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#11 狐少女の純恋歌【上】

今回の話から、秋葉達狐族が何故望の味方で居てくれるのか。また、彼女達が望に強く入れ込む程の理由と望達の奮闘を描く二部構成となります。

少し長くなると思いますが、読者の皆様が登場キャラクター達の動機に納得出来る様に足場を固める為の作品にとって大切なピースとなりますので、お付き合いくだされば嬉しく思います。


※狐を血は出ないレベルですがきつく扱うシーンが入っています、御注意ください。

「……私が、飛鳥と契約してパイモンさん達の様な使い魔になるって事だよね?」

『その通りです秋葉さん。それが望さんに掛けられている呪縛をとるための条件です……』


その余りに難しい条件に秋葉と飛鳥の使い魔達以外は顔を真っ青にさせて反論を出す。

その最初に声をあげたのはパイモンの主人である飛鳥であり。彼女の顔には冷や汗が垂れ、息も荒げながら何とか条件を引き下げられないか交渉を行う。


「パイモン少しまって欲しい!! そんな事をすれば望を助ける事が出来たとしても、秋葉は元の生活に戻れず私達と運命を共にしなければならないし。秋葉は全ての自由が奪われる事になるじゃないか!? 何とか条件をもう少し、一定の期間御手伝いをして貰ったりするとかに留められないか!?」


必死にラクダの上に座りながら飛鳥の提案を真剣な表情で聴く、顔だけ美少女で身体が美少年のパイモンは静かに首を横に降り、却下する。

『それは成りません、マスター』

「何故なんだパイモン!?」

『我々は元々大蛇にかけられた呪縛を受けた望さんを確保、もしくは排除する為に来ました。そこで依頼者の要求を踏みにじって起きながら、秋葉さん達の要求を飲むならば私達も只では済みませんし。悪魔召喚土件、退魔師である葛乃葉(くずのは)家の名を汚す事になります』


「だから、秋葉の所有権で手を打とうと言う事か……?!」

『その通りでございます、マスター』

「駄目だ、駄目だ、駄目だ!! 秋葉をそんな苦しい思いをさせられるか――」

パイモンに反論を続けて、なんとか秋葉の足枷を和らげ様と必死に交渉するのであるが、課題の焦点となっている秋葉が割り込む。


「私は……大丈夫だよ飛鳥。それで望お兄ちゃんが助かるんだよね?」

『はい。元々秋葉さんは狐少女であり、厳密に言えば【人間】では無く魔物に分類されるのでマスターとの契約には何の支障もありませんし、我々は望さんを助けるだけの力を持ち合わせていますのでご安心ください』


その無表情に語るパイモンの解答に納得したのか、不安に煽られ震える両手を胸元で組んだ秋葉は無理に微笑みを作りながら、同様を隠しきれない飛鳥に願い出る。


「飛鳥辛い事をお願いしてごめんね。でも私、どうしても望お兄ちゃんを助けたいの」

「何でだよ……何で命張ってでも望を助けたいんだよ、秋葉?」

「私はね、望お兄ちゃんに出会えなければ本当は死んでいた存在だから……」


何か悟りを開いた様な張り付けた微笑みを浮かべたまま、秋葉は自らと仲間達が望に惹かれた経験を語りだす。



――時は、望と秋葉が出会った13年前の雪が降りしきる、狐乃街にある商店街の路地裏にひっそりと佇む寂れたペットショップから始まる。


ペットショップと言うよりも、小型の倉庫を思わせる店の正面のシャッターは締め切られており、冬の寒さもあって人通りは無く、そんな閉店しているかの様な店の前に黒の8人乗りの車であるハイエースが停められ。

車の助手席から黒のスーツとロングコートを身につけ、黒いサングラスをかけた眉毛の無いスキンヘッドのガタイの良い男が降り、運転席からも助手席から降りた男と同じ格好をした金色のロングヘアーの長身の白人男性が同じく雪が降り積もっている地へと降り立つ。


白人の男性は白い息を吐きつつ、辺りに人がいない事を確認してから閉じたシャッターに独特のリズムで8回程ノックを行い、しばらくするとシャッターの覗き口が開いたかと思うと確認が出来たのか直ぐに閉まってしまうが、替わりに店のシャッターが開けられる事となる。


そこには灰色のセーターに黒のジーパンにエプロン姿の一見穏やかで優しそうな30代程の男性店主が二人を出迎えた。

「こんな寒いなかようこそ来てくださいました、ささっ、どうぞ中へ」

「オウイェア」

白人の男性は軽く挨拶の声をあげて店に入っていき、

「いや~まさかこんなに積もってるとは思わなかったすわ~」

スキンヘッドのグラサン男は車の中にあらかじめ積み荷として積んでいた、ペット用のケージを3つほど抱えて店内へと入っていく。


彼等が入ったペットショップは近所の駄菓子屋さん程の大きさしかない小さな店であり、扉を開ければ様々な動物が目を光らせる透明のガラスに各動物の値札が貼られた展示スペースが広がっており。3人は本来であれば関係者以外は入る事が出来ない六畳間の事務室へと向かっていく。


