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#15 戦い終わりて、地、固まる

去年から投稿が開始された【狐の婿入り】を大勢の紳士淑女の皆様が読んでくださった事に心から感謝させて頂きますと同時に、新年が明けた2016年も何卒よろしくお願い致します!!


望達を襲った様々な悪い思惑と戦いは一段落を迎えたのだが。彼等が散々暴れまわったせいであちこちが狐火により燃え続けており、学園中でサイレンが鳴り響いている由利原学園の関係者からすれば、事件解決処か、現在進行形で問題が起きている状況であり。


そんな地獄の様な風景を悪意は無くとも作り出してしまった望達は、命を脅かす存在であった大蛇族と狸族の猛攻から無事に生還を喜べる訳が無く。


一先ず、望達は学園の全体図に似た【囲】と言う漢字の真ん中の四角い空白部分を望達がいる広場とするならば、彼等は右下に当たる体育館や、室内プール等の運動施設が完備されている地点へと避難しており。


遠目にいる望達から見ても、望が放ってしまった狐火が学園内の木々を次々と呑み込みつつあり。


既に学園内の正門付近である左下側は既に全焼していて、中心地である広場にも殆んどに火が回っており。このままだと全体図の左上に当たる、学園生達の生活の中心地となっている学園寮にも火が届いてしまうのが時間の問題である事は望達も解っているのだが。解決策が無かったのである。


「どうしよう……このままだと学園全体に火が回ってしまうのです……!!」

「自分でつけた火なんだから、自分で始末する事は出来ないのかよ望!?」

「それは……」

自らが放った狐火により、大勢の人達が犠牲になる最悪の結末しか思い浮かべる事しか出来ず、焦る望に飛鳥が激を送るのだが。望は悔しげに顔を横に降る。


「私が出来るのは狐火を産み出す事と、肉体強化だけで。狐火をかき消したりする力は無いのです……。あっ、でもきつ姉や、夏魅さんなら何とか出来るかもなのです!!! 秋葉!!」

「まかせて! 夏魅お姉ちゃんに今から電話をかけるから!!」


望の思いを汲み取り、狐乃街稲荷山神社のナンバー3にあたる力を持つ、夏魅へと携帯で電話をかけるのだが……。


【現在、電話に出る事が出来ません。ピーと言う音の後に、メッセージを御伝えください】

「……ダメ。何回かけても夏魅お姉ちゃんが電話に出ないわ」

「そんな……」

「じゃあ、仙狐さんに連絡する事は」

「それは出来ないのです、空さん……。きつ姉は機械が苦手で、何度も録画予約が出来ずに4台程のレコーダーを山から放り投げた程なのです……」

「きつ姉ェ……」


正に万事休すと言った状況の中で突如、広場のまだ火が届いていない場所に眩い光が発生し。光が晴れたその場所には元々存在していたかのように鳥居が出現しており。


勿論、それはただの鳥居ではなく。以前きつ姉が使用していた転送用の鳥居であり、きつ姉から事前に望達の護衛を頼まれていた狐乃街稲荷山神社の狐娘達と、彼女達を指揮する夏魅達を加えた総勢30人近いメンバーが続々と鳥居を潜って、応援に駆け付けに来てくれたのであり。


彼女達は狐火の影響により火の海と化している広場に対して、火が届いていない門の近くを円上に囲う形で、昔話の「三枚のお札」を連想させる様な、空に投げると大雨を降らせる強力な力を持ったお札が次々と投げ入れられ。広場を包んでいた狐火に妖力が込められた大雨が降り注ぐ事により瞬く間に消火されていき。


その英雄の様な活躍を見せられた望達からの歓声が響き渡る中で、秋葉の携帯へと軽快な音楽と共に着信が入り、慌てて秋葉が出る。


「もしもし! 夏魅お姉ちゃん? うん! うん!! 少し離れた場所で見ていたよ、お姉ちゃん達の活躍!! え? うん、解った。 望お兄ちゃん、夏魅お姉ちゃんが変わって欲しいって!」


