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#13 イツワリノニンギョウ 【改編版】

あの日、僕は今までの人生で一番の危機に陥った。大切な◼◼◼◼の様な存在である彼女が来年の春に入学する由利原学園の下見として、僕達は車で学園へと向かっている最中、休憩のためにサービスエリアに寄って休憩を取ることにしたんだ……。


そこで僕達は、無差別に人々を襲う狸族達に襲われる事となり、僕は◼◼◼◼の秋葉を守る為に狸族に立ち向かうのだけど。僕の様な臆病で、無力で、情けないちっぽけな人間が戦闘民族の彼等に叶う筈もなく、簡単に蹴散らされてしまい。


僕は理不尽な彼等の暴力に打ちのめされる所だったんだけれども、突然、僕達を助けるためにきつね……【チガイマスヨ?】……ああ、間違えた。


大蛇族のハジメ様に助けられ、狸族達に浚われた彼女達を助けようとする惨めな僕を鍛え、助けてくださった……。

だから僕はゼンリョクデ、ハジメ様のジャマをスルモノタチをハイジョスルンダ……!!



愛する兄である望にそっくりだが様子が不審な男と、実力者であろう召還魔のパイモンを簡単に排除して見せた不気味なハジメという男に危機を感じた秋葉は、空達がいるカフェレストラン付近を目指してすっかりと暗くなり、満天の星空が見える道を激走していた。


秋葉が走っている道は、由利原学園内を通りやすくするために整地された漢字の【囲】に似た様な形状の左外側にあたる一本道であり。

道の途中には学生寮やレストラン、はたまた学生に解放されている畑等があり。道の一番先にはビル6階建ての高さの小山に堀り当てられた温泉等がある居住区に当たる紅葉が美しくライトアップされている並木道を現在彼女は通っており。その事が逃走中の秋葉をさらに追い込んでいた。


(このまま、私が偽物のお兄ちゃんを引き連れていけば他の一般人の人達が危ない……。だからと言ってあいつらに捕まれば、お兄ちゃんの様に洗脳されてしまうかもしれない。私はどうすれば良いの!?)


必死に思考を巡らし、解決策を導き出そうとする秋葉であったが、その思考を背後から絶叫しながら追い掛けて来ている追跡者に妨げられる。


「オトナシク、ワタシニウチトラレロ!!! タヌキゾク!!!」


大声をあげて本来であれば素敵なスーツ姿であった彼の全身からは黒いもやの様な物が吹き出し続けており、なおかつ顔を見れば真っ赤に発光している両目と、口は獲物を噛みしめる為にか涎を垂らしつつ大きく開かれていて。最早彼が正気の人間ではなく、秋葉の知る望でもない事は明らかであった。


そして秋葉を驚かせているもう一つの要因があった、それは圧倒的な彼の身体能力。


(信じられない、簡単に振り切れると思って全力で走っているのに後ろから足音が少しづつだけど近付いてきている……!!)


きつ姉から力を分けて貰い、狐少女として転生していた秋葉の身体能力は一般女性と比べられる様な並大抵の物ではなく。


トップアスリート並の運動能力と鍛えられた特殊な力により強化されている筈なのだが、背後から迫る獣の様な息遣いと足音が秒事にどんどん迫ってきているプレッシャーと、胸を針に貫かれたパイモンの姿が自分と重なって頭の中で浮かんでしまう。


(……怖いけど、堪らなく怖いけど。あいつをここで倒さないと、皆も危ないんだ!!!)


覚悟を決めた秋葉は走る速度を少しづつ下げていき、追跡者を撃退出来る本来の力を発揮する為にやまぶき色の頭から先端が白く、根っこがやまぶき色の二本の狐耳と同じ色合いの2本の尻尾をミニスカートから生やす事により、狐少女としての能力の制限を解除する。


その一部始終を目の前で見せられた追跡者は思わず悪態をつく。

「チッ!! 秋葉ノスガタダケデナク、能力マデ、モホウスルトハ!!」


やがて、離れていた距離を二メートル近くまで詰めた男はスーツの裏ポケットに仕込んでいたナイフケースからサバイバルナイフを左手で抜き放ち、背中を見せている秋葉に襲い掛かる。

「コイツデ、シトメテヤル!!!」


秋葉の背中にナイフを突き出し、その切っ先が後少しで届こうとするのだが。それは秋葉が男を油断させる為に仕掛けた罠だった。

「かかった!! 部分変化!!」


秋葉がそう叫んだ瞬間、サバイバルナイフを突き刺そうとしていた無防備なお腹にカウンター気味にまるで鉄球をぶつけられた様な衝撃と轟音が襲い、男の身体が斜めに浮き上がる。

