30話 ECM
その青白い光を見た俺は、反射的に体が動いた。
視線が自然と敵の銃口に吸い寄せられ、視線感知ロックが働く。
右手の指が無意識の内にトリガーを引く。
しかし敵はスラスターを吹かせながら跳躍し、回避行動を取る。
自機のフォトンブレードが振り払われたのと、敵がPPMGを発射したのは同時だった。
迫りくる青い光の弾丸。それとフォトンブレードの光の刃が接触する。
次の瞬間、予想だにしなかった出来事が起こる。
PPMGの弾丸が無数の光の軌跡を残し、四方八方へ散っていった。
敵と俺はお互いに今起こった出来事に動揺していた。まさかフォトンブレードの切っ先で敵の弾を弾いたのか? システム上そこまで演算を行っているとは思わなかった。しかし現状問題、俺は被弾せずに済んでいるという事実がそのシステムの実在を証明している。
ポジティブな思考は得てして行動力へと変化する。先に手を打ったのは俺の方だった。フットペダルを限界まで踏み込む。するとフライトユニットが火を噴き、機体は急激に上昇を開始した。カリナCは跳躍して回避行動を取っていた敵中量級へ迫る。
敵――ミオンが取った行動は回避行動ではなくPPMGで反撃するというものだった。
その反応を見た俺は頭に疑問符が浮かぶ。初速で機動力に差がついているのに、何故彼女はそのまま上昇を続けて距離を取ろうとしないのか?
とにかく、その疑問符を頭の隅に置いておきながら、俺は彼女の機体とすれ違いざまにPPMGにフォトンブレードの刃を走らせる。敵機が持つPPMGは、銃口に収束した光を霧散させながら真っ二つに分かれる。
ミオンは破損したPPMGを投げ捨てながら、腰部ラックからサイドアームであるハンドカノンを引き抜いた。
『ジキルみたいな動き……! こいつ、飛び慣れている!?』
そのオープンチャンネルでの通信と共に、視界の隅で物陰から砂埃が巻き上がっているのを確認した。
返す刀でミオン機への追撃は中断し、そのまま飛行を続けて変速的な軌道を取る。
ドンッ! という鈍い砲撃音と共に俺の機体の足元を大口径の砲弾が通り抜ける。肩部カノン砲か。ECM持ちの伏兵がいたか。
俺はアサルトライフルでその伏兵に射撃を行う。この射撃が当たることは想定していないし、そもそもアサルトライフルの有効射程外である。しかし弾丸に当たれば装甲が削れるのは確かなので、敵機はそれを嫌がり物陰に身を隠し、そのまま俺はその敵機の位置をロストした。もしかしたらあの敵機は今頃障害物の裏を通り、ホリーらのもとへ向かっているかもしれない。
ミオン機はスラスターを微調整しながらゆっくりと着地した。その様子は極めて不慣れな動作をしているように見えた。
その一連の動作を見た俺は察した、彼女が出来るのは飛行ではなく跳躍なのだと。だから先ほど飛行で回避行動を取るという選択肢を取らなかったわけだ。
しかし、ECMが厄介だな。一旦ホリーらと合流するか。
俺は踵を返し、全速力で味方が固まっているもとへと向かうのだった。
『あっ、こらー! 待ちなさいよ! 男なら勝負しなさいよ!』
「タイマンがしたいならシングルマッチでもやればいいじゃん」
ミオンのことは放置しておき、ホリーらと合流する。
『ユウ!』
ホリーの声が聞こえる。
どうやら彼女らは接戦を繰り広げているようだった。
ECMのせいでレーダー照射が上手くいかないのだろうか、ゲラルドはあまり射撃戦に参加することなく、シールドを構えて最前線でタンク役をやっていた。中央にホリーが位置しゲラルドの援護をし、後方を警戒するバックアップマンをミリアがやっているという感じだった。
空を飛ぶ俺の存在に敵らが気付いたらしい。敵機の機動が急激に変わった。どうやら対飛行型パーソナルトルーパー用の機動を取っているかのようだった。
これは恐らくジキル戦用の対策だったのだろう。
ジグザグに移動する敵機がこちらにけん制射撃をしたあと、すぐさま奴らはホリーらと向き合う。
そのけん制射撃の弾丸を回避している最中の事だった――
『こちらミリア、ベイルアウトします』
ミリア機の側面にはフォトンブレードが刺さっていた。
さっき俺がとり逃した肩部カノン砲付きの機体か。あの時無理してでも抑えに行くべきだったかもしれない。
俺はバレルロールしながらスロットルレバーを押し込み、ミリア機のもとへ向かう。
ミリア機からシートが火を噴きながら上空に射出されたあと、彼女の機体は青白い光を放ち、次の瞬間爆発した。敵機はその爆風を影にしながら物陰の裏に回ろうとする。
しかし俺はそれを許さない。
『なっ……!』
その爆風の中から羽付きの軽量級が急に現れたのだ。敵はさぞかし驚いたことだろう。
敵は慌ててフォトンブレードを起動するが、その右腕ごと俺は敵の武器を切り落とす。勢いそのままに両脚部を切断した。
姿勢を維持する術を失った敵機が地面に倒れこむのを見ながら、すぐさま俺は飛行を続けてホリーらのもとへ向かう。
