26話 コントレイル
第1区画の噴水へファストトラベルし終えた俺らは、先導するゲラルドの後についていき、彼が言う名店とやらへと向かう。
例のごとく、俺は車道側を歩く。その隣にはミリアとホリー。
第1区画は車通りも結構激しいからな。じっちゃんの教えが根底にあるといえばあるが、それ以前に彼女らの身を案じて率先して車道側に回ったという経緯がある。
そしてゲラルドは1枚の扉の前で足を止める。
扉の横にはドアベルがついていた。そのドアベルの上には野鳥を模した彫刻が飾られている。
彼は慣れた手つきでそれを鳴らす。
すると扉が開き、スーツ姿の男性が姿を現す。
「これはこれは、ゲラルド殿ではありませんか。後ろの方々はお連れの方でお間違いないですかな?」
「ああ、今回は4名だ」
「畏まりました。ではこちらへどうぞ」
スーツ姿の男性は俺らを店内に招き入れる。
ゲラルドは『今回は――』という言い方をした。ということはつまり、普段は彼女さんとこの店に訪れているのだろう。俺の推測が外れていなければ、だが。
そんなデートコースに選ばれるような店が寂れたような場所なはずもなく、店内には他にも客がぽつぽつと存在した。
店員に案内されて席へとたどり着く。
そのテーブルにはウッドチェアが2つと、ゆうに2人は座れるソファーが1つ。
ソファーは女性陣に譲るか。ということで俺は真っ先に奥にあるウッドチェアに座った。
その瞬間ゲラルドとミリアが目配せをし合う。あいつら何やってんだよ。
次の瞬間、ゲラルドとミリアは2人して自然な足取りでソファーに座った。
なんでだよ!? ゲラルドだって女性慣れしてるだろ! そこは俺の隣に座れよ!
それじゃホリーが可哀そうだろう? そう思い、隣に腰掛ける彼女の方を見るが、ホリーはまんざらでもなさそうな顔をしていた。
じっちゃん、俺は女という生き物の気持ちが分からなくなってきたぞ。『じっちゃんの教え~レディのエスコート編~』を参考にした、俺が出した解は最適解だったはずだ。だがホリーとミリアがソファーに座るという予測は外れ、現在俺の席の隣にはホリーがいることとなった。
「ここのコース料理がオススメなんだが、皆もそれでいいか?」
「俺は良いぞ」
正直席順にツッコミを入れたかったが、やめておいた。
「私もコース料理でお願いするわ」
「では私も同じものでお願いします」
ゲラルドはテーブルベルを鳴らす。
するとスーツ姿の店員がこちらへやってきた。
「ご注文は?」
「コース料理4人前で。アペリティフは無しで」
「畏まりました」
伝票に何かを記入した彼は、それを持って店の奥へと消えた。
「アペリティフってなんだ?」
その言葉を聞いたゲラルドはにやけ顔を披露する。
「お子様にはまだ早い。そのうち教えてやるよ」
そんな感じでどうでもいいことで談笑していると、早速料理が運ばれてきた。
「こちらはアミューズ・ブーシュになります」
小皿に入ったそれは、とても可愛らしい料理であった。
しかし一口分しかない。量が少ないのでは? とも思ったが、そういうものなのかもしれない。
俺らはそのアミューズ・ブーシュを一口で食べた。
魚介の旨味と、サワークリームの酸味が口内に広がる。
「おいしいです!」
「そうね」
「だろ? ユウはどうよ」
「勿論美味いって思ったぞ」
お洒落な上に味も格別ともなれば、次の料理への期待度も高まるというものだ。
「そもそも、ユウさんは何で射撃戦をあまりしないんです?」
「だってよ、あのアサルトライフルじゃ敵の装甲を貫けないんだよ。ミリアはいいよ? ライフルだから単発火力がそれなりにあるし。ゲラルドやホリーだって似たようなものだ。だけどな、アサルトライフルはな……」
連射系の武器は本当に豆鉄砲なんだよ。実際、武装盗賊団に襲われた際も、ホリーが乗るドランガは敵のサブマシンガンの弾を装甲で弾いていたし。あれはそのくらい火力が低いのである。
一方で、ライフルやスナイパーライフル、誘導ミサイルなどは火力が結構高い。簡単に、とはいかないが敵機の装甲を貫通できる確率は高い。そしてジェネレーターまで弾が届けば儲けもの。
