episode 03 微妙な距離
夏休みになった。
それぞれいつも通りに振る舞い、何事も無かったかのように笑っていた。でも、気にしていたんだ。咲良のラブレター事件から、微妙な距離が三人の間にあった。
『こんなんで関係変わりたくない』
告白した祐介に、咲良はそう言った。でも、俺のせいで変わってしまったんだ。
だからこそ思ったんだ。もっと遠くへ行きたい。あいつらから離れたいと。そばにいたら傷つけてしまいそうだったから。
咲良も、祐介も、大切な友達だから。
決意した高校二年の夏。何をすればいいかわからなかった。しかし、とにかくどこの大学でも受かるように努力するべきだと思った。
そして母さんに頼んで塾に通うことにした。そりゃ、初めはびっくりされたけど、何だか嬉しそうにしていたな。
しかし、レベルの違いに圧倒されるばかり。逃げ出したい気持ちを必死で抑えて勉強に励む。
勉強なんて真面目に取り組んでこなかったんだ。こうなって当たり前。一年の勉強からやり直しな状態で正直、落ち込んだが仕方がない。
俺は一つの目標のために歩き始めることにしたんだ。
咲良には笑われた。塾通いが似合わないって。祐介にも笑われた。いきなりすぎて気味が悪いって。
俺が離れようとしていることは、多分知っている。それでも二人は俺を誘うことをやめない。
結局、断れなくてみんなで集まることの多い夏休みになった。勉強したり、祭りに行ったり、花火に行ったり、アイス食べたりと忙しく過ごす。普通の高校生の夏休みを思う存分満喫。本当に楽しかった。
俺たちの距離は高校三年になると、もっと開いた。
新学期のクラス替えで俺たちはバラバラになった。しかし、何となくギクシャクしていた俺たち三人にはちょうどよかったとも言える。
このまま離れるにしても、仲良くするにしても、今は距離が必要な気がしていたから。
咲良はどこにいてもムードメーカーで、そのせいかクラス委員を任されたと聞いていた。
行事があるたびに、忙しそうに走り回っているのを見かける。
だから、朝早くから学校に行くことが多くなって、自然と俺の家にも来なくなってしまった。
そりゃ、悲しくないと言えば嘘になる。でも咲良が楽しそうにしているなら、俺はそれでよかった。
毎日、爆弾おにぎりだけは教室に届けに来てくれていたし、それで満足だ。もちろん忙しいんだから作らなくていいと言ったけれど、頑なに作り続けている。
そして夏。
祐介の夢が叶った。毎日練習に励み、野球部レギュラーに選ばれた。
ますます頑張るようになり、甲子園予選大会で準優勝。残念ながら甲子園には行けなかったが、とても嬉しそうにしていた。
二人の活躍は聞かなくても耳に入る。俺は嬉しい反面、悔しくなる。
二人が青春していて、人間らしくて、物怖じせずに突っ込んでいくのが羨ましい。
だから俺は、活躍する二人を無視するように新しい道を探していたんだ。
ふと、どす黒い感情に潰されそうになるから。
こうしてお互いに自分たちのやりたいことをして、高校生活という限られた時間を過ごした。
もちろん話をしなくなったわけではない。友達としての付き合いはちゃんとしていた。
変わらない関係。多分、変わってしまったのは俺自身の心だ。妙に冷めていて、諦めが先行する。すごく年老いた気分になるんだ。
あいつらにも、酷く冷たい態度をとっていたはずだ。きっと気づいてる。
いずれ見捨てられるだろうって思っている。だから、悲しまないように俺から離れるんだ。




