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星と月と太陽  作者: 水無月
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エピローグ

 時の流れは速い。


 四人の関係は変わらぬまま、あっという間に半年が過ぎていた。



「僕だけ年下になっちゃった……」


 並んで歩いていた月也がわざとらしく肩を落としたので、星良は小さく息を吐いた。


「何言ってんの。あと三カ月くらいで月也も誕生日でしょ?」


「あ、ちゃんと覚ええててくれたんだ」


 とたんに笑顔になる月也。



 今日は6月21日。星良と太陽の誕生日だ。


 先ほどまで四人で誕生日会をしていたが、恋人同士の二人に気をつかって抜け出してきたのだ。ちょうど柴犬の凛の散歩の時間だと聞いて、今は二人と一匹で散歩をしている。



「9月30日でしょ。覚えてるわよ、毎年さんざんアピールしてくるから」


「だって言わないと星良さん一緒に祝ってくれなさそうだから」


 今まではそうだったかもしれない。お祝いの言葉は述べても、太陽が一緒じゃなければ誕生日会までしてないだろう。


 でも、今年は言われなくてもちゃんと覚えていたし、一緒に祝う気はある。それだけ、今までと意識が変わっているのは確かだ。



「プレゼント、何か欲しい物ある?」


「リクエストしていいの?」


 嬉しそうに答えた月也の瞳に、悪戯な光が宿る。これは危うい傾向だと覚え始めた星良は、さっと目をそらす。


「そこそこの値段で買えるものなら」


「……買えるものじゃなきゃダメ?」


「…………ダメ」


 甘くねだるような声に、星良の頬が赤くなる。月也が言いそうなことはなんとなくわかるが、未だに素直になりきれない自分がいた。


 今更、どう友達のラインを越えていいのかわからない。


「ダメかー」


 残念そうに、だが勝手に照れている星良を見て楽しそうに微笑みながら月也は呟いた。


 いつもこんな調子だ。積極的なようで、決して強引に距離を詰めようとはしない。星良が変わるのを、ゆっくりと待っている感じだ。


 でも、待たれると自分から最後の一歩を踏み出さなければならず、それが難しい。



「……そう言えば、初詣で何お願いしてたの?」


 ちょうど初詣にいった神社の前を通りかかり、星良はふと思い出して尋ねた。あの時は、答えてもらう前に緊急事態が起きたので、聞くタイミングを逃したままだった。


「んー、今現在は叶ってる最中かな? まぁ、物足りないと言えば物足りないけど」


「?」


 首を傾げた星良に、月也が甘く微笑む。


「出来るだけ長く、星良さんと一緒にいられますようにって」


「っ⁉︎」


「ね、神様が叶えることじゃないでしょ?」


「それは……」


 それでも、神にすがりたいほど叶えたいことだと言っていたのを思い出す。心臓が大きな音をたてて加速し、頬がどんどん熱くなる。


「神様じゃなくて、星良さんにしか叶えられないからね」


「……うん」


「でも、ご利益あるといいなぁ」


 神社の境内を見て微笑んだ月也を、星良はじっと見つめた。


 こんなにも想ってくれる人が、他にいるだろうか……。太陽への心が張り裂けそうに痛んだほどの恋心とは違う、思わずすべて身を任せてしまいたくなるような温かなこの想いを、いつまで押し込めておくのだろう……。


 その時、神社から一陣の風が星良たちを通り過ぎていく。それが、星良の背中を押してくれた気がした。


「……ご利益、あるかもよ」


「え?」


 思いもかけぬ言葉だったのだろう。聞き間違いではないのかと、キョトンと自分を見つめる月也の両肩に、星良は手を置いた。


 道場で戦いなれしすぎているからか、反射的に身を固くした月也に、星良は少し背伸びをして顔を寄せる。なれないからか、緊張しすぎたのか、思ったよりも強くぶつかってしまった唇を、一瞬で離した。


 目を見開いたままの月也から一歩離れ、真っ赤になった顔をなるべく見せないように横を向く星良。


「……前の、お返し」


 月也に突然された優しいキスのようにうまくは出来なかったが、素直に言葉に出来ない自分の精いっぱいの行動だった。


 月也が一歩前にでたのがわかったが、星良は恥ずかしくてまともに顔を見ることができない。だが、そっと伸ばされた月也の手が頬に触れ、月也の方を向かされてしまった。


「ご利益あったか、もう一度確認してもいい?」


 ふっと微笑み、星良の答えを待たずに月也の顔が近づく。星良は緊張で身を固くしながらも、そっと目を瞑る。


 優しく触れる、月也の唇。


 自分からしたただ唇がぶつかっただけのものとは違い、心も体も甘くしびれるようなキス。


 思わず息を止めていた星良が苦しくなりかける寸前に、そっと唇をはなした月也は、片手でそっと星良を抱きしめた。


「どうしよう。初めて凛が邪魔だと思った。両手でぎゅってしたいのに」


 片手で持っているリードやそのほか散歩グッズを、悔し気に少し揺らす月也。星良は緊張がほぐれ、月也の腕の中でくすっと笑う。


「きっかけが凛ちゃんだったんだから、見届け人でいいんじゃない?」


「それも、そうか」


 ふっと笑った気配がして、少し体をはなした月也の顔がまたすぐ眼前に迫る。


「もう一度、してもいい?」


「……ダメ」


「聞こえない」


 そう言って、再び唇を重ねる月也。その温かさが、今まで素直になれなかった気持ちをどんどんととかしていく。



 できるだけ長く、月也と一緒にいられますように――



 月也と同じ願いを、星良もそっと願ったのだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

本編はこれで終了となりますが、おまけの短編があと数話続きます。

そちらも楽しんでいただけたら幸いです。

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