「解ったのです! もしもし、夏魅さん?」


『話には聞かされてきたけど、まーたド派手に暴れたもんやねー……。並木道の一角と広場を全焼させるとは、まだ成長途中とは言え流石は仙狐の力といった所やね』


「申し訳無いのです夏魅さん……。大体が私の責任なのです……」


『まあ、今回は色々と訳ありやったからしゃあないさ! それよりも、あんた達に何があったのか教えて貰ってええかな?』

「わかりました!」


まず彼女達のリーダーである夏魅は由利原学園で起きた一連の騒動の内容を望達に聞き、細かい被害状況は連れてきた30人近い狐少女達の半分の狐達にお願いして調査させていた。


夏魅は淡々と望が語る由利原学園の被害状況を聴き、そしてその原因を作ってしまった望には人格が幼児化して本能のままに暴れまわった記憶が残っていて。

今は女子高生の姿で制服姿の望は携帯越しに夏魅に対して説明を終え、責任感を感じていた望はその責任故に少し落ち込み。


望の隣に寄り添い、彼の辛い気持ちを感じ取った空はその弱々しくなった望の左手を励ます意味でも優しく握り、心配そうな表情で望を見詰めながら励ましの言葉をかける。


「今回起きた事件は望さんだけの責任じゃなくて、意図的に仕組まれていたものだったのだから、全ての責任を背負いこんで深く思い悩まなくてもいいんですよ? だから、一人で抱え込まないで」

「空さん……ありがとうなのです」


そんな望の事を幼い頃から知っていて、弟の様に思っている夏魅は甘やかす事無く彼が感じている思い肯定こうていする。


『そうやね、今回の事件は入学前で浮かれていた所を大蛇族に目をつけられた部分もあるから。此れからは望自身が今、どの様な立場にあるかをもっと考えられる様にな成長出来ればええんよ? だからそんなにしょげんでええ、落ち込んでも何の特にもならんのやからね』


「ありがとうなのです空さん、夏魅さん。それじゃあケジメを取る意味でも、御手伝いをさせて欲しいのです!」

『それじゃあ広場まで着てもうてもええかな? うちらが持ってきたお札が無ければあの狐火を消すことが出来へんから、二人とも遠慮せずに取りにきい!』

「ありがとうなのです、夏魅お姉ちゃん!! じゃあ、空さんも一緒に!」

「はい、私でよければ」


そう言って広場へと手を繋いだまま駆け出す二人に、ワンテンポ反応が遅れて熱々カップルに置いてきぼりを食らってしまった秋葉と飛鳥は二人して苦笑いを仕合ながら、話し合う。


「置いていかれちゃったね、私達」

「ああ……全く、まるで遊園地に来た無邪気な子供だよ……」

「あはは、そうかもね!! 飛鳥、私達も何か出来る事があるかな?」


「勿論さ秋葉! 今ファルファスに空から偵察を行って貰っているんだけど、どうにも逃げ遅れている生徒や、まだ潜んでいる狸族がかなりいるみたいでさ」

「大変!それじゃあ早く助けに行かないとだね飛鳥!!」

(ああ……秋葉が私の手を……握って……)


そう言って気合が入った秋葉は思わず飛鳥の両手をとって団結を強めるのであるが、秋葉の事が好きな飛鳥は思わず顔をとろけさせ、赤面したまま固まってしまう。


「ちょ、ちょっと飛鳥?! どうしちゃたのよ?!」

「はっ……あ、いや……。じゅる……別に秋葉が天使に見えたとか、思わず手を握って貰えて興奮してしまった訳でもなくてだな!!」

「あはは! なんだ、意外と飛鳥って人見知りだったんだね。じゃあ克服する為にも飛鳥からも手を握って?」

「ああ……時が見える……ぎゃあああぁ??!」


そんな秋葉の事を異性として見えてしまい、優しくされるたびに悶絶している飛鳥の緩みまくっている頭を天辺からラクダがかぶりつき。余りの事に飛鳥は悲鳴をあげる。


「やれやれ……僕が大蛇族に襲われてその後どうなってしまったのかと思えば、火の海から生還してからのラブシーンを営んでおられるとは……。全くもって度しがたいですね、マスター。気に食わないのでツヨシもう少し噛んであげなさい」

