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『ミツイのトリセツ』  作者: 三衣 千月
後編 26才のミツイ
23/23

-22- あとがきに代えて 

『ミツイのトリセツ』をお読みいただいた皆様へ 


 

 みなさん、大丈夫ですか?

 彼のアホが伝染してませんか?

 私?私はもう、慣れたものです。


 『三衣千月』は、主に執筆を担当するミツイと、主にネタ出しや妄想を担当する私、チヅキの二人組の名前です。よく一人の名前だと間違われます。無理もないんですけどね。紛らわしいし。


 本当に三衣は昔から変わらず同じことを繰り返して飽きないものかと思っているのですが当の本人は飽きていないみたいです。自他ともに認める阿呆、というヤツですね。


 もしも、私がこの文章(トリセツ)を書けと言われても書けないでしょう。だって一言で終わっちゃいますよ。「ミツイと言う男は大変な阿呆である。」もうこれだけ。たたこれだけの事を、手を変え品を変えて書きも書いたり八万字。引き伸ばしにもほどがあると私は思うのですが、本人は「あと二万字増やしていればキリがよかったのに」なんて阿呆なことを言ってます。十万字といえば、少し軽めの文庫本一冊分の文量ですよ。


 もうコレ以上、妙に阿呆をこじらせたエピソードなんかないんじゃないのかと思ってみれば、まだまだいくらでも湧いてくるんだから困ったものです。

 どうにも彼は自分がシアワセになることが怖いと考えている節があるみたいで、目の前に好機がぶら下がっていても、それをなかなか掴もうとしないのです。おずおずと手を出した時にはすでに機を逃していて、結局宙ぶらりんのまま伸ばした手の引っ込め方が分からなくなっていることもよくあります。

 そういうところが彼の間の悪さの本質なんじゃないのかと、少々不安に思うんですよ。


 でも、彼のいいところはそういった慎重なところでしょうね。

 石橋を叩いて渡る、を地で行くんですよ、本当に。事前にいくつか考えてあった案だとか、予め想定してあった出来事だとかがとても多いんです。

 昔、ちょっとした旅行で九州に行ったことがあって。その時に修学旅行よろしく「旅のしおり」を作ってきて、しかも移動に使う電車やバスの時刻までしっかり書いてあったのが衝撃的でした。「阿呆だよねー」と笑ったら「阿呆やからな」って腕くんで妙に誇らしげなんですよこれが。

 でも、旅行って自由気ままなものだと思うじゃないですか。その時はふらりと寄ったおみやげ屋さんについつい長居しちゃって、しおりに書いてあるバスの時刻に遅れたんですけど。そしたら平然と「次のバスまであと○○分やから散歩でもしよか」とか言うんですよ。まだバス停に着いてもないのに。おかしいでしょう?「時刻表持ってるの?」って聞いたら「前後数本分くらい憶えるやろ。ほんまに逃したらあかんのは三本後のバスや」って。

 その時に確信しましたね。この人は阿呆だと。


 別に、慎重だからといって、予定が崩れるのが嫌だという訳でもないんですよね。自分の考えの外にある出来事に出くわすのが嫌なだけで。

 平常心が保てなくなるのが嫌なんですって。




   ○   ○   ○




 それはそうと、このエッセイにはよく引用が見られます。特に太宰治と井伏鱒二が多いと本人は言っていますが、私はそういった文学小説よりも大衆小説を好みますから、彼に言われて「ああ、そうなんだ」と思うくらいでしたけれど。

 個人的には、森見登見彦を水で薄めて、そこに三衣エッセンスを少し加えて、隠し味にラーメンズを入れたようなものだと思っています。確かに、名言だとか名文だとかは自分でも使ってみたくなりますから、それもこのエッセイの味付けだと言ってしまえばそれまでなんですけどね。

 ふとした一文の持つ面白さというものを三衣は大切にしているのでしょう。

 文学賞に送るような作品では筆が滑ってそういうパクりともとられるような表現を使わないように注意してもらいたいものです。


 そうやって、文の面白さに磨きをかけていずれ書くべき作品、いつになるのかは分かりませんが、温めている作品が一つだけあるんです。私と三衣が書きたいと思っている作品が一つだけ。

 その作品を書きたいがために、二人で執筆活動を始めたくらいですから。執筆担当の三衣は文章力や構成力を磨いて、私は妄想力を磨く。(たまに思うんですけど、妄想力ってひどくありません?)いつか時期が来たら、必ずそれを書こうというのが二人の約束です。


 そのためにはまだまだ足りないものが多いのですが、立ち止まってはいない以上、いずれその時はやって来るのだと思います。


 目指すもののために、今日も辞書と睨めっこしている三衣を、そして雑誌片手に女子力を磨く千月を、どうぞよろしくお願いいたします。


 三衣千月の妄想担当、コンビニでメガネについての雑学本を衝動買いした方、千月でした。

 願わくば、このエッセイをお読みになった方が三衣の阿呆に感染していないことを願ってやみません。



  


 

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