#閑話02 少年と狐達が出会った日
次の本編の回想シーンとして用意した文章なのですが、思い出を語る人が秋葉とする予定だったのに佐々木家目線で語られる回想となってしまったため。閑話として投稿させて頂く事になりました。
狐である彼女達と関わりがなかった狐乃街がどんな場所だったのか、佐々木家の人達ときつ姉達のファーストコンタクトはどんなものだったのか。お楽しみ頂ければ幸いです。
――時は、望と仙狐が出会った13年前の雪が降りしきり銀世界となった狐乃街に遡さかのぼる。
まだ仙狐が稲荷神社に住み着く前の寂れた田舎街であった狐乃街にはまだ観光客処か高速道路すら無く。目ぼしい場所と言えば街の中心にある商店街と、豊かな田園や、畑と、6時間に2本程二両編成の電車が通っているだけというド田舎であった。
そんな住み慣れた街を、何時ものように御近所さん(山を越えた村)を御客さんとしてトヨタの白黒カラーの古いスポーツカーであるAE86トレノを配達車として用いて豆腐の配達を無事に終えた二人は、真冬の冷たい風と雪が降りだしている道をライトで照らしながら、帰路についていた。
「ふう~ふう~。お父さん見てみてー? 車の中だけど白い息が出るよ~」
この当時望はまだ5才の幼稚園児であり。幼い顔は少女に現在よりも近い彼は、車内でありながらふかふかの黄色いジャケットを着ており、頭のフードを被り、手袋とマフラーを着用しており。貼らないカイロを手の中で転がしながら運転手を勤める父に声をかける。
「すまねぇな望。ヒーターを修理するお金が無くてな……」
そう言う父建一も全身を防寒着を着こんだ姿であり、きつ姉達が訪れ狐乃街が発展するまでは豆腐の売り上げでなんとかその日暮らしをしていたのが佐々木家の実情であった。
そんな二人を乗せた車は外灯等無く、車のヘッドライトだけに照らされた軽く雪が積もっている山道の下り道に差し掛かっていた。
「流石に雪が降り始めたから誰もいねーな……。よーし……」
そう言ってアクセルを踏み込んで加速しようとする父を慌てて望は止める。
「お父さん、雪の日はスピード出したら駄目だよ!! 20キロぐらいでも簡単に滑っちゃうんだから!!」
「お、良く覚えてたじゃないか望……だが、これぐらいの雪なら何て事……」
建一がそう言い切ろうとしたした瞬間、望はライトに照らされた12メートル程先の雪道の中に何か白くきらめく物を望が見つける。
「お父さん白い何かが道の左側に倒れてるよ!! 右に避けて!!」
「なんだと!? ちぃ!!」
その指示と建一自身もその白いロールケーキの様な物を回避する為に速度を落とし、車を右車線のガードレールギリギリに寄せて見事に回避してみせ、ハザードランプを光らせながらスリップを回避する為にゆっくりと停車する。
そして車が停車した途端に、補助席からドアを開けて雪道の中に倒れていた謎の物体へと望は一目散に駆け寄った。
そこに力無く倒れていたのは、降り積もる雪に包まれながらも小さな四匹の子狐達に覆い被さり、守る様に衰弱して倒れている四本の白い尻尾を持った中型犬程の大きさの純白の狐であった。
望は息も絶え絶えになっている狐達を胸に抱えて、車へと急いで駆け出していき、ドアを開けて飛び乗る様に狐達を抱えながら助手席に座る望に、父が唖然としている姿を構わずに望は悲鳴をあげるように緊急性を伝える。
「はあはあ!! お父さん、家まで跳ばして!! 雪に埋もれていた狐さん達が死んじゃうよ!!」
「狐だとぅ!? 何で北海道辺りにいる狐が近畿圏にいるんだよ!?」
「細かい事は良いから早く!!!」
「……仕方ねぇな。ちゃんと狐達を押さえとけよ!!!」
「お願いお父さん!!」
下手に考える依りも行動すべきだと感じた建一は、無駄無く車を発車させ。やがて初期加速を終えた車はジェットコースターの様に70キロ以上のスピードで雪の下り道を車を滑らせながらも、見事なドライビングテクニックにより次々と道を走り抜けて行く。
