EP35 悪魔の媚薬とテコンドー
美浦はかつて人気子役として名を馳せていたが、ある悲劇により、教育虐待の被害者に!?
それでも、義人が自分を救ってくれたおかげで明るく振る舞っていた。
その一方で、コンカフェ狩りが始まろうとしていて!?
ホテルのエントランスに、体格の良い男が待ち構えていた。
「滝坂くん、だったね」
落ち着いた声──
四国州知事補佐、梅田吉蔵。
「あなた……知事補佐の!」
「ええ。ここでは立ち話も忍びない。さあ、どうぞ」
梅田は、滝坂をホテル最上階のレストランへ案内した。
黄金のシャンデリアが放つ光は、傷ついた若者には眩しすぎた。
「好きなものを頼みたまえ。宿泊費も含めて心配は無用だ」
「あ、ありがとうございます……」
滝坂は震える指でビールを注文した。
「お母様は、高校の教諭でしたね?」
梅田はワインを軽く傾けながら切り込む。
「はい。母は“エリートになれば幸せになれる”と……信じていました。でも、自由化で全部狂ったんです!」
「義務教育の撤廃……。政府は“個性”ばかりを持て囃し、あなたのような“本物”を見捨てている」
梅田の言葉は、まるで心の隙間に吸い込まれる毒。
「救済策もあるが、届かぬ者の方が多い……あなたは、その犠牲者というわけだ」
「そうです。個性の時代なんて……終わらせないと」
滝坂の瞳に、復讐の炎が宿った。
「母の保釈金もいる。どんな闇仕事でもやります……俺の人生、これで終わらせられない!」
「なるほど」
梅田は、ゆっくりと微笑んだ。
「では──保釈金は私の知り合いの弁護士が送金します。お母様の安全は約束しましょう」
「……本当ですか?」
「ええ。明日の朝、詳細を詰めましょう。今夜は──めぐみくんと休みなさい」
背筋が凍るほど滑らかな声。
滝坂はその優しさの裏の“牙”に気づかない。
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「滝坂様、こちらです」
めぐみが部屋まで案内すると、静かに扉を閉めた。
「で……やるべきことは?」
「簡単です。私の言うことに従うだけ──」
めぐみは、ゆっくりと口を開く。
喉奥まで覗けるほど大きく。
ジルコニアが光る白い歯列が妖しく輝いた。
次の瞬間──
甘い香りと熱い呼気が、滝坂の体を支配する。
「な、なんだ……これ……っ!」
「女性の間で流行っている“飲む男性媚薬フレグランス”。あなたの嗅覚だけを刺激し、理性を焼き切る」
国際条約で禁止された危険薬物。
めぐみは、微笑みながらその“毒”を滝坂に吸わせ続ける。
「これであなたは、先生の駒。快楽を得たければ──従いなさい」
「は、はい……!」
滝坂の瞼が落ち、深い眠りに沈んだ。
「先生、洗脳は完了しました」
「ご苦労。では……お母様の“処理”も、予定通りに」
梅田は、冷えた声で呟いた。
今夜、ひとりの少年の運命が闇に飲まれた。
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同じ時間。
義人と美浦はホテルのジムで汗を流していた。
「はっ!」
美浦の回し蹴りがミットに炸裂する。
「いいフォームだ、美浦! 安定してきた!」
「11月のアジアカップまでに完璧に仕上げるんだから!」
世界的に注目されるテコンドー大会。
美浦は団体部門で“稲毛アウルズ”の代表を務める。
「でも……後ろ回し蹴りが全然ダメなのよ!」
「それなら、新技を教える。BSOのガンカタ動作とテコンドーを合わせるんだ」
「そんな無茶な……!」
「美浦ならできる」
義人の言葉に、美浦の目が輝く。
「なら、明日ログインして練習ね!」
「夜も遅いし、今日は休もう」
二人は部屋に戻ると、同じベッドに倒れ込んだ。
「ねえ、よしくん。私の胸……気持ちいい?」
「な、なんでそんなこと……!」
「ふふ。抱き枕にしないと眠れないの」
美浦は、義人の腕にしがみつき胸を押しつける。
ドクン、と義人の心臓が跳ねた。
「……甘えさせて、ね?」
「わかったよ」
義人は美浦を優しく抱きしめ、眠りへ落ちる。
だが──
明日、ふたりが向かう“プレオープンイベント”で
彼らの平穏は粉砕される。
滝坂が闇に堕ちた夜。
悪意は、もう動き始めていた。
次回、プレオープンイベント開始!
激アツなバトルとキュートなお給仕に酔いしれてください!