「それならアサルトライフルを外してAMSを積んだらいいんじゃないかしら」
「それをやると俺、敵に放置されるか集中攻撃されるぞ」
届いたオードブルを食べながら俺らはそう会話する。
遠距離武器無しはなぁ……。FPSのナイファーじゃないんだから。
豆鉄砲と言えども、鉄砲は鉄砲である。撃てば嫌がらせは出来る。
「これがデクスト戦なら話は別なんだけどなっ?」
「流石ゲラルド、分かってるじゃん。元々対人戦なんてやることになるとは思ってなかったんだよ。その差はでかい」
色とりどりのオードブルを食べ終え、一旦ナイフとフォークを皿の上に置く。
「というと、ユウは最初、BtHOでどんなプレイをするつもりだったの?」
「ソロ専予定だった」
その言葉を聞いた3人は顔を合わせる。
「無理ね」
「無理ですね」
「無理だな」
「なんでだよ」
皆して何かに納得するかのように頷きながら、そう答える。
「だってユウさん、お人好しじゃないですか。現に困っている私のことを助けてくれたりもしましたし、ホリーさんに優しくするし、ソフィーさんも助けたりするし……」
魚料理が運ばれてきたので、それに口をつけながら俺は反論する。
「好きでやってるわけじゃない」
「一番性質が悪いやつじゃないですか。夜道には気を付けてくださいね」
「おいやめろ。ホラー展開に持っていくんじゃない」
「ミリアは言い過ぎだけどよ、お人好しも大概にしておけよ? そろそろ目を付けられるぞ?」
「誰にだよ」
「誰にって言うかだな……つまり、大きなクランにだよ」
ああ、そういうことか。
ソフィーの件を言いたいんだな。
ゲラルドが言いたいのは、俺がミリオンダラーのようなトップクランから勧誘を受ける可能性があるということだ。
スイーツを口に含みながら、会話に耳を傾ける。
「ユウ」
「分かってるって」
ホリー、そんな悲しそうな顔をするなよ。VR機器が表情をシミュレートしているぞ。
「――じゃあ、作るか?」
「何をです?」
「クランだよ。完全身内クランだけど、それで皆が安心するなら俺は構わんぞ」
ミリアとゲラルドがホリーの顔を一瞥してから、俺の顔を見る。
「意外だな。まさかユウがクラン作成の件を言い出すとは……」
「同感です。私はホリーさんが話を持ち掛けるものだと思ってました」
よく分からんが、何かしら感じるところがあったのだろう。
その原因が俺にあったのか、はたまたホリーにあったのかは謎ではあるが。
「私は賛成よ」
そのホリーの顔を俺は覗き込んだ。
もう大丈夫そうだ。彼女はいつものようにすまし顔をしている。
「私も大丈夫ですよ」
「俺もいいぜ」
「よし決まり。じゃあメニュー画面からクラン立ち上げをするぞ」
コース料理の閉めであるコーヒーを啜りながら、俺はメニューのコミュニティーページを操作していく。
そしてクランを立ち上げ、皆にクラン招待申請を出す。
「クラン名はどうする?」
「他の人に任せるわ」
「珍しいですね、ホリーさんが人任せにするのって」
「そうだな。まあ、皆飛行できるし、その線で名前を付けるのもいいんじゃねぇか? 独自の色を出せていいだろう?」
「飛行かあ……。じゃあコントレイルでいいか?」
「なんですか? それ」
「飛行機雲の英語名だよ」
そんな会話をしている間に、皆コーヒーを飲み終えた。
「いいんじゃないかしら?」
「そうだな」
「賛成です。ユウさんにしては良いセンスしてますね」
おのれミリアめ、俺をいじりおって。
初心者だったころのミリアはもう帰ってこないのか。
クラン名も決まったところで、伝票を手に取り会計を済まそうとする。
出来る男というのはこういうところでスマートさを出すのである。
しかし、しかしだ。悲しいことに、その伝票には目玉が飛び出るような金額が書かれていた。
正直俺の所持金では払えそうにない。
「仕方ねぇな。うちのクランリーダーさんはこういうところが抜けているからな。俺のおごりだ。ほら、伝票貸してくれ」
情けないが背に腹は代えられない。俺は伝票をゲラルドに渡した。
慣れた手つきで会計を済ませる彼の後ろについていき、俺らは店から外へと出た。




