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#14 生死を分ける瞬間(とき)

本当にお待たせしました。仕事が落ち着いた事と、話を無理矢理纏めたので投稿させて頂きます。


※望が秋葉を慰める下りを改編しました。

秋夜の冷たい風が木々を揺らし、赤黄色の色鮮やかな落葉がヒラヒラと舞う人通りが無い並木道を牛ほどの体格で2頭の頭と首を持ち、黒の毛並みを持つオルトロスと呼ばれる召喚魔が30㎞程の速度で地を駆けていた。


その背中には召喚魔の主人である赤ジャージ姿の葛ノ葉飛鳥と林原空の二人の美少女が跨がり、振り落とされないよう必死にしがみつき。

早送りで流れる周りの景色と冷たい風を身に受けながら、大切な友人であり、恋人を助ける為に月明かりが照らす道を突き進んでいた。


何故彼女達が下手をすれば大怪我を追うかも知れない速度で、夜道を急ぎ駆けているのかと言うと。


悪魔召喚師件、退魔師である飛鳥の召喚魔である黒い鳩の様な容姿を持つファルファスが、その両翼に親指程の大きさの穴を数ヵ所空けられたボロボロの状態ながらも何とか飛鳥の元に戻り。

主人である飛鳥に、現在由利原学園に危険人物が侵入していて、尚且つ秋葉達に危害を加えようとしていると言う凶報を知らせた事からであった。



「……いつもなら木にとまったスズメ達が挨拶しあう賑かな時間なのに余りに静かすぎる……。飛鳥、これはやっぱり」

「ああ!! まだ前方に朧気(おぼろげ)な姿でしか見えないけど、大蛇族に襲われたファルファスの情報通り、大きな蛇型の魔物だと解る、間違いなくヤツだ!!」


飛鳥が言うように、二人が騎乗しているオルトロスの上からは丁度、全長12mにもなる奈良の大仏程の大きさで並木道の真ん中でとぐろを巻いている大蛇形態の望の姿が微かに見えてくると共に。恐怖とプレッシャーも合わせて迫って来るのを空は感じ、思わずつばを飲み込む程に緊張していた。


そんな一般人である彼女を気遣って、飛鳥は背中越しに自分に抱き着く形でオルトロスに乗っている空に提案をだす。


「どうする林原!? 今ならまだ安全なこの場所で降りて、事が済むまで待機している事も出来るが……」

「心配してくれてありがとう、飛鳥。きっと素人の私が一緒についていっても足手纏いになるだけだと思う、でも望さんがさっきから私を呼んでいるような感じがするの……」


他人から見れば【恋愛小説の読みすぎで頭がおかしくなったんだな】で終わる話だが、飛鳥は顔を左に向けて背後にいる空の真剣な表情を確認してから質問して突き詰めて行く。


「……それは虫の知らせみたいなものか?」

「自分自身でも変な事を言っていると思う。でも、このままその可能性を見逃せば大切な人を失ってしまう気がしてならないんだ……。それだけの理由じゃあ足りないよね……?」


何時もなら凛として誰にも弱音を見せない空の弱々しい声を聴き、少し解答の間を空けた後、飛鳥は少しはにかみながら空の意思に対して嬉しそうに答える。


「普通なら足りないを通り越して失笑ものの提案だね……。だけどな林原、あんたたちが無茶をして誰かの為に行動した結果、消える筈だった命の灯火が紡がれて来た話を散々聴かされた後だとそれこそが本当の解決の糸口じゃないのかって思えてきたんだよ……へへっ」


「飛鳥……」

現場主義者で、甘い考えを否定しようとしていた飛鳥からのおもわぬ賛同意見に、空も思わず自信が持てず項垂れ気味だった顔をゆっくりと上げて、目を少し輝かせながら飛鳥の背中を見る。


「まあ、そう言う訳だから。林原にもここからは地獄に付き合って貰うぜ!! 今更嫌だと言っても聴かないからな!!」

「ありがとう、飛鳥」


秋葉や、空達の熱い思いは飛鳥の非情になろうとしていた心の扉をこじ開け、彼女本来の不器用だが優しい心を呼び覚まし。改めて意思を通じ合わせる事が出来た二人は一陣の風となり、決戦の場所へと吸い込まれて行った



