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58話 14年前③

 


 ◇帝オウガイ 視点◇




「……ここまで……か……」



 頭上に掲げられた刃。

 それを見て、悟る。

 これによって自身の命は尽きるのだと。


 平和を乱す脅威となったミズキを止める為に。

 一族の恥をすすぐ為にこんな辺境まできた。

 それなのに、一矢報いる事も出来ずにミズキの蛮行を止める事も叶わず。

 かつての友の手によりこの命を刈り取られ様としている。


 これが俺の運命なのか。

 無念ばかりが残る。


 すまぬ。

 俺は、帝として責務を果たせなかった。


 兄者。

 民達よ。

 すまない。


 ……………………。


 …………。


 ……。





「……………………なんだ?」



 いつまでも感じない痛み。

 それが不思議になり、瞳を開ける。

 すると、すぐ側にいたはずのミズキは、大きく距離を離した所から、こちらではなく別の方向を見ていた。

 そのミズキの目線を追うと、そこには見慣れない一人の男が刀を抜き放ち立っている。


 まだ青年になったばかりであろう何処かあどけなさを残した男。

 そして、同時に一目見ただけで強者と分かる風格。

 その両方を兼ね備えた男は、一瞬でその場から俺の側へと移動した。


「……お前は……」


「俺か? 俺はケンシロウってんだ」


「……何故……お前が死剣眼を。ぐっ……」


 血を流しすぎたせいか、意識が朦朧とする。

 今すぐにでも手放してしまいたくなる意識を繋ぎ止めるので精一杯だ。

 だが、ここで屈するわけには。


「大丈夫か? 何でこんだけの数の人間が倒れてるかは分からねぇが、安心しな。俺が来たからには、もう大丈夫だ」


「……え?」


 眠気と痛みと必死に悪戦苦闘していると、優しい言葉を投げかけられる。

 声の主であるケンシロウは笑みを浮かべ俺を見ると、サッと周囲を見渡した。


「……あんた以外は、ほとんど殺されてるみてぇだな。他に生きてるのは……おっ。良かった。いるみたいだ」


 その目線は、心配げにこちらを見ていたカミナへと留めている。


「……そこのあな……た……。どうか…………ご助力を……どうか……。帝をお守りください……くっ……」


 傷が痛むのであろう。

 カミナの声は小さく、息も絶え絶えだ。


「…………こりゃまた、ひでぇ傷だな。おいあんた。大丈夫かよ? 腕とかちぎれかかってるが……」


「…………私の事は……良いのです。そこの方……。何処のどなたかは存じませんが……ご助力を願います。そこにおられますのは、帝。決して失われてはならない命……。どうか……ご助力を……」


 カミナは消え入りそうなかそ細い声で、必死にケンシロウに懇願する。


「ああ。分かったよ。この場は、俺に任せな。頼まれた以上、俺はやるよ。あんたの主人は必ず守るからさ」


「……よろしく……お願い……しま……す……ね」


 カミナが意識を手離したのが、ここから分かった。

 すまぬ。

 カミナよ。

 そなたには、いつも負担をかける。


「ひでぇ痛みだろうに、自分よりも主君の身を案じる……か。あんた良い配下を持ってるな」


 ケンシロウは、ふっと優しげな笑みを浮かべた。

 しかし、次の瞬間には。


「さてと。――どうやらあんたが、悪者みてぇだな?」


 恐ろしいまでの眼の鋭さでミヅキを睨み付ける。

 さっきまで浮かべていた人の良さそうな笑みは、もうどこにもない。


「フッフッフ」


 そのケンシロウの眼差しを受けても、ミズキは涼しげに不敵な笑みを浮かべるだけ。


「気持ち悪い野郎だな。あんた頭イカれてんだろ? まともなら、こんな事はしねぇだろうけどよ」


 ケンシロウは、ミヅキの事を知らない。

 我等の関係もまた、当然知らぬ筈。

 それでも、ケンシロウもミヅキから溢れでる狂気を感じたのだろうと思う。我等と話している時でも、一時もミズキへの警戒を怠らなかったのには気付いていた。


 それに対し、ミズキは。


「イカれている……か。そうであろうな。()()()()()()()()()()()()()()()しかし……ここで、第三者が、現れるとは。それに、その眼。()()()持ちか。開眼させたテンオウ一族は、オウガイのみ。……と、いうことは。イットウ一族の生き残り……か。ふむ。なるほど。なるほど。どうやら、これにも何か意味があるのだろう」


