私はもちろん構わないのだけれど?
夜。
「そろそろ時間です。行きましょう、中務卿。」
「ああ、そうだね。」
弾正尹宮と中務卿宮はその日の夜、急ぎ、紫桜帝の元へと向かっていた。
「さて、今回の『任務』は果たしてなんだろうね?」
「それは行けばわかりますよ、中務卿。」
「そうだけれどね、弾正、気になるじゃないか。」
ふふっと、口元に笑みをたたえ、弾正尹宮の顔を覗き込むように言う。
「……まったく。遊びじゃないんですよ?」
「わかっているよ。」
「どうだか。……時間も押していますし早く行きまし……っ!?」
「きゃっ!?」
ドンッ、と、突然横から飛び出してきた人物に突き飛ばされ、弾正尹宮はフラリとよろめいた。
あわや床に激突かと思われたが、寸でのところで中務卿宮が受け止めた。
「!!だ、弾正尹宮様!?も、申し訳ございません!お怪我はありませんか!?」
彼の正体に気がついたのか、飛びたしてきた女官らしき娘が慌てて平伏する。
「大丈夫ですよ。頭を上げてください。……ですが、ここではそう慌てて走らないように。」
「も、申し訳ございません……。」
苦笑気味にそう返す。
娘はもう一度深く礼をして顔を上げた。
「!」
娘が驚いたように目を見張る。
「た、大変申し訳ございませんでした!!」
顔を赤らめ、飛ぶように去って行く。
弾正尹宮はしばし唖然として娘を見送った。
「……僕は何かしたんでしょうか?」
「いや、していないけれどね、弾正。おそらく彼女は誤解したのではないかな?」
「……誤解?」
そこでふと、自分が中務卿に背後から抱きしめられたままであることに気がついた。
「なっ……!?」
今の時間帯は業務も終わっているはずだ。こんなわずかな光しかない暗闇の中で二人が一緒にいて、しかも事故とはいえ抱き合っている様子は、見ようによっては逢引中であるともとれる。
しかも、弾正尹宮はともかく、中務卿宮は宮中でも「男色」と噂される人物である。かれが月影宮の童にご執心であるという噂ももちろん広まってはいるが、この状況では勘違いされても仕方ない。
「そ、そんなわけないじゃないですかっ!!」
顔を真っ赤にして弾正尹宮は叫んだ。
「ふふっ。私はもちろん構わないのだけれど?」
「構いますよっ!」
「ああ。時雨君ももちろん愛らしいが、弾正もなかなか……。」
そう言うや否や、中務卿は慣れた手つきで弾正尹宮の腰を抱く。
「ひっ……。や、やめてください中務卿っ!」
「さて、どうしようか?」
「なっ……。」
中務卿宮の妖艶な笑みを含んだ言葉に絶句する弾正尹宮。
中務卿宮は冗談とも本気ともとれる様子でくいっと弾正尹宮の顎を持ち上げ、そして……。
「や、やめ……。」
「……………………………何してるの。」
「!?」