部屋の中は酷く殺風景であり、部屋の壁紙や床全体はネズミ色の鉄板で出来ており、そこに従業員の為のロッカーが4つと縦長のテーブルが一つあるが窓は無く、天井に裸の電球が吊るされているだけという牢屋の様な部屋であった。


そんな部屋に男達は何度も利用している為か特に感想も吐かずに入っていく。

スキンヘッドの男は直ぐにテーブルの上へと3つのケージを降ろし、蓋を開けて依頼者であるペットショップの男に商品であるぐったりとした合計8匹の子狐を見せる。


「ほほう、これはまた沢山の子狐達を捕まえられたしたね。苦労された事でしょう?」

「最近は密猟に対して警察の目も厳しくなりましたからね、毛皮にした後も直ぐに売らずにしばらくは寝かしておいた方が高値で売れると思いますよ?」

「確かに。ただ竹田さんが言われる様に、売る側にも警察の目が掛かっていますので状況に応じて判断させて頂きますね」


そう言いながら、にこやかにまだ生きているがぐったりとした子狐達をケージから一匹一匹取り出し、毛皮の状態を念入りにチェックする男には勿論、理不尽に捕まえられた子狐達に心を痛める訳でもなく、ただお金になる商品としてしか見えてはいない。


「さて、それじゃあ折角御二人が急いで持ってきてくださった“材料だ”……。直ぐに加工させて頂きますね!」

そういって目を獣の様に爛々と輝かせ、マジキチスマイルを浮かべた男は査定を終えた6匹の子狐はケージに入れ直し、気に入らなかった二匹の子狐を窒息死させる為にゴミ袋に投げ入れてきつく縛り、呼吸が出来ずに苦しむ狐の声を煩わしそうに聞き流しながら。


彼は左側に集められた4つの内左側二つのロッカーを退かして見ると、そこには地下の隠し部屋に繋がる地下ハッチがあり。久し振りの新鮮な獲物を捌けるという事で期待と狂喜が入り交じり、鼻歌を歌いながら降りていく店主に薄気味悪さを感じてはいるが、御得意様であるために着いていくしか選択肢が無い二人であったが。


その判断と自ら行ってきた乱獲結えに彼等は後悔する事となる。



(ここは……どこ……?)

私が目を覚ました場所は生まれ育った山の中ではなく、四角い壁に囲まれた薄暗い場所だった。


(確か……お父さんと妹達と一緒に、夕御飯を探しに山を降りたんだよね……。なんでだろう身体が痺れているし頭が、ぼーとする……)

何とか今起こっている現状を把握しようとしている途中、突然薄暗い世界に目の前から光が差し込んだ。私がその理由を知るよりも早くに突然人間の手が差し入れられ、どうやら私と同じ様にこの狭い世界に入れられていた同じ狐の女の子がその手に捕まれて引っ張り出されて行ってしまった。


「大丈夫、君を独りでは逝かせはしないからね~」

光刺す方から人間の声が聴こえた、お父さんやお母さんが絶対に関わっては行けないと言っていた人間の声が。私は回転が錆び付いた歯車のように鈍くなった頭を必死に働かせ、自らが今遭遇している事態を初めて認識する事が出来た。


(私は……人間に捕まったんだ……!!)

頭の回転が戻った私の脳内に、私が個々に連れて来られる前の記憶が甦る。親子で狩りを終えて、口元にネズミやすずめ等をくわえた兄弟達と狩りの成果を自慢したり、談笑しながら家に帰る途中、突然空気が抜ける様な“スポンッ”と言う音がしたかと思うと、突然眠気を誘う白い煙りに皆が包まれて……。


「さあ、君もおいで。綺麗に捌いてあげるからね」

完全に私が記憶を思い出した所で、私の身体は鷲に掴まれたネズミの様に人間の手に捕まれて外の世界に連れ出され、私は絶句した。


光輝く部屋には沢山の私と同じ狐族の剥製や毛皮が壁一面に貼り付けられており、その中には……。私のお父さんがいた。

真っ白になっていた頭の中に一気に燃え上がる様な怒りの感情が沸き上がり、私は大好きなお父さんを殺した処か、おもちゃにした人間の白く部厚い手に口元だけを必死に動かして噛みついた。


「ぎぃ……ぎぎゃあ……!!」

「おっと! 軽い麻薬を受けて意識を保つ事すら困難なはずなのに、噛みつこうとするだなんて。安全手袋をつけておいて正解だったよ。うん、気に入ったよ。君を捌くのは特別に最後にしてあげよう」


人間は噛みつかれたらネズミや鳥ならば致命傷となる筈だと言うのに、へらへらと笑って見せてから私を木製のミニテーブルに載せた後、再び私が入れられていた四角いケージへと手を入れて私の替わりになる生け贄を取り出す。


その取り出された痩せた子狐は、私の妹の風香だった。

風香は生まれつき身体が弱く、衰弱しきった様子で人間の手の中で身体をだらんと垂らしたまま、お父さんを殺したであろうエメラルドカラーのシートが掛けられた小さな椅子に座らされ、口元に何やら白いハンカチの様な物を当てられたかと思うと、風香の苦痛に満ちた表情は涎をだらしなく滴ながらだが穏やかな笑顔を浮かべていた。


