#12 狐少女の純恋歌【下】
長くなりましたが、これにて望と狐少女達のファーストコンタクトは一先ず締め切り、足りない部分は本編の遅延にならないためにも後日談として描かせて頂くことにしました。
なので、少し中途半端に感じられると思いますが御許しください。
そして、学園入学編も入学していないのにラストスパートへと突入して行きます!! 仕事の方も、年末になるために仕事が十倍になります、私ハ地獄ヲ棄テテ貝ニナリタイデス。
※ハジメのごちゃごちゃしていた登場シーンを読みやすく修正しました。(12/13)
狐乃街の路地裏にある小さなペットショップで突如起きた火災は、夕暮れ時でホッと息をついていた街民達を驚かせる事となり。直ぐ様通報を受けた地元の消防団が二台の消防車を伴い火の消化に向かうのだが、彼等が現場で見た光景はとても奇妙な物であった。
「……どうして周りに火が燃え広がらずに、ペットショップだけが綺麗に燃え尽きているんだ」
普通であれば長屋のように密集した古い木像の家が何重にも建ち並ぶこの一角は、一箇所でも火がつけば連鎖式に燃え広がる筈なのだが、まるでその一角だけを抉り取ったかのように燃え尽きた木等の塵しか現場には残されていなかった。
その光景を見て黒の街名が白字で書かれたはっぴを着たベテランの団長の背中に何か詰めたいものが走るのを感じるなか、部下からトランシーバーを通した調査報告が入ってくる。
[団長!! 店内からは被害者は見つけられなかったのですが、事務室と思わしき部屋の床に扉があった様で……。そこから身元が確認できない程に焼かれた二人の遺体が発見されたのと、何故か彼等が焼死していた地下室は焼けておらず、代わりに密輸され加工されていたであろう狐の毛皮が多数発見されました!!]
その話を聴いて、団長はトランシーバーを耳に当てたまま一言呟く。
「……稲荷様の逆鱗にそいつらが触れたのであれば、無くはないか」
かくしてこの放火殺人事件は、その時間帯に怪しげな男二人が車で店を訪ねていた事が地元住民の情報提供によりもたらされ。日本中で、スキンヘッドのグラサン男が指名手配される事となる。
◇
私達狐族を悪夢に叩き落とした監獄から仙狐様に無事に助けだされ、なんとか自由を取り返しまた故郷に帰る事が出来るかに思えたのですが、私達は人間達に仕込まれた薬と栄養不足の為に故郷に帰る処か身体を自由に動かす事すら出来ずにいました。
「大丈夫。私が君達を必ず助けてみせるからね……」
その状態を見てとってくださった仙狐様は優しく励ましつつ、私達姉妹一匹一匹をあまがみしながら優しく背に載せてくださり。
なんとか火事で集まる人達の目につかないように私達は街の裏路地の闇に紛れながら進み、そのまま背中に載せられた私達は人々が集まる街から少しでも離れる為、街を抜け、より人気が無い雪が降り積もる山までなんとか逃げ切れた事により、やっと絶望的な状況から自分が助かった事に安堵する気持ちが自然と私以外の妹達3匹にも沸き上がって来たたため、思わず頬を緩ませたのだけど。
安心したと同時に大切な家族を失った現実が胸の中から溢れ出て、涙を堪える事を抑えきれず、私は仙狐様の背中でカラカラになった喉を震わせて、泣くことしか出来なかった。
その想いを抱いているのは私だけでは無く生き延びた3匹の妹達も同じ様で、啜り泣く声が合わさり合唱となって虚しく冬の夕暮れに照らされた山に響いていたのが今でも忘れられない。
そんな私達を仙狐様は気遣ってくださり、人間に整備された道を歩いていた仙狐様は突然立ち止まってから足元の雪を白く大きな尻尾で払われ、まるで鳥の巣の様に円形に整地したその場所に熱い程の熱風を口から吐かれた後。
ほかほかになったその場所に私達四匹の子狐をそっと背中に乗せてくれたように降ろして行き、ずっと身体が冷えきって実は辛かった私達は余りの気持ちよさに穴の中で身悶えしていたのだが、突然仙狐様が覆い被さる様に倒れ、一言呟き目を閉じてしまった。
「……解らない。何故これだけの理不尽な人間の悪行を……神様が許される……のか……私には……」