その状況の中でも望は胸に抱いた狐達が苦しくならない程度に身体に密着させて体温をわけつつ、必死に声をかけ続けていた。
「大丈夫だからね!! もう少しで暖かい部屋で寝転がれるからね!? 諦めちゃ駄目だよ?!」
「ぎぃ……きゃぁっ……」
その声に答える様にか、食事をまともに取ることが出来ていなかったであろう身体がガリガリの小さな子狐が子供の悲鳴の様な狐独特の小さな鳴き声を出す。
その鳴き声からは今にも風に吹かれて燃え付きそうな小火の様であり、その鳴き声を聴いた望は慌てて撫でて暖めようとするのだが。
「ぎぃ……」
「かっ……かっ」
「やぁ……」
一匹の子狐が鳴き出したのを皮切りに、他の3匹の子狐達も助けを求める様に小さな鳴き声をあげ始め、思わずその悲惨な光景に感情が高まると涙腺が脆くなる望は少し涙ぐむのであるが、左肩に抱き抱える様に抱えていた白い狐が目をゆっくりと開き始め、その事に気付いた望と目が合わさる事になる。
「貴……様……。汚れた……手で、私に触れ……るな……!!」
白い狐がガラガラ声で言葉を喋った事にも驚かされるが、その目からは強い憎悪と殺意が滲み出ており、望を食い殺さんと威嚇するかのように四本の白い尻尾を扇の様に展開し、望の首元を噛み千切ろうとするかのようにゆっくりと口を開き。食い掛かるために後ろに顔引いて食い掛かろうとするのだが。
「待ってください狐さん!!! 今、小さな狐さん達は弱りきって苦しんでいます!! せめてこの狐さん達が元気になるまでは我慢してくれませんか!!」
「なに……?」
その叫びに勢いを削がれた白い狐は思わず口をぽかーんと開けたまま踏みとどまり、望は目を潤ませながら訴え続ける。
「みんな小さい声だけど、生きたいと叫んでるんです!! だから僕は何としてでも皆を無事に助けたいだけなんです!! だから今は許してください白い狐さん!!」
その心からの叫びと純粋な意思に完全に呑み込まれてしまった白い狐は、ゆっくりと尻尾を下げていき、気を張って疲れを誤魔化していた狐は自然と望の左肩に持たれかかり、沈黙する。
「信用……して良いの?」
耳元で囁かれる白い狐の戸惑いの声に、望は泣き笑いの様な顔で力強く返事する。
「任せて狐さん! 必ず僕が助けて見せるから!!」
「……そうか」
その力強い返事を聴いた白い狐は空気が抜けていくかの様に望に身を任せて行き、その口元には小さくではあるが笑みも浮かんでいた。
その様子を望は見届けつつ、自分が着ていたジャケットのポケットの中にカイロを入れ、ホカホカのコタツの様な状態で白い狐と小さな子狐達を覆い、狐達の冷えきった身体を暖めようと努力しつつ。無事に望達を乗せた車はまだ改築前で一階建ての佐々木家に到着する事となる。
「お父さん!! 子狐達をお願いして良い?!」
「任せろ!」
急いで風呂敷の様にして小さな子狐達を包み挙げた望のジャケットを建一は胸に抱えながら家えと入り、望は自らに身を任せてくれた白い狐を肩に担いで帰宅する。
そんな慌ただしく帰ってきた二人を居間で帰りを待ちわびていた割烹着姿の母由美子が迎えるのであるのだが。
「お帰りなさい二人とも……あらあら、また大変な御客様を連れて来ちゃったのね」
「お母さん! 雪道で倒れていたから身体が冷えきっているし、ご飯も食べていなかった見たいでガリガリなんだ! 人肌ぐらいに暖かい牛乳をお願いします!!」
「解ったわ、待っている間に身体を少しづつ温めてあげてね? 一気に暖めてしまうと、安心し過ぎて力尽きてしまうから声かけを忘れずにね二人共?」
「わかった!!」
かくして、元々は毛皮を剥ぎ取る為に密猟された狐達をきつ姉こと仙狐に救いだされ、佐々木家に保護された狐の子達は無事に一匹も欠ける事もなく生き残り。そこから狐達との良い関係が始まる事になる。




