EP10　若き番のふくろうは己に勝たねば挑むは難し

「うおおぉぉっ！」

　仮想空間に響く咆哮と共に、義人の剣が蒼い軌跡を描く。

対する供花は、一歩も退かずパリィで受け流し――。

「甘いッ！」

　火花が散り、義人の身体が大きく後ろに跳ねた。

「その程度じゃ、マイクにかすりもしないわ！」

　クリスマスチャンピオンシップ目前。

義人は供花の特訓プログラムで、限界ギリギリのトレーニングを続けていた。

「先生、もう一度お願いします！」

「いいわ。休憩20分。そのあと“パリィ精度向上プランC”に入るわよ！」

　義人は仮想空間からログアウトし、ふくろうスクールのロビーへ向かった。

　千葉市花見川区にあるプロ育成機関〈ふくろうスクール〉。

生徒数1200人、そのほとんどがデジタルスポーツ学科の猛者ばかり。

ここには“世界を獲る夢”を抱える若者たちが、県内外から集結していた。

「ヨシくん、おつかれ」

　声をかけてきたのは美浦。

大きなコーラを両手で持ちながら笑う。

「ありがとう、美浦」

「小泉先生、最近ますます本気だね。私ももっと頑張らないと。射撃もスタミナも伸ばしたいし！」

「俺もだよ」

　義人が笑うと、美浦は嬉しそうに頷いた。

　最近、“稲毛アウルズ”は一気に有名になった。

あのマイクと引き分けたニュースがメディアを賑わせ、雑誌特集まで組まれるほど。

　しかし――有名税は重い。

「また毒親連中、抗議文送ってきたって」

　掲示板に貼られた紙を義人が指差す。

《稲毛アウルズは即刻解散すべきである。推薦出場の取り消しを要求する。

これは子どもたちの未来と、親の尊厳を守る正当な行為である》

　義人は静かに息を吐いた。

（親の尊厳……？　結局、自分より強い子が気に入らないだけだろ）

　だが、立ち止まっている時間はない。

「さて、そろそろカリキュラム再開だ」

「私も同じプラン受けるよ。一緒にいこ！」

　二人はトレーニングルームへ戻った。

---

■ARシミュレーションルーム

「準備はいい？」

　供花の声が空間に響く。

ARによって“実在の強敵”の戦術が完全再現される訓練施設――世界初の最新Eスポーツ教育設備だ。

「今回はマイクとミシェルのデータを完全再現しているわ。決勝のつもりで行きなさい！」

　ARゴーグル越しに、世界最強の二人が現れる。

義人も美浦も、思わず喉を鳴らした。

「美浦！　戦術プランSD-90！」

「了解！」

　美浦が前線、義人が中距離後衛――稲毛アウルズの王道スタイル。

ミシェルへ銃撃、マイクには居合で迎撃。

　供花は腕を組んで観察していた。

「全国5位の稲毛アウルズ。その戦術を冷静に解析……さて、そろそろ“刺激”を加えましょうか」

　彼女の指が動いた瞬間――。

「なんだこれ？！　動きが違う！」

「義人、これ……イヤな感じがしない？」

　ミシェルとマイクの動きが変質し、二人の脳裏に違和感が走る。

「……俺？　と美浦！？」

　そこに現れたのは――義人と美浦自身のエミュレーション。

「先生、これ……！」

「愛のムチよ！　自分自身に勝てないなら、世界なんて夢のまた夢！！」

　美浦は息を呑んだ。

（――自分を超えなきゃ、前には進めない）

　義人も同時に理解した。

（ここを越えろ……俺）

「「やってやろうじゃないか（よ）！！」」

　ふたりは自分のコピーと激突した。

　だが――。

---

■結果

「……惨敗か」

　義人は膝に手をつき、肩で息をした。

「先生、これ……俺たちのデータにマイクさんたちの戦術を組み込んだんですか？」

「そうよ。世界最高峰の戦術×あなたたち自身。

“最強の自分”に勝てなきゃ、世界は獲れない」

　供花は真剣な眼差しで言った。

「IDSCCは世界の天才が集まる。甘さは命取りよ」

　悔しさが胸を刺す。

だが、同時に――義人の目は燃えていた。

「小泉先生、この後は？」

「今日はここまで。お昼を食べて下校しなさい。休むのも一流の条件よ」

---

■学食

「ねぇよしくん、学食で食べたら……私の部屋、来ない？」

「父さんたちに連絡しておくよ」

　ふくろう学食はカレーからヴィーガンまで多国籍。

義人は大好物のカツカレー。

美浦は――巨大な“特盛ティーン様ランチ（総重量2kg）”。

「いただきます！」

　美浦は笑顔で豪快に食べ始める。

（美浦……昔は食べるものもなかったのに、今はこんなに嬉しそうに……）

　義人はその姿が愛おしかった。

「ごちそうさまでした！」

　30分以内に完食し、無料券ゲット。