15話 OS
眼下に広がる広大な砂漠を眺めながら、地下都市バランガードがあるとされるE5地点に向けて俺らは飛び続ける。
歩行が難しい砂漠地帯だ、武装盗賊団との接触の可能性は低い。だがデクストはどうだろうか。
所々に魔晶石があるのを確認した。魔晶石とデクストの存在は相関があるみたいだし、この砂漠地帯にも何かしらのデクストがいるとみていい。
そんな思考をしていたのがいけなかったのか、レーダーに赤い点が映っていることに気がついた。
正面に敵が複数いる。
「皆、近くに敵がいる。戦闘準備してくれ」
『ええ、わかったわ』
しかしミリアとゲラルドは返事をしない。何事かと思い、モニター越しに彼らの姿を見る。
どうやら飛行に悪戦苦闘しているようだ。これでは戦闘もままならないのでないか。
しかし、そんな俺らの事情を敵が理解してくれるはずもない。
『敵が来たわよ。デクストね。狐型と鹿型かしら。初めて見るわ』
「高度を維持しながら射撃するだけでいい。皆、落ち着いていこう」
砂地の上には無数のデクストがいた。それもそうか、サリンダー国は傭兵がいないから定期的にデクストを処理する者が存在しないんだ。
だとすると、この先もっと多くのデクストと遭遇する可能性がある。弾薬は節約するに越したことは無いか。
俺はフォトンブレードを起動する。それを合図にホリーが誘導ミサイルとスナイパーライフルの弾丸を射出して狐型のデクストをただのポリゴンへと変化させ、それは霧散した。
俺も負けてはいられないな。フットペダルの踏み加減を調整しながらスロットルレバーを押し込み、最大推力で前進する。
デクストとすれ違いざまに一太刀。鹿型のデクストは真っ二つになった。
ミリアとゲラルドも応戦しているが、どうやら射撃時の反動で機体のバランスを崩すらしく、いつものキレがない。
それでも、空中からの一方的な攻撃は効果が絶大で、俺らは被弾することなくデクストらを殲滅していった。
しかしその喜びも束の間。
『わっ!』
ガンッ! と金属に何かが当たる音。
ミリア機から聞こえたな。
『皆さん、鳥です! 鳥型のデクストがいます!』
まさか飛行能力を持つデクストがいるとは。
「散開して高機動戦に移行するぞ。自機を追う敵は無理に攻撃しなくていい。味方機の後ろに張り付いた鳥型デクストを撃ってくれ」
『了解ってなぁ!』
ゲラルドのビゼンは誘導ミサイルをばら撒きながらスラスターを吹かす。
俺らは地上にいるデクストの処理は後回しにし、とりあえず鳥型デクストの処理に回る。
ホリー機に追従する鳥型デクストに向け、アサルトライフルを連射する。意外にもその鳥型のデクストの耐久力はそれほどでもなく、簡単に倒せてしまった。
しかし三次元的な戦闘はホリーら3人を疲弊させていく。特にミリアとゲラルドの機体の動きが怪しい。ふらつくことが増えている。
『……っ! ゲラルドさん、ぶつかる……!』
『あっぶねぇ!』
ミリア機とゲラルド機が空中で接触しそうになった。互いにそれを回避すべく、片方だけフットペダルを踏み込んだのがいけなかった。2機とも完全にバランスを崩してしまい、砂地へ墜落した。
そこに鳥型デクストの追撃。ミリアは動けない状態でいながらも器用にライフルを使い、機体に向けて急降下をしては飛翔を繰り返すデクストを迎撃していく。
あちらは大丈夫だろう、ホリーも援護に向かったことだし。俺は誘導ミサイルしか搭載していないゲラルド機の援護に向かった。
誘導ミサイルは敵を追尾してくれる優秀な武装だが、敵との距離が近すぎると信管が作動せずにミサイルは爆発しない。近距離用の無誘導ミサイルは別だが。
よって、ゲラルドは敵に張り付かれると何もできないため、距離を詰められていた場合は真っ先に援護しなくてはいけない。
俺は急降下し、ゲラルドに寄って集る鳥型デクストを一太刀、返す刀はまたしてもデクストを切り裂いた。それを繰り返し鳥型デクストの殲滅に成功する。
「立てるか?」
『今やってる。……よっと』
ゲラルド機は姿勢を直し、スラスターから炎をまき散らしながら再び空へと戻る。
ミリアのほうも鳥型デクストの処理が終わったらしく、彼女の機体は既に空中に居た。
横から狐型やら鹿型のデクストが迫って来る音が聞こえるし、俺も高度を上げるか。
そうして俺らは特に鳥型デクストの警戒をしながらE5地点へ向かうのだった。
* * *
殿を務めた俺がデクストを数体処理しつつ、なんとかE5地点へ到着。そこにはぽつんと昇降機とタレットがあったので、早速帰還申請を出す。
昇降機がせり上がってきたので俺らは急いでそれに乗り込み、タレットに撃ち抜かれている狐型デクストを眺めながら地下へと向かった。
格納庫に着いた俺らはシステムをシャットダウンし、降機する。
しかし何やら周りが騒がしい。メカニック達が何かを話している。
「よ、傭兵だ……。実在したのか」
「ベラル国への援軍要請がようやく届いたのか?」
格納庫の隅っこで水分を補給し、休憩しているミリアたちを尻目に、俺は情報を集めるべくそのメカニックのもとへ向かう。ホリーはまだ余裕があるようで、彼女もついてきた。
「メカニックの兄さん方。いくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「あ、ああ。構わないぞ」
彼らの反応を見る限り、地下都市バランガードにとって傭兵というのは異質の存在らしい。
それはともかく、俺らは情報交換を行った。ベラル国がサリンダー国を支援すべくキャラバンを組もうとしている話や、この地下都市バランガードでは資源が枯渇しかけていることなど。
「そのキャラバンの話、本当なのか?」
「噂話の域は越えないけど、嘘はついていない。こっちもこっちで大変だな。EVACポイントがないから来るのに一苦労した」
「ああ……。EVACポイントは実はもう地上にあるんだ。ただ武装盗賊団がそこを使って侵入してくるもんだから、一旦折りたたんで地下に格納してあるんだよ」
だから地上にEVACポイントがないのか。
「武装盗賊団ってここにもいるのな、俺らは遭遇しなかったけど。奴らも飛んだりするんだろうか」
「ははっ。パーソナルトルーパーは基本的に飛ばないだろう? 傭兵なら知っていることじゃないか。まあ、武装盗賊団が砂漠でも行動できるのは飛ぶからじゃなくて、機体のOSをアップデートして砂地に適応させたからなんだよ。ちなみにそのOSは解析済みだ」
多分だけど、EVACポイントを使って地下都市に侵入しようとした武装盗賊団はタレットによって撃墜されたんだろうな。そして鹵獲されて中身を調べられたと。
「ほれ、このデータ・パッドの中に砂漠用の更新データが入ってる。よければこっちでOSのアップデートをしておこうか?」
「ええ、4機分お願いできるかしら」
「お安い御用さ。それじゃあ作業に移るから俺らはあんたらの機体をちょっと借りるぜ。なあに、すぐに終わる」
彼らに機体は任せて、俺とホリーはミリア達と合流するのだった。




