EP37 美浦の特製お給仕プレート〜復讐者へのキックとともに〜
ついに始まったプレオープンイベント!
義人はまずおと格ゲーで対戦!
白熱のバトルは義人が勝利!
プレオープンイベントはまだ続く。
「グリーンカレー中盛り一丁!」 「俺、生ビール!」
昼前のホールは、もう戦場だった。
「オーダー通しまーす!」
美浦は軽やかに厨房へ声を届ける。
電磁コンロが唸り、ビールサーバーが泡を立てる。
「お待たせしました! 特製オムライスでーす!」
キャストたちが皿を次々と運び出す。
「みぽりん、二番にお冷!」 「はーい!」
美浦はフロアと厨房を行き来しながら、フォローに回る。
「ガイ・ヤーン、五番テーブル!」 「了解ッ!」
神谷が炎を操りながら皿を仕上げれば、キャストが即座に配膳へ。
午前10時とは思えない熱量。
義人はゲーム対戦の相手として接客。
美浦はホールで対応しながら、裏では皿洗い、片付けまでこなす。
「よしくん、焦らないで!」 「はいっ!」
互いの声が、確かな支えになっていた。
──その様子を、冷たい目で見つめる影があった。
「ふん……あんな“キラキラ世代”なんか、滅びればいい」
40代の女。
顔立ちは並だが、長身でスタイルだけはモデル並み。
名は 初代。
「全日本学歴復興委員会・香川支部」リーダー。
学歴主義の復権を掲げ、若者文化への強い憎悪を抱く集団。
高松郊外の廃校を拠点にする、異様な組織だ。
「さて……支部へ向かいましょうか」
初代は、自転車を走らせ10分で廃校に到着した。
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「初代さん、集合しています」
教室に入ると、6名が座っていた。
委員会は全国で400名。
小規模だが、一部の野党議員から支援を受ける“危険思想組織”。
「本日の議題は──街のコンセプトカフェです」
資料が端末へ転送される。
「あそこには世界的チームが体験に来ており、明日一日店長を務めるそうです」
「潰すべきです!」
「性的搾取の巣窟だ!」
「キラキラ世代を日本から根絶しなければ、我らの再建はない!」
怒号が飛ぶ。
彼らの言う“キラキラ世代”とは──
現在の自由な若者文化、クリエイティブ思考で生きる人々への蔑称。
「義務教育撤廃から15年……うちは没落したんだ!」
「個性の時代なんか悪夢だ!」
元名家の老父が叫ぶ。
初代は静かに頷いた。
「絶望は理解できます。しかし──私たちには手があります」
そのとき、参加者のひとりが立ち上がった。
「初代さん! 俺の母も教育者でした!」
滝坂。
昨日、梅田に“闇堕ち”した青年。
「あなたのお母様は救います。必ず」
初代は優しく囁く。
──その約束が、後に“破滅”へ変わるとは知らずに。
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その頃。
美浦と義人は休憩室でまかないのパスタを食べていた。
「よしくん、今日の夜ご飯どうする?」 「墓参りしてから、うどん食べに行くかな!」
和やかな時間。
休憩を終え、ホールに戻ろうとしたその時──
「困るんですよ!!」
神谷の悲鳴が響いた。
ふたりが駆けつけると──
「うるせぇ!! キラキラ世代に鉄槌を下すんだよ!!」
闇バイトの少年たちとともに、釘バットを持った滝坂が立っていた。
「滝坂さん!?」 「美浦……ようやくだ」
滝坂は、昨日の弱い青年とは別人だった。
瓶底メガネの陰キャから──
完全に“壊れた不良”へ。
「お前が家を出たせいで母さんは逮捕されたんだ!
大学も閉鎖された! 教育の権利を訴えて何が悪い!」
釘バットを振り回し近づく。
「そしてな──」
滝坂が笑う。
その眼は、正気を捨てていた。
「世界にちやほやされるお前がムカつくんだよ。
この店もろとも潰して、世間に思い知らせてやる。
今年のクリスマスは──」
滝坂が飛びかかる。
「俺達が中止にしてやる!!」
だが──
それは大誤算だった。
「はあぁっ!!」
美浦の後ろ回し蹴りが、滝坂の腹に炸裂した。
「ぐはっ!?」
滝坂は店外まで吹っ飛ぶ。
少年たちも、その余波に巻き込まれた。
「お、お前……いつの間に武術を……?」
「ふくろうスクール女子テコンドー部、キャプテンです!」
胸を張って宣言する美浦。
滝坂は悟った。
自分が知る“弱かった彼女”は、もうどこにもいない。
「くそ……暴行罪で……!」
スマホを取り出すが、痛みで倒れ込む。
「俺は……この“キラキラした時代”が嫌いなんだよ……!
眩しくて、鬱陶しくて……逃げ場がなかったんだ……!」
それは、時代に取り残された者の悲痛な叫び。
「認めねぇ……!
キラキラ世代も……今の時代も……!
何もかも認めねぇ!!
俺達は、この時代の犠牲者なんだ!!」
その叫びは、初夏の空へ虚しく吸い込まれた。
次回は美浦の両親の墓参り!
そして、テコンドー部の練習で新たなメンバーも?




