ、頬をすりすりされつつ。そんな解りやすい空のリアクションに望が苦笑いを浮かべつつ。
(嬉しいけど、出来れば空さんの趣味以外のポイントで大好きと言われたかったのです……。でも、空さんに喜んで貰えるなら良いか)
と無理矢理納得した所で、遂に望はこれから三年間御世話になるであろう混浴と言うなの煩悩地獄へと足を踏み入れる事となる。
赤いカーペットが敷かれた廊下はさながら魔王の城であり、【ゆ】と大文字で書かれた赤いのれんを潜り、木製の引き戸を開けると其処には10代から30代からなる、望が良く知っている狐族の女性達と数は少ないが狸族の女性達が着替えている脱衣場の風景が広がっていた。
「千代ちゃんまた大きくなったねー。この前よりドングリ一個分ぐらい大きくなってるよー」
「ええー。小春ちゃんそれって本当に大きくなった?」
「なるほど……狸族は……衣服を木葉で……作製するのですね……」
「そうなのです、風香さん! 妖力の波長さえ解れば、狐族の皆さんも扱えると思いますよ!!」
そんな、狐族の見知った顔が殆どの桃源郷ではあるのだが。勿論、お風呂に一緒に入った事が有ったとはいえ中学生の以来であり。望は気まずさで潰れてしまいそうになりながら、脱衣場でのスニーキングミッションに挑む事となる。
(はわわわわわわ!!! 気付かれませんように、気付かれませんように!!!)
必死に気配を消し、着用していた赤ジャージをそそくさと脱いで四角く区切られたロッカーの中に置かれた籠に服を静かに納めて行き。身体にタオルを巻いてお風呂に入る準備が完了する。
(よしよし!! ここまでは完璧なのです!!! 後は身体を洗って、ささっと湯船で暖まってーー)
そこまで脳内シュミレーションを進めていた所で、突然望の左耳ににやにや顔の飛鳥が息を吹き掛けた為に悶絶させられる事になる。
「ふにゃぁぁぁ?!! ななな何をするのですか?!」
「あははは!! 顔真っ赤かになってんじゃねーか!! あはははは!!」
「笑い事じゃないのです飛鳥さん!! こんなに騒いだら皆が気付いて!!! 気付いて……」
腹を抱えて、涙を流しながら爆笑している飛鳥から、ふと目線を外して辺りを見渡して見ると。事情を知っている狐族の少女達は微笑んでおり。望がビビっている理由を知らない狸族達からは、うるさい子供だなと言わんばかりにきつい視線が向けられていた。
その光景を見て、顔を真っ青にしガタガタと震える望であるのだが、飛鳥は気にせずに笑みを浮かべながら肩に手を回して声をかける。
「なっ? あんたが考えているよりも、対した事無かっただろ? 見た目は完全に女の子何だし、やましい思いが無いならそこまで気にするなよ?」
「それは……そうですけど……」
「そうですよ、望さん。私も望さんの事を家族の様に見ていますから、望さんも気にしないでください」
「飛鳥さん、空さんありがとうなのーー」
少し心が落ち着いて来て、冷静になってきた望は同じく声を掛けてくれた空に視線を送るとそこには白いタオル一枚の姿の露な姿となり、頬を赤らめた空が目に一杯に飛び込んで来て、その結果望の頭はフリーズしてしまい。真顔で鼻血を滴ながら一言呟く事しか出来なかった。
「……空さん、綺麗。女神様みたいなのです……うっ」
「望さん? 望さんしっかり!!」
佐々木望、青年になってからの初めての混浴体験で、友人と大勢の狐族の幼馴染みに囲まれながら気絶ス。
◇
「う……うーん。眠ってしまったのです……?」
僕が目を覚ましたのは、温泉の脱衣場では無く。ホテルの一室の様なふかふかのクリーム色のシングルベットの上であり、体力が落ちている為か小学生の状態になっている身体には空さんに選んで貰った白のスリップを下着にし、旅館の着物タイプの寝巻きが着せられていた。
隣には同じタイプのシングルベットに挟まれた、照明ランプが載せられたデジタル時計とアラームが備わった良くある小さな机があり。