「お姉さん?」
私達は朝獲物を刈るときに嗅いだ臭いを今再び嗅ぐ事になる。その理由は時間が過ぎ、少したどたどしいが正気に戻った妹の風華から知らされる事となる。
「秋葉お姉ちゃん……!! 白いお姉さんの……お腹に小さな穴が空いてるよ……!!」
「え!?」
その言葉を聴いた私は慌てて風華が指差す場所に視線を向けると、確かに白い仙狐様のお腹に小指程の穴が一つ空いていて、そこから湧き水の様に少しづつではあるけど赤い血が流れ続けていました。
人間になった今だから解るけど、仙狐様は密両者にペットショップで打たれた弾丸を全ては避けきれずにいて。私達を助けるために雪を溶かし暖める為に最後の力を使い果たしてしまったんだと思う。
そんな事当時の子供の私達が解る筈もなく混乱していたんだけど、四女の小春がある提案をしてくれたんです。
「秋葉お姉ちゃーん、秋葉お姉ちゃーん?」
「なななな、何小春!?」
「小春考えたんだけど、穴があるなら塞いでしまえば白いお姉ちゃんも元気にならないかなー?」
その単純なアイデアに皆が(それが出来ないから困っている)と考えたのだけど、風華はどうやら解決策を得たようで思考し始めた。
「冷静に考えれば……そうだけど……。よし」
風華はあろうことか自らの口先で仙狐様の傷跡を塞ぐと言う強行手段に出たんです。
「風華貴方何を?!」
「もごご……ぷはっ。お母さんが……大怪我した時に……こうして圧迫していたのを……見てたから……もぶっ」
風華のゆうとおり傷口の出血は圧迫している間止まっていて、それを見た私達は一人が無理して力尽きない様に四匹で交代しながらその圧迫処置を続けていて。
そんな事をしていても、結局このままじゃ全員餓死するかもしれないだなんて皆考えずに只々助けて貰った仙狐様に恩に答える事だけを考えていたから。
そして、それは気を抜けば寒さで死んでいた私達全員が長生き出来た一つの理由となり、日も暮れ、真っ暗闇となった山道の中で望お兄ちゃんと生きて出会えた最大の生還理由ともなってくれた。
(もう……動けないよ……。私達、やっばり……)
仙狐様の出血は何とか止まったけど、それに私達は安心して力を抜いた途端、もう身体が動かなくなってしまっていた。本当に最後に振り絞るだけ振り絞った力だったんだと思う。
(……お父さん、ごめんね。愛していたよ……)
私が全てを諦めたそんな時だった、ぼーっとしてきた私の耳に大きな何かが私達を横切りながら通り過ぎていき、近くで停止したのを聴き、何かが雪をザクザクと踏み締めながら私達に迫って来るのを感じたのは。
(この臭い……なんだろう……? 甘くて、太陽の光を浴びた後の様な臭い……)
そんな感想を考えている内に私達の身体の上にを覆い被さっていた白い雪が取り払われ、当時まだ5歳の望お兄ちゃんがわざわざお父様にお願いしてまで私達を助けに来てくれた。
「大変だ! 狐さん達死んで無いよね?!」
この時の望お兄ちゃんはまだ幼くて、顔が今よりも優しそうな女の子みたいだった事もあってかは解らないけど。望お兄ちゃんはあれだけ酷い事をした同じ人間族だったのに余り私達には何故か警戒心も恐怖心も沸かず。
何故か、お父さんやお母さんに抱き締められた様な安心感がその時から望お兄ちゃんにはあって、自然とジャケットのポケットの中に顔だけ出す形で私達子狐を左右に二匹ずつ。そして、大きな仙狐様を抱き抱えて車まで運んでくれた処まで覚えてる。
その後、夢の中でずっとお父さんに励まして貰ったような記憶も。
◇
ひとしきり秋葉が経験した壮絶な過去を聴かされた一同の目は緊張で少し奮わせながらも、力強く自らの誇りである愛する人の話をパイモンに伝えた秋葉と。
悲しいことに小学生レベルの少女と成り果て別人となってしまったのぞみは話の途中で愚図り出してしまい、結局空に抱っこされながら幸せそうに寝息をたててしまっている彼に、一同から複雑な視線が浴びせられる。
