14話 カウントダウン
明日の長時間定期メンテナンスについて相談すべく、情報を共有するためにゲラルドを呼び出した。シミュレーター施設にやってきた彼を手招きして、近くにある休憩ブースへと移動する。
俺は受付でお金を払い、ドリンクバーの使用許可を取った。勿論4人分。大した額じゃないし奢りということでいいか。
席に戻り、皆が何を飲みたいかを聞き、ドリンクバーへ行き液体の入ったグラスを運ぶ。
そして俺も席に座る。
「おい、ユウ。あの飛行マニュアル……なんだよ、あれ。お前、マジであんなことやりながら飛んでるわけ?」
「俺が飛ぶ際に気を付けていることは一通り書いたけど、なんかまずいことがあったか?」
「大ありだわ。あんなことを簡単にできれば苦労しないっつーの」
「でも私とホリーさんは飛べるようになりましたよ?」
鼻高々にそう言うミリア。だが俺は知っている、俺の説明だけでは彼女が飛べなかったことを。
「マジかよ。ミリアやホリーはEランクスラスターでそれをやっているわけか。俺の機体はDランクだから皆よりスラスターの性能は良いはずなんだけどな。ユウの羽付きパーソナルトルーパーは別だが」
ゲラルドはビゼンというDランクの重量級に乗っている。武装は肩部誘導ミサイルが2門にシールドが1枚。
「お話が終わった後、ログアウトするまで私たちが一緒に教えましょうか? 特にホリーさんの教え方はとても上手ですよ」
「んじゃそうすっか。ミリア、ホリー。あとで飛び方を教えてくれ。ただ日付が変わる前までにして欲しいが」
「眠いのか?」
「そうじゃなくてよ。俺、彼女持ちなんだよ。ちゃんと相手にしないと捨てられるからな」
「おのれ陽キャのリア充め」
「ユウ。貴方、何言っているのよ……」
俺らは会話を一旦そこで止め、グラスを皆で当て合い、乾杯をする。
一口お茶を飲み、喉を潤したところで本題に入る。
ゲラルドとミリアに前哨基地での会話で仕入れた新国家の情報と、A10地点で確認した見えない壁の件を説明した。
「なんでまだ新エリアが解放されてないのに、兵士さん達はサリンダー国の情報を知っていたんですかね?」
「ホリーは運営のミスじゃないかって言ってたが」
ゲラルドは暫し考える素振りを見せる。
「俺はその情報の流出、わざとだと思うぜ」
「といいますと?」
「本命は新国家の情報じゃなくてキャラバンを組む話じゃねぇか? それ、どう考えてもユニークミッションだろ」
なるほど、運営は先にユニークミッションに関するパッチを当てたって訳だ。だからそのミッションに紐づけされた新国家の情報まで付与され、その件に関する会話をNPC達がしていたと。
だとすると運営は大型アップデート前に意図的に情報を流したということになる。
「そもそも明日になったら絶対に新国家が実装されるって訳じゃないしなあ……」
「それなんだけどよ、公式ページの隅っこで謎のカウントダウンが行われているんだが、そのカウントが0になるのは丁度定期メンテナンス終了後なんだ。お前ら、これを聞いても本当に何もないと思うか?」
公式ページなんて早々確認しないから知らんかったな。ゲラルドが持ち込んだ情報により、新国家実装の可能性が高まった。
「じゃあ新国家実装前提で話を進めるか。明日の夜7時にログインできる人、いる? ちなみに俺は可能」
すると全員が手を挙げた。
「じゃあ決まり。メンテが明けたら早速新国家に向かおう。一番乗りできるといいな」
「その辺は大丈夫だろ。BtHOの運営は不親切だから新国家の位置を教えないだろうし。なんせ飛び方すらまともに教えてくれなかったからな」
その言葉を聞いたホリーが口を開く。
「じゃあ今日の内に飛べるようにしましょう? シミュレーターに移動しましょうか」
俺らはシミュレーターに移動する。ゲラルドがシートに座り、機体を選びローカル・マッチングにしたのだが……肝心の女性陣達は何やら盛り上がって会話をしており、ゲラルドに飛行指導をすることはなかった。
仕方がないので、ホリーに教えた方法と同じやり方で教えることにする。
「何が楽しくて男の手を触り続けなくてはいけないんだ……」
「ユウ、すまんな」
「申し訳ないと思っているならフットペダルに意識を集中して一刻も早く飛行できるようになってくれ。……ホリーに教えたときは役得だと思ったのに」
「下心丸出しじゃねぇか」
「うるせぇ。俺だって意識しないように努力はしたさ、努力はな」
