30話 愚痴
「はぁ……はぁ……しかし。どこにあんだよ。じいちゃんが言ってた……物は。はぁ……直ぐに見つかるもんじゃないのは分かってたけど……はぁ……二日も探してこんなだと、一生見つけられる気がしねぇんだけど」
走る為にせわしなく動かしていた足を止めると、口からは乱れた息と一緒に愚痴が出た。
普段から愚痴っぽい性格なのは自分でも認識しているが、こうもままならない状況なら、仕方なしだよな。
それに、今しがた出た愚痴の原因は理解しているし。
朝からじいちゃんの師匠が遺したという手掛かりを求め、都中を駆け回り全身に疲労が溜まっている事。
その労力の割りに俺が求める成果に繋がらない事。
そして、一番の理由は。
「……やっぱ探し方が悪いのか。手掛かりらしい手掛かりは何も無いし、闇雲に動き回ってるだけだしな」
これだという探し方が明確になっていないからだ。
俺が持つ情報は、都にあるとだけ書かれたじいちゃんの手紙を読んだという事だけで、探し物がどんな形でどんな見た目なのかそれすらも分からない。
だからこうなるのは当たり前っちゃ当たり前なんだろうし、見つけ出すのに手間取る事も予想はしていた。
それでも都に来る前の俺は、探し始めれば案外直ぐに見つけられるんじゃと、楽観視していた部分もあるのだが。
「……甘かったな。本当に」
俺の考えは間違っていた。
実際探し始めると都の途方もない大きさに気持ちには影が射し始め、
「これ……見つけるの、無理なんじゃね?」
と、探索一日目で思ってしまったのを覚えている。
ヤスマを出て四日の所でシュウゲツ達穏健派と会い、それから一日の移動の果てに意気揚々と都入りした俺は、方針通り宿屋に直行して風呂に飛び込んだ。
四日ぶりに入った風呂は最高に極楽で、湯質は肩凝り、慢性疲労、血行促進、諸々の効果がある温泉で。
垢擦りで思いっきり体を磨き石鹸で洗うという、あまりの気持ちよさに、そのまま湯船で眠りこけてあの世に行きそうになった。
仇討ちに都入りしたのに、その前に危うく風呂に殺されそうになるとは。
こんな所にこんな伏兵がいたとは。油断も隙もない。
わりとガチで命の危機だった事態を乗り越え、身も心も一新。
いざ! と、街中を飛び出したのはいいんだが。
「……どうしたもんかね」
探し物はもう二日も足を棒にして探しているのに、何も見つからない
そもそもこんな広範囲を、どの様な物なのかさえ分からない物をどう探せば良いのかって話しでもある。
あてもないし、それを知る人も知らない。
それでも何とかと、動いていたのだが。
「今日も駄目だったら、手を変えないと駄目だな。いつまでもこんな事してられない」
都の情報に詳しい者を金で雇うか……手掛かりを諦めて、帝がいる帝城に侵入するか。
いや。
それは、悪手だったな。
一度それをやろうと帝城の前に行ったが物々しいまでのあの磐石な守りに、その考えを改めた。
あの警備の数じゃ、よしんば侵入は出来ても中に入って目的を達成するのに支障が出る。
騒ぎを起こして仇に逃げられるのは勘弁したいし、だからなるべくなら、と方法を模索中なんだが。
この二日間、『滅』は姿を現さないし。
向こうから仕掛けてこないかと、夜間にわざとブラブラしてるけどその気配も感じない。
奴等も俺が都に居るのは把握してると思うんだが。
脅威として捉えていないのか、何か狙いがあるのか。
いまいち動勢を掴めない。
探し回るのも中々に体力も使うし、疲れもする。
それでも風呂つきの部屋を抑えてるから俺は元気だし、体調も整っていていつでもかかってこいと、構えているのに。
さっぱり姿を現さねぇ。
俺の意気込みを返せよ。
「そもそもここは、デカ過ぎんだよ。人がいないのに勝手に動いてるのがあちこちにあるしほんと良く分からねぇ場所だな」
都は只でさえ色々と規格外なのに中心部はまた別世界だった。
他の國は火炎剣神國しか知らないが、それに比べても信じられないぐらい発達していて、初めて見たがからくり式の機械という、自動で動く物が商品を作っていたり、馬車よりも速く移動出来る乗り物もある。
この都だけ、まるで別世界なんじゃないかと思う程だ。
初日に中心部にも行ってみたが、思わず言葉を無くしてしまう程だった。
こんな感じでまだ二日しか経ってないのに、驚きの連続だ。
そして現在俺は。
手掛かりを探しながら姿見せも兼ねて、闇市に向かって街中を歩いていた。
都は東西南北で街の様相が変わり、施設の機能も大きく違う。
北には俺が泊まる宿場町があり、西には商店街がある。
南には遊郭を始め大人の歓楽街があって、東には何かと話題の闇市がある。
この二日間は、表側と言っていいのか分かんないけど主要な建物が並ぶ人が大勢いる所を探索した。
そこで得られる情報は無さそうと判断し、今日から都の裏の部分。
闇市を探そうとそこに向かっていた。
因みに、闇市はあまり好き好んで行く所ではないらしい。
そこの住人やそこを利用しようとする者、俺みたいに敢えてそこに赴こうとする者しか寄り付かない場所だと、ユリからは聞いた。
その話は本当らしく、その場所に近づくにつれ人気は少なくなっていく。
「――――い!」
「あ? 何だ?」
更に歩みを進め、もう少しで闇市の前に到着という所で俺の耳に喧しい声が届いた。
「きゃあああー! 助けてーー!! いやーー!!」
「待てやぁ、くおぅらああぁー!!
「逃げんじゃねぇー!!」
「くそっ! この女足速ぇな! おい!!」
女のバカデカイ叫び声と、野太い男の怒鳴り声が聞こえる。
それは俺の前から走ってくる、女……一人と、その後ろに三人の男のものらしい。
なんだ。
追いかけ回されてるのか?
まぁどうでもいいか。
俺には関係な――
「そこの人!! ちょうどいい所にーー!!」
「あ?」
デカイ叫び声の持ち主が、俺の背中に回り込み羽織袴を引っ張ると、
「助けて下さいーー!! あたし、この人達にチョメチョメされるーー!!」
女は街中に響き渡る程の大声で叫んだ。




