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10話 夢のマイホーム

「家が欲しい」


 そう呟く俺。ホリーは『急に何を言い出すのだろう』と言いたげな表情を浮かべていた。


「地下都市にプレイヤーでも購入可能な家があるわよ? 個人で購入するか、クランの拠点にするかで話が変わってくるけど」


「そうなのか。でもさ、どうせ住むなら地上がいいな。夢のマイホーム、笑顔を振りまく嫁、楽しそうに庭を駆け回る犬……」


「その嫁候補さんはいるのかしら?」


「おいやめろ。夢を語っただけなのになんで大ダメージを受けなきゃいけないんだ」


「ふーん……」


 まるでおもちゃを見つけた子供のような表情を浮かべながら、彼女は俺の顔を見る。


「話を戻すぞ。で、試したいことがあるんだよ。地上って結構木が生えてるじゃん? あれって破壊可能オブジェクトなのかなって思ったのがそもそものきっかけでさ。壊せるんなら伐採してログハウスでも作れるんじゃないかって」


「そうね……。まず壊せるかが一つ目の問題でしょうね。次にそれが消えてしまわないか、それが二つ目の問題点」


「ああ、切った木が消えるのは盲点だった。いくら考えても結論が出ないな。とりあえず地上に出て試してみるか」


「いいわよ」


 もし家を建てることが可能であると判明した場合、両手が使えないと困りそうなのでシールドは出撃前に外しておくことにした。奴はこの戦いについてこれそうもない、すまんな。

 いつものように昇降機経由で地上に出る。

 地上に土地所有権があるのがどうか怪しいところだが、もし誰かに建物が邪魔だと言われれば解体して処分すればいい。とりあえず地上に建物を建てられるかもしれないという可能性がただの可能性でないことを証明するために行動に移さなくては。

 俺らは昇降機から少し離れたところにある林へ向かった。その林の隣は比較的なだらかな地面なので、建設の実験をする分には問題のない地形である。


「伐採道具はもちろんフォトンブレードな。ホリー、危ないからちょっと離れてて」


「うん」


 フォトンブレードの刃はすんなりと木の幹をすりぬけた。その時点で乱立する木々が破壊不可能オブジェクトという線は消えた。

 バキバキッという豪快な音を響かせながら木は倒れる。その倒れた木をパーソナルトルーパーで担ごうとしたところで、不思議なことが起こった。

 なんと、木が消えたのである。


「あー……消えちゃったか」


「やはり建設は無理なのかしら?」


 諦めムードになりかけていたが、視界の隅に映るインベントリアイコンの隅に赤い点がついていることに気がついた。

 何だろうと思いつつ、そのインベントリを開く。すると『New 丸太×1』という文字列を発見した。

 まさかの取得可能アイテム扱いである。これは盲点だった。勝手にインベントリに収納されたのに気づかず、伐採した木が消えてしまったのだと誤解したんだ。


「なんかインベントリに丸太が1本入ってるんだが」


「それなら家を建てられるんじゃないかしら。そうなると他の問題点も出るわけだけど」


「っていうと?」


「そうね、例えば建設可能エリア外で建設自体が無理だとか、建設後一定時間が経過すると家が消滅するとか」


「問題山積みじゃねえか。まあ一丁試してみますか」


 俺はフォトンブレードで木を伐採し、その倒れた木をホリーが回収してインベントリ内に一定量貯まってから開けた場所へ移動する。言葉を交わしたわけではないのに自然と連携作業ができていた。

 そして丸太が積み上げられていき、四角形のログハウスもどきが完成した。所謂豆腐ハウスである。

 感無量……! そんな新築の一軒家を眺めていると、1匹のデクストがやってきてログハウスを齧りだした。


「あーっ! 夢のマイホームがー!」


 急いでフォトンブレードを起動し、デクストを一突き。憎きデクストはポリゴンの欠片をまき散らしながら宙へと消えた。


「仇は取ったぜ、豆腐ハウス一号……」


「一号? 貴方、まだ家を建てる気なの?」


「気が向いたらな。しかしデクストかぁ……。これ地上だと家の維持無理じゃないか?」


 それもそのはず。俺らは現実世界での生活があるし、四六時中ログインし続けるわけにはいかないのだ。だとすると、ログアウトしている間にこの豆腐ハウスはデクストの手によって破壊されてしまうと推測される。