物語は空達が駆け出した10分程後に進み、誤解が拭える事が出来ずに並木道で対立しあっている二人の望達へと戻る。


青年の望の姿と心を持った者として現れ、秋葉を大蛇族の能力である催眠術により自白剤を飲まされた様に白昼夢を見ている彼女に、見た目は子供中身は幼児なのぞみが青年の行った悪行だけを聴いてしまったが為。


また尚且つ心も欠落し、今は本能で行動しているのぞみにとって“目の前にいる青年は秋葉を苦しめた敵である”と言う結論を導き出したその時点で、彼女にとってはもうそれだけで青年を追い払うには十分な理由であり、彼女は早急な排除行動開始する。


「きつ姉ちゃん、力を借りのです……」


のぞみの掛け声に答えるように、彼女の背で扇の様に展開した4本の尻尾の先端に青い火がロウソクの様に灯り始め、やがて尻尾の先端にテニスボール程の青い火が作成された所で、のぞみは中腰の体勢になりつつ右手で青年に指を指して叫びをあげる。


「狐火、連続発射なのですぅ!!!」

その宣言通り、メジャーリーガーもびっくりする速度で4発の狐火がのぞみの左右からそれぞれ2発づつ青年に向かって放たれる。


「うわぁぁぁ?!! なんて物騒な物を?!」

何とかほふく体勢で自らを焼き付くそうとする狐火を間一髪で回避してみせるが、彼が顔を上げて視線を前に戻すと既にのぞみが次弾の狐火を放つ準備を整えており。思わず青年は悲鳴をあげる。


「まっ、待ってくれ! 私達が戦う意味なんて無いんだ!!」

「秋葉お姉ちゃんを襲った悪いお兄さんと話す事なんて、何も無いのです!! ええーい!!」

「くそ!! 行けぇ!!」


青年への返事とばかりに4発の狐火が再び放たれ、思わず悪態をつく青年であったが、ほふくした体勢のまま懐から左右それぞれから二本のサバイバルナイフを二個の狐火に向かって投げつけて身代わりとして防ぎ。


防ぎきれなかった残りの2発の狐火は何とか横に転がりながら回避してみせ、直ぐに立ち上がり、並木道の木々の中へと姿を眩ませる様に逃走を開始する。


「なっ?! 待つのです!」

最早見向きすらせずに逃走していく青年に焦り、少し遅れながら木々の中に同じく飛び込んで追跡を開始する。


「すまないが、このままだと私はじり貧何でな……。学園内で一番目立ち、尚且つ広い広場に辿り着ければまだ……」



二人の舞台は学園の中心部であり、体育館三つ分程の敷地面積がある学園で一番の広さを誇る広場へと移る。広場の中心部には分事に様々なパターンで水の見せ方を変える大きな円形の噴水が設置されており。


その噴水を円上を囲む様に平らな砂地が広がっており、その道を洋式のランタンの様なオシャレな外灯が広袴を照らしていて。外側はテニスコートのフェンスの様に木々が一メートル感覚で光を遮らない程度に植えられた風景が広がっており。


日中の休み時間や、デッサンの授業で使われたり、体育会系の生徒達がランニングのコースにしていたりするこの場所に、青く消えない火を放つ狐少女から必死に逃れてきたスーツ姿の青年が駆け込んできた。


「はあはあはあ……。何とか狭い並木道から抜けてこれたか……ッウ!!」


目的地につけて思わず安心して足を停めてしまっていた男が身体を伏せたその上を不思議と熱気が無いテニスボール程の青い火球が高速で通過していき、その直線上に有った噴水に直撃してしまう。


「マジ……か……!?」

火球を何とか避けて九死に一生をえた男が思わず火球の後先を振り返り見て絶句させられる。


「噴水が……狐火に呑まれている……」

本来であれば水で消火される筈の青い火は、まるで水では無く油に燃え移ったかのように燃え上がっており。燃え盛るオブジェと化した噴水は辺りに熱風と眩い光を撒き散らしている。


流石に並木道に続いて広場にまで火が広がった事もあってか、学園中にはけたたましいサイレンが鳴り響き始め、学園内の放送を通して学園内の生徒達が屋外に出ない事を促す指示が出されて行くなか。

