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成長というより進化と言った方が…

 フィヴが俺の手に乗せた商品は、現在お菓子屋店舗で売り出し中の商品なんだそーだ。

 ひとつひとつ指で示しながら商品説明をしてくれるのに相槌を打ち、あいまに質問を挟んで答えてもらった。ことに、野々宮さんに食べてもらって助言が欲しい物は重点的に詳しい説明を聞き、その日はそこまでにして終わった。

 去り際のフィヴは、とにかくウーナの葉を使った菓子に気持ちを持って行かれてるらしく、別れを惜しむような素振りがまったくなかった。

 この順調な流れと向上心には、驚かされっぱなしだ。

 レイモンドの計画が、頓挫しないまでも複雑な問題を孕んでいただけに、フィヴの成長速度に感心した。

 俺がそう褒めると、フィヴは頬を染めて照れながら言った。


「私の持ってる時間は有限なの。やりたいって思える目標があるって、幸せなことだと実感したわ。……それを実行できる時間を持ってる私は……」


 あいかわらず潔い後ろ姿を見送って、俺が小さく欠伸をもらした。


 人生は有限だ。

 いつ何時、何が起こるか分からない。それによって、人生がそこで終わってしまう可能性だってある。

 そんな経験をして、人生は有限なんだと身にしみたんだろう。

 俺だって同じだ。

 俺が生きてる内に戦争なんてないだろーが、命を失う危険なんてそこらじゅうに山ほど転がっている。それは誰だって同じだ。


 しみじみしながら両手いっぱいの菓子を持って振り返った俺に、半分寝落ち気味だった野々宮さんが目を見開いた。

 中井が揺すってもすぐに寝そうだったのに。


「悪い。お待たせ。今夜はこれで終了だ。んで、これが等価交換したフィヴの店の商品」


 大小さまざまな大きさの商品が、紙とは違う材質の物ですべて包装されている。


「これが新商品とかで、野々宮さんにぜひ食ってもらってアドバイスして欲しいそーだ」


 野々宮さんと中井が、遠慮もみせずに次々と包装を解いてゆく。

 半透明のピンク色の包装は、開いてみたらデカい花びらだった。

 こんな大きさの花びらなんて、俺の……いや、俺たちの近辺では見たことがない。

 あるとしたら、珍しい物を集めた植物園あたりじゃないかと思うけど、たぶんこんなふうに使える花びらを持った植物なんてないだろう。


「菓子もだが、この花びらもスゲェ……」

「こっちの世界には、なさそーだよな。持ってキッチンカーを出ようとしたら戻るか消えるかするかもな」


 一番大きい菓子の包装を綺麗に広げた中井が、いつもの細目を見開いて観察している。ランタンひとつの乏しい灯りの中でも、それはなんか不思議な物だった。

 花びらを見て思い出す。


「あ、それでな。カップケーキの変化したカップ部分なんだけど」

「神様の葉っぱとかになったって?」

「そそ。で、それを使って菓子を作ってもらうことになってる」


 二人はいっせいに顔を顰めた。

 うん。その心境はとーっても分かる。

 普通なら捨てるはずのカップ部分を、お菓子の材料にして作ってもらうなんてのは……聞いてしまったらげぇーっとなるよな。

 俺がフィヴに提案した時、彼女も同じような顔をしたもんな。


「高確率で、その菓子はレイんとこのドラゴン肉と同じ効果が――」

「待ちましょ! 満を持して待とう! フィヴちゃんが作る、(あたし)に捧げるためのスィーツの完成を!」


 ……今の野々宮さんなら、ゴミが入ってても食いそうな勢いだ。

 崇高な信者の行いを褒めたたえる女帝は無視して、俺はちらりと中井に目をやった。


「まぁ、体に害がないなら食うけど……」


 得体の知れない肉を、まったく躊躇せずに食った男とは思えない繊細な言葉に、俺は笑ってしまった。

 食品衛生的見地から考えりゃ、ドラゴン肉もウーナの葉もどっちもどっちなんだけどー。


 ところで、フィヴのお菓子だが。

 俺や中井に構わず、野々宮さんはすでに試食していた。

 チョリ師匠は当然だが、俺や中井に気遣ってか人数分だけ渡してくれる。

 まぁ、試食ってのは複数の人に味見をしてもらって、その意見を参考にして商品開発するのが前提だ。たった二人に試食してもらい、「美味い」「不味い」が各一人だった場合、まったく参考にならないしな。

 とは言え、今の俺は試食係として全然使えない。

 なにしろ、先日のスィーツバイキングがいまだに祟っている。

 花びらの包装からでてきた、フィナンシェみたいなプチケーキ。見ただけで、鼻の奥と舌にあのこってりした香りと甘さが……。


「悪ぃ……。俺は欠片でいい」


 中井の手のひらに乗った楕円形のケーキの端を少しだけ摘まませてもらい、勢いよく口に含んだ。

 お? なんだろう。甘さはあるがしつこくない。ハーブか柑橘系の皮か実か? 後味がすっきりしてる。


「こりゃ、ジョアンさんとこの菓子よりイイな!」

「やっぱりー? あたしもそう思った。まだ、改良の余地ありだけど、誰かが作った商品を『商会の推し!』なんて言って売ってる物より、作った人間が「どうですか?」って出してくる物のほうが、断然価値ありだよー」

「そりゃ、仕方ないだろ。仲介業者と職人じゃ比べようがない」


 だよなぁ。

 本当に、そこにつきる。

 『菓子』で『甘く』て、『高級で貴重な材料』使ってつくられていて『誰かが美味い』と言ったから『商品として推します』じゃあねぇ。

 こんな調子で白パンを完成させようなんて、安易な考えで進まないでくれたらいいなぁ。つか、あの後、どーなったのか心配だけど。


「わー! これ、すごーい! アーモンドっつーよりピスタチオに近い風味がするサブレだー」


 うーむ。 だんだん店舗内が甘く香ばしい匂いに……。

 うへ。



 

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