そして話の本題である秋葉に召喚魔としての契約を代償に、つまり彼女の自由と生涯と引き換えに望を助けると言う取引契約の主導権を取り戻し最終確認へと移っていく。
『なるほど。貴方が大変苦労された事も、望さんに命を助けられた事も大体解りました』
「望お兄ちゃんとはそこから稲荷神社が建てられるまでの7年間一緒に同居させて頂ける事になって。しかも私達は余所者でしかも狐族だったのにまるで私達姉妹を娘の様に望お兄ちゃんも、お母様も、お父様も沢山可愛がってくれて……。凄く幸せで……」
「なるほど……。秋葉に取っては望は自分だけでなく、仲間を含めた命の恩人であり、家族な訳だったんだね。それならば、秋葉が必死になる理由は解ったよ」
自分が何故望に命を懸けてまで助けたいと言う熱い思いが産まれたのかの一つの理由を理解できた飛鳥は納得し、その話を初めて聴いた空は改めて最善を尽くす為には無理を突き通す事を子供の頃から続けている事を誇らしげに思いつつ。
成らば尚更、秋葉の自暴自棄な態度に望の代理で異議を唱える。
「成らば尚更その救われた命を大切にする為に、違う提案は受け入れて貰えないでしょうかパイモンさん。 望さんは自らの身よりも大切な人のためならばその身すら差し出す人です!! そんな彼が自らの為に秋葉ちゃんが犠牲となったと知れば、どうなるかは皆さんにも解るはずです!!」
その追求に選定者であるパイモンの無表情な顔は眉ひとつすら動かさず、淡々と返答していく。
『いいえ、私達は秋葉さんが最初に出してくれた提案を尚更譲れなくなりました』
「何故ですか!?」
その追求にパイモンは目を細目、威圧的な雰囲気を纏いつつ空に対して返答を行う。
「元々この交渉は貴方達の我が儘から始まったものであり、貴方達は私達からすれば妨害者でしか無く。秋葉さんの提案を受け入れる義務すら我々には無いからです」
「それは……!」
「蛮行、だとでも言われますか空さん? 貴方達は置かれている危機的状態の本質が解っていない様ですね……。今の望さんはいつ爆発してもおかしくない世界を亡ぼせる程の力を持つ原子爆弾の様な存在であり。貴方達に取っても今すぐにでも対応しなければならない大問題なのですよ?」
反論しようと空が口を開こうとするが、パイモンはその返答をきっちりと叩き伏せ。ゆっくりと正面に立つ交渉相手である秋葉へと視線を向ける。
『さて、話がややこしく成りましたが秋葉さんの気持ちは決まりましたか?』
「あ……う」
先程までは身体を震わせながらも、しゃんとしてはきはきと話をしていた秋葉は何故か目を潤ませながら、返事が出来ないでいる。そして、秋葉がそうなるであろうと予測していたパイモンは小さく溜め息をついてから突然秋葉を攻め始める。
『……どれだけ粘ったとしても、貴方の王子様である望さんは助けには来ませんよお姫様?』
「……えっ?」
突然、温厚な態度で聴きに徹していたパイモンから突き放される言葉を投げられた為、秋葉は涙目になりながら唖然とした顔でパイモンを見直す。
そこには話を穏やかに聴いてくれるお姉さんのようなパイモンの姿は無く、鋭い目には秋葉に対する怒りが込められており。そこからの彼は容赦無く秋葉をただ追い詰める為だけに口火を開く事になる。
『ふう……何を話すかと思えば周りの同情を買うための自らの不幸話とは、年頃の小娘らしい実に下らないはなしだった。……ファルファスさん、付近の警戒をお願いします 』
『承知した……』
突然の毒舌に飛鳥の召喚魔達以外が狼狽えている間に、パイモンは小声で飛鳥の肩で待機していた黒い鳩に似た召喚魔であるファルファスに仕事をお願いしてみせる。
勿論そんな小さな点など度肝を抜かれた召喚魔とそして冷静な空以外は童謡したままであり、秋葉の過去を聴いて可愛いピンクのハート柄の白いハンカチで号泣する涙を拭いていた飛鳥は部下の暴言に激怒する。
「パァイモォン!!! あぎはぁ″に゛ぃなんでぇゴドウォゆうのょぉ゛ぉ゛!!! けほっけほっ……」
『唾と鼻水を器用に飛ばさないでくださいマスター。ツヨシが嫌がっています……』
((あのラクダ、ツヨシって言うんだ!?))