青年の前にこの灼熱地獄を作り出し、大切な人を傷つけられ復讐心に燃える鋭い目付きの狐美少女がゆっくりと男の前に姿を表した。


彼女の背後には彼女が青い火を撒き散らしている張本人である事を証する様に、扇の様に展開した4本の尻尾の先端に青い火がロウソクの様に灯っており。

今度は狙いを外さないと言う意思をぶつける様に、伏せた状態からゆっくりと動き易い中腰の体勢に移行している男を睨みつけながら、怒りを必死に抑えた声で少女が男に語りかける。



「……やっと観念する気になったのですね」

「……悪いが、観念なんてする気はさらさらない。私が君をここまで誘導したのは、私を庇ってくれた秋葉に君からの危害が及ばない様にするためだ」


その言葉は本来であれば大切な友人である秋葉を襲った男が言うセリフではなく、自らを都合良く美化し始めた様に聴こえる彼の発言で、幼く感情的になり易くなっている狐少女の怒りが沸き上がり、思わず男に食いかかる。


「貴方が秋葉お姉ちゃんを襲った張本人なのに何を言っているのですか!?」

「確かに、私は秋葉に襲い掛かってしまった、それは本当に申し訳無く思っている……。だがそのお陰で変わった事がある」

「……変わったこと?」


本心から彼が反省をしているのを純粋に感じたのぞみは、顔をしかめて表情を曇らせる青年に小首を傾げて聞き返す。

「ああ、私自身に掛けられていた【秋葉の偽物を殺せ】と言う暗示が彼女が本人だと認識出来たことで解かれたんだ。だから今はこうして君と話し合う事が出来ている」


その説明を狐少女は聴いて納得する部分もあったが、彼女が秋葉から聞き出したのは男に襲い掛かられた所までの話であったので、心から信じていいのか悪いのか判断しかねていたが。

少しづつ感情が落ち着き始め、真剣に誤解を解こうとしている男の姿を見せられ感じる印象も徐々に変わり始めて行く。


「つまり、お兄さんは秋葉お姉ちゃんを心から襲いたいと思って行動した訳じゃ無いって事なのですか?」

「そうだ。彼女は“私にとっても大切な家族”だからね」

「家族って、秋葉お姉ちゃんからお兄さんがいるなんて話し、のぞみは初めて聴いたのです! それは事実なのですか?!」


その突然のカミングアウトに、男とは初対面だった狐少女は突然生き別れた兄が突然帰ってきた様な衝撃を受けて混乱する。


そんな狼狽える彼女に火を避ける為に激しく回避行動を取っていた事や、火が掠めて焦げてしまいボロボロになったスーツ姿の男はゆっくりと狐少女に一歩一歩近づいていき。戸惑う少女の目線に合わせる為にかがんで見せ、穏やかに語りかける。


「私は君から取り除かれ、そして利用された心の化身なんだ。今は何を言っているか解らないと思うけど、今から君の身体に本来あるべき心が戻れば必ず理解出来ると思う」

「……え?」


そう言って男は秋葉を洗脳しようとした時のように彼女と目線を合わせて、自らの心を赤外線通信の様に移そうとするのだが、突然彼の身体に鈍い衝撃が襲う。

「カッハッ……!? 何故……が私の身体に……?」

「お兄さん?! 突然どうしたのです……ん?」


突然苦痛に悶えた表情で、自らに身を任せる様に倒れかかって来た男を受け止めたのぞみがふと彼の姿を見ると、激痛に悶えながら胸をおさえて苦しんでおり、それは何故なのかと目を凝らすとそこにあった衝撃的な光景を見て少女は驚愕させられる。


彼が背中から胸にかけて彼の身体を貫く1本の矢を受けていたからだ。


「お兄さん?! 大丈夫なのですか?!早くお医者さんに見てもらわないと!!」

「それ……処じゃないぞ。早く身を隠せる場所に移るんだ……。私を射ぬいた奴等が今度は君を狙っている……!!」

「どういう事なのですか?!」


先程までは広場で燃え盛る火は少女が敵意を薄めた事に連動しているかの様に今は消えており、辺りには外灯の光だけが場を照らしている中で再び、キュン、と言う甲高い音が男の背後から響く。


「私と目線は離さずに伏せてくれ!!」

「ひゃい!!」


動物の本能なのか、青年の叫びに従って身体を伏せた所三本の矢が通り抜けていき、そのまま木に突き刺さった矢を見ずに青年が覆い被さるように二人は見つめあい、情報転送を続ける。


