32話 複合装甲
そのゲラルド機から投棄されたシールドを見たミリアが、彼と入れ替わる形で前に出る。
この弾丸の嵐をやり過ごし、接敵さえ出来ればあとは敵の陣形が崩壊し、各個撃破の流れに持ち込めるはず。
事実、この予想は半分は当たっていた。そう、半分は――
『散開! ファイアアットウィル!』
ホリーの号令とともに、ミリア機がシールドを敵機の銃口に押し付けながらライフルを乱射した。
その銃声を皮切りに敵は陣形を崩し、散開し高機動戦へと移る。
可能であれば、その時に気づくべきだったのだ。敵の武装が少ないという違和感に。
俺のフォトンブレードの切っ先がよもぎ機の装甲に接触した。しかし浅い。それでも一太刀が通ったという事実は変わらない。だが、その余裕が若干の慢心を生み出してしまう。
返す刀でよもぎ機を一突きしようとした。この軌道、相手の機動力、互いの初速……間違いなく当たる。そしてよもぎ機は爆風をまき散らすはずだったのだが――
彼の機体の装甲が突如として剥がれ落ちた。
最初は何が起きているのか分からなかったが、俺の機体目掛けてシールドを投擲されたのを見た体が反射的に動き、そのシールドをフォトンブレードで撫で斬る。
赤く光る切断面越しに軽量級のようなフォルムをしたよもぎ機がフォトンブレードを引き抜き、跳躍して頭上から迫りくるのが見えた。
すぐさま俺は敵のフォトンブレードの軌道を読み、視線感知ロックをかけながらトリガーを引いてフォトンブレードを割り込ませる。そしてよもぎ機と俺のフォトンブレードが接触し、火花を散らす。
ミオンが『よもぎ達は面倒くさい』と言っていた理由が分かった。
重量級スタイルで待ちながら射撃しつつ、接近されたら複合装甲をパージして本来の姿である軽量級に戻り、敵と接近戦を繰り広げるんだ。
ようは、俺らは敵の策にまんまと嵌まった訳だ。
『ユウ! チェックシックス!』
ホリーの声を聴いた俺はレーダーを見ながらフットペダルを踏み込んだ。スラスターが火を噴き、機体は急上昇する。レーダーには下方に赤い点が2つあることを示していた。1つはよもぎ機、もう1つは援護に駆け付けた彼のクランメンバーの機影。
『初見で僕らの攻撃を躱すとは、やるじゃないか』
よもぎはオープンチャンネルでそう語りかけながら、スラスターに点火し上昇をする。そして俺の機体を追いかけてきた。もう1機の僚機も飛翔しそれに追従する。
クラン『ここは俺に任せて先に行け!』のメンバーは全員飛べるのか。おそらくそうだろう。流石はトップランカーと言ったところか。
「初見殺しも良いところだったよ。だけど初太刀を凌げた以上、こちらとしてはやることをやらないといけないんでね」
スロットルレバーを引き戻してフットペダルを踏み込む。機体は急激に減速して反転を試みる。その際にレッドアウトの兆候が出る。それを示すかのように、VR機器が警告音を発する。
それでも、俺は意識を失うことは無く反転を終え、よもぎ機に向かって突貫する。すれ違いざまにフォトンブレードを振り払うが、それは彼のフォトンブレードによって遮られてしまった。
そして、その奥にいる僚機に再び同じようにフォトンブレードを振りかぶる。当然、先ほどその光景を見ていた敵僚機はフォトンブレードでそれを防ぎ、光の刃を滑らせながら戦域から離脱していこうとしていた。しかしそれは悪手である。
俺は、その敵僚機に向かってフォトンブレードを投擲した。
『なっ……!』
敵僚機からそうボイスが流れる。
投擲されたフォトンブレードはジェネレーター付近に刺さっているが、まだ敵機は爆発しない。オーバーライド・ボタンを押して緊急シャットダウンを回避している可能性がある。
すぐさま俺は旋回しながらそのフォトンブレードが刺さっている場所にアサルトライフルの弾丸の雨をお見舞いする。
流石に装甲に穴が空いていた部分への攻撃は手痛かったらしい。敵僚機はベイルアウトし、その直後に青白い爆風が辺り一帯に広がる。
『やるね……! でも、それでも。君の刃はジキルには届かない』
「意味が分からないな!」
『なら教えてあげるよ。君では力不足だと……言っているんだ!』