そんなやり取りをしつつ、パイモンはラクダのツヨシの頭を人なでしながらまた呟いた後、ツヨシから降りて直接秋葉の元へと近づいて行く。
『さあ、来てもらいましょうか秋葉さん。貴方が危機的現状を後先考えずに無視して自分人身に都合の良い未来になると勝手に思い込もうとした罪……。貴方の命で補完させて頂き、望さんは私達がしっかりと始末させて頂きますね!! ふははは!!』
「なっ、そんなの話とちがーーんっ」
必死に反論しようとする秋葉の口元をパイモンは右手の指二本で塞いでから、二人にだけ聴こえる声で話始める。
『……。……、……?』
「なっ!? ……、……!!」
そんな二人の密談に周りのメンバー達がどぎまぎして見詰めるなか、やがてパイモンはにこやかに頷き、秋葉もガチガチに緊張した面持ちで頷き返す。
二人の間に何があったのかと皆が訪ねる前に、秋葉が突然棒読みで叫びだす。
「キャー望お兄ちゃんタスケテー!! ワタシ、コノママダト一生奴隷トシテ、ツレテイカレテシマウワー!!」
『ワァ~……コレハ、立派ナ名大根女優にナレマスヨー、アキハサーン』
(あっ、そっち方面で行くんだ……)
「あああ!! 離せオルトロス!!! 秋葉が! 秋葉が奴隷にされちまう!!」
(あっちはあっちで、まだ騙されているし……。しかし、感謝しなくては)
二人が相談しあっていたのはどうやら、記憶が制限されている望の心を何とか刺激して呼び起こす作戦に何故か切り替えたらしく。普段から正直者な秋葉は顔を真っ赤にしながら見事な演技を披露するなか、空は何だかんだで平和的な解決を望んでくれていたパイモンの好意に感謝し、彼の想いに答えるためにも寝ているのぞみを起こす事にする。
「のぞみちゃん大変!! 早く起きて!!」
「はにゃ……空お姉ちゃん、おはようなのです……。もう朝なのですか?」
「それどころじゃないの!! 秋葉お姉ちゃんが嫌な思いをして泣いているの!!」
その言葉を聴いて、寝惚けて目元を擦っていたのぞみの顔付きは驚愕で目と口は見開かれ、少し顔を青ざめている所に、純度100%の新鮮な大根演技である秋葉の声が響いて来る。
「キャー望お兄ちゃんタスケテー!! アキハコマッチャーウ!!」
『アハッハッハッ!! ナンデモアリナオジョウ様ダ!! 丁度キミノヨウナ人がホシカッタンダヨナー』
「秋葉お姉ちゃん!! うっ!! 待って、ラクダのお姉ちゃん!! 待ってよ!!」
そんな演技の事等いに返さず、のぞみは純粋に秋葉を助けるためにギリギリ離されないスピードで由利原学園のメインストリートである並木道を抜けて正門へと走るラクダに乗った二人を追い掛けていく。
『やれやれ……。なんとか釣れてはくれたようですね、これならなんとかなりそうです」
「釣れたのは良いけど、何処まで行くの!?」
「そうですね、少し騒ぎすぎていい加減人が集まり始めていましたので、正門を出た所にある自然公園にでも場所を移し―ー秋葉さん降りて!!!』
「えっ? ――きゃああ!?」
そう言い切り、秋葉を地上の繁った草むらに落とした所で、突然パイモンの正面から長箸程の大きさの緑色の謎の液体が浸けられた針が胸に突き刺さり。召喚魔である彼の体からは血の替わりに、光の粒子のような物が針が貫通した裏表の傷口からほとばしっている。
『そんな……これは大蛇の毒……!! ぐうっ!』
「おんやぁ? 私の毒針を受けながらまだ生きているとは、やはりあなた只の人間では無いようですね……」
貫かれた激痛と、毒による苦しみに悶えながらも必死にラクダにしがみつくパイモンをからかうようにおどけた声をかけ、人をこけにした態度で正門に背中を預けて足を組ながらさながら門番の様に突如二人の前に男性が現れたのである。
男の姿は両手を黒のロングコートのポケットに突っ込み、中は黒のスーツと縦に黒のラインが入った白いワイシャツの上に深緑のネクタイと白のベストを着込み。
中折れ式の黒の帽子をショートヘアーの銀髪の上に前屈みに被り、丁度目線が見えない形の容姿を持つ、二週間もの残酷な悪夢を望に見せ続け、精神崩壊まで追い込んだ張本人であった。
『バカな、この地域周辺はファルファスさんが見張ってくれていた筈……!! なのに何故!?』
「クックックッ……家にも優秀な部下が最近入りましてね。ほら、今君が投げ出した可愛そうな彼女を助けている彼ですよ?」
『なっ……しまった!?』
つい秋葉から目を離してしまい、刺客の存在に気付けていなかったパイモンが秋葉がいるであろう背後に振り替えるとそこには黒のスーツ姿で白いシャツと赤いネクタイを身に付けた少年が、何故か秋葉をお姫様抱っこしながら、唇を奪っている最中であった。