『御意』


飛鳥の背後から現れたラクダに乗った顔だけ美少女の美少年は大蛇族に襲われて、石像と化していた召喚魔のパイモンであり。彼は忘れられて放置去れていた寂しさをぶつける様に、ライオンレベルの激しいじゃれつきを飛鳥にぶつける。


「あいたたたた!!! 辞めろ、辞めないか、辞めてくださいお願いしますー!!!」

「もう私達召喚魔を差し置いて、良い思いをしないと誓うかい?」

「誓う! 誓うからパイモン、この噛みつきを辞めさせてくれ!!! なんかよだれが出てきてるし?!」


そんなやり取りをしながら、やがて彼等は救助活動を開始し。危険な状況にあった多くの生徒を救出し、狸族を無力化する上で多大な貢献を果たす事となる。




空と夏魅の励ましで元気を取り戻した望は、今自分が出来る事を行う為に空と力を合わせて消火活動と、修復を行う為に奮闘する狐少女達と共にいた。


「そっちにもまだ狐火が残ってるよ!! 持ってきた水とんのお札全部使ってええから、残り火が残って再出火せんよう、徹底的に消火して二次火災が起こらんように皆注意するんやで?」


「「「わかりました!!」」」


応援に駆け付けてくれた狐少女達は神社で着ている何時もの巫女服姿から、お祭り用の動きやすいはっぴの様な格好であり。

彼女達は妖力が込められて、水では消火する事が出来ない狐火を消すために、日本昔話に出てくる山姥(やまんば)を撃退した【三枚のお札】と同等の能力があるお札を使用しており。

「水の無い場所からこれ程の水とんを……!!」と忍者に言わせる様な、川さえ産み出す事が出来るとんでもない力を秘めたお札を用いて、狐少女達が次々にのぞみが放った狐火を次々と消火して見せる。


その奮闘する可愛らしい彼女達の姿を半分ほど焼けてしまった並木道のあちこちで見掛ける事が出来るがために。

寮に避難していた生徒達も少しづつ火が消えていき、目立った戦闘も行われていないがために。何人かの生徒が外の状況を台風の日に川を見に行く人の様な好奇心旺盛な生徒達が外に出て、その目で見てしまい。そのままクチコミで話が広まった事もあり。


寮からは黄色い歓声と、携帯カメラのフラッシュが窓越しに焚かれて生徒達から喜ばれる中、逆に狐娘達の存在が気に食わない者達もいた。



それは“狐族が影で自分達の都合の良い仕方で日本を牛耳っている”と言う根拠の無い大蛇族に流された話を、元々狐族に対して強い敵愾心(てきがいしん)を彼等が持っていたために、話を信じたと言うよりは自分達の反乱を正当化するための材料としてしまった一部の狸族達であり。


由利原学園に狐族が集まり、暴動を企てていると言う大蛇族から情報を得ていた彼等は、消火活動を行う狐娘達を学園外の木々に囲まれた森から弓による不意討を狙った、ゲリラ的に襲おうとしていたのであるが……。


「……情報通り、見渡す限りに忌々しい狐族達がいるな。よし、弓の準備を……」


待ちに待っていたと言う様子で仲間へと指揮を取っている中年の狸族が指示を出そうとしていた所で、突如背後から偵察に出ていた狸族の若者が彼に声をかける。


「おやっさん……先程、潜行偵察をしていた三名が捕らえられた事と、我々が潜む場所の付近でラクダに乗った少女がいたと言う報告がありまして……」

「お前はこの大事な場面でふざけているのか?! 我々がいる場所はラクダがいるインドでも、サファリパークでもなければ、島根砂丘でも無い!!」


「……おやっさん。もしかして鳥取と島根を読み間違えているのでは?」

「え?……お、お前はこの大事な場面でふざけているのか?! 我々がいる場所はインドでも、ム○ゴロウ王国でもなければ、鳥取砂丘でも無い!!」

(わざわざ言い直しちゃたよ!? 一番ふざけてんのあんたじゃないか!!)


