29話 HL杯
HL杯が開催された。
地下都市ファリアはそれを祝して大々的に商売を興している。
流石に機体やパーツの値引きは早々されないが、各所に存在する飲食店は割引サービスを行っており、傭兵で溢れかえった街は喧騒に包まれていた。
『今回のゲストは昨年度のHL杯で、あのジキル氏の機体にダメージを与えたジェイク氏になります。いやー、今回の大会の参加者は中々の面子ですね。特別ゲストのジェイクさん、今年のHL杯はどうなると思いますか?』
『うーん、どうなんですかね。オッズからしてみても経験の差からしてみても、優勝するのはジキル率いるミリオンダラーの面々かと。でも今回は面白いパーティが居ますね。最大5vs5のスクワッドマッチで4人しか参加していないパーティがあります』
『新興クラン、コントレイルの皆さんですね。調査した結果、彼らの戦績は化け物級だと出ております。なんでも、4人しかいないという状態で勝率7割を維持したままミシックランクまで上り詰めたとか』
『そうなんですね。大体のパーティは戦績が最終的に5割ほどに収束しますから、まだ戦闘の数をこなしていないだけじゃないですかね? それにパーティメンバーが4人しかいないという事実がネックです。飛車角落ちで将棋なんてしたくないでしょう?』
『私は将棋をしないので何とも言えないのですが……。話は戻りまして、今回の優勝候補はやはりミリオンダラーの面々になります。パーティメンバーはジキル、ソフィー、サレナ、バルサス、ガーベラの5名になります。やはり彼らのパーティの花形と言えばジキル氏になるでしょう――』
街頭に設置されているモニター越しにその会話を聞いていた俺は、その辺で視聴するのをやめて歩を進める。
アリーナ内に到着する。その中は人で埋め尽くされていた。
とりあえず受付に話を通し、関係者以外立ち入り禁止されている通路を通って地下格納庫へと向かう。するとそこにはHL杯の参加者の姿が。
ジキルと一瞬目が合ったが、彼はすぐさま視線を逸らした。
ソフィーはこちらに向かって手を振っている。
少し離れたところにばう丸の姿も見えたが、彼は戦闘前にもかかわらずもう燃え尽きてしまったかのような空気を醸し出していた。
……ああ、トーナメント方式なのに初戦がジキル相手だもんな。そりゃそうなる。
俺はホリーらと合流し、情報共有する。
とりあえず変わったことと言えば、俺が複数のフォトンブレードを携行するようになったことくらいだろう。これは投擲武器として使うためのものだ。
そんな会話をしていたら、俺らの元へ近寄る人影が一つ。
「ねえ、ちょっといい?」
「ん? ああ、いいぞ。こっちも丁度やり取りが終わったところだし」
その女性アバターは俺のことを色々な角度から何度も凝視する。
「……んー、冴えないやつ。まあいいや。あーしはミオン、あんたたちの対戦相手。よろしくね!」
「おう、よろしく」
しかし、その反応が彼女の何かに触れてしまったらしく、ミオンは若干不機嫌になっていた。
「何? ジキルに気に入られているからって調子に乗ってる? あーしらじゃ相手にならないって?」
「それは君らと戦うまで何とも言えん。そもそもジキルに気に入られているわけではない。あいつ、さっき目が合ったとき即座に目を逸らしやがったぞ」
「なんか事前に仕入れた情報と違う……。ご愁傷様」
ミオンはしばらく考える素振りを見せる。
今さっき話したばかりだが、考えていることには察しが付く。言葉選びについてだろう。ちょっと棘があるからな。
「それじゃ、どっちが勝っても後悔が無いようにしようね?」
「それは勿論。じゃあ試合開始時間も近いし、そろそろ俺らは自分らの機体に乗るよ」
「――絶対に勝ってやるんだから」
宣戦布告を受けたとみていい。
ミオンはパーティメンバーの元へと戻り、地下格納庫の奥の方へと消えた。
時を同じくして、俺らも各々の機体に乗り込み、システムを立ち上げる。
『System All Green』
カリナC、頼むぜ? せめてジキルとの約束だけでも果たさせてくれ。
* * *
大会規約にも書かれていたのだが、録画用のドローンを参加機体各機に追従させるというものがある。
要は観客たちに普段のアリーナよりも状態の良い映像を届けたいのだろう。
昇降機が上がり切り、試合開始までFCSと駆動系統が停止された状態で30秒待つこととなる。
『ユウ、調子は?』
「いつも通り。皆は?」
『私も普段と変わりないわ』
『同じくです!』
『俺もだな』
皆調子が良いようで助かった。
ただでさえ俺らは数的不利を背負っているからな。仲間が1人でも不調となれば、それだけで勝率は非常に下がる。
『5、4、3、2、1――0。試合開始』
合成音声の合図とともに、俺らは巡航速度で前進を始めた。
ホリー、ミリア、ゲラルドがスリーマンセルを組み各方位を警戒しながら進み、俺は索敵兼遊撃として先行する。
だから、普段なら俺が真っ先に敵と接敵する。しかし、今回ばかりはそうはならなかった。
『エンゲージ! 敵機がレーダーに映らない……。ECM持ちよ!』
『マジかよ! 俺の誘導ミサイルはECM持ちにレーダー照射しにくいんだよ、ロックまで時間がかかる』
後方で発砲音と爆発音が鳴り響く。
しかし俺はそちらにばかり意識を向けるわけにもいかない。
ECM持ちということは、基本的に敵機がレーダーに映らない。ということは、有視界戦闘に天秤が傾くわけで――
その悪い予感が的中した。
障害物の奥に敵がいないか確認すべく、俺はその障害物の前まで移動した。
すると、スラスターを吹かす音が奥から聞こえる。その音は徐々に高い位置に移動していき、障害物の上で金属音。
ああ、そうか。
大会に出られるようなメンバーが飛行できる可能性を考慮していなかった。
『にしし、もーらい!』
頭上でPPMGの青白い光の粒子が収束する音がし、銃口からその光が見える。