その発言を耳にした時には、発光するフォトンブレードを片手によもぎ機が接敵していた。スラスターあるいは機体性能は向こうの方が上か。
彼は刺突を試みた。それを片方のフットペダルを踏んで半身になり回避する。すぐさま二の太刀が光の軌跡を残しながら自機に迫りくるが、それを俺はフォトンブレードで受け止めた。
その時、敵のAMSの駆動音とともにモニターがブラックアウトした。
器用なことをする。マニュアルでAMSの弾丸を発射して俺の機体のヘッドパーツ及びメインカメラを破壊したのだろう。
『これが僕の十八番でね。悪いが君の運命はここまでだ。その屍は僕らが乗り越えていく。だからこの先は僕らに任せて先に逝ってくれ』
全神経を機体が拾う音と駆動系統に集中する。
俺のフォトンブレードにかかっていた抵抗が急に消え、奥へと機体が去り行くスラスター音がする。敵はそのフォトンブレードで俺に止めを刺すつもりだろう。
刺突か? いや、ジェネレーターから外れたらカウンターを貰う可能性がある。だとすると、確実にコックピットとジェネレーター両方を攻撃するはずだ。となると、よもぎが取る可能性して高い攻撃方法は袈裟斬り。
その時、後方からドンッ! という音と共に1発の弾丸が飛来した。ホリー機による援護だ。
急に飛んできた弾を回避しようとしたのだろう。前方で減速用に急激に推進剤を消費する音が聞こえた。その音のもとへ、俺はモニターがブラックアウトした状態で突撃する。
『こちらホリー、ベイルアウトするわ』
俺を庇ったが為に、ホリーが犠牲になった。
「勝機!」
『それは蛮勇でしかない!』
左上方からフォトンブレード起動時の独特の音が聞こえる。
俺は、その見えない凶刃をフォトンブレードで防いだ。
『――っ! ありえない……』
よもぎ機のフォトンブレードを弾き飛ばしながら、俺は返す刀で敵機がいるであろう場所に向けて刃を走らせる。
腕部に若干の抵抗が走る。敵機を切断できたとみていいだろう。そのままスロットルレバーを押し込み、爆風に巻き込まれないように退避する。
そして案の定、後方から爆音と衝撃が自機に響く。
とりあえず一時的にではあるが、脅威が去ったのを確認した後、タッチパネルを操作しサブカメラを起動させる。
ヘッドパーツについているそれと比べると視野角に問題があるが、何も見えないよりマシだ。
『ゲラルド、ベイルアウトする!』
ナガフネから一筋の光が伸び、ゲラルドが脱出したのを確認した。その直後、彼の機体は爆発する。
1対2で凌いでいるミリアの援護に向かう。
俺の方に意識が回っていない一体にフォトンブレードを投擲する。それはコックピットに直撃したらしく、敵機は倒れこんだまま動かなくなる。
その一瞬の間に行われた出来事に動揺したもう1機に向け、ミリアが肩部PPMGを発射したところで俺らの勝利が確定した。
* * *
「いやぁ、まさか負けるとは思いもしなかったよ」
とはよもぎの一言。
現在格納庫で俺らは彼らと会話していた。
「偶然みたいなものっすよ。もし再戦したとなったら、二度目の勝利があるとは思えないっす」
「それも実力の内さ。……いいね、君の刃なら届くかもしれない」
「というと、どこに?」
「それは決まっているさ、雲の上の存在、トップランカー様にだよ」
そんな会話をしていると、後方から複数の足音。
「うーい。ユウ、やっほー」
よもぎはその人影を一瞥するや否や、俺らに断りを入れて退散した。
その人影の正体はミリオンダラーの面々だった。
ソフィーの後ろにジキルの姿がある。
「ああ、ソフィーか。久しぶり。ジキルも久しぶりって感じがするな」
「そうだな」
そんな淡々とした短い会話だが、通ずるものもある。
「期待している」
「その期待に応えられるかは分からん。だけど受けて立つよ」
ジキルはニヤリと笑みを浮かべ、俺とすれ違って格納庫の奥の方へ進んでいった。
「じゃあ、まったねー!」
「おーう」
決勝戦はジキルらミリオンダラーが相手か。
正直言うと勝てる可能性は相当低い。それでも、俺は彼との約束を果たさなくてはならない。
かつてあったであろう、BtHOを楽しめた時の彼を取り戻したい。そのチャンスはこれが最初で最後であるかもしれないのだ。




