EP16　青空と地獄のブートキャンプ ｐｔ１

翌日の快晴。

　義人たち十名を乗せたマイクロバスは、高速道路を駆け抜けていた。

　目的地は――

　供花先生主導の特別合宿プログラム

　《小泉塾》。

「はーい！ 今回の小泉塾は、来月の全国大会へ向けた“デジタルスポーツ強化合宿”だよ〜！」

　供花が振り返り、バス内は一気にざわついた。

　全国大会――

　正式名称《全国フリースクール対抗デジタル体育祭》。

　そして今年、ふくろうスクールの代表チームが出場できた理由はただ一つ。

「藤宮くんと明石さんが“世界トッププレイヤー”から推薦されたから、教育委員会が特別枠くれたのよ！」

「え、えっ！？ 俺らの推薦が……？」

　義人と美浦は目を丸くする。

　推薦元は、世界的MAVプレイヤー・マイクとミシェル。

　さらに裏で動いたのは――

　JDAS（日本デジタルアクティヴィティ協会）。

　デジタルスポーツ普及の総本山。

　ふくろうスクールの支援を行っている巨大組織だ。

　そんなことを考えていると――

「見えたわ！ あそこが南天堂デジタルアスリートカレッジ！」

　バスの窓から、勝浦の海沿いにそびえる巨大施設が姿を現す。

　全国に5校舎。

　未来のデジタルアスリートを大量に輩出する本格カレッジ。

　VRからフィジカルまで超一流の設備が整い、宿泊施設はなんとグランピング式。

　そのうえ、プロチーム《南天堂メテオール》まで保有しているという。

「はい！ サイト割り振りは配ってあるから、30分後に第1トレーニングルーム集合！ 解散〜！」

　チームごとに宿泊サイトへ向かう。

　義人と美浦の部屋はコテージ風。

　扉を開けると――シングルベッドが二つ、そして奥には最新型のVRシステムが二台並んでいた。

「さすが南天堂……！ 設備の暴力……！」

「よしくん、今日はどうする？」

「もちろん自主トレ！ BSOログインしよ！」

　二人はすぐにログインし、ロビーに入った瞬間――

「みなさーん、お待たせしました！ バトルトーナメントの開催日時が決まりました！」

　レイナの声が響き、巨大ビジョンが点灯する。

　開催日程は 5月27〜30日。

　合宿直後のビッグイベントだ。

「では注目チームを紹介します！ まずは――」

　レイナは勢いよく指を差した。

「世界が注目する学生MAV――稲毛アウルズ！！」

「うおっ！？ 俺らいきなりそこ！？」

「ついにここまで来たか……！」

　義人とフォーミンはどよめく。

「二つ目は――荒くれ漁師コンビ《バウンドフィッシャーズ》！」

　彼らは家業でログインしていないが、注目株として爆上げされている。

「そして三つ目……正体不明。どんな手段で勝ち上がったか不明のダークホース……ノーブレス・アンノウン！！」

「グリッチ使ったって噂あるぞ」

「いや、あいつらマジで何者なんだ……？」

　そんな声を無視して義人は言う。

「よし、練習試合しよ。申込み全部承認！」

「お、おぉ！？ 全部！？」

　その結果――

　稲毛アウルズ、200連勝。

　この記録は後日、BSO公式掲示板のトップ記事となる。

　だが、現実に戻ると――

「……ぎりぎり間に合った割には、お楽しみでしたね？」

　供花が“笑顔で怒っている”という、最も逃げられない表情をしていた。

「ひっ……！」

「そんな君たちに先生から特別プログラムをあげるよ♡」

　その内容は――

「自分自身に打ち勝ちなさいッ！！」

　各自のアバターデータに、マイク＆ミシェルの戦術を叩き込んだ模擬戦AIとの団体戦。

「ほらほらほら！ その程度じゃ体育祭どころかクリスマスも来ないわよ！！」

「藤宮！ 後でスポドリ奢れよ！」

「私はいちごショート！！」

「なんで俺だけぇぇぇ！？」

　叫びと悲鳴の中、午前の地獄訓練は終了した。

「午後2時から座学〜！ それまで自由ね〜！」

　昼食は豪華海鮮BBQ。

　若者たちの笑い声と肉の香りが夏の空に消えていく。

「藤宮、バトトナ出るんだろ？」

「優勝したらTGBMGCのランウェイ歩けるんだってな！」

「歩きたいよ、あのステージ……！」

　美浦はキャルビスを飲み干し、鯵を焼く。

　淡い香りが漂う。

　そして午後2時――

「では座学を始めまーす。カンニングしたら先生特製スムージーを、プレゼント♡」

　供花が狂気の笑みを浮かべた。

　そのスムージーは伝説級の“魔物”。

　飲んだ者は十中八九、地獄を見る。

「今回は地元の新鮮な魚介入りだよ〜」

「やばいってやばいってやばいって！！」

　全員が真っ青になり、結果――

　誰ひとりカンニングしなかった。

　供花スムージーは未然に封印され、生徒の胃袋は救われた。

　夕方。

　メンバー全員が海岸に集まる。

「初日の夜は……小泉塾名物“海岸肝試し”よ！」

　潮風がざわめき、夜の気配が忍び寄る。

　合宿は、まだ始まったばかりだ。