37話 石碑
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「ツルギ君。さっきはありがとうね」
バクガイから聞き出した洞窟への道すがら、りつが話し掛けてくる。
その顔は、満面の笑顔だった。
「何の事だ?」
「あの母子を助けてくれて、ありがとうって言ったの。最後、頭を下げていたよ。あの母親の人」
「そういえば……そうだったな」
あの場を移動する時、母親が深く頭を下げてきた。
子供からは「またね! カッコいいお兄ちゃん!」と、ブンブンと手を振られ、事の成り行きを見ていた闇市の住人達は、最初に浮かべていた敵意や警戒心は鳴りを潜め、友好的な感じに変わっていた。
照れ臭いから直ぐにあの場を離れたが、感謝されるのは悪い気はしない。
闇市の住人といえば、あれからあの視線も感じない。
どうやらもう後を着いてくるのをやめたようだ。
姿を見れたのはほんの数秒だったが、視線の主は俺よりも歳下の女剣士で、まだ幼さないなりに醸し出す雰囲気は中々に強そうだった。
刀身が眩しいぐらいにギラリと光る名刀を持ち、その名刀がお飾りにならない程に構えは様になっていた。
まぁそうは言っても、実際に斬り合わないとその実力の程は分からないのだが。
「ともかく、これで懲りればいいんだがな。あのデブも」
「あれだけ怖い目にあえば、流石に懲りるんじゃない? でも、あれは傑作だったね。あの怖がりかた!」
りつは愉快そうに語り出す。
よっぽど鬱憤が貯まっていたのか、バクガイが痛い目にあって嬉しいみたいだ。
りつの気持ちも分かる。
会ってみて分かったが、あれに、好感を持てる人間は、いないだろう。
「でも、正直意外だったよ。ツルギ君が、あの母子を助けるの。怒らないでほしいんだけど、あたしはツルギ君の事を他人に興味がなくて、自分の利益が絡まないと助けたりしない人だと思っていたから」
「当たってるぞ。俺は、出来れば人とは関わりたくない」
「でも、そう言いながらでも助けてくれたでしょう? あたしの時は利害関係があったけど、親子は助けたからってツルギ君の利益にはならないのに」
「……だから、俺の事は気にしなくていいんだよ。ただの気まぐれだ」
「そうやって言って。ツルギ君照れてるね。可愛い所も、あるんだぁ。お姉さん的には、そういう所ポイント高いよ?」
「うるせぇ。お前に可愛いとか言われても、鳥肌が立つだけだ。気持ち悪い」
「なっ!! また、そういう事言って!! 本当に口が悪いんだからもう!!」
「とりあえず黙って歩け。俺の事は放っておけ」
さっきの一件があってから、りつとの距離感が近い。
闇市の入口で会ったばかりの時に比べ、気さくに接してくる様になった。
俺にとってそれは、災難に近い。
人との距離が、必要以上に近いのは疲れるんだ。
少し離れているぐらいが、気楽だしちょうどいい。
「せっかくこうして、少しずつ仲良くなってるんだからもっと話そうよ。ツルギ君は、あれだよね。クール装ってるけど本当は優しい子だよね。ね。そう思わない?」
少し黙ってられないのだろうか。
常に口を動かしていないと、死ぬ生物なのかこいつは。
放っといてほしいとの意思表示で無視すると、口を尖らせ文句を言ってくる。
「ちょっと聞いてる? ツルギ君ってば! そうやって無視するのは、駄目だと思うんだ。それに、話をする時は相手の顔を見る様にって言われなかったかな? ね? 聞いてるかな? あたしの話し!」
うるせぇな。
お前は、俺の母親かよ。
「……はぁ……」
「今度はため息。ツルギ君、人と話してるのにため息なんて失礼なんだよ? 駄目だよ? あたしは、お姉さんだから怒らないけど他の人なら怒るんだからね?」
だんまりを決め込む俺に、それでもしつこく話しかけてくるりつ。
「……疲れてくるな。こいつに、案内を頼んだの失敗だったかも。……ん?」
りつとの会話に疲れてきた頃、それっぽい洞窟が口を開いているのが見えてきた。
「あれじゃないのか? デブが言ってた洞窟は」
「うん? あーそうだね。道順も、言われた通りに来てるから……あれだよ。しかし、これも意外。絶対あの人嫌がらせで違う場所とか言うと思ったのに。素直に答えてたんだね。よっぽどツルギ君が怖かったんだ」
まだ分かんねぇけどな。
あの最後のぼやき。
まだ何か企んでそうだし。
「まぁいい。入ってみるか」
人工的にではなく、自然に出来た物らしい洞窟に足を踏み入れた。
中は暗いが灯りが必要なまでではない。
そのまま進んでみる事にする。
「普通の洞窟だね。こんな所に、ツルギ君が求める物があるのかな?」
「さてな。バクガイも、若干うろ覚えみたいだったしな。それに、嘘を言われた可能性もある。とりあえずは、奥まで行ってみてから判断する」
コウモリやここを住みかにしている動物を追い払い、蜘蛛の巣に何度も絡まるりつをバカにしながら進むこと十数分。
おそらく最深部だと思われる所に辿り着いた。
円の様に丸くて広い空間になっている。
「何か奥まで来ちゃったけど、途中には特には変な物はなかったよね?」
「ああ。ゴミの類いは散乱していたが、それっぽいのはなかったな」
「あと考えられるとしたら、ここしかないかぁ。ここに無いなら、無いって事だもんね」
「洞窟も、ここで行き止まりみたいだしな。ここに無いならそういうことなんだろうな。その場合、あのデブの悲鳴が聞けるぞ」
「あ、あたしはあっちから探してみるね!」
りつは俺の顔を見てひきつった顔をすると、すぐさま距離を取り、忙しなく探し始めた。
とりあえずりつは左側を、俺は右側を手分けして端から探していくが、ここも他同様に、特にそれっぽいのは見つからなかった。
「あのデブ」
やっぱりガセネタを掴まされたのか。
「やっぱ、一発鉄拳を追加だ」
あの脂ぎったムカつく顔が思い出され、死剣眼が発動した。
「無いんなら、しょうがない。戻る――――ん?」
何だ?
「……いま……何か見えた様な」
一瞬だけちらっと光の様な物が視界の隅に入ってきた。
その場所をもう一度注視する。
「紫色の鉱石……」
そこにあったのは、洞窟の壁に立て掛けられる様に乱雑に置かれた鉱石だった。
そういえばバクガイも、鉱石みたいたな物と言っていたな。
もしかして。
これがそうなのか?
近くに寄り、死剣眼を通して見てみる。
すると、さっきまで何も刻まれていなかったのに、文字が浮かび上がっていた。
「りつ。この石碑に刻まれている文字読めるか?」
「え? これ? 何も書かれてないよ? でも綺麗な紫色だね。初めて見たよこんな鉱石。売ったら高いかな?」
やっぱり普通の者では見れないんだな。
どういう仕組みなのかそれは知らないが、これを読む為には、死剣眼が必要らしい。
それに、色といい触れた質感からは消滅刀と同じ材質だと分かった。
ともかく、探し物は見つかった。
「……まさか、こんな仕組みになってるなんて誰も思わないだろうな。でも、やっと」
やっと俺の知りたい事が判明するかもしれない。
逸る気持ちで鼓動が早まる心臓。
それを宥めながら、石碑に目を落とした。
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