その状況を見て、矢を放った者達がただぼーっと見ているはずもなく、再び矢が弓の弦に添えられ、引き絞られる音を青年は耳に入れつつ。青年は訪れるであろう激痛に耐える為に歯を食い絞りながら、のぞみに自らの心を移し続ける。


「喰らえ狐族め!!」

遠くから聴こえた同い年程の青年の怒声と共に、青年の胸めがけて矢が放たれたのと同時にのぞみは青年が笑みを浮かべたのを見る。


「“私”……状況に飲まれるなよ」


その言葉を最後にのぞみにおぶさっていた状態から青年は素早くバックステップし、のぞみに矢が当たらないように距離を取り。背中に矢を受けた。


「ぐっ、あっ……」

彼は背中から血も出さず、胸を抑えながら膝を地につける。その身体からは水の中で酸素が水面へと昇っていく様に、光の粒が空へと消えて行き。

良く見ると、青年の身体は光の粒が消えて行く度に少しづつ透けはじめており。それは分身として産み出された彼の死が近付いている事を示しており。彼のやりきった様な笑みを最後に、彼の姿は完全消滅してしまう。



その姿を寝起きの様なぼーっとした表情で狐少女の望が見つめていたのだが、彼女の耳に離れた木々の中で自分達を狙う襲撃者達の歓喜の声が聴こえだす。


「やった! やったぞ!! 狐族を討ち取ったぞ!!!」

「馬鹿者、まだ敵は残っておるだろうが!!! 次はアイツだ!!!」

「「応っ!!!」」


指揮を取っている中年男性の指示を受け、二人の青年が呼応する。

青年が自らを庇い、消滅した光景を見たばかりだった為。流石の少女も自らに迫りつつある悪い結末は容易に想像することは出来る。

なので“全てを取り戻した”彼女は彼等と向き合う形で静かに立ち上がり、声をあげる。


「私は狐族の佐々木のぞみと申すものなのです!! 狸族の皆さん、私は貴方達を見下す気もありませんし、まして争い会う気も無いのです!!! なので、その武器をお納めくださりませんか?」


先程までは天使爛漫な気の向くままに行動していた少女からは想像出来ない凛々しさと、威厳のある声を突然浴びせられ。彼女の暗殺を企んでいた狸族達は浮き足立つ。


彼女の姿は最早自分の思うままに行動していた幼児の様なものではなく、地獄をくぐり抜けたたくましい戦士の様な自信に満ちたものであり。ただ話し掛けているだけに見えるが、彼女には全く隙もなく。

まるで悪い事をしようとしている子供を踏み留まる様に促す親の様な態度を取っている為に、思わず狸族達も一瞬戦意を手放しそうになるが、中年の狸族が反論を唱える。


「それはできねぇ!!! 俺達狸族はこれ以上、俺達の暮らす日ノ本の国を腐敗させ続けている狐族を放って置くわけには行かねぇんだ!!! お嬢さんに恨みはねぇがあんたを討ち取り、これを狐族へのしっぺ返しとする!!!」


その気合の入った叫びを終えると同時に、男は弓を構え矢を射る。


鍛え込まれた技術に打ち出された矢は真っ直ぐにのぞみに向けて直進していき、青年を討ち取った時のように胸目掛けて走る矢をのぞみはしっかりと目に捉えたまま、直撃するその直前で身体を捻り、右横に1回転してみせる。


しかし、狸族が一番驚かされたのはその回避運動出はなく、彼女が回避して背後の木に突き刺さっている筈で有ろう矢を彼女が右手に持っていた事であった。


「ば……馬鹿な!? 妖術が強くても、身体能力が劣る狐族があんな神業をこなすだなんて?!」

「狼狽えるな!! あんなものまぐれに決まっている!!!」


思わず震え声になる青年の狸族を叱咤し、その悪夢を振り払う為にも中年の狸族は今度は矢を二連射して見せるが結果は変わらず。その二本の矢ものぞみの受け流しながら矢をキャッチする技術により、防がれてしまい。


思わず狸族達全員から悲鳴が漏れる。


「ばっ、化け物だ!!」

「あんな事をやってのけるだなんて、英雄伝に登場する英雄ぐらいだろ?!」


そんな戦意を失った狸族達に追い打ちをかける事態が起こっていく。

望を助ける為、狐火により燃え盛る並木道を駆け抜けてまで助けに来てくれた3人の友人と、その3人を載せて連れてきてくれた召喚魔のオルトロスである。


記憶が戻る前からの時間を合わせると二週間以上の間会うことが出来なかったのぞみは、思わず顔を笑顔で輝かせて、停止したオルトロスの元へと駆け寄っていき。

その彼女の姿を見て、オルトロスから一番に飛び降りのぞみの元へと急いで駆け寄ったのは空であり。その後を秋葉が続き。飛鳥はオルトロスに騎乗したまま狸族達を睨みを効かせている。