そんなやり取りをしている内に、8人程の先頭グループで行動していた彼等の元に同じく狸族の二人の若い戦士が駆け付ける。


「御待ちください!! 先輩方!!」

「なっ……何奴だ!? 名乗りをあげい!!」

「はっ! 私はカチカチ山から来ました、絹山要(きぬやまかなめ)と申します!」

「そして、私が兄の絹山健(たける)よ☆ よろしくね?」


奇襲を掛けようとしていた狸族の間に割って入って来たのは、かつて望を襲撃した狸族の兄弟であり。望達を襲った時と変わらず新撰組を意識した服装をしている二人の背中には、「誠」の一文字の代わりに「恩」の一文字が刻まれたダンダラ羽織を身に付けており。


望と出会ったときは腰まである黒髪ロングのポニーテールだった少女は、その女性の命とも言えるポニーテールをバッサリと切り落としており。

今の彼女は元々凛々しい顔立ちであった事と、二振りの刀を腰に帯びている現在着ている服装が新撰組の様な男裝である事も合わさって、男らしささえ感じさせるショートヘアーに変わっている。


そして一番問題なのは、かつて望を必殺の丸太を武器に襲いかかった彼女の“凛々しい兄”であった絹山健(きぬやまたける)であり。彼は歪んだ愛情を望に持っていて助けに来た清姫にJr.を蹴り潰されたからかは解らないが、完全に言動がオカマ化した兄であり……。


内股であったり、軽い化粧をしていたりと逆に楽しんでいるんじゃないかと思える程、その姿は馴染んでいた。



そんな彼にその場にいた古風で知られる狸族がドン引きしている中で、妹の要は淡々と伝えるべきことだけ伝えていく。


「今回私達に大蛇族達から告げられた情報は、私達と狸族の共倒れを狙った物だったようで……。各地で我々が暴動を働いた結果、日ノ本じゅうから狸族を危険視する意見が飛び交っており。このまま我々が罪の無い狐族に更に手を出すのであれば、それこそ一族滅亡の切っ掛けと成り得るかと存じます」


その言葉を聴き、狐族を追い出して日ノ本を正す事が本当に出来ると考えていた彼等からは次々に落胆の声が漏れる。

「そんな……我々は間違っていたのか……?」

「各地の同胞達が人間に捕まってまで奮起してくれたと言うのに……!!」


そんな言葉の意味を素直に理解してくれた同胞に対して、または長文を間違えずに言えたからか、ほっと息をつく要に代わる様に兄が結論を述べる。


「ですのでどうか、その刀にかけた手を今は下ろしになって。我等を利用した大蛇族を狐族と協力関係を結んで討伐せよと、族長であられる刑部狸ぎょうぶだぬき様が御触れを出されておりますので、御理解いただけないかしら。ここに、書状がありますのでお渡ししますね?」


刑部狸ぎょうぶだぬき様が!? うっ、確かにこれは刑部狸ぎょうぶだぬき様の文字であり、妖力が籠められた印もつけられている!!」


そう言って手渡された巻物には彼等が述べた事がそのまま墨で書かれていて、狸の手形もつけられており。彼等が納得した様子を見計らい、要が念を押していく。


「申し訳無いのですが、まだこの情報は皆に伝えきれておらず。現在、狐族の方々が広場を中心とした消火活動を行う事により、皆をかき集める囮となってくださっています。ですのでどうか、ここに集まって居られる皆様に情報を伝達する上での協力をお願いしたいのです! お願い致します!!」


そう言いきってから頭を下げる二人の姿を不思議に思った周辺の仲間達も集まり始め。総勢20名の狸族が集まる事となり。皆、族長命令という事もあり同意し。次々に合計10枚の書状を抱えて各地に散っていった。



