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俺を、俺以上に知るやつら

 俺の説明に、なぜか大爆笑し出したバカップルと異世界兄弟。

 キッチンカーの窓の、あっちとこっちで笑っている。


「俺はさ、お前だけは俺を慰めてくれると思ってたよ……」

「モテモテ? だったくせに、何を気落ちしているんだ……ぷふっ」

「この野郎! お前も当事者なんだぞっ。俺とレイの間にもってことなんだからなっ」


 マギーの里帰りの翌日、ちょうど中井たちが来たこともあって、もう一つの異世界への窓を開けた。

 いかんせん、月光が届かない時は異世界に繋がらない制約あるだけに、月齢では月が出ていても、天候が悪けりゃ無理になる。そうなると、毎晩会える訳じゃないから、酵母やパン関連の話が優先のレイモンドたちと会う機会は、必然的に中井に譲ることになった。

 だから、あまり顔を出さなかった俺の近況が、話題の中心になったのは当然の流れで、訊ねられるままマギーを拾った辺りから話し始めた。

 マグが実はあっちの異世界人だったと聞いて、中井も野々宮さんも驚いて、猫に戻れないから帰郷したと聞いて肩を落とした。

 その流れで、自由自在に猫に戻れるなら、もしかしたら俺たちの世界と行き来できたかもな~、と軽く言ったこともを話したら、野々宮さんの眉がキリキリッと上がって凄く冷たーい目で睨まれた。


「透瀬。あんたにとっちゃ、いまだにマグは猫って無意識に思い込んでるのかも知れないけどさ、マグはマギーさんなのっ。判ってる? 世界は違うけど、彼女は人格を持った人なんだよ? それをペットにって……」

「あ」

「女性に対してさ、いつでも俺のペットに戻ってイイなんて、アホ? バカ?」

「う」

 返す言葉がなくて、俺はマジでがっくりその場に跪いてしまった。

 だからか……、フィヴたちのあの怒りを通り越して呆れかえった温い眼差しは。俺、とんでもないセクハラ発言したって訳だぁぁぁ。

 でもさ、ならなんでフィヴは俺を糾弾することなく、いきなり 「寂しいなら寂しいって言え」 なんて方向違いのことを言ってきたんだ?

 それを、ぼそぼそと言い訳混じりに伝えると、まずレイモンドと中井が揃って吹き出した。

 何だ! と少し尖った目を向けると、中井が笑いに歪んだ口を拳で押さえながら言った。


「フィヴちゃん、そんなに長い付き合いじゃないのに、お前をよく理解してるよ。彼女たちは、お前に他意はないってすぐに気づいて、その先にあるお前の心情に思い至ったんだろーよ」

「そうだな。なにしろ、私もフィヴもトールとは一度別れを経験している。こうして会えはするが、一緒にいることは出来なくなった。だから、マギーさんを引き留めるようなことを言うトールに、寂しさを見たのかも……」

 なるほど。

 俺より俺の深層心理を理解している友人たちは、だから笑って許しくれた訳か。あ、野々宮さんには説教されたけどなっ。


「そんなに、俺って分かり易い?」


 全員を見回してふと質問してみた。

 そんで、全員が一斉に大きく頷いた。

 おい! この間初めて会ったばかりのジョアンさんが、なんで一緒に頷いてるんだ! そこまで俺は明け透けで単純なのか!

 まぁ、――イイケドネ。


 でだ、それ以上俺の性格分析は止めてほしかったんで、もう強引にまた昨夜の話の続きを始めたんだが、そこにはもっと大きな墓穴が待っていた。

 彼女がどうやってこっちの世界に来たのか、マギーの本当の姿や年齢なんかを話し進めて、さあフィヴの大演説に関して意見を貰おうと、 「フィヴがさ」 と口に出した辺りで、ふと我に返った。

 あの時の俺を含めた三人のやり取りを、今ここで俺が話すってことは、自分の口であのフィヴの演説を再現しなくてはならないってことで、よくよく考えたらメチャこっぱずかしい状況になると気づいた。

 言われた俺が恥ずかしくってストップをかけたくらいの内容を、なんで本人の俺が……と思った瞬間、ぶわっと顔面に血が上った。

 いきなり口を重くしてしどろもどろになった上、最後には突然の赤面だ。そんな俺の一部始終見ていた彼らは、当然のことながら俺の百面相の事情を聞かないとおさまらなくなった。やっぱり無し! と、口を閉じたが、そこにいたメンバーの誰もが許してくれなかった。

 逃げかけた俺を中井は羽交い絞めにして押さえつけ、窓の向こうへ顔を押し出した。そして、久しぶりの近距離ご対面したジョアンさんが、凶悪な笑顔で迎えてくれた。

 傍らに座っていたレイモンドに視線で助けを求めたが、ヤツの目には興味津々って光が宿っていて、助けどころか逃がしてなるかってな感情が透けて見えた。

 結局、とっても不本意だけどぼそぼそと話すことになった。

 とにかく客観的に状況や会話の内容を伝え、最後にレイモンドに向かって問いかけた。


「俺たちって、神様認定の運命の絆で結ばれてんだってさ。どう思う?」


 そして、間髪容れずの大爆笑ですよ。

 なんで、当事者のはずのレイモンドまで笑ってんだって―の!

