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35話 情報収集

 定期メンテとともに、いくつかのパッチが当たったらしい。その内容はレイドボスの実装、武器バランスの調整、不具合修正など。

 俺はそのパッチノートをスクロールする。流石にサブマシンガンとアサルトライフルの威力の低さは運営も問題視していたようで、これらの威力が上方修正される旨が記載されていた。


「レイドボスねぇ……」


 BtHOには所謂ボスモンスターというものが存在しなかった。いや、プレイヤー達が遭遇していないだけで、実はどこかで傭兵たちが来ることを待ちわびているボスモンスターがいるのかもしれないが。だとすると、それはそれで日の目を見ない彼らが不憫でならない。

 しかし、今回のパッチで公式がボスモンスターの実装を明言した。それと同時に気になる点もある。


 それは、今回実装されたのがただのボスではなく、レイドボスという点だ。


 レイドボスと冠されている以上、それが普通のボスモンスターではなく、それより一回り強い存在であることが予想される。そんなモンスターがフィールド上にポンっと配置されてないことを祈るばかりである。

 仮にその辺をボスモンスターが歩き回っていたとする。そうすると考えられる未来は初心者傭兵が餌食になり、フィールドは大破したパーソナルトルーパーで溢れかえる。

 考えただけでぞっとするな。今回のパッチで引退者が続出しないといいが。

 だが、普通の運営ならノンアクティブモンスターにするとか、ダンジョンの奥深くにボスを配置するとかするはずだ。しかし、BtHOにダンジョンは存在しないし、そもそもノンアクティブモンスターすらいない。つまり、デクスト然り武装盗賊団然り、どのモンスターもプレイヤーを発見し次第攻撃してくる。

 正直初心者に優しくないなとは思う。


 とりあえずログインしますか。

 俺はヘッドギアを装着し、ベッドに横たわる。BtHOのアイコンをタップすると同時に、次第に意識はゆっくりと闇の中に落ちていく。

 次の瞬間、俺の視界はまばゆい光に襲われた。


 先日格納庫でログアウトしたんだったか、視界は鉄の壁と多数のパーソナルトルーパーで埋め尽くされていた。

 フレンドリストを確認すると、ゲラルドがログインしていることを確認できたので彼がいる場所へファストトラベルする。どうやらゲラルドは第1区画にいるようだ。


「ゲラルド」


「よっ、ユウか」


 ファストトラベル時のエフェクトである光の粒子が落ち着くのを待たずに、俺は彼に声を掛けた。


「何でまた第1区画に?」


「何でって、そりゃレイドボスの情報を集めるために決まってるだろ」


 第1区画は大統領府は勿論の事、居住区、商業区、工業区がバランス良く配置されている。よって多種多様なプレイヤーがこの区画を訪れる。よってゲラルドは情報収集に最適な場所だと判断したのだろう。


「それで、成果はどうだったんだ?」


「あん? アプデ直後から情報を集めてたが、大した情報はない」


 ゲラルドが言うには目新しい情報はないとのこと。唯一気になった情報と言えば蟹を模したデクストが実装されていたくらいで、あとは真偽すら怪しい物ばかりだったらしい。


「しかし蟹ねぇ……」


「地上に出て確認したが、確かに蟹型のデクストはいたよ。ただな、弱いんだよ、あの蟹。まず小さい。足が遅い。あと柔い。初心者が的にして射撃の練習してたってくらいか」


「ゲームバランスを取るための雑魚モンスターかな。そこまで弱いと討伐依頼でカウントされるかも怪しいけど」


「そこは問題ないらしい。傭兵がカウントされたって話してて、それを聞いた傭兵が金稼ぎの為に地上に出まくっているそうだ」


 討伐依頼の報酬はいいからな。初心者救済の側面が大きいけど、悪くないアップデートだと思う。


 話し合いの結果、とりあえず地上に出てみようということになり、俺らは自分のパーソナルトルーパーに乗り込み、昇降機まで移動した。

 昇降機が動くのを知らせる警報を耳にしながら、それがせり上がるのを待つ。


 地上に出てその光景を目の当たりにした俺は、それが異常な光景であると感じた。


「なんか初心者多くね?」


 そう、地上には多数のPTトレーナー改修機で溢れかえっていた。

 ここまでEランク機体の割合が多いのは珍しい事だった。


『別のVRMMOから流れて来たって説が濃厚らしい。他のプレイヤー曰く、初心者なのに集団で行動している例が多いんだってよ』


「へぇ」


 プレイ人口が増えるのは嬉しいことだが、問題はタイミングだ。何故ボス実装というゲームバランスが取れるのか怪しいタイミングでここまで初心者が増えてしまったのか。

 昇降機付近にいる初心者たちはデクストを狩りに行くという様子すら見せない。


「彼らは何をしたいんだ?」


『まぁ、見てろって。じきに分かる』


 モニター越しに映るゲラルドは何か含み笑いをしている。

 彼に言われた通り、俺はそのPTトレーナー改修機たちを見守る。

 すると、そのうちの1機がスラスターに点火したのと同時に他のPTトレーナー改修機も一斉にスラスターを吹かす。

 それらの機体は不格好ながらも次第に宙を舞い、そして全機揃って空中でひっくり返り、地面に頭を打ち付けた。


『うわっはっはっは!』


「……ゲラルド、趣味が悪いぞ。彼らは本気で空を飛ぶ練習をしているのかもしれないし」


『俺が笑っているのはユウの苦虫を噛み潰したような変な顔にだよ』


「こうなることが分かってたなこの野郎」


『どうどう。そう興奮すんなよ先生?』


 意味が分からないので、俺はゲラルドにすべて話してもらうことにした。

 途中で彼の機体を掴んで揺らすという荒業に出た気もするが、きっと気のせいだろう。うん。


 要点をまとめると、HL杯優勝チームのエースが過去にPTトレーナー改修機で空を飛んでいたという、出所不明な情報がどこかで拡散されたらしい。

 それを初心者のみならず、色んな傭兵が実証するためにPTトレーナー改修機を地上に持ち出して飛行を試みているそうだ。なお成功者は今のところいないとのこと。

 破損しても大した出費にならない機体でやることはいいとは思う。そう思うが、複雑な心境であることも否めない。


 色んな遊び方があっていいとは思うが、その遊び方の一つが自分のプレイスタイルの模倣であることは予想だにしていなかった。

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