おまけ:初デート前(月也×星良)
照れが先行して乗り気じゃ無いと言う星良を、二人で出かける方向に導いていく経過は、月也にとってなかなかに楽しい時間だった。
思っていることが表情に出やすい星良は、自覚していないが表情がくるくる変わる。『デート』と言われるのを嫌がりながらも、行き先の提案次第でぴくりと頬が緩むのだ。そして、実は押しに弱いところも可愛かったりする。
太陽とひかりが出かけることを聞いて弱気になっているのもあるのだろうが、それでも洗脳する勢いでデートに誘っているうちに、照れながらも徐々に受け入れてくれる様が可愛かった。
ツンデレさんだなーなどと、心の中でニヤニヤしている。ただ、太陽の事を想って陰を落とす姿を見るのは辛かった。
一番の幸せをくれる相手なのに、その相手を想うだけで胸が痛くなる感覚を、月也も知っている。月也はもうとうの昔に慣れて、痛みの感覚も麻痺してしまったけれど、その苦しさを忘れてしまったわけではない。だから、今の星良の気持ちがわかるつもりでいる。
月也は、授業中にぼぅっとノートを眺めながら手が止まっている星良に、ノートの端に書いたメモを丸めてひょいっと投げた。
突如現れた紙のボールに星良は驚いたように目を見開いてから、カサカサとそれを開ける。そして、中に書かれた言葉を見ると、半眼で月也を睨んだ。
『土曜日のデートは、どこか遊園地にする?』
わざとらしくデートの後にハートまでつけてみた月也に、星良は何かを書くとメモを投げ返す。
何を書かれたのかと思ってメモを開くと、デートとハートマークは乱暴に塗りつぶされており、その下に少し乱れた星良の文字。
『誰かに見られて勘違いされたらどうすんのよ!』
内心の星良の同様がにじみ出た文字に、月也は声を殺して笑う。別に、星良と月也がデートと称して遊びに行ったところで、はやしたてるクラスメイトはいないだろう。おそらく、月也が星良をからかってそう言っていると思われるだけだ。
そんな必死に慌てる星良の方が、自分をものすごく意識している。その素直さが、月也には可愛くてたまらない。
月也はむぅっと自分を睨んでいる星良の頭から悲しみが一時消去されたのを見て、笑みを返した。照れでも、怒りでも、悲しみよりはマシだ。
そう思う。
でも、できれば楽しい気持ちでいて欲しい。心からの笑顔でいて欲しい。
そう願うからこそ、月也はデートプランを色々と悩んでいた。星良が太陽とひかりのデートを忘れるほど楽しめる場所は当然。その上で、星良が猪突猛進で戦いを挑みかねない輩がいない場所でなければいけない。
星良の鼻がきくのか、呼び寄せてしまうのか、星良と出かけると高い確率で悪行を働いている連中と会ってしまうのだ。
月也とて、二人の事を考えさせないためのデートとはいえ、星良との時間を心ゆくまで楽しみたい。余計な邪魔などされたくはない。
やっぱり、あそこが一番かな?
現実を忘れさせるほど夢にみちたテーマパークを思い描く。外では身につけるのをためらうような帽子や手袋などを、 子供だけではなく大人ですら無邪気に装着して楽しめる場所。
あそこならば、星良が戦いを挑まなければ気が済まないような連中はいないだろう。
……たぶん。
出かける度に事件に巻き込まれる某マンガの少年探偵ばりに、不良と呼ばれる輩と遭遇する星良。夢の国にすら、そんな連中を呼び寄せてしまう気がしなくもない。
どうかその日くらいは平穏に楽しめますようにと、大して信じてもいない神に祈ってみる月也。
どんなに理由をつけようが、本心では月也もただ、一番好きな人との初デートを楽しみたいのだった。
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