ホリーはゲラルド機の肩をマニュピレーターで叩き、背面を見ていた。背中合わせで死角を消し合っているのだろう。
『敵は残り3機。ユウ、相手のエースを抑えられる?』
「ミオン機だな? 行けると思う」
『ならお願い。残り2機は私とゲラルドでどうにかするわ』
「了解。んじゃやりますか」
射撃戦をしながらそんな会話をしていると、ようやくミオン機が参戦してきた。
スラスター性能はそこまでよくないな。Cランク相当だろうか。ECMが割とジェネレーターの出力を食っている可能性はあるが、本当にそれだけだろうか? 武装としてはPPMGとサイドアームとしてハンドカノンのみだし、何か怪しい気がする。中量級にしては装備に穴が多い。
『さっきあーしを置いて逃げたおばかさん、マジむかつく』
「デフォルトのスラスターを使っているあんたも悪いだろうに。どうせ隠し玉を持っているんだろ? ほら、お望みのタイマンをやってやるからさっさと使って来いよ」
『言わせておけば……!』
彼女はハンドカノンを散発的に発射してくる。
俺はそれを飛行しながら回避しアサルトライフルを撃ち込むが、彼女も急制動からジグザグ軌道に切り替えてそれを対処する。
両者ともに決め手に欠けるか、そう思われていた時の事だった。
ミオンのファイアレートが極端に落ちた。そして1射目、2射目。それらは虚空へ向かって飛んでいく。しかしその2つ射撃は俺の機動を制限するためのけん制射撃だった。
だから俺は悟った。3射目はカリナCに直撃するのだろうと。
事実、3回目で放たれた弾丸は俺の機体のジェネレーター部分目掛けて飛んできた。
しかし、その弾丸が俺の機体に直撃することは無かった。
VR機器がフル稼働している駆動音が俺の耳に残る。比較的口径の大きいハンドカノンの弾丸が肉眼で見えた。加えてある程度弾道を予測出来ていたことが大きく響く。
その弾丸を、俺はフォトンブレードで切り落とした。フォトンブレードの刃と接触したハンドカノンの弾丸は、溶接音のような音を発しながら溶け落ちる。
『うっそぉ!?』
俺はそのまま旋回し、ミオン機のもとへ向かう。
しかし彼女の機体はそこには存在しなかった。彼女の機体のスラスター性能からして、物陰までこの短時間で逃げ去るということは不可能であった。
俺は一度地上へ降りる。
左方に意識を向けると、空中から砲弾と対物ライフルの弾丸の雨を降らせているホリー機が見えた。それと時を同じくして、1つの青白い爆風が広がる。
その意識の揺れを見逃さなかったのだろう。ミオンが動いた気配がした。
背部から高周波振動ナイフの駆動音。
『にしし、頂き……!?』
彼女が驚いたのも無理はない。
なんせ凶刃が機体に届いたのは俺の機体ではなく、彼女の機体の方だったのだから。
機体の後ろを見るモニターなどついていないのに、何故俺が脇越しにフォトンブレードを背面に向かって刺しているのか、彼女からしてみれば不思議で仕方がないはず。
そのフォトンブレードを引き抜いて、俺はスロットルレバーを押し込んで前進した。
背後には2つの爆風が広がっていた。
* * *
「ちょっとちょっと! ユウだっけ? 最後の何あれ!? 説明してよ、わけわかんないし!」
「どうどう」
とりあえず手で静止してミオンを落ち着かせる。
その動作を見た彼女は、自分がどれだけ頭に血が上っているか自覚したらしい。ある程度溜飲が下がったようだ。
「順を追って説明するぞ。まず1つ目。弾を切り落とせたのは偶然の産物。2つ目、あんたが光学迷彩を積んでいることはスラスターの性能から察しがついた。3つ目、光学迷彩を使われたのに位置が分かったのは周りを舞っていた砂埃のお陰。以上」
「……ああ、納得。あーあ、相手にするならジキルの方がマシだったかもしれないし? 大穴も良いところだし、あんたたち」
実際俺らもそう思う。やってることはまだ人間読みされていないから初見殺しをしているようなものである。
先ほどの戦闘に関しては今俺が述べた通りである。対人戦でECMと光学迷彩をセットで使うというのは常套手段であるというのを聞いたことがあるし、実際にシミュレーターで遊んでいた時に遭遇したことがある。その際の戦闘場所が降雪地帯だったから、地吹雪で光学迷彩を使用していた敵の位置を割り出せたことがある、偶然ではあるが。そんな経験もあって、今回の最後は敢えて空を飛ばずに地上でミオンの出方を見たわけだ。
一方で、弾丸を切り落とせるということに気づいたのは本当に偶然である。あの時偶々フォトンブレードとPPMGの弾丸が接触していなかったら、今頃敗退していたかもしれない。
「次の相手、決まったそうよ。クラン――『ここは俺に任せて先に行け!』ってところが対戦相手で、リーダーがよもぎって人みたい」
ホリーが水分を摂りながらモニターを眺めていた。
「あーあ、よもぎと当たってやんのー。あーししらなーい。あいつらマジで面倒だから」
「って言うと?」
「教えなーい! 誰が敵に塩を送るかって言うの」
こやつめ……いつか一度分からせなくてはなるまい。