時刻はお風呂に入る前が7時45分だったのに、既に9時を回っていて。慌てて僕が周りを見渡して見ても誰もおらず。また皆に迷惑かけてしまったんだなと、思わず溜め息が出そうになった所で。部屋の出入口がある廊下の方から鼻唄と、料理をしている軽快な音が聴こえて来た。
「空お姉ちゃんかな?」
僕がリラックス出きる様に少し緩めに閉められていた寝巻きの帯を締めて、ベットの横に置かれていたスリッパに足を通して、床に敷かれている絨毯のフワフワ感も楽しみつつ。
ゆっくりと廊下を歩いて行き、数ある扉の中で鼻唄が聴こえて来る白色で金色の装飾が施された扉をノックする。
「すいませんー。誰かおられますか?」
「はーい☆ ちょっと待ってねー!」
僕はドアをノックした事を弱冠後悔させられる事になる。
何故なら、扉を開けて現れたのは空さんでも秋葉でもなく、何故か裸エプロンにふんどし姿でフルメイクの丸太使いのガチムチニューハーフな狸族。絹山健さんが洗剤のCMばりの爽やか笑顔で出迎えられると言う衝撃的な光景に出くわしてしまい……。
「ごめんなさい! 間違えました!!」
「オウゥチッ!!!」
突然のサプライズに驚きの余り僕は開いた扉を勢い良く締めてしまい、扉の内側から出迎えてくれようとしたフルメイクのニューハーフの悲鳴を聴きながら。寝惚けた頭の中でもしかしたら甘い展開が来るのかと少しでも期待してしまった数秒前の馬鹿な自分を叱りつつ。
脳裏に浮かんだこのままでは自分が食べられてしまうと言う鍛えらた動物の本納で危険を感じた僕は慌てて廊下に飛び出して逃げ出すのだけど。
「待ちなさぁぁい!!! 相手に怪我をさせておきながら逃げるだなんて、私が許さないわぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁ??! 野獣みたいに4足歩行で追い掛けて来たのですぅぅ!?」
彼に捕まったら、きっと山姥に捕まった人の様に八つ裂きにされて料理の材料にされてしまうのです……!!
生命の危機を感じた僕は能力を解放して一気に逃げ切ろうとしたのですけど。今日一日で妖力を使いきってしまったのか力が全く沸いてこず、走り続ける事すら難しくなってきた僕が絶望を感じていた所に止めを打つかの様に、角を曲がった道が行き止まりで身動きが取れなくなってしまい。
そこに野獣と化した健さんが息を切らせながら走り込んで来た為に逃げ場が無くなってしまい。ガタガタと震える僕にゆっくりと汗でメイクがドロドロになって、よりモンスターと化した健お兄さんがにじりよると言うえ、ホラー展開に私はへたり込んでしまう。
「ぜぇぜぇ……まったく、やんちゃしてくれたわね、のぞむちゃん……?」
「ごごごごめんなさいなのです!! たたた健お兄さん!!」
「悪いと思ったのなら、何故あんな事をしたのぉ?」
「……それは兄上が気合を入れすぎていたためです」
健さんの背後に走り込み、代わりに僕の気持ちをソフトに表現してくれたのは健さんの妹さんであり。何故か健さんと同じく裸エプロンにふんどし姿と言う、格好良い系の美少女で常識がある様で何かがずれている要ちゃんであり。
彼女の登場に思わず健さんが振り向くものだから、綺麗なお尻を見せられて色々と噴き出しそうになりながら、二人の会話を見守る事にする。
「それはどういう意味かしら、要? 私達は空さん達が買い出しに行っているうちに、のぞむちゃんの看護と簡単な料理造りを頼まれていて。起きてきたのぞむちゃんを出迎えた所を一緒に手伝っていた貴方も見ていたでしょう?」
彼等が料理をしていた経緯を聴いて、少し状況を理解した所で私を庇ってくれた要ちゃんの解答に期待をよせる。
「確かに……ですが都会に住まわれておられる方達のお目覚めの挨拶をする時は確か……その……」
あれ? なんでもじもじして顔を赤らめながら傍に寄るのですか、要ちゃん?
