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ガラスのユートピア

作者: 八本正幸
掲載日:2026/02/12

ガラスには古来から人を惹きつける特別な魅力があります。

あたなはこれから、この不思議な世界へと入って行くのです。

「今度の休みに、おじいちゃんのうちへ行こう!」とお父さんが言いました。

「おじいちゃん?」ユート(優人)くんは不思議に思いました。おじいちゃんは去年、お葬式をして、天国へ行ってしまったはずです。

「実は、おじいちゃんはもうひとりいるんだ。去年天国へ行ったのは、お母さんのお父さんで、今度会うのは、お父さんのお父さんなんだ」とお父さんは言いました。

 お父さんと、お父さんのお父さんは、お父さんが若いころに大きなケンカをして、それからずっと仲が悪くて、会っていなかったのです。

 でも、ユートくんが一〇歳になったことだし、仲なおりをすることになったのでした。

 その週の土曜日に、ユートくんとお父さん、お母さんは、お父さんが運転する車で、おじいちゃんの住む街へと向かいました。

 おじいちゃんは北国に住んでいました。

 人里からちょっとはなれた、高い山がたくさん並んだけしきの中に、大きな山小屋のようなアトリエがありました。おじいちゃんはそこで、ガラス工芸の作品をつくっていたのです。

 おじいちゃんは芸術家でした。

 最近も、大きな賞を受賞したのだそうです。

 初めて会うおじいちゃんは、白いヒゲを生やしていて、眼が鋭くて、ちょっと怖そうな感じがしました。

 でも、ユートくんが

「はじめまして、ユートです」

 とあいさつして頭をぺこりと下げると、ぶっちゃけたような笑顔になり

「おお、よく来たな。こんな山奥でびっくりしたろう」

 と言いました。

「怖い顔してるけど、中身は子供みたいな人なのよ」と、これも初めて会う、丸顔で人なつこそうなおばあちゃんが言いました。

 ユートくんたちは、まずはおじいちゃんの作品が展示されたギャラリーを見学しました。

 そこに並んでいたのは、今まで見たこともないような、色とりどりのガラスの器やランプでした。

 それらが光を反射してきらきらとまばゆく光ったり、光を通して見る角度によってゆるやかに色を変えたりします。

 色だけではなく、形もユニークでした。

 どこか遠い星から飛んできた宇宙船のようなかたちをした器や、キノコのようなかたちをしたランプ、人や動物のかたちをした置物もありました。

 ユートくんは、それらの作品の数々を眼を輝かせて見て行きました。

 ひととおり作品を見せてもらった後、次の部屋に通されました。

 そこは実際にガラス作品を作る工房でした。

 工房は暖房を入れていないのに、とってもあったかい場所でした。

 丸い穴が口を開けた炉の中で、赤というよりは金色に輝いて見える火が燃えていたからです。その火の中で、石の粉を主な原料としたガラスがどろどろに溶けて、ぐらぐらと煮えているようです。

「どうだ、すごいだろ」とおじいちゃんが言いました。「まるで生まれたばかりの地球のマグマみたいだろ」

 ユートくんは、この間お父さんと一緒に観た、テレビのドキュメンタリー番組で描かれた、地球誕生の映像を思い出し、深くうなずきました。

 おじいちゃんは、このガラスのマグマに金属の竿を入れて、先っぽに溶けたガラスを巻き付けて外へ出すと、色ガラスの粒をまぶし、再び炉の中へいれました。そして色ガラスをなじませると、大きなピンセットのようなもので、素早く形を整えて行きます。だんだん冷めて来たガラスは、夏祭りの出店で見た飴細工のように形を変えて行きます。

「ほら、出来た」

 あっという間に、それは金色に輝き、透きとおった龍の姿になったのです。

「すごい!」とユートくんは叫びました。「おじいちゃんは魔法使いだね」

 ユートくんの言葉に、おじいちゃんは顔をくしゃくしゃにして笑いました。おじいちゃんの顔は、仲のいい友だちのようだなと、ユートくんは思いました。

「それじゃ、これを見てごらん」

 そう言っておじいちゃんは、工房の窓際にあったテーブルにかけられた毛布を取りました。すると中からは、ガラスで作られた街のジオラマが現れました。ガラスの街は、窓からの光を受けて、キラキラとキラキラと光り輝いていました。

「うわぁ!」とユートくん声を上げました。

 すると、その声と同時に、ユートくんはガラスの街の中に入ってしまいました。

 見上げれば、デコレーションケーキのようなかたちの建物や、ロケットのようなかたちの塔が建ち並び、道端には、色とりどりのトカゲやトンボや猫や蝶々が、今にも動き出しそうに並んでいます。

 影がサッと動いたかと思うと、青い猫が路地の奥へ走って行きます。

 それを追いかけて行くと、大きな教会のような建物が現れました。扉を開けて中に入ると、天井からの光でまばゆいばかりです。

 その光の中に、女の子が立っているのが見えました。何だか、さっきの猫に似たような、眼の大きな女の子でした。女の子がユートくんの方を見て、ほほえみました。その眼が、万華鏡のようにくるくると回り、ユートくんは光と色の渦の中に呑み込まれて行きました。

「これは、まだ未完成だけど、ガラスのユートピアという作品なんだ」

 気がつくとユートくんは、おじいちゃんのとなりに立って、説明を聞いていました。

 ユートピアというのは、理想の街という意味だそうです。ユートくんは自分の名前の響きに似たユートピアという言葉がとっても気に入りました。

「おじいちゃん」とユートくんは言いました。

「ぼく、大きくなったら、おじいちゃんみたいな、ガラスをつくる人になるよ!」

                                   了



あなたはガラスのきらめきの向こうに、どんな世界を見るでしょうか?

それではまたお逢いしましょう。

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