 こんな崇高な演説をしたのはフィヴであって俺じゃないのに、なんで俺が笑われて冷やかされなきゃなんらんのだっ。俺だって、そっちに入りたいさ。でも、フィヴから面と向かって告げられたのは俺だから、当事者の一人でもあるレイモンドに報告しただけなのに。笑われる筋合いはない。

 理不尽だぁ!


「しかし、こちらの世界よりも、人々と神の間が近いのだなぁ。聞いていると、まるで創世の頃の神話のようだ」

「ああ、こっちも同じ。神様が人を作ったすぐ後の距離感だよな」


 違う着眼点で会話を始めたジョアンさんと中井を無視して、拘束する腕から離れて後ろへ回った。いまだに顔面の熱さが収まらず、野々宮さんが持ってきてくれたウーロン茶を一気飲みした。

 月光だけが忍び込む店舗内に、のっぺりと俺の影だけが伸びている。

 深い絆の友達。……かぁ。

 二十歳もとうに過ぎた俺には、あそこまで正面切って特別な友人とは何かを語られると、もう照れくさくて居たたまれなく感じてしまう。

 あれは、年下の女の子だからできる――フィヴだから語れるんだ。

 ぼんやり物思いに耽っていた俺の前に、野々宮さんが空のグラスを突き出してきた。


「あー、聞けば聞くほどフィヴちゃんに会いたいっ。もう可愛いのぅ」

「マギーと接触を持ったから、もしかしたら繋がったかもよ?」

 

 手に持っていたペットボトルからウーロン茶を注ぎながら、僅かな可能性を提示してみたが、さすがの野々宮さんもそれを鵜呑みにはせず、肩を竦めた。


「まぁ、試してみても損はないけどね。ところで、フィヴちゃんのクッキー状況は聞いたの?」

「それがさ、マギーの騒ぎで聞き忘れた。つか、フィヴも何しに来たんだか、大演説したきりマギーを連れて帰って行ったんだよ」

「なーにやってんだか。彼女もアンタも」

「だよなー」


 思い返してみたら、フィヴはいたけど手ぶらだった気がする。でも、深刻な顔をしてる訳じゃなかったし、猫を飼ってるって雑談したらごく普通にノッてきたんだよ。

 ただの気晴らしだったか?

 相変わらず話が弾んでいるらしい中井たちをほっといて、俺はのんびりと後ろに回ってお茶をしていた。

 と、中井が振り返って俺を呼んだ。

 ちょっと不貞腐れながら窓へと近づく。


「これ、何だか分るか?」


 ジョアンさんの前には、ガラスのような透明な材質の瓶に入った、薄いピンク色の液体が置かれていた。

 ジョアンさんに目で触っていいか尋ねると、彼はこくりと頷いた。

 そろそろと手を伸ばし、人差し指と親指で瓶を摘まんでみた。

 高さは十センチ強で、形状は六角柱。開口部辺りから円柱になって窄まっていて、口には変わった材質の白いコルクで封がされていた。

 ちょうど、六角柱の透明なワインの瓶を想像してくれ。


「なに、これ? 飲み物?」


 逆さにしてみたり、軽く振ってみたりしながら、ジョアンさんと中井を交互に見やった。


「回復剤だってさ」

「回復剤?」

「つまり、薬師が錬金術で作った、不調や疲労を取り除く回復薬液(ポーション)だ」

「? それが、なに?」


 俺のあまりの鈍さに、ふうーっと深い溜息を吐き出したレイモンドが、ジョアンさんと中井の言いたいことを引き継いだ。


「現在、その瓶を使用して酵母を制作中なんだ。そして、その瓶だが、錬金薬師に依頼して作ってもらっている」


 はぁ? 魔法で? つか、それも薬を作る人が?


「なぁ、なんで薬師さんが瓶を作ってるんだ? 確か、錬金術師って別にいるとか言ってなかったか?」

「その瓶は、錬金薬師しか作れんのだ」


 眉間を寄せて、そこを親指の関節でぐりぐりしてる中井と、アホ面晒してぽかんとしてる俺。

 なんじゃそりゃ!


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