「のぞみちゃん!! 無事か!!」

「空お姉ちゃん……」

「おいおい! 私達も忘れて貰っちゃあこまるぜ!!」

「望お兄ちゃん良かった!! 無事だったんだね!!!」

「秋葉、飛鳥ちゃん。助けに来てくれたのですね!!」


皆が皆無事出はなく、所々全身の何処かが焦げていたり、怪我や、服が破れていたりとしているが。

その苦労に対する怒りや、疲労感すら見せずに皆がのぞみの元に駆け寄っていき、何処か大人びたのぞみが笑顔で迎え入れる。


「おいのぞみ! 秋葉にかけられた催眠術を解くときに色々と聴いたが、もしかしてあの大きな大蛇を倒しちまったのか?!」

「ううん、彼は大蛇族に作られた分身に私の心を埋め込まれた存在であって、最終的に奪われていた心も取り戻してくれたのです……」


その言葉を聴いて、彼の分身と一番接する時間が長く、彼の洗脳を解いて見せた秋葉は少し寂しそうにつぶやく。

「じゃあ、もうあのお兄ちゃんはいないんだね……」


かつての憧れていたお兄ちゃんとしての望がまた目の前から消えてしまった様に感じ、涙ぐむ彼女であったが、そんな彼女の心情をのぞみは読み取り。

身体を変化させる為に、妖力で全身を発光させながらゆっくりと秋葉の元へと近付き、うつむいている秋葉の頭を優しく撫で始める。


彼女は“まさか”と言う期待と不安が込められた表情でゆっくりと顔をあげると、そこには彼女が数十分前に見た青年の姿となった望が穏やかな表情で彼女の頭を感謝の気持ちを込めて撫でている彼女が夢見た光景がそこにあった。


「お兄ちゃん!!!」

「ただいま、秋葉」

今まで我慢していた不安と苦しみを投げ捨てるかの様に、秋葉は勢い余って身長が170㎝代となった望の胸に号泣しながら抱きつき。望も一生懸命に自分を支え、信じてくれた彼女の頭を撫で続けつつ、優しく抱き締め返す。


その光景は真の意味で望が帰還した事を現す様な意味を持つ場面となり、思わず関係がまだ浅い飛鳥であっても何か心が暖かくなるのを感じていた。

「そうか……あんたは大蛇にすら操られる様な玉じゃなかった訳だな。おもしろい人だ! オルトロス、火炎弾だ!」

「マカセロ!!」


そう言いつつ、ちゃかりと矢を放とうとしていた狸族を牽制するために、オルトロスに火球を2つの口から吐かせ、火球の球速が余り早く無いためにそれに気付いた狸族達はあわてふためく事となる。


「おやじさん目の前から火の玉が?!!」

「早く逃げましょう!」

「いや、もう間に合わんよ……」


狸族の手前に着弾させて吹き飛ばしその衝撃で全員を気絶させてあっさりと無力化してみせ、その手馴れように望達から歓声があがり、飛鳥が必死に照れ隠しする流れを交えつつ。


ある程度の説明を終えて皆が落ち着いて来た頃合いを見計らい、望は皆の顔を見渡しながら緊張した面持ちになる。

その表情を見て、最初は不思議そうな顔をしていたメンバーであったが。

気持ちを察した空は暖かな笑みを浮かべ、飛鳥は顔をにやつかせ、秋葉は唇を奪われた事を何故か思い出してしまい全身を真っ赤にさせるなか。


望は一番伝えたかった言葉を改めて皆に伝える。

「みんな、今回は沢山迷惑をかけてごめん。それと……た、ただいま」


「お帰りなさい望お兄ちゃん!!」

ひまわりの様な満面の笑みで迎え入れてくれる秋葉。


「無事に帰ってこれて良かったね。へへっ」

照れ笑いで答えてくれる飛鳥。


そしてーー


「お帰りなさい、望さん。望さんが帰って来てくれるとずっと信じていました。でも少し、我が儘を許してください……」

「空さん……」


そう言って空は隠れるかのように望の胸の中へと飛び込んでいた。それは秋葉の様な望が帰って来てくれるた喜びだけではなく、様々な辛い感情を吐き出さずに献身的に頑張っていた彼女の思いのダムが決壊する。