「グッオォォォォォォ!??」

「もう一発!! せいやぁ!!」


威勢の良い秋葉の声と2度目の衝撃を同じ場所に喰らわされた所で、男は猛烈な速度と威力で自らを打ちのめしている攻撃の正体を理解する。

(こいつ!! 2本の尻尾を自らの大きな拳に見立てて利用していたのか……!! ぐうぅ……)


影の男の分析の通り、秋葉は自らの2本の尻尾を力により強化して鉄の如く強度を固くして拳に見立て、男の動きを止めるために男の腹に拳を叩きこみ続けており。やがて男の身体に蓄積されたダメージが遂に吹き上がり、男は膝が折れて地に座りこむ。


その姿に秋葉は強い手応えを感じてつい気を抜いてしまい、溜めていた息を吐き出しながら、つい動きを止めてしまう。


(なんだ……私でも結構頑張れるんだ! ならこのまま押し切って……)

それがいけなかった。


「ウウッ……ウオォォォォォ!!!」

男の身にまとわりついている影が彼の身体を見えなくなるほどに全身を包み込んでいき。先程秋葉が行った尻尾を用いた見事な変化攻撃を子供の遊びだと言うように。


彼は日本神話で年に一度山から降りてきて、人間の娘を食らっていたやまたのおろちの様な秋葉を丸呑みしてしまう程巨大な大蛇となることにより力を見せつけ。

その光景だけで秋葉を圧倒して見せる。


「そ……そんな……!! こんなのどう対処したら良いの?!」

まさに蛇に睨まれた蛙の様になり、震える事しか出来ないでいる秋葉の周りを中心に2メートル程の横幅と、長さが12m近い胴体によりとぐろが巻かれているために逃げ場を完全に封じられてしまう。


「どうすれば、どうすれば良いの……? あれっ、さっきまであった月明かりが暗く……ひぃ!!」

混乱している秋葉の頭上が突然、蓋を閉められた様に暗くなり。思わず秋葉が見上げて見るとそこには大蛇の赤い二つの目が覗き込む様に睨みを効かせており、シャーシャーと長い舌を出し入れし、獲物を見定める様に恐怖で震える秋葉の身体をあらゆる角度から眺めている。


彼は満足したのかは解らないが、突然ティラノサウルス張りに大きな顔で秋葉と向き合う形で静止する。そして、戸惑う秋葉に彼が放った声は何処か怯えを含んでいた

「ホントウ二、アキハニニテイル……。キミハ、タヌキゾクデハナク、ホンモノノアキハナノカ……?」

「はぇ……?」

散々追い掛け回し、拘束しておきながら放たれた男からの再確認に思わず秋葉は気の抜けた挨拶しか返す事が出来ない。そんな彼女の様子を見てとった男は秋葉を安心させる為にも、再び自らの身体に影を宿し、彼と秋葉が初めて対面した時の様にスーツ姿の望の姿に変身してみせる。


そこには先程の敵意に満ちていた彼の姿は無く、秋葉が良く知っている望の姿であり。秋葉はまるで彼が迷子になって帰り道すら解らず、不安に押し潰されそうになっている子供の様に見えた。


「教えて欲しい、私は狸族に襲われたあの日以前の記憶が抜け落ちていて、どうしても思い出せないんだ……。君が私が知っている幼馴染みの秋葉であるならば、私がどういった人間であったのか、私に何が起こっているのかを知っている筈だ!!」


まるで人が変わったかの様な彼の願い出に流石の秋葉でも困惑を隠しきれず、聞き返す。


「ちょっと待ってよ! それじゃあ貴方は記憶が無いことを良いことにあの怪しい男に利用されていたって事じゃない!!」

「……そうなのかも知れないし、そうではないのかも知れない。私には真実を立証する記憶が無いからね。だからこそ、秋葉が知っている情報を知りたいんだ……」


「何をーーあっ……」

そう言った男の目は見開かれ、レーザーポインターの様な赤い光が秋葉の両目に降り注ぎ。その光を両目に受けた秋葉は一瞬驚く声をあげた後、力無く両手をたらし、目からは光が消えて虚ろになる。


その様子を見てとった男は直ぐに秋葉に近づき、彼女と向き合う形となってから自らの要望をもう一度操られ、言いなりとなった秋葉に問い掛ける。


「……手荒な真似をしてすまない秋葉。君から嘘偽りのない情報を得るためだ、許して欲しい」

「お兄ちゃん……。うん解ったよ、私が知っているだけの情報で良ければ」


「ありがとう秋葉。ではさっそく聞かせて貰って良いかな?」

「うん。じゃあお兄ちゃんが私達を助けてくれた所からね……」


その後、秋葉は自分が知っているだけの望に関する想いでや、記憶と、最近望の周りで起こっていた事も含めて男に包み隠さず伝えた。時間にして2.3分程の簡単なダイジェスト情報であったが、男に取っては頭を抱えさせるに充分な情報であったらしく。