かくして、その書状が各地に潜んでいた狸族に行き渡り。三週間近く狐族を苦しめていた狸族の戦闘行為は遂に中断されて、武器を納めた彼等は書状に記されていた集合地点である由利原学園外の小山へと移動していき。

そこには今回狐族を襲撃する為に集まりあった100匹近い狸族が続々と集められていた。


そこにはかつては神様を奉っていたであろう屋根が崩れ、こけも生えまくっている寂れた(やしろ)があり、其処には空港にある金属探知機の様な人一人通れるほどの鳥居が狐族と猫族達により沢山設営されており。


その場に集まり、今まで好き放題に暴れまわっていた狸族達からすればまるで首を落とす断頭台に見えている者もおり、身体を震わせていた。


「俺達どうなっちまうんだ……?」

「何と言う事だ……。我々は狐族を追い詰めていると思わされていたが、でも本当は魚の追い込み漁の様にこの場所に誘い込まれ。今、一網打尽にされている……」

「僕……お母さんがいる家に帰りたいよ……うっ……ううっ」


それぞれが自分の気持ちを吐露仕合い、様々な感情が渦巻くこの場に一人の狐少女が言葉を投げ掛ける。

「大丈夫……。貴方達には……私達狐族と和解してから……故郷に、帰って貰います……」

「え?」


三角座りで一人ガタガタと震えながら故郷を思う少年に、先程までは居なかった筈の小学生程の小さな狐娘がしゃがみ込みながら優しく声をかける。


「本当……? 本当にお家に帰れるの?」

「ん。もう私達が……戦う理由は……無くなったから……」


そう言って優しく少年の頭を微笑みながら撫でる彼女は、幼少期に受けた薬物の影響で受けた言語障害の溜めに、言葉の間に間を置いて話す様になってしまった秋葉の妹である風香であり。

彼女は望が美少女になってから神社の一室で出会った時と同じ格好(※#05参照)で、遠くを見詰めるように佇んでいる。


その風香の言葉を裏付けるかの様に、設置された鳥居の間に張られた水面の様に揺れる空間から次々に狐族達と日本各地から集められた神主達が現れ。


そしてその最後を飾る様に、各地の狸族の村長達も鳥居を通って現れたものだから、狐族と戦う様に鼓舞された狸族達からは驚愕の声が漏れだす。


その光景はつまり、狐族と狸族が和解している事を示す物であり。最悪の方向で考えれば、狸族が狐族に屈したと言う状況でもあった。


その内で狐族の代表を勤めている仙狐の狐姉と狸族の族長を勤めているよぼよぼのお爺ちゃんであり、腰も曲がり木製の杖を突き、頭は剥げていて白い髭は膝元まで伸ばしている老貍がきつ姉の隣に並ぶ形で現れる。


刑部狸ぎょうぶだぬき様……」

「族長様……」


様々な呼ばれかたで狸族達から称えられているこの老貍は、『松山騒動八百八狸物語』に登場する刑部狸ぎょうぶだぬきと呼ばれるその狸であり。

彼は808匹の狸を産んだお父さんとして狸族を総帥として皆を纏めあげ、松山城を守護し続けていたという化け狸であり、四国最高の神通力を持っていたともいう名実ともに最高の狸族であり。


200年立った現代に置いてもその力を振るい、狸族を導く彼等にとっては神に近い圧倒的な存在であった。


「息子達よ、今回の騒動はワシによる意思ではなく。現在の状況に不満を感じていた我々狸族の心に隙を見いだし、目をつけた大蛇族の根暗共により作り出された糞造劇じゃ!!! 確かにワシも狐族の若いおなごと、人間のおなごが五重の塔でイチャイチャする記事を見て御前達を産んだ時のような熱い気持ちが沸き上がったものよ!!! 御前もそうじゃろう、狐の?」


「少し話の意味を汲み取る事が出来ませんね、刑部狸ぎょうぶだぬき様……。」


最初は威厳を持っていたのに、後半からゲス顔で狸族の反乱理由を話し出した刑部狸ぎょうぶだぬきに、ゴミは見たくないと言わんばかりに直立不動の姿勢で、濁った目をしたまま正面を見続けている。