「……辛かった、うう、本当は臆病で優しいあなたが傷つく事が。そんな貴方を助ける事ができない事が……。許して、ううっ、ください……」


涙を流し、ずっと望の側にいながら感じていた自らの罪悪感を吐き出す空を胸に抱き寄せ、驚いた空以上に望が緊張している事を代弁するかの様な心臓の速い鼓動を聴かされながら。

空は望からも謝罪を受ける事になる。


「僕も同じだよ、空さん。少し力がついたからって調子に乗って首を突っ込んで、結局皆に迷惑をかけるだけになってしまった……」

「そんな事は……無いよ……?」


弱々しく答える空の言葉に望は首を横に振って否定する。

「だったらこんな地獄の様な光景も、空さんだけでなく秋葉やきつ姉達にも沢山心配かける事はないはずだよ?」

「それは望さん達をはめようとしていた大蛇族のせいだ、望さんの責任ではない」


その発言を待っていたかの様に望は顔を綻ばせ、彼女を擁護(ようご)するための切り札を切り出す。

「……実はね、空さん。今回の事件で大蛇族の奴等が何としても実現したかった野望を空さんが阻止していたんだよ?」

「……え? どういう、意味ですか?」


思わぬ話に思わず望を見上げて、目をぱちくりさせる空に望は力を入れて話始める。


「今回の彼等の目的は何としても狐族の信頼をとことん落として、日本に住んでいる全ての種族に対して不信感と怒りを煽る事にあったんだ」

「それが私の行動と何が関係していたの?」


「空さんがいなければ、今頃きつ姉が怒り狂って僕に危害を加えた狸族に危害を加えていたと思う。きつ姉は以外と感情的になると自分を止められなくなるからね」


だがその望の意見は逆に空の首を絞める事になる。


「待って望さん。それだったら、私の為に望さんが性転換して由利原学園に入学しなければ起きなかった話じゃ……」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どのみち僕が由利原学園に入学しなくても秋葉は間違いなく由利原学園に入学していた」

「あっ……」


その言葉を聴いて空も望が伝えたかった事が理解出来、その反応を見て望も空が気付いた事を認めるかの様に頷いてから、結論を話す。


「うん。秋葉が今回の様に制服を取りに行くと言う話になれば、間違いなく僕が秋葉を由利原学園まで送り届けていたであろうし。あそこら辺はサービスエリアが少ないから、彼等も刺客を潜めやすい環境だったんだ。そうなれば、きつ姉の力を与えられていない僕は彼等に簡単に切り捨てられていたと思うし、秋葉も危険だったと思うんだ」

「うーん……」


その運命論の様な非現実的な話に空は少し複雑な顔をしている事で思わず望は苦笑いを浮かべつつ、話をしめる。

「ちょっと無理があったかもしれないけど、空さんがいてくれたお陰で皆が励まされ団結出来た事は確かだし。僕は空さんと出会えたお陰で強くなれたし、自分自身の生きる意味を知れたから帰ってくる事が出来た。この2つは本当だよ?」


その必死に話の説得力を持たせようとする同じ身長となり、大人びた様に見えていた望の子供っぽい地の部分が見えた為に、思わず空はいとおしくなり吹き出してしまう。


「ふふっ、望さんに言いくるめられる日が来るとは思いませんでした。もしかしてそれも大蛇族の力ですか?」

「そそそそんなわけ無いよ! 僕がちょっとは成長した証しさ!!」

「わかりました、そう言う事にしておきましょう……」


必死に弁解しようとする望をあしらう様に薄く微笑む空に望は彼女の彼氏である為に何とか頼りになる男を演じようとするのだが、そんな望のおでこに空は前髪を優しくかき揚げて軽いキスをする。


「はえぇ……?」

「お帰りなさいの……ファーストキスです……」

思わぬ彼女のサプライズにフリーズする望と、恥ずかしさで両耳真っ赤にさせて照れ隠しで彼の腕の中に抱きつくそんな二人のカップルの後を押すように、空から綺麗な初雪がパラパラと降り始めていた。


長い戦いの終わりを告げるため、または恋人達の再会を祝福するかの様に。








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