『なっ……』
思わず絶句してしまうパイモンであったが、顔を真っ赤にし目をトロンとさせる秋葉から顔を離したその少年の顔を目撃し、今度は声すら出なくなってしまう。何故なら――
「秋葉ごめんね心配をかけて、もう秋葉の側から二度と離れはしないから許して欲しい……」
「望お兄ちゃん……んっ」
甘い言葉をかけて再び秋葉の無防備な唇を奪うは、依頼の前に写真だけで確認していた【佐々木望】本人であったからだ。
『このままだと大変な事にな――』
そう言って動揺を隠しきれずに動き出そうとしたパイモンの背中を、針治療に使われる様な小さな針が一本刺さり。たったその一本の針の為に、刺された場所から体が水が地を這うようなスピードで石化していく。
「やれやれ、召喚魔はただ殺せばまた復活しますからねぇ~。暫くはここで【ラクダに乗った少年像】にでもなっていてください。さてと、望くん。無事に彼女さんとも再開出来たかい?」
そう言って幸せムードを楽しむ二人に近付く見馴れぬ男の姿に、流石に我に帰った秋葉は望(?)にしがみつきながら望に問いただす。
「望お兄ちゃん!! この怪しい人は誰なのお兄ちゃんに何をしてしまった人なの?!」
「秋葉、ハジメ様は狸族に襲われてボロボロになっていた僕を助けてくれて、しかも彼等に負けないように鍛えてくれた恩人なんだよ!!」
「いやぁ~改めてそう言われると照れますね~。望くんも私のきつい修行を二週間も耐えて見せるだなんて、今まで誰もなし得なかった快挙を成し遂げた立派な戦士ですよ」
「恐縮です、ハジメ様!!」
その余りに人が代わってしまったかのようにハジメと言う、不審者を敬愛する望の姿を見せられて秋葉はつい浮かれてしまっていた弱い自分の心を攻めながら、望らしき人物から急いで離れ。空達がいた場所へと逃走を開始する。
(姿は確かに望お兄ちゃんだけど、あの人は本物のお兄ちゃんじゃない!! 急いで逃げないと!!!)
そんな秋葉の後ろ姿を呆然と彼女を抱き抱えていた肩膝をついた状態で眺めていた望の隣に、口元に笑みを浮かべながら保々横線の細目であるハジメが肩に手を置きながら慰める。
「うーん、残念だったね望くん? 折角愛する恋人と出会えたのに、嫌われてしまうだなんて……。あーよしよし」
「ハジメ様……」
ハジメに慰めをうけた望はつい彼の顔へと自らの目線を逢わせてしまう。
「でも大丈夫だよ、望くん。君の知っている彼女は君を絶対に裏切らない優しい子なんだよね?」
「はい、ちょっと背伸びをしてしまうけど、本当は甘えん坊で優しい子なんです」
「だよね。じゃあもう気にしなくて良いじゃない」
「え? 何故ですか?」
「そんな優しい筈の彼女が君を騙す筈がないと言う事ですよ。つまり、彼女の正体は望くんから全てを奪った憎き【狸族】だったんだよー」
「そうか……奴は狸族だったんだ……!! またあいつらが!!!」
狸族と言うキーワードを聴いた瞬間、先程までは秋葉をメロメロにさせていた甘い王子様のような望の姿はなく。まるで野獣の様に目を血走らせ、息を荒げてまるで闘牛の様な猛烈な勢いで逃げた秋葉の追跡を始める。
その姿を口元を白い手袋をはめた右手で押さえ、望の姿が見えなくなるまでは笑いを堪えてから彼はその溜め込んでいた想いを発散させる為にも口を張り裂けんばかりにあけて大声で罵声をあげる。
「いっちまいやがったぜぇあいつ!!! 自分が命がけで守ろうとした女を自らの手にかけて殺しによぉぉ!!? こんな馬鹿な話があるかよってなぁ?! ヒャハハハハハ!!! 俺様に喧嘩を売るからだよ虫けらの人間のガキがよぉぉ!!!」
彼はそんな高笑いをあげながら、自らが学園に訪れたと同じように正門を飛び越えてさっていく。
後にこの学園を掻き乱すであろう、自らが遂には屈せる事が出来なかった男の狂喜を思い描きながら。
主人公がボスとして主人公の前に立ちはだかると言う、望が頭を抱えながら「俺は悪くねぇ!! 俺は悪くねぇ!!」と言うセリフを吐きそうな私がやりたかったどんでん返しの一つでしたが、楽しんで頂けたでしょうか。
そして、謝罪しなければならない事がありまして純粋に望と空の恋愛や、可愛い狐少女が好きで作品を楽しんでくださっていたのに。突然作者の身勝手で暴力や残酷な表現を話にぶちこみ不愉快にしてしまった読者方もおらると思います。
その点と、身勝手に作品を書かずに読者の皆様が楽しめる作品を優先させると言っておきながらの失態でしたので、二重の意味で謝罪させて頂きます。本当に失礼いたしました