ゲラルドはその俺の言葉を聞いて大笑いしながら、フットペダルを操作する。事前に送ったマニュアルは役に立っていたようで、この調子だとすぐにでも飛行技術を習得しそうだった。
「ユウさん、めっ、ですよ」
「何がだよ」
「ユウさんのせいでホリーさんの様子がおかしくなったんです」
ゲラルドはふらつきながらも飛行できるようになってきたので、スラスターレバーと操縦桿から手を放してホリーの方を見る。
一瞬目が合ったが、ホリーはすぐさま俺から目を逸らす。
「ごめんなさい。今は貴方の顔を見れそうにないわ」
「……なんかすまん」
理由は分からんが俺が悪いんだろう。なら謝るのが筋というものだ。
じっちゃん。俺はじっちゃんが言った教えを守っているけど、本当にこれで正しいのか? 彼女らの反応を見る限り、どこかずれているような気がするぞ。
* * *
翌日の夕方、俺は早めに夕食を摂り、後片付けをする。
果たしてミリア達は時間通りにログインできるだろうか? ホリーは用事があることが結構あるし、ゲラルドは彼女がいるからその子との関係を維持するのに気を遣うだろう。だから今日、時間通りにログインするのが遅れるんじゃないかなって思ったわけ。
時計を見ると針は19時の5分前を示していた。俺はVR機器を装着し、ベッドに横たわる。意識が仮想現実へ飛んだのを確認し、視界の隅に映るデジタル時計を見つめる。
その数値が19:00を示したところでBtHOのアイコンをタップした。しかしすぐにはログインできない。何やら大容量のパッチが現在進行形で当たっているらしく、そのデータ更新を待つしかなかった。
待つこと20分、ようやく更新が終わったようだ。急いでBtHOにログインする。
フレンド一覧を見るが、誰もログインしていなかった。多分運営による大容量パッチの罠に嵌っているな。
ぽつぽつと他のプレイヤーもログインし出したらしく、シミュレーター施設は次第に賑わっていった。
すると隣で光の粒子が収束する。
「おまたせ」
「ホリーか。気にしなくて良いぞ。あのパッチは俺も想定外だった」
彼女と会話をしてミリア達を待とうとしていたのだが、それはどうやら必要なかったらしい。
またしても隣が光り出し、2人の傭兵が現れる。
「遅れてごめんなさい」
「なんだあのパッチ。すまん、俺も出遅れたぜ」
「俺とホリーもさっき来たばかりだから大丈夫。それじゃあ行こうぜ」
皆で頷き合い、格納庫へファストトラベルする。今回は戦闘になりそうだからきちんとシールドも持っていくことにした。そしてPTトレーナー改修機のコックピットに乗り込む。
『System All Green』
俺を含めて4機ともシステムを立ち上げたことを確認したところで、地上に繋がる昇降機に乗るのだった。その昇降機は稼働し、しばらくしてから地上へと出る。
緑が美しい地上で戦闘を繰り広げる他プレイヤー達を眺めながら、俺らは巡航速度でA10地点へと向かう。道中数回デクストと戦闘を繰り広げたが、難なく敵を撃破した。
そしてA10へ到達する。
昨日は見えない壁があったその場所へゆっくりと侵入する。その見えない壁は元からそこに存在しなかったかのように機体はすんなりと前へ進む。
マップを見ると、そこにはバタル国の物ではなく新しい地形が表示されていた。
「ふああああ……! 見てください、砂漠ですよ、砂漠!」
暫く進むと草木の存在は疎らになっていき、次第に緑の存在は少なくなり砂地が多くなってきた。
気付いた時には眼前には砂丘が広がっており、砂丘の影響で高くなった稜線のせいで奥は見えない。
「とりあえずサリンダー国を目指そうぜ」
「ええ、そうね」
そう言い、皆して砂地に足を踏み入れた、その時である。
機体が傾いた。俺は急いで左のフットべダルを踏み、バランスを取ろうとする。
寸でのところで機体はバランスを保ったらしく、転倒せずに済んだ。
「うおっ!」
「きゃっ!」
「わわっ!」
後方を見ると、砂に足を取られたホリーら3機は転倒していた。
「大丈夫か?」
横たわる3機はとりあえず膝をついた状態まで体勢を立て直し、そのあとスラスターを点火しホバリング状態に移行した。
「まともに歩けませんよ、こんなところ」
「そうね。飛んで移動しましょう? マップを見る限りE5に地下都市バランガードがあるそうよ」
「そうするか。それじゃあ移動を開始しよう」
奇跡的なバランスで砂地に立つ俺のPTトレーナー改修機もスラスターを点火し、飛行を開始する。
目指すは地下都市バランガード。EVACポイントがないため、直接メインの昇降機へ向かうしかない。