「なんじゃい連れないの~う……。おっ、そうか!! ワシがよぼよぼの姿だから情欲が沸かんのじゃな?! よーし、変化じゃ……」

「余計な事を言うなと事前に話しあったた筈だぞ……小僧!!!」

「ゑ?」


しかしその考えを否定するかの様に、きつ姉は浮かれる彼の足場を殴り付けて穴を空けて刑部狸ぎょうぶだぬきを穴に埋めてしまい、首から下だけの状態にしてしまう。

「ホゲーー?!!」


勿論、狸族達からは非難が浴びさせられるのだが。彼女にとっては大切な望が狸族に危害を加えられた事や、根性が腐り果てた大蛇族との戦いの末に取り逃した事が元々思ったことにはストレートに動いてしまう彼女は尚更に怒りを増大させた状態となっており。


其処にとどめを打ち込んだのは自分の家族を取りまとめる事もせずに、家でゴロゴロしていた気持ちの悪い狸爺を説得する為に「折角都会に行くのだから、スタ○に行ってみたいの~。でも田舎者のワシだけじゃあ辛いの~。あっ、仙狐ちゃん頼めるかい?」と言うデート注文を受け、怒りで指に力が込められて爪がめりこんで血が出そうになりながらも絶え。


結局、狸族の暴動を納めると言う条件の見返りとして刑部狸ぎょうぶだぬきから受けた数々の理不尽なパワハラに、必死に我慢し笑顔を作って頑張って耐えていた事もあり。

狐族と何よりも望を助ける為に奮闘していたきつ姉を散々利用し、自ら進んで解決すべき問題を放り投げていた刑部狸ぎょうぶだぬきに対して彼女の怒りがとうとう噴火してしまい、きつ姉の濁っていた目にも怒りにより生気が戻る程の感情の炎が吹き荒れる


「貴様ぁ!! 我等が父上様に何と言う事を!!」

「不敬だとは思わないのか!?」

「この恩知らず!」

「とりあえず何か言っとけ!!」


そんな暴言を浴びせる狸族に対して、元はと言えば勢いで後先考えずに狐族に危害を加え、神社を焼き討ちしたり銅像を倒したりするまでは解るが。中には罪の無い人と狐達を勢いだけで襲い掛かり、きつ姉が助けなければ死傷者を出しかねなかった彼等に対しても怒りが沸き始める。


「ほーう……狸族って種族は揃いも揃って自分の都合の良いことしか喋れないようね。良いわ、私があんた達が自らの非を認めるまでとことん付き合ってあげようじゃない!!! この天地すら揺るがす仙狐を恐れぬ者からかかって来なさい!!!」


それこそ山の地形が変わるほどの激しい激闘が始まり、最終的に刑部狸ぎょうぶだぬきを含め、連れて来られた狸族と捕縛された狸族全員が全員恐怖で色んな物を漏らしながら土下座させられ、心から謝らせ続けられると言う結末を迎え。


その一部始終を見させられた各地の神主さん達がドン引きし、猫族代表の猫又が腹を抱えて大爆笑し、きつ姉を停めるために狐少女達が必死になって宥めると言う修羅場が過ぎ去り。


狸族には賠償責任として各地の神社と由利原学園の修復と、改めて狐族と狸族の協力体制を整え直し今回の騒動の黒幕である大蛇族に対抗するための対抗策を練り会う事となる。


やがて転送用の鳥居を用いてそれぞれの帰るべき場所へと帰還していく仲間達を見送りながら、今回彼等の暴走を寸前で阻止する事に成功した二人の狸族の兄弟も静かにその場を去ろうとしていた。


「さて、邪魔物にならない内に私達も帰りましょうか、(かなめ)?」

「そう……ですね……。兄上」


だが彼等は自分達がした事を理解しているが故に、望達と出会う事をせずその場を去る事を選択する。何故ならばそれは、自らの贖罪(しょくざい)をさせずに誰にも許される事がない罪を抱えたまま人生を送る為であり。


