23話 スイダイ・コウゲツ
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水氷の剣君との一騎討ちになったんだが。
いざ斬り合う直前になると、右手を前に突き出し一声掛けてきた。
「貴様の相手をするには、俺も全力を出さなくてはならない。もっともそれでも届くとは思わないが。例え敵わぬ相手であろうとも、全力を出しきるのが剣士の努めである故。暫し、準備を整えるまで待て」
準備か。
どうせなら全力でのコイツと戦いたいし、俺にも都合がいいので了承した。
「ゆっくりどうぞ。俺も考えたい事があるし」
剣君は深呼吸を何度か繰り返しながら、集中するように目を瞑った。
その間に俺は、コイツを殺さずに情報を聞き出すにはどうすればいいのか。
それを考えなくちゃいけない。
ただ。情報を聞き出すにしても、中々骨が折れそうだ。
どうも剣君とかになると頭が固いのか、『あの御方』への忠誠心が強いのか知らねぇけど、素直に話してくれない。
まして、こいつ……名前何だったっけは、火炎の剣君よりも堅物そうだし。
そうなると、やっぱ拷問するしか……ん?
「はあああっっ!!」
剣君から気合いを入れる様な声が聞こえた後。
ドンッと、デカイ音と共に剣気が放出された。
それは、距離を離して相対する俺の所にまで届いた。
ピシピシと、空気が鳴っている気がする。
凄いな。
ここまで届くのか。
この膨大な剣気は、刀身を色濃く青に染めて、外気を冷やす。
まだ陽がギンギンに出ているのに、俺達の周りだけどんどん凍り付かせていく。
吹き荒ぶ風は冬のものに変わり、肌が赤くなるほどに冷たくなった。
「……しかし、寒いと思ったら……。剣君にもなると雪も降らせるのか」
頬に冷たいのが当たり空を見上げると、雪が降ってきた。
この場だけとはいえ、天候すらも変えるとは。
俺が雪の結晶を手に取っていると、向こうの準備が終わったらしい。
あ、やべ。
気を取られてどうするかまだ決めてない。
「待たせたな。それでは、参る!」
そんな俺の状況など待ったなしとばかりに、ブオンッと、豪快かつ流暢な振りから繰り出される剣撃は、大きな氷のつぶてとなって飛来してきた。
それを左に躱すと、連続して刀を振ってきた。
そこからは、次々と氷のつぶてが飛んでくる。
それらを死剣眼で見極めると、最小限の動きと最短の距離で、躱しながら前に歩いていく。
頬のすぐ横をものすごい速度で通りすぎていく氷の塊は、直撃すれば大怪我を負いそうだ。
なるほど。
剣君の一刀は、やっぱり雑魚とは違う。
名前は……スイダイ? だっけ?
こいつが振るう剣術の練度は高い。
間違いなく俺が山籠りが終わってから戦う中では一番強い相手だ。
単純に剣の型の完成度。
振りの速度。
立ち回りの上手さ。
扱う刀がこいつの配下達よりも上級の物を使っているのもあるが、剣術の質自体が、やはり剣達とは一線を画している。
ここまでなるには余程、鍛練に時間を費やしたんだろう。
その剣術は、俺を全力で殺しにかかってくる。
一歩一歩前に進めば進む程に、氷の塊の速度は増して大きさも肥大していく。
「これは、いい鍛練になるぞ」
この氷の塊が無数に飛び交う中を躱しながら移動するのは、中々に肝を冷やすけど、かなり効率がいい鍛練だと思う。
でも。
並大抵ではない努力の果てに掴んだ力であろう。
この剣術も。
「俺が斬っちゃえば……それも今日で終わるのか」
こいつも何年、いや何十年も剣を振るって来たんだろう。
その大変さも理解できる。
だからその努力は、認めてもいい。
だけど、俺もこいつに比べたら歳月でいえば短いが、二年鍛練に費やした。
鍛練の日数では負けるだろうけど、一日一日の濃縮さでは絶対負けない。
その日々は、辛く苦しいものだった。
一振りにどれだけ己の魂を込めて振れるか。
その違いによって同じ鍛練期間だとしても、結果は大きく変わってしまうもの。
それが、剣術だと今なら身をもって理解出来る。
だから、本来なら手を抜いて戦うべきではないのも、理解してるんだけどなぁ。
「……相手に刀を向けたからには、己の命を賭けるということだ。手を抜くのは本当の意味で相手に無礼。ってじいちゃんも言ってたからなぁ。でも、殺すには色々と惜しいな……。どうしよう」
俺がうーんと唸っていると、呆れた様な声が返ってきた。
「……戦いの最中に、考え方をして注意を散漫にするとは。とことん剣士としての矜持が足りないな。……だが。剣の腕は、やはり俺よりも数段上。その領域は、剣神と同等……いや。それ以上か……」
言葉に出している間も、その剣からは氷の塊がブオンッと、風を切りながら飛んでくる。
振るえば振るう程に、その塊の密度、大きさ、速度が加速していく。
「いいぞ。もっと来い。もっと鋭いのを寄越せ」
「とことん……ふざけたガキだ! お望み通り、くらうがいい!」
お。
剣気がまた膨れ上がった。
いいぞ。ほら。もっと頑張れ。
俺にとっては、本当にいい鍛練になってくれているな。
少しずつスイダイ? に近づいていく俺に向かって問答無用で攻撃を繰り出してくれている。
もはや、頬のすぐ横を飛ぶ塊は、当たれば即死する段階まで拡大していた。
ビリビリと空気を震わせる程に巨大な塊が飛び交う中を。
その中を闊歩していくのは、中々に肝を冷やす行為といえる。
でも、この状態を終わらすにはまだ早いと思ってしまう俺は、どこか狂っているんだろうな。
俺が掴み得なかった三大剣術。
その最高峰に近い剣術を身をもって体感する事は、楽しかった。
そもそも。
本気で斬ろうと思えば、相手が動き出す前に終わってしまう。
俺がじいちゃんから教わったこの剣術は、相手が何かを仕掛けてくる前に斬ればいいという考え方。
俺の人生は、敵を討てば終わるけどそれまでの間は剣の腕を上げれるだけ上げたい。
元々、俺は剣術を極めて強くなりたかった。
男としては、やっぱり強くなりたいんだ。
「ほらほら。もっと振り込んでこいよ。この程度じゃ温いぞ」
「……くっ。これでもまったく意に介さないとは。その年齢でそれだけの立ち居振舞い。恐ろしい才能だ……」
そこからまた少し振が鋭くなったが、それが限界値に達した所で。
俺は男の前に到着した。
あとは、コイツを斬るだけだが……こいつをどうするかまだ決めていない。
どうするか……。
「……もはや、望みがあるとしたら。これしかないか」
どうするのが一番いいのか考え事をしていると、スイダイ? は何かを決意したかの様に言った。
あ、やべ。また聞いてなかった。
状況的に次の手を打ってくるんだと思うが。
果たして。
「……もう球切れか? まだ手は残しているのか?」
一応確認で聞いてみる。
「次が、最後の一太刀となろう。文字通り俺の最強の剣で相手しよう。貴様も構えろ」
向こうの真剣な雰囲気に、俺も感化される。
「……俺は、構えとかはない。この状態から最速の一刀を叩き込むだけだ」
「分かった! では、これで終わりにしよう! いくぞ! 水氷剣神流奥義。極寒剣武!!」
更に溢れ出す剣気を解放し、刀身を青から蒼に変えると。
一気に振り下ろされた。
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