 納得するように何度か頷きブツブツと呟くミズキ。

 ミヅキは、優秀な頭脳を持っていた。

 それを生かし、即座にケンシロウの素性に気づいたらしい。

 初めて警戒心の様なものが浮かべられている気がする。


「――それにお前いいなぁ……。……強いなぁ……ものすごく。そう物凄くだぁ!!」


 だが。

 次の瞬間には、まるで親から新しい遊び道具を貰った子供の様な嬉しそうな顔に変わった。


「……冷たい眼で見てきたと思ったら、今度はニヤつきだすとは。イカれ野郎だけでなく、気持ち悪い野郎だ」


 ミズキのねっとりとした視線を受け、不快そうに、肩の汚れを落とす仕草で顔を歪めるケンシロウ。


「……ふふふ。まぁそうつれないことを言うなよ。ふふふ……」


 ケンシロウの言葉にミズキはニヤリと、更に歪に口元を曲げた。


「……」


「……フフ……」


 両者刀を構えたまま見合う。

 二人からは、激しく、大きな剣気が溢れでいく。

 それらは、秒を刻む毎にどんどんと肥大化していく。



「……両者ともに何という、強大で濃密な剣気だ。傷だらけのこの身には、堪える」


 二人から滲み出る剣気が、ピシピシッと、音を奏でながらぶつかる。

 両者の濃密な剣気のぶつかり合いに、押し潰されそうな感覚を覚える。


「面白い! 面白い! 面白い!!」


「さっきからにやついたり、ブツブツ言ったりよぉ。忙しい奴だな。どうすんだ? やんのか? やんねぇのか? 嫁とガキが俺の帰りを待ってるから、早くやることやって帰りてぇんだが」


「そう焦るな。楽しいことはじっくりとやろうではないか――どれ。まずは、その力の程を確認させてもらおうか!!」


 最初に動き出したのはミズキ。

 右手に握る紫色の刀を振るった。

 速い。

 速すぎる。

 空を斬る音が遅れて聞こえる。


「――おっと。いきなりだ、な!!」


 ケンシロウは、当たり前の様にミヅキの剣筋に反応した。

 後から振るった刃。

 ケンシロウのが不利な筈なのだが。


 ガキキキンッ!!


 二人の斬撃は同時にぶつかる。

 両者の丁度真ん中で、斬撃がぶつかり合うのが、霞む俺の眼でも確認出来た。


 その余波で、周囲に激しい突風を生み出す。


「反応したか。次はどうか!!」


「無駄だぜ!!」


 またしても二人の間で、衝突する斬撃。

 先程の一撃よりも、二人の一太刀は速かった。


「いいな。お前。いいぞ。凄くだ。死剣眼も我と同じく()()()。十分に成熟しているのも、評価が高いぞ!!」



「三撃目ぇーー!!」


「遅ぇ!!」


 三度目もミズキが先に動き、ケンシロウが後。

 その形は変わらない。

 しかし。


 ヒュオン――――


 今度は違う結果を生んだ。


 ザンッ!



「なっ……チィッ!!」


 死剣眼を持たぬ者には見ることが出来ない、不可視の斬撃は。ミズキの左肩に入ると、肉を抉り、血が噴き出す。

 そう。

 ケンシロウの圧倒的な振りの速さ。

 それが、ケンシロウが有利な状況を生み出す。



「…………ぐううっ……!!」



「おらおら。この程度かよ? あまりに退屈すぎて、欠伸が出るぜ」



 刀の腹で背中をトントンと、叩きながら挑発的な笑みでケンシロウはミズキを見る。



「……ギリッ……」


 それに対し、ミズキは歯軋りで返した。




「フフ……あまり調子に乗らない方がいい。それが命取りになるぞ? 四撃――」


「だから――遅ぇってば」


 ヒュオン――ヒュオン


 ザンッ

 ザンッ


「んなっ……がっごはっ……!!」



 今度は、ミズキは刀を振るう事すら許されなかった。

 完全に後の先を制したケンシロウは、一回の振りの動作で二撃を同時に撃ち込んだ。



「……なんだ……あの動きは……」



 常識を逸脱するケンシロウの剣筋。

 同じ剣士として、また死剣眼を持つ身として、嫉妬すら覚える圧倒的な才能に思わず言葉が漏れた。


「もう。底は見えたか? 次で完全に斬ってやるよ」



 余裕も余裕な笑み。

 そこにはミズキ等脅威として捉えてないかのように見えた。

 しまいには、クルクルと、刀を手の甲で回して遊びだす始末。

 それだけ、ケンシロウには余裕があるのだろう。



「………………どうやらこの場は……分が悪いらしい。ここで深追いはやめておこうか」



 ミズキはザリザリと、ゆっくり、ゆっくりと後ろへと下がる様に離れる。

 徐々に気配を薄めていくと、その姿は闇に同化するかの様に見えなくなっていくと、最後に言葉を残した。


「おい。逃げんのかよ。まだ決着はついてないぜ?」


「……ふふ。そう焦るな。楽しみは、まだ取っておこう。それにまだ――準備が整ってないのでな」


「準備? 何言ってやがる」


「近々分かる。それまで――家族は大事にしろ。必ず()()()()()()()()


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