彼等兄弟に取ってはそれが望達の人生をメチャメチャにしてしまった自分達の責任の取り方であった。


しかしそれは偶然と言うなの、神様のいたずらによって阻止される。


「あれ……もしかして……」

「あ……」

「あらやだ……」


消火活動に参加しある程度の後片付けを終えて、頭に三角巾を被り黒い灰が所々ついたツナギの清掃服を着た高校生の容姿の望と空に二人は遭遇してしまう。

それは皮肉にもサービスエリアで襲われた時と同じ姿であり。御互いに緊張が走り、重苦しい雰囲気が流れる。


だが、その空気を被ったのは以外にも被害者の望であった。


「……御互いに、色々と大変だったよね」

「……望殿」

「……のぞむちゃん」

彼は、狸族の内情を大蛇族に利用されていた事もあり、何と無く彼等が起こしてしまった事の理由を察していた。


「良かったらこれから皆でお疲れ様会として打ち上げをするんだ。一緒に戦ってくれた二人にも是非来て欲しいのです!!」

「それは……!! とても嬉しい提案なのですが、お受けすることは出来ません!! 私達兄弟は望殿を酷く傷付けた罪人……」

「残念だけど、私達が二週間戦いながら考えた決意なのよのぞむちゃん……。ごめんなさい、そして私達を許さずにいてくれて良いからね……」


そう言って辛そうに鳥居を潜り、帰路に着こうとする二人を引き止めるために狐の耳と4本の尻尾を生やして、全身の毛色を黄みの強い茶色から“白い”毛色へと変化させ。全力を出せる様になった望は彼等の前に回り込み、両手を横に広げて道を塞ぐ。


「二人を憎み続けるだなんて、そんな辛い事出来る訳無いじゃないですか!! 僕だって今回沢山の人に迷惑を掛けました。でも、皆が許してくれたからもう一度頑張りたいと思えて、こうして僕達のために頑張ってくれていた二人と出会う事も出来たのです!!!」

「望殿……うっ、うう……」


「だからこれからも失敗を続けるであろう僕は二人を恨みたいと考えたくもありませんし、資格も無いのです!! 僕が求めているのはただ一つ、二人と和解させて欲しい。ただそれだけなの……です……ううっ……」

「うわぁぁん望どのぉぉぉ!!!」

「カッコつけすぎよ……まったく……」


感情が高まり過ぎた為、涙ぐむ望の姿に思わず本音を隠しきれなくなった二人は望に駆け寄り、罪から解き放たれた喜びから嬉し泣きを浮かべて抱き締めあった。


其処には二週間前まであった偏見や、憎しみはなく。互いに同じ苦しみから解き放たれた友がいた。


(……望さんの優しさは力でもあるんですね)


そんな泣きじゃくる三人の様子を空は笑顔で見詰めつつ、自らの腰に巻かれた木製のカードケースにベルトを通した様なサイドポーチに目をやり、真剣な表情になる。


(非力な私でも、夏魅さんに頂いたお札があれば望さんの力になれるかもしれない……)


実際に多くの狐火を消化し、逃げ遅れていた生徒を救い出す事が出来た経験を積むことが出来た空にも何事も諦めない望の良い影響が出初めていた。


「おまたせなのです空さん! 皆の元に帰ろう!! 今日は御客さんが一杯で忙しくなるのです!!」

「はい、望さん!」


種族間の抗争や様々な困難を乗り越えた少年少女の背中には逞しさが宿っており。

それは、青天で輝く星すら魅劣る輝きを放っていた。



新年一発目という事と学園騒動編のクライマックスが重なると言う、ガンガンに上がったハードルに白目を向くプレッシャーを感じていた訳で、所々話のテンポと重要度を良く考えて書いた話であったため、読んでくださった皆様からすれば所々気になる点があるとは思いますが、時間をかけて回収していきますので御勘弁下さい。


この後の話としては、打ち上げの後に入学式を扱って入学編を閉めたいと思っています。


いつも読んでくださりありがとうございます!!

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