「……オウイェイ?」

「何故わざわざ薬物を使うかですってポンドさん? それは彼等が苦痛に満ちた表情のままだと、買い手の御客様が罪悪感を感じられるから。そしてもうひとつは、私の大切な仕事を喜んで受け入れてくれる様にするためですよ!!」


そう言いながら人間は鉄の板に並べられた様々な鋭い刃物を一本一本をいとおしげに見詰めた後、二本の刃物を手にした人間はその刃物を軽く舐めた後、椅子に座らされた風香へとまるで食事をするかのように二本の刃物をかち合わせながら近付いて行く。


「風香!! 目を覚まして、風香!!」

私の声など風香には全く聴こえていないかの様に風香の目は天井を見詰めた微笑んだままであり、私は絶望に抗うように妹の名を叫び続けた。その声すら人間には歓声に聴こえているようで、人間は笑いを堪えながら遂に刃物の先端を風香のへそ部分へとゆっくりと近づけていく。

「風香ぁぁぁ!!!」


私が絶望的な現実を受け入れてしまい、涙ながらに妹の名を叫んだその時だった、天井から黒い煙が少しづつ入って来た事に気付いたのは。


「まずいっすよポンドさん!! 上の家部分が何故か燃えているみたいです!!」

「オウイェイ!? オウイェイ!!」

「うっす! 直ぐに脱出しましょう!! 反町さんも早く!!」


白い肌の男が何を言っているかは解らなかったが、どうやら彼等の住みかに火がついたらしく二人は慌てて逃げようとする姿を見て、私はもしかしたら風香やともに拐われたであろう仲間達と共に生き残れる希望が生まれたが、それは風香を襲おうとする男の狂喜に踏みにじられる。


「なぁにを言ってるんですか御二人とも? 此からが最高に盛り上がる所だと言うのに、投げ出せる訳ないじゃないですか……ひひっ! ひひひ……」

「こいつイカれてやがる……。ポンドさん、一先ず個々にある毛皮と持ってきた狐を連れて帰りまーー」


その時だった、煙が漏れ出していた小さな天井の扉が落下したと共に、白く力強い仙狐様が私達を助けに来てくれたのは。

「なっ、なんだこの大型犬並みにでかい白い狐は!?」

髪が無い男は突然の予想外の乱入者に懐から取り出した黒い鉄の(ハンドガン)を取り出して、破裂する音を三度仙狐様に浴びせかけるのだけど、仙狐様は身軽に避けてから白く綺麗な4本の尻尾の先端に青い光が宿ったかと私が感じた次の瞬間その青い光が炎の弾丸となって風香を襲おうとしていた男に浴びせられる。


「ヒギィヤアアア!!? 熱い! 熱いんだょぉ!? だっ、誰か、誰かこの火を消してくれよ!!!」

最初は足元からじりじりと男の身体を蝕んでいた青い炎はその火力を維持したまま、彼の罪を支払わせるかの様に男をじりじりと焼き尽くし、ついには灰にしてしまう。


勿論、その敵意はその場にいた人間二人にも向けられており。仙狐様は新たな青い光を尻尾に集め、唸り声をあげながら怯える男二人へと向けられる。

「こんな……こんな化け物が実在するだなんてあってたまるかよ!!」


先程自らの武器が通用しない事と、簡単に人間を殺せる力がある事を見せつけられ震える男を突然もう一人の肌の白い男が両手で担ぎ上げる。

「goodrack、タケェダァ!!」

「え、ポンドさん何を!? うわぁぁ!!」


男は仲間を逃がす為に、彼等がこの部屋に入る為に用いた今は四角い穴と化した入り口の外へと放り投げて脱出させた後、仙狐様の狐火に身を焼かれる事になる。その時彼が身体を焼かれながらも悲鳴の一つもあげずに、助けた部下に右腕を振り上げて右手の親指を立てて、見送った光景を未だに覚えている。


何故、私達の命をもて遊んでおきながら、何の罪悪感もなく自らを美観出来るのか。それは私の中で人間に対する強い険悪感が生まれた瞬間でもあった。


「助けに来るのが遅くなってしまい、すまなかった……」

人間の死に際を複雑な思いで見ていた私に仙狐様が声をかけてくれたのはそんな時だった、悔し涙と薬の副作用で震える私の身体を仙狐様が優しく舐めて慰めてくれたのは。


「助けに来てくださり……ありがとう、ございました……。お陰様で……うっ、ひっく……妹が助かりました……」

「……そうか、一先ずこの家から君の仲間を連れて出よう。私が彼等を炙り出す為に家を燃やしてしまったからな」


こうしてなんとか生き残った狐は私を入れて僅か4匹であり、皆痩せ細り立つことすら困難であった事と本来であれば冬眠を視野に入れなければならない冬の時期でもあったため、一命を取りとめはしたがそこから過酷な旅が始まる事となる。

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