21話 トップランカー
「そうは言うけどな、金が足りないんだよ。俺の操作方法の根底にあるのはフライトユニットだからな。あれをBランク以上に出来ない限り、機体を更新したところで大して操作感は変わらないぞ」
マニュピレーターが掴んでいるスコップを動かし、砂をトラックに入れながら俺は返答する。
ジキルは暫し考えた後、再びスコップで砂を掬い上げる。
『……気に食わない。ユウは何故上を目指そうと思わないのか。お前ならアリーナでミシックランクに到達することも夢ではあるまい』
アリーナってあれか、シミュレーターみたいに対人戦をするやつ。
ただしアリーナは実機でやるからGなどが掛かるという難点がある。
「アリーナねえ……。ジキルはアリーナで遊んでいるのか?」
『ああ』
つまりあれだ、彼は遊び相手が欲しいんだ。
ジキルの機体はただ砂を掬い上げているように見えるが、それはとても効率よく行われている。その上安定している。機体の重心にブレが生じない。これは機体OSの更新によるものだけとは思えなかった。
要するに、彼はパーソナルトルーパーの操作が上手い。
「じゃあ今度アリーナに顔を出してみるよ。ちなみに俺はどのランクの機体を買えばアリーナで通用しそう?」
『ミシックランクを目指すなら機体はDランク、スラスターはBランクで十分だろう。これはユウに限った話ではあるが。――本当に来る気か?』
「ああ、ジキルはまともに対戦できる相手が欲しいんだろ? 俺がその相手になれるっていうなら考えてもいい」
モニター越しに見える彼が若干口角を上げる。
『スクワッドマッチだ。そこで待っている』
「最大5対5のやつだな? 了解。約束な」
『期待している』
その一言を最後にジキルとの会話は途切れた。
すると通信機能一覧にプライベートチャンネルが立ち上がる。そこには俺らパーティ4人の名前が表示されていた。部屋を建てたのはゲラルドだった。
『ユウ、いいのかよ。ジキルってあのジキルだぞ? おそらくだが』
「あのってどのだよ。IDが違う、同名だけど別人のジキルさんかもしれないだろ?」
『いいえ、ゲラルドさんが言う通りです。ジキルさんはアリーナのトップランカーとして有名な傭兵です。現にあの機体――フランベルジュに乗っていますし』
俺はすぐさま端末を操作して、フランベルジュとやらの機体情報を集める。
ハリス・インダストリーが開発したBランク軽量級の機体であるとのこと。
「Bランク機体か。ジキルってそんなに有名なんだな」
『そうね。ソフィーの所属クランを聞いた時、もしかして……って思ったけど、やっぱりジキルと同じクランに所属していたそうね』
『マジで厄介な相手に目を付けられたな。勝算はあるのか?』
「んなもんはない」
別に勝ちたくて誘いに乗ったわけではない。ただ、モニター越しに映る彼の目が飢えた獣のような――あるいは現状に絶望を抱いているように見えたから、手助けをしたいと思っただけだ。
正直つまらなさそうにVRMMOを遊んでいるやつだなって感じた。だからかもしれない、遊び相手になってあげたいと思ったのだ。
「今回の非公開ミッションを終えたらあれを買うか」
『何を?』
「カリナCとBランクのフライトユニット。カリナCはチュートリアルで乗ったことがあって、前々から乗り換えたかったんだよ」
カリナCはDランクの軽量級だ。シールドを持たなくてもいい分、片方の手に射撃武器、もう片方の手にフォトンブレードを持てるからかなり攻撃的なスタイルになるだろうが。
『私も機体を買い替えようかしら』
『そうですね。私たちもアリーナに出る事になるでしょうし、ランクの高い機体が欲しいところです』
『俺もCランクの機体に乗り換えるか』
俺は申し訳ない気持ちになった。自分が勝手に話を進めて、パーティメンバーを対人戦の世界へ連れて行ってしまったからだ。
そんな俺の表情を見てしまった者が居る。
『ユウ、貴方らしくないわよ。もっと私たちを楽しい世界へ連れて行ってよ。いつもみたいに』
『って訳だな。男ならやるときはバシッと決めろ』
『そういうことです』
「……そうだな。ってことで、今回のミッションが終わったら一回ベラル国へ戻ろうぜ」
そんなことをしていると、作業員から『もう上がっていいぞー』と声を掛けられたので、ジキルを含めた俺らは昇降機まで移動して格納庫へ向かう。
その地下の暗闇を移動している間、俺は思考を巡らせていた。
トップランカーというのは文字通り、一握りの傭兵しか存在しない、雲の上のような存在だ。
果たして俺はジキルの相手を出来るような傭兵なのか? ……わからない。だからと言って、彼との約束をたがえるような真似はしたくない。
まあ、やれるだけやりますか。
しかしアリーナとやらの詳しいルールとか、制度とか……その辺を知らないからそこからスタートしないといけない。
幸いなことに、アリーナがベラル国にある地下都市ファリアにあるということだけは知っていた。
だから、ミッション報酬を受け取った俺らは地上に出てベラル国へと向かった。
次回第3章。