「一度地下に戻らない? NPCさんに相談すれば人材とか、防衛用の兵器とか手配してくれるかもしれないわ」


「ああ、昇降機出口付近にあるタレットみたいなやつか。その案に乗った。一旦帰るか」


 俺らは昇降機がある地点まで戻り、帰還申請を出して地下へと潜る。機体から降機し、格納庫入り口にある機体・パーツ販売窓口へ向かう。


「店員さん。設置型のタレットって売ってない?」


「タレットですか? タレットは販売しておりますが、これは傭兵の方々のライセンスでは取り扱うことが出来ません」


「というと?」


「つまりですね、元々この地下都市に住む方々しか購入できないようになってます」


 要するにNPC以外購入できないのか。

 そうなると地上にある豆腐ハウスを維持するにはNPCの協力を仰がなくてはならなくなる。


「それじゃあその地下都市の住人に手を借りたいんだが、何か伝手はないだろうか」


「何故そのようなことを?」


「地上に家を建てたんだがな、デクストに壊されそうで困ってるんだよ」


「少々お待ちください」


 ショップ店員はインカムでどこかに連絡を取り出した。しかしその話し方が仰々しい。やけに畏まった話し方を遠方の誰かとしているし、相手はいないというのに何度も頭を下げている。

 会話は終了したらしい。しばらくしてから彼女はこちらに顔を向けた。


「傭兵様方、今すぐに第1区画にある大統領府へ向かってください」


「……は?」


 ただ一軒家を建てたかっただけなのに、何やら話が大ごとになってきたぞ。



 * * *



 指定された場所へ向かうと荘厳な佇まいの、巨大な建物がそこにはあった。大きな鉄の門の前には警備兵らしき人と、使用人らしき人が立っていた。その使用人の前に行き、『ショップ店員にここに来るように言われた傭兵です』と伝える。すると使用人は警備兵に目配せをし、警備兵がインカムでどこかに連絡を入れたかと思うと同時に、その鉄門が開きだした。


 使用人に、明らかに高級そうな車のもとへと案内される。彼が後部席のドアを開けると、ホリーは一礼をしてから車に乗り込んだ。なんか慣れてない? 君。俺もそれに倣って同じ動作をして車に乗り込む。

 その車内はとても広かった。テーブルがあるし、その上には飲み物が入った瓶とグラスが複数置かれている。シートはふかふかで、まるでソファーのようであった。

 そんな広い空間なのに、ホリーは何故か俺の隣に座る。『なんでだよ』とつっこみたくもあったが、もしかしたら気丈に振舞っているだけで内心では畏まっているのかもしれない。俺の隣に座るだけで心が安らぐならそれでいいか、そう思いそのツッコミの言葉は飲み込んでおいた。

 そして建物の前に着き、俺らは降車した。


「広いわね」


「お、おう……」


「ユウ、大丈夫? いつもの調子はどうしたのよ」


 いや、貴方が場慣れしすぎているだけですって。ホリーって実はやんごとなきお方だったりしないだろうな? こちとらこんな総理大臣や大統領のような国のトップがいる施設に来ることになるなんて思いもしなかったんだ。そりゃびびる。

 使用人の人に案内され、廊下を歩く。廊下のそこかしこに高価そうな調度品が置かれている。

 しばらくしてから使用人は一室の扉の前で止まり、扉をノックする。


「入りたまえ」


 そう返答が返ってきたところで使用人はゆっくりと扉を開いた。

 その部屋は貴賓室であったらしく、複数のテーブルや椅子などが置かれていた。室内には2人の老齢の男性が立っていた。

 部屋に入室したところでホリーが立ち止まったので、俺もそれを真似する。すると2人の年配の男性がこちらへ向かい歩いてきて握手を求めてきた。どうやらゲストというのはまず最初にホストにもてなされるのが常識らしい。

 握手を済ませたところでお互いに自己紹介を始める。


「ベラル国の大統領、トリスタンだ。言葉は崩してもらって構わない。国と言っても形骸化したものであって、それはもう昔の遺物でしかない。この地下都市ファリアの統治をしている。よろしく頼む」


「地上開発省長官のアルベルトです。よろしくお願いします」


「傭兵をやっております、ホリーと申します。トリスタン様、アルベルト様。我々を気遣ってのお言葉、ありがとうございます。お言葉に甘えてこれからは言葉を崩させていただきます」


「同じく傭兵のユウといいます。よろしくお願いします」


 ホリーさん、あんた何者なんだ? 社交辞令が様になっていて吃驚した。

 大統領のトリスタンに、椅子に座るように促されたので俺とホリーが先に席に着き、そのあとトリスタンとアルベルトも座った。

 先に口を開いたのは大統領、トリスタンだった。


「地上に家を建てようとしたのは本当かね?」


 えっ、これ怒られるやつ?

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