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27話 ばう丸

 ホリーがベイルアウトした。


 味方機は全滅し、現在俺は1:2の窮地に追い込まれている。

 敵機は12方向に1機と、4時方向に1機。


『おい、ばう丸! シミュレーターで91連勝は伊達じゃないんだろ? 早くあの羽付きを倒せよ!』


『無茶言うなってんだ! 相手が飛べるなんて聞いてないっての! 奴の腕前はトップランカー並みだよ!』


 ばう丸と呼ばれた、敵のエースの操作技術がかなり高い。

 事実、彼とそのパーティメンバーの連携にこちらは手を焼き、まずゲラルド機が撃破、次にミリア機、その次にホリー機という順で撃破されていった。


 彼――ばう丸は面白い戦術を使う。

 フォトンブレード何本も携行しており、それを投擲するのだ。

 その威力はとてつもなく、直撃すれば装甲貫通は必至。かなり厄介な戦い方をする。

 それはこの戦闘でも何度も猛威を振るっており、2対1から辛うじて1対1に持ち込んだところでそのフォトンブレード投擲が俺のカリナCの右脚部に直撃し、右脚部のスラスターの機能が停止した。


 こうなるともう飛行は出来ないな。

 減速しながら着地するも、右脚部が損傷しているためまともに立つことすら出来ず、俺の機体は地に伏せる。

 ばう丸機は俺に近寄るようなことはせず、フォトンブレード投擲でトドメを刺すつもりのようだ。


 だが俺がそう簡単に諦めるような性格をしていると思うか? チュートリアルでボロボロにされた状態で、特攻して敵機を撃破したような奴だぞ?

 それを再現しようではないか。


 フライトユニットと左脚部のスラスターが火を噴く。そしてフォトンブレードを起動した俺の機体は、錐揉みしながら敵機へと突っ込んでいった。


『まっじかよ! これだから飛べるやつってのは――』


 その続きの言葉は聞こえなかった。投擲されたフォトンブレードが俺のカリナCの動力部に直撃したためだ。

 シートの横に取り付けられている緊急時用のレバーを引くが、ベイルアウト機能が作動しない。どうやら機体が横たわっているのが原因なのか、はたまたベイルアウト機能そのものに損傷を受けたのか……その辺は定かではないが、シートの下辺りで異音がしているのは感じる。

 うわぁ……。BtHOで初デスを経験するのか。

 次の瞬間、俺の視界は白一色に包まれた。ジェネレーターが爆発したのだろう。VR機器経由で痛みを感じる事すらなかった。つまり即死である。


 そうして、すぐさま格納庫にリポップしたところでリザルトが発表された。



 * * *



 先日昇格し、現在はマスターランク帯にいる。しかし、勝率は徐々に低下していっている。

 といっても勝率は良い方らしい。何故それが分かるかって? 戦闘後、ばう丸さんと格納庫で遭遇して情報交換したからである。


「いやぁ、勝率7割って凄いじゃないですか。ユウさん方ならすぐにミシックに行けますよ。クラン、コントレイルって初耳なんですが、メンバー募集とかしてないんですか?」


「完全身内クランなんでメンバー募集はしてないんっすよ。なんかすみませんね。それにしても、ばう丸さんのフォトンブレード複数投擲はびっくりしたっすよ。あれ、パクってもいいですか?」


「ユウ、それって大丈夫なの?」


 ホリーがそう心配する気持ちも分かる。

 基本的に対人戦で奥の手を真似されることをプレイヤー達は嫌がる。その対策をされたら切り札が無くなるようなものだ。かといってやられた側からしてみればその手法の厄介さというのは嫌というほど理解しているので、パクられるときはパクられるのだが――。


「ああ、いいですよ」


「軽くないっすか?」


「別にあれは色んな人に真似されているんで。今更って感じがしてですね……。その代わりといってはなんですが、飛行の仕方をご教授して頂ければ――」


「まじっすか? ありがとうございます。それじゃフォトンブレード複数投擲は真似しますね。飛行の仕方についてですが、以前にパーティメンバーに送ったマニュアルが手元にあるので、ばう丸さんに送ります」


 そうしてあいさつ文を添えたメッセージにファイルを添付して、ばう丸さんに送信する。


「ありがとうございます! これで俺もトップランカーみたいに飛べるようになれる!」


 ばう丸さんはミシックランクに属しているらしい。そんなトップランカーがひしめき合う中、自分らが飛べないことにコンプレックスを抱いていたと語ってくれた。

 だが彼は知らない。そのマニュアルには罠が仕掛けられていることを。


「話は変わるんですけど、コントレイルの皆さんは次の大会には出ないんですか?」


「大会ってあれか? なんだっけ、なんとか杯だかなんとかカップってやつ」


 ゲラルドのやつ、うろ覚えじゃないか。


「HL杯ですね。ホライゾンラインの略称らしいですけど」


「へぇ。面白そう。ジキルとか出るのかな?」


「……ジキルっていうと、トップランカーの? あのミリオンダラーのジキル氏?」


「ええ、そうっす」


「彼はイベント事には結構顔を出すので、間違いなく出てくると思いますよ」


 その言葉を聞いた俺はホリーらの顔色を窺う。

 どうやら彼女らもその大会に参加をしたいようだった。真剣な表情を見ただけでそれが分かる。


「皆やる気みたいなんで、俺らも出る事になるかと」


「それは良かった。それじゃ大会当日、会いましょう。参加申請はアリーナの受付で出来ます。運営が開催している大会なので。あと、1位を取ったら賞金が出るんで覚悟しておいてくださいね」


「どのくらいのBILLが貰えるんだろう」


「いえ、ゲーム内マネーじゃなくて、リアルマネーです」


「リアルマネェ!?」


 ミリアが素っ頓狂な声をあげた。

 彼女がそんな声を出していなければ、俺が叫んでいた所である。


「はい。と言っても色々と参加条件はあるんですけどね。まず最低でもマスターランク帯でないと参加は出来ませんし、最終的に運営側が参加者を決めます。そして勝ち抜きのトーナメント方式で戦うわけです。ちなみにミリオンダラーの面々はシード権で参加をすることになるかと」


 じゃあジキルが参加の意思を固めたとしたら、大会参加は確定になるんだな。


「ちなみに、その賞金額というのは……?」


 ミリアが恐る恐る質問をする。


「米ドルで100万ドルですね」


「日本円で1億超えるじゃねぇか!」


 とんでもない賞金額である。

 その後、ばう丸さん方と別れの挨拶を済ませたところで俺らはアリーナの受付へと向かい、HL杯に参加するためにエントリー用紙に必要事項を記入していった。

 そしてログアウトする直前の事である。視界の隅にメッセージが届いたことを知らせる赤アイコンがチカチカと光っていた。

 そのメッセージを開く。


『from ばう丸:何ですか、このマニュアル!? ユウさん達、こんなことをしていたんですか!? 記載された内容、嘘じゃないですよね? これ、人間が手動で出来るんですか?』


 罠にかかりよったな。

 俺は嘘はついていない、無罪だ。


『to ばう丸:うちのクランメンバー、全員それ出来ますよ。嘘は書かれていないです』


 その直後、メッセージがまた送られてきた。

 デフォルメされたアバターの口から魂が抜けている様が描かれたスタンプが一つ。

 俺は苦笑しながら、『ファイト!』とアバターが発しているスタンプをばう丸さんに送ってからログアウトした。

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