EP24 悪夢は必ず目覚める
ノーブレス・アンノウンの正体を突き止めた米軍の介入によってBSOの安全は守られた。
しかし、評議連合はこれで黙っているわけではなく……?
「たった今――《ノーブレス・アンノウン》は不正行為により、失格処分となりました!」
観客席がざわつく中、実況のレイナが鋭く通達を読み上げた。
「これにより、バウンドフィッシャーズは不戦勝。準決勝進出です!」
「……のはずなんですが、バッチン! 代わりに《リザーブ枠》を投入します!」
ジョージがいつもの調子で茶化すが、
その裏で――稲毛アウルズの二人は、すでに静かに戦闘体勢へ入っていた。
「ヨシと、装備チェック終わった?」
「バッチリだよ。フォーミン、アバターの応答は?」
「問題なし。動けるよ!」
二人がコロシアムへ足を踏み入れると、
雷鳴のような歓声が場内を揺らした。
「さぁ! いよいよこの時が来ました! 稲毛アウルズVS新潟米っと!」
ジョージも高ぶった声で続ける。
◆ ◆ ◆
一方その頃、パソコンのモニターを見つめる男がいた。
評議連合のかずお。
「アンノウンは使えなかったが……想定内だ。保険はかけてある」
「どういう意味です?」
倉田が問いかける。
「新潟のチームにはすでに“洗脳プログラム”を仕込んでおいた。
彼らは今日、仮想空間脱却のための“最初の尖兵”として働いてくれる」
かずおの不敵な笑みがモニターに反射する。
◆ ◆ ◆
コロシアム中央。
新潟米っとのアバター――重装ロボットとエルフ弓使い――が、
稲毛アウルズを見据えた。
「さぁ、油断せず楽しもう!」
ヨシとが笑顔で拳を握る。
しかしロボットが低い声で問い返した。
「貴殿は……この“仮想空間”を楽しむと言った。なぜだ?」
ヨシとは思わず首をかしげる。
「楽しいからだけど……? 何言ってるんだ?」
エルフが矢を番えながら言葉を重ねた。
「痛みのない世界に、本当に“楽しさ”などあるのか?」
その異様さに、フォーミンが眉をひそめる。
「あなたたち……様子、変だよ?」
「試合開始!!」
レイナの声と同時に、新潟米っとの二人が吠える。
「われらは執行する!」
「若者に――痛みある教育を!」
突撃。
武器は持っていない。だが、とてつもない“殺気の密度”があった。
「フォーミン! こいつら……誰かに洗脳されてる!」
ヨシとがデュアルレイブンで牽制するも、まるで怯まない。
「やはり……ステータスがバグ強化されてる!」
「平等なる痛みを!」
「仮想空間に終焉を!」
ヨシとは一瞬で戦況を読み、フォーミンへ叫ぶ。
「ターゲットマークは出てるか!?」
「出た! でも……色がおかしい! 紫……!」
毒々しい紫色。
それは“汚染プログラム”の証だった。
「細工があるかも……」
「こういう時こそ――」
ヨシとは叫んだ。
「《テストプレイヤーズツール・グリッチスキャナー》!!」
南天堂のテストプレイヤーだけが持つ、禁断の解析ツール。
スキャン結果が瞬時に表示される。
「ターゲットマークそのものは脆い。ただし……洗脳プログラムが深い!」
倒すだけでは終わらない。
“解除”しなければ、現実の肉体にも負荷がかかる。
フォーミンが息を呑む。
「ヨシとくん……こういう時のために用意してたの」
アイテムストレージから取り出した1枚のスキルカード。
「《深き深淵のララバイ》!」
高レベルの催眠デバフが展開される。
新潟米っとが動きを鈍らせながらも、叫ぶ。
「われらは……痛みを……!」
「若者に……救済を……!」
デバフ解除を強行する二人。
「今だ、フォーミン!」
「うん!!」
ヨシとはデュアルレイブンにエネルギーをチャージする。
新潟米っとも絶叫しながら突進する。
「救済のために!!」
「喰らえ――《ダブルマグナム》ッ!!」
白い閃光が炸裂し、紫のターゲットマークをまとめて撃ち抜いた。
——沈黙。
そして、アナウンスが響く。
「試合終了!! 稲毛アウルズ、準決勝進出!!」
場内が揺れるほどの歓声。
レイナの声が続く。
「なお、新潟米っとの二名に不自然な挙動が見られたため、緊急ログアウト措置を取ります!」
洗脳プログラムは破壊済み。
現実世界で数日の安静を取れば無事らしい。
「運営に報告するよ。評議連合のやつらがまた仕掛けてくるかも」
「私もログアウトするね」
稲毛アウルズは全員ログアウトした。
◆ ◆ ◆
評議連合本部・かずお執務室。
「なんということだ……!」
BSO崩壊計画の初手が破れ、かずおは机を叩いた。
「落ち着いてください。まだ“ブラッディ・イヴ計画”の初期段階です」
倉田が宥める。
「……そうだったな。倉田くん、TGBMGC解体部隊の準備は?」
「興行解体筋を通じて、クルド系工作員を動かしています。来月には動けます」
「よし」
次に呼ばれたのは対馬だった。
「秋葉原のコンセプトカフェをひとつ潰せ。二度と立ち上がれないようにな」
対馬は薄く笑い、バッグから赤いボトルを取り出す。
「1995年のボルドーです。勝利の前祝いに」
グラスに注がれた深紅のワインが、夕日に照らされて血のように輝く。
「では――若者たちを“仮想空間の誘惑”から救うために」
「「「平等をすべての人々に」」」
その声は、不気味なほど静かに揃っていた。
『ブラッディ・イヴ計画』は、第二段階へと進む。
次回はいよいよ準決勝!
ワルキューレツインズとの死闘をお楽しみに!