「こう……接吻するのだと聞きました……んっ」
「はにゃ……要ちゃん……」
「……少し、子恥ずかしいですね主殿……」
何故か僕の事を主と呼ぶ様になっている要ちゃんが誰に教えて貰ったのかは知りませんが、右頬に優しい口づけをしてくれて。思わず御互いに照れ臭くなって微笑み合ってしまいました。
確かに……目覚めた時に異性の相手にキスして貰えたら、幸せな一日になるかもーー
「なるほどねぇ。じゃ、“私”もやって見ようかしら?」
「え“、あっいや! これは目覚めてから一人の人にやって貰えれば良いので!!!」
「じゃ! 行くわねぇー!!!」
「人の話を聴いてーむむぅぅぅ?!!」
「うぅぅぅぅむぁあっ!!!……うぅん、確かに心がぽかぽかして……あら? のぞむちゃん?」
「主殿?! どうなされました主殿?!」
ああ……また意識が遠退いて……。
「大変! 人工呼吸しないとだわ!!」
「なんでそんな知識だけしっかりしてるのですか?! ぜぇぜぇ……」
「そんなの決まっているじゃない!」
「え? 決まっているって何がなのですか?」
「今回、散々迷惑をかけてしまったから、族長から私か要のどちらかをのぞむちゃんの助手として残る様に言われたのよー。まあ、実力的にも魅力的にもわたーー」
「かなめちゃんが良いのですぅぅぅぅ!!! かなめちゃん以外、考えられないのですぅぅぅぅ!!!」
「あらぁ?!」
こんな状況を毎日繰り返されるなんて耐えられ無いのです、何としても要ちゃんを味方にしないと!
「主殿……私に泣き付く程に慕ってくださっていたのですね……光栄の極みです! さあ、私になんなりとお申し付けください!! 主殿の為ならばこの要、命すらかけて遂行して見せます!!」
「取り合えず、いい加減二人共に服を着てきて欲しいのです!! 二人のそんな姿皆に見られたら大変な事にーー」
「……望さん。裸エプロン姿の要ちゃんに抱きついて何をしてるの?」
「そっ……空お姉ちゃん……!?」
最悪だ! 今回の話を書くにあたって、女性物の下着を調べていたら。漫画の様なタイミングで父親が部屋に入ってきて、声が上擦った作者さんぐらい最悪なシュチュエーションだ!!!
「これは違うのです空お姉ちゃん!! 裸エプロンの健さんに追い込まれて、助けに来てくれた要ちゃんに嬉しくて、思わず抱きついてしまっただけで!!」
「そうなの、要ちゃん?」
嫌に抑揚が無く、冷たい声で要ちゃんに問いただす空お姉ちゃんの声に怯えつつ、要ちゃんが間違った説明をしないようにただ祈る。
「はい! 主殿は兄上に追い回されて、ここまで追い詰められた所で私がお救いし! 癒しの口づけを交わした後……その、私以外考えられないと……熱く抱擁してくださりました」
いゃぁぁぁぁぁ!!! 言って欲しくない部分を的確に纏めて、空お姉ちゃんにぶつけてしまっているのですぅぅぅ!!! しかも何で恋する乙女の様な熱い視線で見詰めているのですか要ちゃん?!
空お姉ちゃんの冷たい視線と合わさって、心が脆くなって簡単に壊れてしまいそうになるなか。顔に影が入った空お姉ちゃんがゆっくりと私の傍まで近寄ったと感じた所で、私はお姉ちゃんにビンタされていました。
「……望さんのバカ!!!」
今起こっている状況を理解出来ずにいる私に空お姉ちゃんが投げ掛けた言葉は震えていて、空お姉ちゃんが涙を流して走り去る姿を、ショックの余り、呆然と見送る事しか出来ませんでした……。




