子供じゃ、ないんですから
「いたた……。」
「むぅ……。」
二人は庭に落ちた衝撃に小さなうめき声をあげた。
「時雨……無事……?」
「……はい。宮も無事で……!?」
そこで始めて、二人は自分たちがどういう態勢でいるのかに気がついた。
「ああ、ごめん!」
慌てて月影宮は身を引き、時雨も身を起こす。
「時雨、怪我はない?」
「……はい。」
「時雨……?」
時雨は下を向いたまま、目を合わせようとしない。
手をぎゅっと握りしめ、俯いている。
「……ねぇ、時雨。」
「……。」
「かっこよかったよ。」
「っ!?」
ぱっと顔を上げる。
その、まるで小動物のような動きに、月影宮は思わず口元を緩めた。
「……時雨は一生懸命わたしを受け止めようとしてくれた。……ありがとう。」
ニコッ。
嬉しそうに笑う月影宮の様子に、時雨はしばしの間見惚れた。
「……別に、宮のためなんかじゃないのです。」
「え〜?そう?」
クスクス笑う主をムッと睨み、そっぽを向く。
「ふふっ。久しぶりに時雨の焦った顔を見られたし、転んでよかったかもね。可愛かったなぁ、あのときの時雨は。」
「……宮。」
「ん?何……。」
言いかけて、言葉を止める。
まっすぐと射抜くような瑠璃色の瞳と目が合う。
「僕は、子供じゃないんです、宮。」
いつになく真剣で、恐ろしく大人びた時雨の無表情に月影宮はしばし言葉を失った。
「子供じゃ、ないんですから。」
何処か熱を帯びた瑠璃色の瞳。
「そ、そうかなぁ?」
その視線から逃げるように立ち上がる。
温かい日差しは月影宮のわずかに色づいた頬を冷やすには少し暖かすぎるのだった。