彼は自らの脳に刻まれていた記憶との矛盾に脂汗をかきながら真剣に秋葉の話に聞き入っていた。


「ーーこれが望お兄ちゃんの過去と最近までの情報だよ」

「そうか……そう言う事だったのか。どうりであの男の言うことは辻褄が合わないとは感じてはいたが……。真犯人である奴に私は利用されていたんだ……!!」


記憶を部分的ではあるが取り戻した男は、自らを道具として家族を手に掛けさせようとしていたハジメに対して強い怒りを覚えたまさにその時であった。本心に立ち返った彼をまるで消しに来たかの様に、秋葉の後を追っていた人物が現れたのは。


「秋葉お姉ちゃんから離れるのです!!」

「……くっ、私の記憶が抜けた“抜け殻”か」


その人物とは演技でパイモンに連れ去られた自分を助けるために必死に追い掛け、今度は秋葉の本当の危機に駆け付けてみせたのぞみであり。

彼女は虚ろな目で男を見ている事から、男が秋葉に危害を加えたと判断し、まず秋葉と男を引き剥がす事にする。


「秋葉お姉ちゃんにこれ以上ヒドイ事はさせないのです!!」

「くっ、待ってくれ!! 秋葉にはまだ聴きたい事があるんだ!!」


望の想いはがむしゃらに秋葉を助ける事しか頭にないのぞみには受け入れて貰えず、のぞみは疾風の様に秋葉をおぶるようにして霞めとって行く。

その一つの事となると、周りが見えなくなる自分自身の悪い面を見せつけられて、思わず頭を抱え込みたくなる望であったが。


彼にそれ以上の不運が襲うことになる。


「秋葉お姉ちゃんしっかりするのです!! もしかしてあのお兄さんに何かされたのですか?」

「はい。私はパイモンさんと一緒に走っている途中で……彼等に出会ってーー」


その質問に対してまだ望の術が取れていない秋葉は虚ろな表情のまま、言葉を選ばずに彼等に負わされた恐怖と暴走状態にあった望の狂暴せいと危害を加えられた事を秋葉が説明したものだから、のぞみの怒りは最高潮を迎える事となってしまう。


「でも、お兄さんはその後……」

「秋葉お姉ちゃん、ありがとうなのです。もう説明しなくても大丈夫だから……。後はのぞみに任せて欲しいのです!!」

「はい。わかりました……」


肝心の彼の本心をのぞみが聴きそびれた事もあり、状況は記憶を取り戻した望に取って最悪の物となってしまう。


しかも望の身体は大蛇の力により作られた物でハジメ本体と比べて遥かに劣る、結わば分身の様な物であり。望に取っては本来の身体を持ち、尚且つ依り一層仙狐の力が馴染んでいるのぞみを相手にしなければならない絶望が望を襲う。


彼は、最初からはめられていたのだ。狸族達ががたぶらかされて村から出たあの日から、今日絶望の内に愛する仲間に敵意を向けられながら、自らの火に焼かれる今日まで。ハジメの手の上で踊らされていたんだ。


「全くどんだけ根倉何だよあいつ……」

望の目の前ではのぞみが狐耳と四本の先端が白く全体は黄色の美しい尻尾を扇の様に展開させて、戦闘体勢に入っている。


そんな本来であれば拳銃を向けられるよりも危機的状況にある中で、望は諦めていなかった。

「取り合えず、あいつに両手を地面に着けさせて謝って貰うまでは、死ぬわけには行かないよな!!」


佐々木望、彼の人生の中で一番長い夜が始まろうとしていた。


前回は投稿した作品を引き戻すと言うややこしい事をしてすいませんでした。

今回再編集させて頂き、話の流れが前回のお祭り騒ぎの様な話から一転させて、ストーリーの流れと疑問に対して答える事を意識した事と。


他の作者様達が自分の書いている作文よりも遥かに多い説明文や、文章を書かれていたので私も読んでくださる皆様を意識して、一気に書きたいことを書きなぐるのではなく、読んでくださる皆様と足取りをあわせられる様な文章を意識して今回は書いて見ましたがどうでしょうか?


話的にも、前回投稿させて頂いた13話(活動報告を御参照ください)に比べて、ちゃんと作品と向き合う形に軌道修正する事が出来たので、この章を慌てて終わらせようとしていた私自身にとっては良い反省点であり。

作品作りにおいても良いターニングポイントとなったと思います。


まだまだ不甲斐ない点が多々あると思いますが、お付き合いくださるのならば喜びの極みで御座います。

御意見、御感想御待ちしております。

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