表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒神学園神鳴譚 ~トンデモオカルト現代伝奇~  作者: 嶋森智也
第三章 蒼き夜空を統べる者
54/231

第六話 武内

 明たちは門倉の導きによって武内邸の中に入っていた。

 薄暗い廊下を十メートルほど進み、奥まった場所にある和室へと通される。

 そこは畳敷きの小さな部屋で、中央には木製のちゃぶ台が置かれていた。据え付けのテレビは箱のように大きなブラウン管タイプだ。

 とてつもなくクラシカルな──悪く言えば時代錯誤なたたずまいだが、一応電気は通っていた。

 ちなみにインターホンは裏通りにある勝手口に付いているらしい。


「土日はお手伝いさんが数人しか来ないの。それにみんなお年寄りばっかりだから、大声出しても誰も出てこないわよ。討ち入りしなくて良かったでしょ?」


 お茶の支度をしながらくすくすと思い出し笑いを繰り返す門倉。

 急須(きゅうす)の中身を混ぜるように揺らし、空いた片手で戸棚から湯飲みを引っ張り出す。手慣れた動きはまさに勝手知ったる他人の家という言葉の通りだった。


「あの……勝手に入っても良かったんですか? お家の人、誰もいないみたいですけど」


 控えめな態度で望美が聞くと、門倉は軽い調子で、


「いいのいいの。子供の頃からこんな感じだし、(あき)ちゃんも好きにしろって言ってるから」


 意外過ぎる愛称に明がぴくりと眉を震わせる。


「その(あき)ちゃんとかいうのは、あの海坊主のことを指しているのか? どう見たってちゃん付けするような輩では無いと思うが」


「あはは、まあそう思うわよね。あれでも昔は年相応に可愛くて……可愛かったっけ……あんまり変わらなかったかも……ごめん今の忘れて」


 絶望的な表情で肩を落とす門倉。望美が慌てて話題を変える。


「門倉先輩は武内会長と親しいんですか?」


「んー、二歳頃からの付き合いかしら。家も近いし、うちの家系は代々武内家に仕えてたから。さすがに父さんの代まで来ると普通のサラリーマンだけどね」


 さらりと言ってのける門倉。望美が圧倒されたように口を開ける。


「……武内家って、相当名のある家柄なんですね」


「何百年単位で続いてる家だし、影響力もそれなりにってところね。それほどお金持ちってわけでも無いけど」


 そう言うと門倉は苦笑。彼女の口ぶりからすると、武内家はむやみやたらに権威を誇示するような家風ではないのだろう。

 しかし明の予測が正しければ、彼らの祖先は皇族に匹敵するレベルの大人物のはずだ。


武内(たけうち)宿禰(すくね)……大和王朝の黎明期(れいめいき)を支え続けた謎の男。それが武内家の源流か」


 明の指摘を受けて、門倉が感心したように目を見開いた。


「夜渚くんは物知りなのね。私、武内宿禰ってもっとマイナーな人物だと思ってたんだけど」


「一円紙幣(しへい)のモデルにもなった男だ。マイナーと表現するのはいささか無理がある」


 武内宿禰といえば記紀神話にもその名前が登場する大和王朝の大幹部だ。

 何代もの天皇に重用されていたことまでは判明しているが、その人物像には不明な点も多い。一説には超能力の使い手、あるいは途方もない長寿であったとも言われている。


「七百年前の南北朝時代、武内家は南朝を支持していたと聞く。おそらくその時に生まれた分流の一つが、現在の武内家なのだろう」


 明が思うに、当時の武内家が南朝に肩入れした理由はその立地にある。

 後醍醐天皇が南朝を興した場所は、ここ飛鳥地方の目と鼻の先にある吉野の地。そして彼らの始祖たる武内宿禰も飛鳥地方の人間だ。


「武内宿禰はこの国の建国史に深く関わっていた。それこそ二千年前、神代(かみよ)と呼ばれる時代から、だ。きっと色々な秘密を知っていただろうな」


 語る明は、門倉がつばを飲み込む音を聞いた。

 推理の答え合わせを得ながら、明はさらに言葉を続ける。


「仮に、武内宿禰がこの地に何か(・・)を封じていたとして。その封印を見守ろうとする一族はどこに身を置くと思う? ……当然、ここだ」


 人差し指を下に向け、ちゃぶ台の中心を叩く。三人分の湯飲みが三角形を形作る、そのただ中に。

 そのまま指を振り上げて、門倉の顔に照準を合わせた。

 繰り出す言葉は、彼が渇望している答えを求めるものだ。


「答えてもらうぞ、門倉。八十神(やそがみ)とは何だ? 現神(うつつがみ)とは何だ? ──荒神とは、何なんだ?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